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臨時 vol 168 「第16回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方検討会傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2008年11月15日 11:11)


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     ~ 厚労省内部に自己修正機能はないのか ~
ロハス・メディカル発行人 川口恭



医療界のリーダどうしが激しく罵り合う大荒れの検討会だった。
この日は、全日本病院協会の徳田禎久常任理事、全国医学部長病院長会議の嘉山孝正・大学病院の医療事故対策に関する委員会委員長(山形大学医学部長)、医療過誤原告の会の宮脇正和会長、の3人からのヒアリングして質疑応答という流れ。
3人のうち、徳田、宮脇の2人は資料にかなり忠実に陳述したので、資料をご覧いただくことで報告に換えたい。徳田資料はこちら(http://lohasmedical.jp/blog/kawaguchi/%E5%BE%B3%E7%94%B0.pdf )、宮脇資料はこちら(http://lohasmedical.jp/blog/kawaguchi/%E5%AE%AE%E8%84%87.pdf  )。
問題は嘉山参考人で、その陳述から。
「検討会の意義については徳田先生からもお話があった通り。このような検討会があって様々な議論が行われたことは、医療に対する不信感を拭う一つの場になったのでないか、とありがたく思っている。大学病院というのは最もハイリスクの医療を行っており、その勤務医と共に日本の医療レベルを支えている。その我々も、国民の目線、患者の目線から見て事故調がどういう意味を持つか検討を進めてきた。
99年の横浜市立大学での患者さん取り違え事件以来、全国の国立大学医学部附属病院が真っ先にこの問題に取り組み種々の制度整備も進めてきた。事故調査も、かなり厳密にやっている。その立場からすると、前田座長に申し上げたいのは、このような法案ができたら、かえって迷惑である。かえって事故調査できなくなる。なぜならば徳田先生も仰っていたが、この法案には患者さんの救済と事故調査の異なるジャンルのものが一緒くたにされている。これは分けるべきだ。サイエンティフィックな根拠については資料2からずっと見ていただきたい。この場では、今、大学病院で何をしているか説明する。
まず資料の2ー4から。これは残念ながら朝日新聞しか報道してくれなかったのだが、あるレベル以上の事故は公表することになったというもの。情報は、たとえば手術中のことなら、看護部からも上がってくるし、麻酔科からも上がってくるし、当該診療科からも上がってくるという風になっていて、山形大では24時間以内に病院長まで報告しないと隠蔽と見なすということになっている。某大新聞の論説委員が大学病院は悪いことばっかりやっていると言っているが、このように患者さんご遺族が一番知りたいと言っている事故調査の真実はもう出ている。
2ー2ー1は航空機の条約で、2ー2ー2が日本学術会議の提言、2ー2ー3はWHOのドラフト。要するに何が言いたいかというと、事故調査は、現場の当事者が調査する者を信用して真実を言ってくれるかどうかにかかっている。この法案の事故調が通ると、全容が出てこなくなる。クレームフリーでなくなるからだ。先ほど患者さんの目線、国民の目線と言った。患者さん国民が注目することは二つあると思う。一つは情報がきちんと開示されているか、もう一つはそれに則って再発防止策をきちんとやっているのか。今日は高本委員が欠席で残念だ。前々回か高本委員がWHOのドラフトについて色々と述べられたが、あれは引用した趣旨が全然違う。刑事処分の話が、WHOのドラフトに入ってこなかったのは、その部分が採用されなかったからに過ぎない。高本先生が言っていたことは科学的にも根拠がない。それか佐原さんは、まだドラフトで決定でないとよく仰るが、ドラフトがなければ決定もないのであって、WHOが出している以上尊重すべきだろう。そうでなければハンムラビ法典と同じような後出しじゃんけんによって、医療が大きく損なわれていくことは間違いない。
