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Vol.155 大西睦子の健康論文ピックアップ ~ラットは歌って老化防止!?

医療ガバナンス学会 (2014年7月14日 06:00)


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この原稿はロバスト・ヘルスより転載です。

http://robust-health.jp/

内科医師
大西 睦子

2014年7月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


脳や筋肉が老化することはよく聞きますよね。実は、声も老化するのです。確かに、お年寄りの声には特有の響きがあって、電話などでもなんとなくお年寄りかどうかは判断できますよね。老人性喉頭(=presbyphonia)と呼ばれる、声帯やその動きを支える喉頭※1の筋肉などの老化によるものです。

老人性喉頭では、発声が弱く短くなり、声量が減るなどの症状が続きます。つまり声の老化は、コミュニケーション能力や生活の質の低下をきたすことがあるのです。治療として、音声療法が開発されていますが、神経系や筋肉にどのように影響を与えるのかは不明です。

イリノイ大学のAaron Johnson教授とウィスコンシン大学の研究者のチームは、高齢のラットにボイストレーニングを行い、老化に伴う喉頭の筋肉の変化や声の強度の損失などを軽減できることを報告しました。この発見は、多くの人が加齢に伴い直面している声の老化の予防につながり、生活の質の向上に役立つことが期待されます。先日、この研究成果が、「Journals of Gerontology老年学雑誌」に掲載されましたので、ご紹介させて頂きます。

http://biomedgerontology.oxfordjournals.org/content/early/2013/05/10/gerona.glt044.short

ここでまず、発声の仕組みを考えてみましょう。私たちの喉の中には、声帯という2本の帯があります。普段、息をしているときは、声帯は開いていますが、喋ったり歌ったりしようという時には声帯が閉じて、肺からの呼気流によって声帯が振動し、音が作られます。それが声です。健康で若い喉頭は、いったん声帯が完全に閉じて、振動時に開きます。ところが老人性喉頭では、声帯が閉じなかったり、2本の声帯の振動が対称でなかったりします。また、加齢に伴い喉頭の神経筋接合部※2に変化が見られますが、これは筋の萎縮に関連しており、中でも、声帯を短縮・弛緩させる甲状披裂筋※3という筋肉が大きく関わっていると考えられています。

研究者らは、「老化による発声や神経筋接合部の変化は、ボイストレーニングにより逆行させることができる」という仮説を立てました。そして、ラットモデルを使って、発声に必要な筋肉の強さと生理機能に対する老化の影響を調べました。ラットと人間は発声において同様の神経メカニズムを利用しているので、ラットは人間の声の特性を研究するにあたって理想的な対象であると著者は述べています。ラットは可聴音※4の他に、超音波(人間の聴覚の範囲を超えた高周波※5、私たちには聞こえない高い音波)を発声しますが、特殊な記録装置やコンピュータでラットの鳴き声の周波数※5を低下させることで、私たちでも認識、感知することができるようになります。

研究者らは、治療群と比較対照群の両方に、若い(6ヶ月)雄ラットと高齢(29ヶ月)の雄ラットだけを用いました。雌ラットは、発情サイクルが超音波の発声に影響を与えてしまうからです。まず、治療群の雌ラットを飼育するケージに、雄ラットを入れます。雄が雌に興味を持ち、発声を引き起こしたら、雌はケージから移動させられます。その後、雄は発声すると、食べ物で報酬を与えられます。こうして雄ラットは、発声とその数を増やすボイストレーニングをされている状況で8週間を過ごした後、成果を確認するために、研究者によって発声の強度が測定され、喉頭部が分析されました。神経筋接合部の形態の変化は、甲状披裂筋で測定しました。

その結果、訓練された高齢のラットと若いラットは同じような声の強度を持っていました。ところが、訓練されていない高齢のラットは、訓練を受けた高齢のラットや訓練されていない若いラットより声の強度は低くなっていました。著者らはさらに、年齢に関連した神経メカニズムの違いを発見しました。これまでの研究で、高齢のラットでは神経筋接合部に異常が報告されていますが、今回トレーニングを受けた高齢ラットでは、そのような所見は認められませんでした。

ボイストレーニングは、超音波と神経筋接合部の両方で認められた老化による変化を低減もしくはなくしました。筆者らは「ボイストレーニングによって、老化に伴う発声の変化を予防できる」と結論付けています。

ところで、みなさんはカラオケがお好きですか?カラオケが好きな方は、ボイストレーニングで、さらに歌を上達しながら、楽しく老化の予防ができますネ。実は、私は全然だめです。でも、ボイストレーニングによって、自分に合った発声法が実現できれば、魅力的な声になり、コミュニケーションが楽しくなります。そうすると、学校、職場やプライベートでの人間関係が上手くいきます。みなさんも、ボイストレーニング、さっそく始めて見ませんか。

※1・・・人間ののどは咽頭と喉頭からなり、このうち咽頭は鼻の奥から食道までの、食べ物と空気の両方が通る(消化管でもあり気道でもある)部分で、上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれている。喉頭は舌の付け根から気管の手前までの、いわゆるのど仏がある首の前部の範囲で、そのちょうど後ろ側が咽頭になる。

※2・・・運動神経繊維が筋繊維と接合する部分。運動神経繊維の末端は枝分かれして筋繊維の表面の細胞膜のごく近くに接していて、刺激をつたえる信号がここを通過して筋繊維に伝えられる。(筋繊維からの刺激が神経繊維に伝わることはない)

※3・・・咽頭内部の壁をかたちづくる筋肉のひとつで、声帯の形状を変え、声の高さを変える役割を担う筋肉の一種。 甲状披裂筋が収縮すると、声帯は厚く硬くなって緊張した状態となり、声は高くなる。

※4・・・人間の耳に聞こえる音。およそ20~2万ヘルツの周波数(※5)の音波。

※5・・・音波や交流電波など、周期的変化をする現象が1秒間に何回繰り返されるかを示す数。単位はヘルツ(Hz)。振動数。周波数が相対的に高いこと、またそのような波動や振動を高周波と言うが、その範囲は波動の種類によって定義が異なる。音波では可聴周波数の20~2万ヘルツより高い周波数を指し、超音波ともいう。逆が低周波。
【略歴】おおにし むつこ
内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。

大西睦子の健康論文ピックアップのバックナンバーがそろっています。

http://robust-health.jp/article/cat29/mohnishi/

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