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Vol.208 日本だけじゃない! 「デング熱」が世界規模で拡大する理由は?

医療ガバナンス学会 (2014年9月17日 06:00)


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この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20140911/1059963/

 

内科医師
大西睦子

2014年9月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


◆世界の40%の人に、デング熱の感染の可能性?

厚生労働省の情報によると、日本では過去60年以上、デング熱に国内で感染した症例は報告されていませんでした。ところが、2014年8月以降、103人(9月11日11時現在)の国内感染事例が報告されています。

・参考文献
厚生労働省「デング熱に関するQ&A」 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dengue_fever_qa.html

このような状況の中、8月27日、世界保健機関(WHO)がジュネーブでの会議で、気候に関連した健康リスクの増大に対して、強力な対応を求めました。

・参考文献
WHO「WHO calls for stronger action on climate-related health risks」 http://who.int/mediacentre/news/releases/2014/climate-health-risks-action/en/

WHO事務局長マーガレット・チャン博士は、「気候の変化が人間の健康を危険にさらすことは、圧倒的な根拠に基づき証明されている。これに対する解決策は存在しており、我々は現在の軌道を変えるべく、断固とした行動が求められている」と述べています。

WHOによれば、コレラ、マラリア、デング熱は、気象や気候に非常に敏感な感染症です。最近のWHOのデータに基づくと、気候の変化による、病気のパターンのシフトや異常気象などは、毎年数万人の死亡原因となっています。

◆デング熱のグローバル化

WHOはまた、デング熱の発生率がここ数十年で、世界中で劇的に増加したことを報告しています。現在、世界の人口の40%以上、25億人以上が、デング熱の感染リスクを有しているといいます。また毎年世界中で5000万から1億人がデング熱に感染していると推定しています(症状の有無は別)。

1970年以前に重症型のデング熱が流行していたのは、わずか9カ国でした。ところが今やアフリカ、南北アメリカ、東地中海、東南アジアと西太平洋の地域の100カ国以上で流行するようになっています。特に南北アメリカ、東南アジアと西太平洋地域でのデング熱流行の影響は深刻です。南北アメリカ、東南アジアと西太平洋の地域では、加盟国から提出された公式データによると、症例数は、2008年に120万人以上、2010年には230万人以上で、その後も症例数は増加し続けています。南北アメリカだけでみても、2013年に235万人のデング熱の症例が報告され、そのうち3万7687人が、重症デング熱でした。

さらに、症例数が増加するだけではなく、デング熱が新しい地域に拡大し、爆発的な流行が発生しています。現在、デング熱の脅威はヨーロッパでも認められます。2010年にはフランスとクロアチアで初めて、国内感染・発症したと見られるデング熱患者が報告されました。2012年にはポルトガルのマデイラ島で、2000例以上のデング熱患者が報告されています。このときの流行は、ポルトガル本土以外のヨーロッパ10カ国にも拡散し、デング熱の発症が確認されました。

2013年には米国フロリダ州と中国の雲南省でもデング熱が発生していますし、南米諸国、とりわけホンジュラス、コスタリカ、メキシコという南米の数カ国でデング熱の流行が継続している状況です。

入院を必要とする重症型のデング熱は、推定毎年50万人。その大部分は子どもで、重症型のデング熱を発症した人の、約2.5%が死亡しています。

・参考文献
WHO「Dengue and severe dengue」  http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs117/en/

◆デング熱の影響はWHO推定の3倍以上!? 温暖化と都市化で加速

2013年の春、英国オックスフォード大学の研究者らは、世界的なデング熱分布について詳細な地図を作成し、デング熱の感染による世界的な影響は、WHOの推定の3倍以上であると、科学雑誌「ネイチャー」に報告しました。また、研究者らは、デング熱は熱帯地方全体にわたって遍在し、いくつかの地域では降雨量、温度や都市化の影響を強く受けていることを明らかにしました。

この研究のリーダー、サイモン・ヘイ教授は、以下のように述べています。「気候と人口の広がりが、世界中のデング熱のリスクを予測するための、重要な因子だと分かりました。グローバル化と都市化により、以前は危険にさらされなかった領域にまでウイルスが広がり、将来的には病気の分布が劇的にシフトする可能性も予想されます。その結果、感染数も増加の可能性があるのです。私たちはこの研究で、デング熱が世界に与える影響について、より広い議論が始まることを願っています」と。

・参考文献
Nature「The global distribution and burden of dengue」

http://www.nature.com/nature/journal/v496/n7446/full/nature12060.html

University of Oxford「Dengue infections ‘triple current estimates’」

http://www.ox.ac.uk/media/news_stories/2013/130408.html

◆米国でも流行は見られる

米国で2014年に旅行地でデング熱に感染した症例は、報告されているだけで172人(9月10日現在)で、国内の発症はフロリダの4人(9月10日現在)です。

・参考文献
U.S. Geological Survey「Cumulative 2014 Data as of 3 am, Sep 10, 2014」

http://diseasemaps.usgs.gov/del_us_human.html

ただし、デング熱はグローバル化しつつあるので、専門家を始め、米国内の症例の増加を懸念しています。米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、グローバルなデング熱の流行の地図を共同で開発しました。

・参考文献
Centers for Disease Control and Prevention「Dengue Map」

http://www.healthmap.org/dengue/en/

日本のデング熱の状況は、米国の大手メディアでも報じられています。ニューヨークタイムズは、以下のように報じています。

「日本でのデング熱流行は、地球温暖化の警告といえます。高い温度と湿度で、蚊が長生きできるため、感染地域が拡大するのです。日本はおそらく、今回のデング熱の流行をきっかけに地球温暖化に関する方針を見直し、強化するのではないでしょうか。2014年9月23日に開催される、国連気候サミット(UN Climate Summit)で、日本政府が二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を削減するための、意欲的な公約を提示することが期待されます」。

・参考文献
The New York Times「Dengue Fever Hits Japan」

http://www.nytimes.com/2014/09/10/opinion/dengue-fever-hits-japan.html

大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。

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