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Vol.175 加藤茂明元教授が捏造指示と結論した東大報告書を目にして

医療ガバナンス学会 (2014年8月9日 06:00)


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番場ゼミナール/ベテランママの会
すまいる工房(東京支部)/ Angel girls(女の子の相談室)
代表  番場さち子

2014年8月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


・デジタル記事を目にして

私の出張中、このような報告書が取り上げられていたと知ったのは、2日経過してからのことだった。調査委員会の決着がなかなかでないので、調査結果を待つ時間の長さを困惑している様子も、「なんとなく落ち着かない」風な加藤先生のお姿を目撃したこともある。なぜなら、加藤先生は、毎週私の教室にいらしてくださっているからである。
「東大開学以来、最悪の不祥事」といわれる論文改ざん、捏造問題の責任者として、2012年3月に東京大学を辞職するということは、その数週間前に初めて出会った時に聞かされていた。研究者でも学者でもない私には、その時の告白が、どれほど重要性を持っていたかも知らない。そして、それがどれ程の影響力を持つものかも、全くと言って良いほど、見当もつかずにいた。
加藤先生は、子どもの頃に遊びに連れて来られた松川浦や釣師浜海岸が、津波によって破壊され、景観が全く変わってしまったことにも、原発事故で30キロ圏内が線引きされ復興がなかなか進まないことにも、ひどく心を痛めておられ、福島県のDNAが流れているという贔屓目線で、何か復興の手助けがしたいと、自らが申し出てくださったのである。私から手伝いに来て欲しいと、依頼しての学習支援が始まったのとは違う。自らが「なにか手伝えることはないかな?」と、熱心に復興のための糸口を探求してくださったのである。
・腑に落ちない結論

加藤先生は、自らが責任を取る形で辞職した上で、「すべての研究資料やノートを提出し、調査に協力する」ことを部下たちに伝えたと聞いている。ところが今回の東京大学の調査報告書では、「論文執筆時に加藤氏自身による捏造、改ざんは確認できなかった」とした上で「科学誌に掲載後、論文撤回を避けようと、実験ノートも捏造、改ざんを研究員に指示していた」と結論づけたという。
「部下の論文盗用責任を取ったカッコイイ加藤先生」と、教室の高校生たちは理解している。腑に落ちない、苦杯をなめるような結論ではあるが、子どもたちには全くもって関係のない話である。
ウイキペデイアで「加藤茂明」先生を検索した少女が、「2012年4月から南相馬市の学習塾・番場ゼミナールでボランテイアの化学講師を務める」と掲載されていることを発見し、大ウケしていた。加藤先生は、化学の講座を夏休みの課外授業でしてくださったことはあるが、化学講師として来てくださっているのではない。英語でも数学でも、物理でも生物でも化学でも、何でも指導できるスーパーな逸材で、誰にも真似できない神業である。実際、医学部の学生さんや研修医などが時々訪ねて来てくれるが、受験のためだけの勉強は、もう忘れたという先輩も多く、不得意だった科目は自信がないから指導できないと言われることもままある。
2013年9月6日号の写真週刊誌に「論文ねつ造で辞めた東大教授 福島で(反省)ボランテイアの日々」というショッキングなタイトルで掲載された日、私は静かに怒っていた。ボランテイアに訪れているのが私の経営する学習塾で、確かに私は日本が誇る頭脳の加藤先生に、謝金も渡していないのだから、ボランテイアには違いない。教室での取材の許可をしたのも、経営者であるこの私である。しかし、このタイトルはいただけない。「反省の日々」で、子どもたちと触れ合ってくださるのではない。このように短いフレーズで鋭い言葉が出回ると、勘違いする輩もいるに違いない。そう考えると、許可をした自分への自己反省と、良かれと思って許可した取材がこのような扱われ方をした失望感とに、私はしばらく苦虫を噛みつぶしたような思いで数日間を過ごした。
・ご家族との市民活動