根本的に法案の構成が全く間違っている。前々回(ママ)か座長がいみじくも患者さんの応報感情に言及したけれど、座長は刑法の権威だが本当に刑法はそういうものなのかということで、資料の2ー5ー1で、私ことし神戸であった日本法社会学会に行ってきたので、その時に愛媛大の小佐井先生という方が発表した資料をつけた。たしかに私も自分の身内に何かあったら感情が動いて悲しみや怨みが出ることは間違いない。ただし、それと事故調査とは切り離さなければならない。最近のわが国の風、空気は被害者の感情に配慮することが主流のようだが、小佐井先生には、今日の場でこのように提出することをご了解いただいている。私が書き込んじゃったのであれだが、これは何かというと、交通事故の賠償で、東名で後ろからトラックに突っ込まれてお子さん2人を亡くした方の訴えに対して、東京地裁は平成15年に、被害者のことを忘れないよう15年間毎年の命日に分割して賠償金を払えという命令を出している。マスメディアは名判決だと報じた。では、これがずっと踏襲されているのかというと、実はそのような判決が出たのは同じ請求をした13件のうち3件だけで、あとの10件では否定されて一括払いが命令されている。これは何かというと、近代法では復讐はやっちゃいかんということ。当たり前だ。患者さんの気持ちは分かる。しかし事故調査とは切り離さないで厳しく処罰するというのをやると、かえってきちんと患者さんのためになる事故調査ができない。応報の感情を含んでいる法文であることは座長も自ら明らかにされている通りだ。一時の風や空気に流されて、ハンムラビ法典のようなものを作ってしまったら、近代文明社会でない社会が生じてしまう。
国家的なことを決める時に、民主党の足立議員と鈴木先生の案も出ているのに、大綱案と民主党案でm3の橋本編集長がどちらがよいか統計を取ったら大綱案より民主党案の方が賛成が多かった。座長にお願いしたいのは、ガス抜きの参考人では困る。今日わたしは手術を休んできたんだから、まじめに取り上げてほしい。徳田先生も北海道から出てきている。臨床研修制度が始まる時に、当時の中島医事課長にパンドラの箱を開けるようなもんだから絶対に地域医療が崩壊すると言って、それでもやるというから責任は誰が取るんだと言ったけど、誰も取ってない。前回の検討会でも現場の参考人がまじめに意見を述べているはずで、そういうものを論破できるならいいが、単に聴き置くだけなら国民が納得しない。資料2ー1ー2は国民年金法の条文で、たった1条で1兆円のグリーンピアとかが作られちゃったということを示している。民主主義国家なのだから民主党案についても議論すべきでないか。私は自民党でも民主党でも共産党でも公明党でもないけれど、たしかに与党は自民党だけれど、この委員会は国民のために議論しているはずで、これだけの賛成を得ているものを議論しないというのはおかしくないか。あとで不作為の罪にこの委員会がならないようにしてほしい。卒後研修もあれだけの反対があったのに一気にやって医療を崩壊させた。もちろん以前から医師不足はあったのだけれど、あれがなければ少なくとも科の偏在はなかっただろう。私は神奈川県の出身で、中学生のころに京浜工業地帯の煙突の群れを見て、これで日本はいいのだろうかと思った。思ったけれど、大人や国家がちゃんとしてくれているんだろうと考えていた。ところが、その後に川崎喘息が起き光化学スモッグが起きた。何のことはない、ちゃんとしてなかった。熊本県の公害もそう。いろいろな思惑の人間たちがチッソの廃液が原因と認めるのを5年遅らせた。その5年の間に患者さんが増えてしまって、住民はアンハッピーになったし、チッソも大きなダメージを負った。
理念からやる法案というのは、たいてい一面は正しい。でも法案によって社会そのものが動いちゃうということを考慮しないといけない。大店法も東京、大阪、愛知ぐらいでは良かったのかもしれないが、あれを入れた結果、ほとんどの県庁所在地が壊滅した。経済だけを考えればあの法律は正しかったのだろう。しかし、それで社会が壊れている。社会のために経済があるはずなのに、おかしな話だ。今回の法案も医療の萎縮を招くのは明らか。性善説とか性悪説とか言っているけれど、どちらであってもきちんと機能する法文にしてほしい。
厚生労働省がやっていることは、薬害にしても年金の問題にしても問題が止まらない。農政の問題についても触れると、昔で言う所の浪花一番の米問屋が役人と手を組んで毒を売った。そんな日本ではなかったはずだ。法案をつくった時に社会がどう動くかまで考えてくれないと、国民は右往左往するだけだ」
