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臨時 vol 183 「競争も平等も超えて-チャレンジする日本の再設計図-」

医療ガバナンス学会 (2008年12月1日 10:53)


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松田学(著)「競争も平等も超えて-チャレンジする日本の再設計図-」財経詳報社刊
医療人必読の書!!
超高齢社会は日本のチャンス、それを活かすカギを握るのは医療界である
著者は現在、(独)郵便貯金・簡易生命保険管理機構に理事として出向中の財務省の官僚。これまで言論NPO理事として日本の政策論マーケットの形成に尽力、本年夏まで東京医科歯科大学教養部教授に出向し、経済財政あるいは社会システム論の立場から医療システム改革の議論に参加。



●日本の未来を開くのは医療
今、世界は未曾有の金融危機にゆさぶられ、日本でも経済社会の将来不安がますます高まっているが、そこに解決の道を開くカギは実は日本の医療界にある…ここまで言い切ると極論に聞こえますが、そこには少なくとも「風が吹けば桶屋が儲かる」よりももっと明確な因果関係があります。
「医療崩壊」が語られて久しいのが日本の医療界ですが、もし、医療が価値を創造する分野へと脱皮できるならば、そして、それに向けて一人ひとりの医師が広い視野をもって知恵を出し、他の分野の人々との知のコラボレーションを進めることができれば、日本という国は自らの独自の将来を切り開き、そこに世界が問題解決のソリューションを求める国になれるかもしれません。
筆者は最近、「競争も平等も超えて-チャレンジする日本の再設計図-」(財経詳報社刊)を世に問いましたが、そこで描いた日本の全体システム組み替えに向けた再設計の試みの中で、医療について訴えたかったのはそのようなメッセージです。
バブル崩壊後、「失われた十数年」を経てようやく立ち直ったかにみえた日本経済は、ここにきてまた停滞の淵に立たされようとしています。「右肩上がり」から人口減少が象徴するような「右肩下がり」へのパラダイム転換の中で、それに適応できないまま「戦後システム」を続ける日本では、医療や社会保障制度をはじめ、ほとんどのシステムが持続可能でなくなり、次の絵姿をどの分野でも描けていません。
そんな日本に残された数少ないフロンティアが医療分野です。将来に向けた楽観論を唱えるのには違和感がつきまとう昨今ですが、日本は実は、人類史上未曾有の超高齢社会に世界に先駆けて突入するという「危機」をチャンスに転化できるという、大変恵まれたポジションにあります。それを可能にすべく、医療界が一皮剥けられるかどうかは、医療システムを持続可能なものにする上でも、現在の国民皆保険という世界に冠たるシステムを維持していく上でも、不可欠の課題です。
●医療はもはや国の財政には依存できない
医療システムの持続可能性といえば、消費税の増税をどうするかなど、政府の財政問題に議論が行きがちです。ここでその点に少し触れてみると、小泉政権が社会保障分野に残した実績とは専ら社会保障費の抑制でした。その中で医療の崩壊や介護の人手不足など様々な問題が現場で深刻化し、もはやシステムそのものが行き詰まっていることはご承知のとおりです。日本は実は、他の先進諸国と比較しても世界一といえるほどの「小さな政府」で運営されてきた国です。そのような日本に必要なアジェンダ設定とは、むしろ、政府部門の機能の再構築でした。そのためには、どう考えても構造的に歳出と歳入のつじつまの合っていない日本の財政について、恒常的な財源確保を一日も早く行う必要があります。
一日も早く、というのは、世の中の多くの人々が信じている「国民に負担増を求める前にまず官が襟を正し、行革してムダを排除して…」という論理があまりに悠長なまでに、増税が切迫した課題になっているからです。実際のところ、「今日の増税か、明日の増税か」しか選択肢がない中で、明日の増税を選択すれば、それだけ将来の税負担増が大きくなるだけです。そのときに日本経済がそれに耐えられると考えるのはあまりに楽観的なほど、少子高齢化のインパクトは大きいといえます。
政府のムダの排除は永遠の重要課題です。しかし、国民みんなが納得するまで行革だけをしているのであっては、「百年河清を待つ」が如しです。すでに量的には小さな政府である日本においてどんなにムダを排除したところで、そこから出てくる財源は、高齢化とともに増大する社会保障給付を賄うに必要な額とはそもそも桁が違います。
こうした実態に正面から向き合い、国民に負担増についての選択を明確に問うことが日本の政治の最大の課題でした。自らの在任中は消費税を上げない、として、専ら支出の抑制に努めた小泉政権は、確かに公的部門の効率化の上で大きな成果をあげました。しかし、他方で、そのようなスタンスにこだわるあまり増税のタイミングを失わせたという意味では、大きな負の遺産を残したと後世の歴史家は評価するかもしれません。
