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臨時 vol 173 「原発性肺高血圧症の患者達の願い」

医療ガバナンス学会 (2009年7月28日 08:54)


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NPO法人PAHの会 理事長 村上紀子

 

 

私の娘は1996年に14歳の時に、原発性肺高血圧症(PPH)と診断され、その当
時の国内の主だった病院の医師からは「余命6ヶ月で現在の医学では100%助けら
れる方法はないので、本人の好きなことをさせて見送ってあげなさい」との宣告
を受けました。しかし何としても娘を助けたい、死なせたくないという一心で、
私たち家族が自分たちで海外の治療法を探した結果、当時日本では専門医でさえ
も全く知らなかった大変有効なフローラン治療(米国では1995年にFDAより承認)
が実践されていることを知りました。 日本の主だった施設の専門医も知らない
有効な治療法があるなどとは、当時は半信半疑でしたが、ともかくも家族でパス
ポートを取得し、渡米して、この治療法の世界的先駆者である医師(Dr.Robyn
Barst)の治療を受けるために、1996年4月に、ニューヨークのコロンビア大学病
院をたずねました。(この治療法を私達家族が探り当てたのは、親戚に米国在住
の医師がいたためです)

異国の病院での専門医のもと、フローラン治療(カテーテルを胸部に埋め込み、
専用の小型ポンプを携帯して、3分ごとに薬液を送り込む24時間の静脈注射)を
開始した結果、娘は大変元気になり、帰国して6ヶ月どころか、再び学校に通う
ことができるようにまで回復しました。

ところで余命6ヶ月と宣告されていた娘が、6ヶ月経っても元気に学校に通う姿
は、私達家族にとってはまるで夢をみているような衝撃的な体験でした。

「命に関わる疾患を患う患者にとって、新薬との関わりは大変重要な意味を持
つ」ということ、そして何よりも「自分の病気のことは医師任せでなく、自身で
責任をもたなければならない」ということを身をもって体験したことで、肺高血
圧症と診断されて、病気や治療法の情報が極端に少なく、悲嘆にくれている患者
や家族に、最新の医療情報を提供することで、生きるための勇気と希望を与えた
いと願い、同病の子どもを持つ数人とともに、1999年に患者会を設立いたしまし
た。

PPH(原発性肺高血圧症)とはprimary pulmonary hypertensionの略で、100万
人に1、2名とも言われる希少疾患で、現代医学をもってしても、原因も予防法も
治療法も不明な、極めて重篤な疾患です。

尚、原発性肺高血圧症は、肺移植の待機患者が最も多い疾患でもあります。以
前はこのような病気が存在することすら一般には殆ど知られる事もなかったので
すが、近年に公開された韓国の人気女優チェジュウ主演の「連理の枝」という題
名の映画の中で、主人公が突然襲われる不治の病が肺高血圧症という病気であっ
たために、最近では以前よりも知られるようになってきております。

肺高血圧症の病態は進行性で、どの医学書を開いてみても、「発病してから数
年で全員が死に至る」と書かれており、実際に当会の会員の7,8分の1ほどが現
在でも毎年亡くなっていきます。当会は、その(原発性)肺高血圧症(現在では
膠原病や先天性心疾患などの合併症から併発した二次性の肺高血圧症(注1)の
患者も含む)患者と家族が、「何とか生き残りたい。どうしたら生き残れるだろ
うか?」との必死の思いで、最新の医療情報を国内のみならず、海外の同じよう
な目的で活動しております患者団体、特に米国肺高血圧症協会とは相互協力協定
を結び、お互いに密に情報を交換して励まし合い、助け合って運営している患者
会です。(http://www.phassociation.org/intl/index.asp

ではこの病気に罹ると具体的にどのような症状が現れるのか?ということです
が、ある日突然に体全体の血圧とは別に、肺の血圧のみが上昇し始めて、心臓か
ら肺への血液循環を妨げて、心不全を併発し、元来は肺の疾患ですが、心不全に
より命を落としてしまいます。このように私たちの病気を取り巻く現状は大変悲
惨なものではありますが、わが国には残念ながらこの病気の情報も治療法も極端
に少なく、専門医と呼べる医師も数えるほどしかおりません。よって当会の活動
目的は設立当初より、「病気を乗り越え、生き残っていくために」、第一に患者
と家族に病気と世界的レベルでの最新の治療法の情報を提供すること、専門医を
育て、密に連携して、海外で使用されている有効な薬も含めた、治療薬の承認と
導入に努め、肺高血圧症の病態と最新の治療法の啓蒙ということに終始して参り
ました。 (http://www.pha-japan.ne.jp