質疑応答。
前田
「反対の意見を聴くのが遅かったのはたしかに仰る通りで不満はあるだろうが、しかし自らそれを踏まえて伺おうということなんでガス抜き云々ということではない。きちんと議論していきたい」
嘉山
「宮脇さんのお話はごもっとも。だが、医療者とノンメディカルとの間の理解が足りないなあとも思う。宮脇さんが受けたことは犯罪だ。カルテ偽造や隠蔽は公文書偽造であり、それと結果が悪いこととは全く別。そこで先ほどは説明しなかったが、実は対案として2ー6を出させていただいている。
現状で医師数が絶対に足りない。それから、この機関に対しての予算も外口医政局長から言ってもらってない。民間なら、プロジェクトを立ち上げる時にはあらかじめ予算規模が示されて、それに見合った計画がつくられる。それがなかったら、計画倒れになる危険性がある。そういった現状で、実現性を加味した提案だ。犯罪であれば、刑事訴訟法に則って警察へ行くのが当然。しかし医療事故の原因、システムエラーを知りたいと思った時には、全員コンセプトの違う問題(?)、東京、愛知、博多、多さかは一医大じゃないが、その他の県は一医大だし、北海道はまとまれるだろう。大学の事故調査委員会を作って機能させれば、宮脇さんの言うようなことに関してはトップに対して厳重にペナルティを設けて、改竄なら犯罪ということで院長、学長までペナルティを食らうようにすれば、ちゃんとなる。
我々自身の体験で言うと、たしかに10年ぐらい前まではカルテ改竄があったかもしれないが最近は聴いたことがない。最近あったという証拠を見せていただきたい。朝日の大熊記者がいつも大学病院は隠蔽体質だと言うけれど、単なる風聞で大学病院を批判するのはやめていただきたい。悪の巣窟のように言われているが、特に私の知る限り、国立大学ではかなり努力もしている。宮脇さんが遭ったのは犯罪、医療事故とは別。分けて話をしないと混乱のもとだ。思考停止するのをやめて、恨みつらみだけでない議論をお願いしたい」
前田
「恨みつらみでも、思考停止になるような話でもない。それぞれの立場として当然のことを言っているだけでないか」
嘉山
「医療の質とか過誤とか言う場合に、私は患者さん側で指していることが本当にそうなのかとは思っている。患者さんが過誤だと思っている中のどれが本当に過誤なのか。医療の質について、本当に皆さんよく分かっているのか。患者さん自身、自分の体や疾患がどの程度困難なものなのか分からないし、難しい手術やったって分からない。もちろんインフォームドコンセントはするんだけれど、それがどの程度難しいのかなんて分からない。非常に簡単な手術でも、ものすごく感謝されることもある。マスコミでも、医療の質なんか分からない。
唯一分かるのがホテルの接遇の部分。看護師が何回巡回に来たとか、主治医がどれぐらい説明してくれたとか、待ち時間が短かったとか、それで患者さんが評価している。もちろん全然関係ないわけではないが、あくまでもシステムでやっているんであって、欧米のように医師をたくさん集めるのでないのに、集めたらアクセスがめちゃくちゃ悪くなるから、フリーアクセスを維持したままで、そんな部分を質という風に勘違いしていないか」
豊田
「嘉山先生は以前から様々な検討会で発表されたり、たくさん資料を出されていて、すごく色々な取組をされている方だと思う。宮脇さんと同じように、こういう先生がいらっしゃるならと心強く思っている。嘉山先生たちが医療安全への取り組みや事故調査をやってないと言うのではなくて、日本の病院は大学病院だけではない、むしろ取り組みたくても取り組めない所がほとんどだと思うので、そういった病院をどういう風に支援されるのか。それが難しいと思うから第三者機関をつくった方がよいのでないかという議論をしている」
嘉山
「それでもって、この対案を示した。大学には医師がたくさんいる。お金が明示されてない中で別に医師を集めるのは無理なので。犯罪行為を見逃すんでないかという懸念については、それに対するペナルティを重くすればいい。ただでさえ現場に医師がいなくて困っているのに、新しい組織をつくったら崩壊ですよ。誰もやらなくなる。その点、大学はいつでも立ち上げられる。本学の場合、他の大学からのメンバーに、中立的弁護士も入れてやっている。外口局長に言いたい。大学病院のこういった取り組みは厚労省が主導でやってきたことなんだから、その延長線上に設計すれば、ほとんどお金かからないのに、なぜこんなものを作ろうとするのか。この法案だけだったら、むしろ健全に医療を受ける方々の権利を奪うことになる。それとも大学でやってきたことが、何か間違っているのか」
