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Vol.174 浜通りでの初期研修

医療ガバナンス学会 (2014年8月8日 06:00)


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この文章は、8月9日・10日に開催される「いわきの医療・まちづくり公開シンポジウム」http://www.mikito.biz/archives/39214866.html 小論文集に投稿いたしました文章を一部改変した文章です

 

南相馬市立総合病院
藤岡 将

2014年8月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


~初期研修先(*1)として南相馬を選択した理由~

私が南相馬市立総合病院(以下、当院)で働くことを決めた理由ですが、「もともと縁がある病院で、ステキな病院と私が思った」からです。少し長くなりますが、時系列順に話していきたいと思います。
関係者には申し訳ないのですが、私は震災前、南相馬という街を知りませんでした。知っていた街は、福島県いわき市、富岡町、大熊町、双葉町、宮城県亘理町だけでしたし、浜通りについて知っていることは、どうもいわき市にはハワイアンズという温泉ランドがある、ということぐらいでしたし、浜通りに行ったことも有りませんでした。

浜通りを知ったきっかけですが、私がお世話になっている坪倉正治医師(*2)が震災のため医師が少なくなった当院に震災後から勤務していて、2011年9月に、当時学生だった私を「南相馬市や病院を見に来てはどうですか」とお誘いいただいたことでした。伺いまして、私の自宅から300kmも離れていない場所(私の家の近くの日本橋三越の前の道路(国道4号・6号)を道なりに250km行くと福島第一原発や南相馬市があるわけです)が津波の被害を受け、原発事故で人口が減少したのを目の当たりにしました。相馬市の或る所では、カーナビの地図だと住宅地のはずが、目の前には壊れた水門と草が生えている荒原のみが広がっていました。

次に伺ったのは2012年4月で、当院が実施した仮設住宅訪問調査のお手伝いに伺いました。ところが、お手伝い中に体調を崩しまして当院に患者としてお世話になりました(ボランティアが現地に迷惑をかけている、の図)。患者としてお世話になり、医師や看護師や事務の方々に大変よくしていただき、とてもステキな病院だな、と思ったのですが、当院は研修病院に当時は指定されていなかった(*1参照)ので、ここで働く、というのは具体的には考えていませんでした。その後、就職先の病院を探しているとき、当院の関係者より「当院が研修指定病院になったよ。うちで初期研修できるよ」とご連絡をいただき、就職することにしました。

いろいろな方から「被災地への就職を思い立った理由は?」とよく聞かれますが、私の場合は、寧ろ、就職しようとした魅力的な病院がたまたま被災地に建っていた、という感じでして、例えば当院が静岡県(被災地でない)に建っていたとしたら静岡県に就職していたと思います。私のケースを一般化出来るかは不明ですが、「病院が被災地にある」という点は、初期研修医を募集するにあたり、其のこと自体は有利にも不利にも働かないのではないか、と私は思います。
~初期研修を通じて思ったこと~

研修を受けていて私が考えたことのうち、あまり世間で言及されないであろうことを1つ紹介させていただきます。
この話は、住民の方々と利害が真逆になってしまう話しなのですが、当院が建っている地域は医師が足りていないので、1年目、2年目の私ですら活躍する機会が生じています。これは大変ありがたいことだと驚き、非常に感謝しております。なぜならば、他の病院で研修をしている医師と話す機会が時たまあり、そのときに伺った話ですが、医師が(相対的に)足りている病院だと、表現は悪いのですが、自らのスキルアップにつながる要素が強い種類の仕事は3年目以降の医師にしか回ってこず(おまけに3年目以降の医師の間でも場合によっては取り合いになる)、1年目2年目は「初期研修だから君はダメよ」となり、なかなか研鑽が積めない、という状況になるそうです。

また、医師が(相対的に)多い状況では、上司や指導役の医師が、経験が少なく対応できる幅が狭い初期研修医に仕事を依頼するインセンティブが無いため(医師が足りているならば、臨床経験を積んでいる医師に仕事を頼んだほうが依頼する側も楽だろう)、初期研修医に役割が付与されず、1日の業務の多くが指導者の業務を見学することが主体になることや、若しくは役割が付与されたとしても付与される業務量が少なくすぐ仕事が終わってしまい、残り時間は机に向かって勉強、となりがちだそうです(もちろん、見学や机に向かっての勉強も大事ではあるが)。

そういう話を聞くにつれ、医師不足の地域・病院での勤務は、年次が若い医師にとって必ずしもマイナスではない、と私は思っていて、医師不足地域の病院が医学部学生に対してその点をアピールするのも、すべての学生に有効かは怪しいですが、ある程度有効な方法なのではないか、と私は思います。

*1 初期研修
医学部を卒業した後に、医師国家試験を受験し合格すると、医師免許が与えられます。
医師免許取得後、多くの医師が、国が認定した病院(臨床研修指定病院)の中から1つ選んで就職し(これは普通の就活と似ている)、2年間その病院に勤務し研鑽を積みます。この2年間を「初期研修(臨床研修)」と言います。
初期研修は法的に強制されるものでは無いのですが、初期研修を修了していないと病院を開業できない(医療法7条1項)、病院の管理者(代表)になれない(医療法10条1項)といった不利益があるため、殆どの医師が初期研修を受けます。
また、「殆どの医師が初期研修を受ける」ため、初期研修未修了の場合、「なんで皆が受けている初期研修を受けていないのだろう」といった不利益推認(是非はともかく)により、就職活動の際に不利益になるそうです。
つまり裏を返せば、新卒の医師が就職する病院は、臨床研修指定病院にほぼ限られ、新卒の医師を雇うには国の指定を受けなければならない、ということでしょうか。

*2 坪倉正治医師
東京大学医科学研究所に所属する医師で、専門は血液内科。現在も、当院で非常勤医師として勤務し診療と内部被ばくの検査に取り組んでいらっしゃいます。

 

藤岡 将(ふじおか しょう)
1986年に東京で生まれる。以後、大学生活も含め東京で過ごす。2013年より福島県浜通りに引っ越し、南相馬市立総合病院に勤務中である。

 

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