尚1999年設立したPPHの会ですが、時の経過とともに、国際的な専門学会の疾
病の分類上、PPHという呼称がなくなってしまい、代わりにPAH(Pulmonary
Arterial Hypertension)が使用されているために、当会でも特定営利法人化を
機に、PAHの会と名称変更いたしました。
(注 1:二次性の肺高血圧症は、膠原病や心疾患などの元疾患があって、肺高
血圧症を併発している状態ですが、病気の進行具合や、治療法等は、PPH(原発
性肺高血圧症)と同一過程をたどります。)
肺高血圧症治療薬

肺高血圧症治療薬としては、作用機序の異なる3系統の薬剤が開発されており、
最新の国際的なガイドラインによれば、この3系統の薬剤を併用すると治療効果
が高いとされております。
(尚いずれの薬剤も完治薬ではなく、延命治療薬です)

そのうち、わが国で承認されているのは以下の薬剤です。プロスタサイクリン
系統のフローラン(epoprostenol)(開発・販売GSK社)、ドルナー、プロサイ
リン、ケアロードLA, ベラサスLA(beraprost)(開発東レ、販売アステラス、
科研)、NO (Nitric oxide) 系統のレバチオ(sildenafil)(開発・販売 ファ
イザー)、エンドセリン系統のトラクリア(bosentan)(開発・販売アクテリオ
ンファーマシューティカルズジャパン)

上記の薬剤のうち特にフローランは、「内科的な治療法の最後の砦」とも呼ば
れ、病気が進行した重症な肺高血圧症患者に多量に投与することで(具体的には
治療開始から常に投与量を増量していく必要があります)、治療効果が高く、患
者を延命させ、患者のQOLを大幅に高めることで知られており、患者にとっては、
病気の進行度に見合った適量(注 2)のフローランが投与されるか否かで、生
死を分けることにも繋がります。
(注 2)下記の(図2)のフローランの承認された際の用法に「規定の調整法
に従い適量使用」と明記されているので、本来は上限のない保険薬として、個々
の患者の病状に合わせてドクターの判断で処方可能な薬剤のはずです。
日本で販売されている肺高血圧症治療薬の薬価

商品名   規格         単価    1日     1ヶ月
フローラン 0.5mg 1瓶(溶解液付) 21,735  150,000   5,000,000
フローラン 1.5mg.1瓶(溶解液付) 37,994  それ以上も  それ以上も
溶解液:50ml 2,395円、(1日2本使用)
私達日本の患者が直面しているフローラン問題とは

ところが、1999年にわが国でフローランが承認された際の薬価は米国の10倍の
価格であったために、承認後にフローランを処方する病院では、薬剤が高額なた
めに保険の支払い機関から減額査定をされるという事態が発生しました。減額査
定されると、保険償還されなかった金額を処方箋を出した病院で負担しなければ
ならないために、病院経営側からは肺高血圧症専門医に、「ある一定のフローラ
ン以上の薬剤を処方しないように」との指示が出されたために、「本来の患者の
命を救うために必要な」という目的がわすれられた、フローランの処方が行われ
るのが、医師の間に浸透してしまいました。
(※通常薬価は10年経つと約半額になると言われていますが、フローランは承認
から10年を経た現在でも、ほぼ10年前の薬価を維持しております)

では実際に医師は適量のフローランを処方しないことに関して、患者にどのよ
うな説明をしているのでしょうか?

(実例1 診察室での会話より)

患者:「先生フローランの増量をお願いしたいのですが・・・」

医師:「申し訳ない!フローランを増量すれば良くなることは分かっているの
だけれど、僕首が飛んでしまうのだよ!」

(実例2 診察室での会話)

患者:「先生フローランの増量をお願いしたいのですが・・・」

医師:「増量しても効果がないと思うよ!」

減額査定されて支払い機関と交渉した医師からは、「肺高血圧症治療薬は高価
で保険財政を圧迫している。従来は数年であった肺高血圧症患者の予後が、近年
は予測不可能なほど延びてしまい、大変困っている・・・」との報告もあります。
肺高血圧症患者の願い

どのような事情があるにせよ、フローランは肺高血圧症治療薬としてわが国で
使用を認められている承認薬です。また「上限のない使用」も明記されておりま
す。

私達患者は生き続けるために、科学的根拠に基づく、世界の標準的な治療を受
けたいと望んでおります。

そのためには、現在わが国で保険償還が認められているフローランが、用法・
容量どおりに使用され、患者の命を摘み取らないように切に希望いたします。

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