実は、つい最近までの「いざなぎ越え」とも言われた景気回復局面は、日本が増税を決断できる数少ないチャンスでした。しかし、参院選の敗北でポスト小泉政権も増税に逡巡する中で、景気は増税を不可能にするまでに悪化してしまいました。景気回復まで全治3年と言っている間にも毎年累増していく政府債務は、将来の負担増をそれだけ大きくしていくことになります。
しかし、問題は、政府が掲げている財政のプライマリーバランスの回復という財政再建の中間目標はおろか、そこからさらに公債残高の対GDP比の拡大を食い止め、公債残高そのものの縮減(財政再建目標の国際標準)にまで財政健全化を進めたところで、それで実現するのは過去の債務処理に過ぎないということです。しかも、国の財政についてその地点まで到達するには、現状とのギャップが10~14兆円もあります。それだけ歳出をさらに削るか、増税をする必要がありますが、国債費と地方交付税と社会保障費といった義務的な経費以外の国の一般歳出は25兆円程度にすぎません。そこでの歳出の切りしろは小さく、だからといって、社会保障給付や地方の財源を何割も削減すれば、日本の社会は崩壊してしまうでしょう。政府は社会保障費を毎年2,200億円削る努力をしていますが、それだけでもどれだけ大変な問題が生じているか、医療界の方々であればご承知のことと思います。
しかし、増税によってギャップを埋めて、財政健全化をなんとか実現したとしても、これに超高齢社会の進展への対応、さらに少子化対策や日本の国際社会の中での繁栄継続のための財政需要などが別途存在します。今のシステムのままでは、そのために、さらなる財源が日本の財政には必要になってきます。
●全体システムの再設計なくして財政も医療も持続可能性なし
筆者は日本の財政状況を訴えたくて本稿を書いているのではありません。言いたいのは、財政だけでなく、今や日本のいかなる社会システムも単にその分野だけでソリューションを求めても解決しない時代になっているということです。それは医療システムも同じです。
私たちは今、これまで私たちが当然と思って生きてきた様々なシステムを根本から組み替えるべき歴史的局面にいます。最近の金融危機が百年に一度と言われますが、それは、社会主義に対する資本主義の優位を証明した20世紀型システムがもう行き詰まっていることの裏返しにすぎません。21世紀とは、市場経済を超える新たなシステムを模索する世紀であり、米国民もそれを直感しているからこそオバマ現象でチェンジを求めているのかもしれません。日本の財政も医療の問題も、そうした新たなシステムへの社会全体の大転換の中に自らを有機的に位置づけなければ、持続可能な解は得られません。
前述のような財政の姿を今の私たちの世代が後世に残してしまったのであれば、そして、将来の気の遠くなるような大増税を避けたいのであれば、日本のあらゆる分野に迫られているのは、財政のさらなる撤退を前提に今後の道を考えることです。医療もそうですが、もう、日本のどの公共分野の関係者も、財政の追加投入への期待はいったんあきらめることから議論を出発させるべきです。逆に、早く頭を切り換えて、これを前提に次の対応を組み立てる作業に移行する必要があります。そのことを各方面に明確に迫るべきでしょう。
そこから出てくる答は自ずと明らかです。いかなるシステムにおいても、財政の撤退を補って余りあるだけのおカネの投入を別の懐に求めることにしか解の存在する空間はなく、それを可能にする仕組みの構築にしか選択肢は描けません。財政再建は、「官」の外側の「民」の世界、さらに「民」が担う「公」の世界も含めた全体システムの抜本的な組み替えを伴って初めて成功します。
例えば、財政(官)が撤退する代わりに「公」を打ち立て、そこにチャリタブルな仕組みを構築する。日本には、オモテに出ていない、高齢世代が大半を所有し、それも一部の人々に偏在している資産が多額に存在し、そのかなりの部分が海外に流失しています。こうした日本からのおカネが世界の金融資産を膨張させ、今日の金融危機の一因になったとすれば、こんなに馬鹿げたことはないでしょう。せっかくの資産を、日本国内での消費や「公」の財源にフローとして引き出して有効に活用すれば、私たちは世界第二位の経済大国にふさわしい豊かさを享受で
きるはずです。
日本の強さは「民」の潜在力です。今後の政府の役割は、民に選択肢を提示することにあります。それにより、民の価値選択が公的なニーズと民の価値創造を支える設計にしていく必要があります。そこに政府(官)の新たな役割として、民による価値創出を方向付け、民の選択の結果を望ましい方向に帰結させるようなオプションを提示するという機能が浮上します。今後の新しい資本主義のあり方として必要なのは、自由放任(競争)でも政府介入でもなく、社会を特定のシステムに収斂させることでもありません。複数の様々なシステムを有機体として組み合わせることで、民の力を発揮させることです。