加藤先生は、東京大学農学部のご出身で、元東京大学分子細胞生物学研究所教授である。その加藤先生がここ数ヶ月前に始められたことのひとつに、農業を科学する「南相馬アグリサイエンスカフェ」がある。「環境と将来を考える会」とご自身が名付けたという任意の団体は、筆頭会員が加藤先生と奥様、そしてお義父様、ご家族で懇意にしている某私立大学のH教授と伺っている。6月中旬に行われたアグリサイエンスカフェでは、加藤先生が中心となって企画運営をし、ご自身はファシリテータとなって会を盛り上げた。その会のために、奥様やH教授も、仮設住宅の集会室にわざわざ関東のご自宅から駆けつけられた。ベテランママの会は共同企画となり、日本原子力研究開発機構が協力をする形をとった。
第一部は「農業の再生と地域活性化」と題してえこえね南相馬研究機構の髙橋荘平氏が講演したが、地元の農家の方には、これが意外に受けた。皆、また農業がしたいのである。講演後の質問がなかなかおさまらず、ファシリテータの加藤先生は時間を気にしながらのスタートとなった。
第二部は「放射線・放射能の基礎知識」と「最新の福島県のモニタリング結果と放射線利用」が日本原子力研究開発機構の永岡美佳氏と藤田博喜氏によって講演され、実際に放射線測定実験なども行った。常に放射線と対峙している研究員のお話しは、また違った知識が得られる。難しい話も登場したが、放射線への誤解を解くいい機会になったのではないかと思う。
第三部は相馬中央病院に赴任している越智小枝医師による「骨と関節の話」であった。高齢者が暮らす仮設住宅では、運動不足による骨量不足も問題になってきている。越智医師から直接、運動の仕方も伝授され、参加者からは感謝の言葉を頂戴した。
アグリサイエンスカフェの開始前には餅つきをして住民に振る舞い、講演後には持ち寄りで懇親会を行い、地元民と密着した関係性も築いておられる。
中途半端な気持ちや自分の名誉回復で始めた支援であったなら、このような長丁場のイベントは行えない。私の教室への学習支援も、自己満足が済んだら、すぐに終了となったに違いない。そのような支援の多い中で、加藤先生の継続的な活動は、本気で福島県を、被災地を何とかしたいと考えてくださっているからに他ならない。ご自身が大変な境遇であるにも関わらず、我々に寄り添い、真摯に対応してくださっているお姿は尊い。福島県のDNAは濃いのである。不名誉な結論は論外ではあるが、温かな加藤先生の想いを、福島県の我々はよく存じ上げている。まだまだ加藤先生の南相馬市、相馬市通いは継続されるであろう。先生の納得のいかないであろう心中を察するに、頭の下がる思いで、我々も加藤先生の支えとなりたいと考える暑い夏の夜である。加藤先生が継続して南相馬に通ってくださるのは、相馬市立谷市長のご配慮があってのことも付け加え、感謝の意をここに表したいと思う。

【略歴】
・1961年生まれ
・南相馬市にて学習塾“番場塾”を開業30年間子どもたちと関わり続け、「しつけの面から受験勉強まで」をモットーに、「人間形成塾」を目指す
・2011年3月東日本大震災および原発事故により、約100余名の生徒が0名になり、公教育機能が停止する中で、地域の小中高生を連日約30~40名を塾に受け入れ授業・教材を無償提。
・震災後、任意団体「ベテランママの会」を立ち上げ、南相馬市医療再建会議の委員として東京大学医科学研究所、南相馬市立総合病院などとの協働のもと、坪倉正治先生の放射能に関する勉強会を主催、また帰還した住民のために「カルチャー倶楽部」を立ち上げ、2014/7月末現在約7000名を動員
・南相馬市に留まることを選択した子育て世帯向けの不安緩和の仕組みづくりに取り組み始め、活動を継続中
・2014/6月より「すまいる工房」(東京支部)7月より「Angel girls」(女の子の相談室)をスタートさせている

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