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臨時 vol 178 「部下職員の医療事故による安易な院長懲戒処分に警鐘」

医療ガバナンス学会 (2009年8月4日 14:55)


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(元)三宿病院長 紫芝良昌

 

 

【部下職員の医療事故による安易な院長懲戒に警鐘】

平成13年東京の三宿病院で78歳の女性が大腸内視鏡検査の前処置の段階で死亡、
異状死届け出による司法解剖により腸管穿孔によることが明らかになった事故で、
担当医と担当看護師が業務上過失致死罪により有罪となり、病院を経営する国家
公務員共済組合連合会は当時の院長が「管理者としての注意義務を怠ったことが
事故の原因」等として院長を減給の懲戒処分にした。院長は「注意義務を怠った
事実はない」として反発、東京地裁に処分無効確認等の訴えを起こしていた。一
審は、処分が無効であることを理由に連合会に損害賠償を命ずる、院長側の実質
勝訴。双方が東京高裁に上訴したが、高裁は「連合会は、院長の功績は高く評価
するものであり、懲戒処分は院長の管理者としての立場に対してのもので、個人
としての過失を問うものでない」とし、共済組合連合会が処分理由を院長個人の
過失としたことにより本件訴訟が生じたことに関し、「連合会は、院長に対して
遺憾の意を表明する」こと等を内容とする和解案を提示、双方が合意した.この
事件で病院側は「異状死届出」を行い死亡時不明であった死因を明らかにするた
め司法解剖に同意したが、解剖の結果は病院側には知らされず、患者遺族側にの
みに知らされたため、遺族は病院が死因を隠蔽しているのではないか、として紛
争が拡大することになり、解剖の結果の双方への速やかな開示が、院長の側から
も共済組合連合会側からも求められていた。また、共済組合連合会は外部委員会
を組織してこの事件の検証結果をインターネットに公表したが.院長の不適切な
行為として記載されている部分の多くが事実と異なる内容であることも裁判の過
程で明らかにされた。
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上の記事は、去る7月17日、東京高裁において原告である(元)三宿病院長と
被告である国家公務員共済組合連合会の間に合意された和解の内容について、簡
潔に記載されたものである。和解成立の当日、読売新聞が原告の弁護士事務所に
取材に訪れたのを、原告との事前の協議に基づいて弁護士がこのように回答した
ものである。読売新聞は、三宿病院事件を再三報道していたが、和解では記事に
するだけのインパクトが足りないとして記事にならない場合もあるとの念を押す
ことを忘れなかった。この文書は短いけれど、今回の裁判の過程を正確に物語っ
ている。三宿病院事件は、職員による業務上過失致死それ自体誠に遺憾なことで
はあるが、1)異状死届け出が刑事捜査の端緒となる事、2)刑事捜査は「個人
の責任」を追求するものであり、無理な責任が作り上げられることもあること、
3)司法解剖が刑事訴訟法に基礎を置くために結果が医療側に公開されないこと
が原則であること、4)刑事事件に関する報道は警察発表に基づいて行われるが、
警察発表は捜査の「見立て」に沿うもので見立てに都合の悪い情報、例えば本件
で「異状死届け出」が病院側から行われていた事実等は排除され、結果として報
道による誤った断罪を当事者に対する「社会的処罰」として捜査側が容認するよ
うに見える場合のあること、5)外部委員会は公平なものと思われがちであるが、
医療側を糾弾する姿勢が前のめりになりすぎて真実を見失い、誤った情報を公表
する場合もあること、6)上部組織にとっては、院長に対して厳しい懲戒を行う
ことによって自身の倫理性を高く見せることの方が、真実に基づいた処分よりも
重要であるらしいこと等、医療事故に巻き込まれた当事者が体験せねばならない
全てのことを露呈していると思える。今回の私の提起した裁判は6)に関して問
題提起をしたものであるが、これが上部組織による医療機関長への懲戒行為が安
易なものにならぬよう、ささやかながらの歯止めになると共に、1)-5)の問
題に対しても本質的な議論がなされるよう、期待するものである。

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