競争か平等かという二者択一ではない第三の創造的な選択肢にこそ、日本のソリューションがあります。今までの構造改革をめぐる論争や政治の場も含めた日本の政策論は、日本人の潜在パワーを稼動させるだけの政策を議論のレベルでも生み出してきませんでした。日本に蓄積されたストックを価値観の多様化した社会でフローとして引き出していくことで、日本は新たな豊かさと社会的な相互扶助を両方とも実現することができます。そのためには、人々による多様な価値創造と価値選択を可能にするための新たな「設計」が必要なのです。
●日本で始まるニューディール
その上で重要なのは、人々を覆う「不確実性」をどう扱うかです。人は、消費をするか、貨幣(金融資産なども含む)を持つか、常にそのいずれかを選択することで経済活動を営んでいます。将来への不確実性が大きくなれば、人は貨幣に逃げます。それが不況をもたらす根本的な原因であり、それが日本の停滞の最大の要因になっています。世界の金融経済化は、その裏返しともいえます。それが金融危機となって、不確実性をさらに高めてしまいました。現在の日本や世界の経済問題の本質もここにあります。
中でも、日本にとって最大のネックになっているのが、超高齢社会の中で拡大している「生き甲斐の不確実性」です。「会社人間」リタイア後に待っている30年の人生が我々人類に新たに与えられました。それをどのようにして活き活きとした人生に転化できるのか。そこには実は新たな価値創出の広大なフロンティアが広がっています。人類史上未曾有の超高齢社会を迎える日本は、そこで世界で最初のソリューションを示す最先進国です。それを通して「生き甲斐の不確実性」を解消していくことに、日本の経済社会の今後の方向性を見出すべきです。
そのような価値創出に向けて今、日本は21世紀型の「ニューディール」を開始すべき地平にいます。逆に、世界第二位の経済大国日本が、いまや新興国・途上国がその道を歩むようになった後期産業資本主義の投資主導型経済パラダイムから、消費が主導するイノベーティブな価値創出のプラットフォームへと未だに脱皮できていないことが、世界を混乱させているともいえます。
こうしたニューディールのカギを握るのが医療システムです。なぜなら、超高齢社会における人々のニーズは「健康」という価値「創出」にかなりの部分、集中することになるからです。日本経済が今後も繁栄を続けられるかどうかも、持続可能な医療システムが描けるかどうかも、医療界がこれに応えることができるかどうかにかかっています。
●医療のコンセプトのバージョンアップを
そのためにはまず、医療を「コスト」でなく「価値」として捉えるよう発想を転換する必要があります。医療を「バリュー」として捉えてみれば、それは超高齢社会における「健康という価値」、バリューの創造になります。他国に例のない超高齢化社会に入る日本でこそ、健康関連産業が今後の国内産業の最大の牽引役になれるはずです。経済構造改革の議論からみても、医療を「産業」として捉えられれば、それは、「真の構造改革」で資源をシフトさせる先として、日本経済では最有望分野となるものです。
現在、30数兆円あまりの日本の国民総医療費は、他の先進国と比べても、GDP規模からみて50兆円あっても不思議ではなく、今後の超高齢社会で「健康」それ自体を価値としていけば、日本には100兆円の潜在マーケットが存在すると言っても大げさではないとされます。情報化社会と言われますが、情報が最も集積しているものが「人間」であり、人間は個々の人間すべて含めて情報の塊です。医療産業は「人間」という最大の情報集積を活用する新たなリーディングインダストリーと捉えていくべきです。健康な人の健康を維持する、健康な高齢者をもっと元気にするところまで、医療の機能のコンセプトを拡張していけば、そこには広大なビジネスフロンティアが広がっていくはずです。
「価値」とは、それに対価を払う人がマーケットを形成するだけ存在するような魅力があれば、価格がついて価値になるものです。そこには、その価値を評価し享受したいと思う人々の、民間のお金が流れ込みます。そこにバリュー、付加価値が生み出され、それが全体として国民経済のパイを大きくすることになる。それがまさに新たな経済活動の領域の拡大、経済活動のバージョンアップにつながります。
重要なのは、医療システムをエンドユーザーに対する価値提供システムと捉えることです。ここでエンドユーザーを患者からさらに拡大して、そこに医療という分野を応用していくことでフロンティアを開き、その全体が医療の財源確保につながっていく形のシステムを構築していくべきでしょう。
財源やリソースという制約ではなく、健康という価値を生み、そこに人々の潜在ニーズを掘り起こしていく中で、人々のニーズ、価値の選択の結果として、医療が広がっていく。超高齢社会を運営していくためには、そのような発想への転換が必要です。国全体としての医療への資源配分はその結果として決まるのであり、今求められているのは、そうした価値選択の実現を可能にできるようなシステムへの再設計です。
●医療財源サブシステムの設計案
「競争も平等も超えて」では、このような視点から日本の全体システムの新たな再設計を論じ、その下に医療システムについて、現下の医療の諸問題の根本にあるのが財源の問題と捉えて、「医療財源サブシステム」の設計案の提示を試みてみました。そこでは、国民皆保険の現行制度(官システム)に、産業として拡大していく医療(民システム)を組み込み、さらに、「民」が自らの価値選択によって支える「公」の世界を組み立て、これら3つの異なる論理を持つシステムの有機的な結合によって、医療システムを新たな価値創出分野へとバージョンアップさせることを考えました。
そこで目指すのは、(1)官による最低保障と分配・平等の論理、(2)民による豊かな消費活動と市場経済や競争の論理、(3)公による社会的相互扶助と市民社会による価値選択の論理、の三つ巴の中で、それらが相互に矛盾することなく「健康」という価値を社会に生み出していく姿です。その経済的なつじつまを合わせるのが資産ストックです。いま、日本では「貯蓄から投資へ」が唱えられていますが、もっと大事なのは「資産から消費や寄付へ」ではないでしょうか。それを起こす仕組みを組み立てることが日本版ニューディールです。
本書では、未曾有の超高齢化など様々な危機に直面する日本は、その危機をチャンスに転じることで不確実性を克服し、アジアや世界の中で独自の存在を構築できるとの認識を示しました。そして、日本人の潜在パワーを「価値」の創出へと方向づけるテーマを設定して、そこに新たな「公」の領域とプロフェッショナリズムを組み立てるニューディールを国家目標に据えるときが来たことを訴えています。そこでは、日本の各界の知恵のコラボレーションで現実を動かすための議論の構造を方法論として示し、そこから得られる設計思想に基づいて、日本の国際戦略、経済、地域再生、医療、市民社会や政府の機能など、広く各分野の再設計に挑んでみました。
日本版ニューディールに向けた日本全体の「設計思想」として、筆者は(1)「複数モデルプラットフォーム型」システム、(2)産業から地域への価値規範の転換、(3)市民社会を基盤とする「公」、の3つの設計思想を本書で提唱し、これらについて国民合意を形成することを呼びかけました。
●医療人だけが問題提起できる
医療システムの問題も、日本のどの分野もそうであるように、今や、こうした全体像の下にそれと整合的な形で基本設計から議論し、広く国民合意を形成しなければ、物事は一歩も動きません。結局、そこには日本の社会システム全体を鳥瞰する視点が必要になってきます。筆者はこのことを、医療関係者の方々に強く提起したいと思っています。本書をできるだけ多くの医療界の方々に読んでいただき理由がここにあります。そうした視点がなければ、医療へのいかなる財源投入も結局は医療界のエゴだとも言われかねません。それは国民自身にとって大変不幸な事態でもあります。
医療界の人々が分かっているだけでは国民合意は形成できません。医療以外の他のシステムの人々をも納得させられる論理が必要です。厚生労働省がけしからん、官僚や政治家が悪い、日本の税制がおかしい…などと悲憤慷慨してみたところで、世の中は何も変わりません。システムを動かすためには、現実や政策に実際に影響を与えられるような議論の設計が必要です。
その中で、医療システムが社会全体に対して何らかの価値を実現するためには何が必要なのかをきちんと問いかけなければなりません。そして、そうした問題提起は医療の側からなされなければなりません。医療は複雑系のきわめて難しいシステムです。問題の所在を示し、思考の材料を提供できるのも医療界のプロフェッショナルだけです。それだけではありません。医療財源を諸システムの組み合わせで再設計しなければ医療という国民生活にとっての最重要分野の一つがもたないことを医療サイドから提起することは、日本の社会システム全体が共通に抱えている課題や、その解のあり方を示すことにもなります。それは、日本全体の再設計、変革にもつながる問題提起です。
医療という、いま国民が最も身近に感じる重要な問題の立場からそうした営みを始めることが、社会全体を動かし、日本が世界の中で独自の存在を築く道を開いていくことを期待しています。医療が今、そのような特殊状況的な位置づけにあることを、本書をお読みになれば納得していただけると思います。
それにとどまらず、日本の将来選択に向けた思考の旅をぜひ、本書を通じて楽しんでみてほしいと思います。あなたも次の日本を創る当事者なのです。

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