豊田
「そういう意識の人ばかりではないのでないか。医療安全の文化が根付いてないと思う。モデル事業のあり様を見ても」
嘉山
「モデル事業は全くの失敗だから参考にならない」
豊田
「協力医がいないと聞いている」
嘉山
「大学病院は医療安全部、主なメンバーは看護師だけれど、それが抜き打ち的に各科を回っている。きちんとやっている。そのやっていることは、医療機能評価機構に全部報告している。厚労省からは1円も出てなくて、年に5千万円や6千万円はかかる話だけれど、責任としてやっている。で、その報告を全部機構に上げているのに、それを厚労省が出してくれないから、こんな誤解を受けることになる。その努力が報道されないから宮脇さんや豊田さんから誤解を受けることになる。繰り返しになるが、豊田さんや宮脇さんがつらい目に遭われたことは理解している。しかし、その怒りと事故調査は分けないとダメだ。事故調査なら大学でやっても十分できる。ビジョン会議のとりまとめに、トップが襟を正せと書きこんだ。トップがちゃんとしてないと隠す。だからトップのペナルティをこの委員会で決めて、それで大学にやらせたらいい。外口局長、いったいいくら付けてくれるんだと聞いてもいつも答えてくれないけれど、これとんでもないお金かかるよ本気でやったら。大学を使えばほとんどかからない。どちらが国民のためか」

「前おきを2つ言って、それから質問したい。第一に医療事故が発生した時に医療機関が行わなければならないことは、最大限の誠意とスピードをもって、患者さん家族そして院内に、どういうことが起きたか知らせることだろう。こういうことができるのは大学病院に頼むというだけでなくて、その医療機関内部の人でないと分からないことも多々あると思う。院内の事故調査への支援を改めて行政に検討お願いしたい。二点目に医療安全の推進こそが我々の願っている骨子であり、第三次試案では医療安全調査中央委員会が対策までつくるということになっているのだが、個人的な感触としては、これを変えることができないものとは思ってない。医療機能評価機構で、この中央委員会の役割を担うような変更はあり得るのでないか。個人的な感触だが。
さて嘉山先生に質問。刑事捜査や刑事裁判にかかわるところに各方面からたくさんの意見が出された。資料2-4-4では山形大での取り組みで事故発生時にどのように警察署へ届け出るか決められている。これが現時点での山形大の方針なのだろう。一方で嘉山試案では医師法21条に関して、医療関連死を異状死に含めないとなっている。若干の違いがあるようだが、この点の説明をお願いしたい」
嘉山
「山形大のマニュアルは拡大解釈された医師法21条、法医学会のガイドラインに則っている。ただし、これがいいと思っているわけではない。ただ法を破るわけにいかないから、こうなっている。でもあれは法医学会が勝手に拡大解釈しただけだと思っている。法医学会にも聴いたが、こんなことになるとは思っていなかったということだった。実は昭和23年に外口局長のすごい先輩の医政局長通達で、医療については異状死の対象から外すというのが出ている。その後、あまりにも目に余る一部の医師がいたために警察が入ってくるようになって、という流れがあるんだと思う。だから昭和23年の局長通達のようにやっていただければということで、この試案になっている。ただし勘違いしてもらったら困るが、犯罪はダメ。カルテ改ざんや事故の隠ぺいは犯罪だから。
事故が起きた時に医療機関がやらなきゃいけないのは、3つある。現場の保存、全力で救命すること、3番目に患者や家族の精神的なケア。この3つがリスクマネージャーの3原則だ。大学病院ではリスクマネジメントの教授ポストができているくらい、啓蒙普及に努めている」

「ほかの参考人もご意見あれば」
徳田
「刑事の問題については、全日病としては医療安全とは別建てでとお願いしているので、特に申し上げることはない。現状、私どもの感じているところとしては、責任追及が入っているので別建てでお願いしたい」
宮脇
「被害者からすると、カルテ改竄が裁判などではかなり明らかになっているが、それでも警察には現実的には相手にされない。よほど社会的に問題となったような事例でないと動かない。だから改竄は犯罪なんだからと言われても、実質として機能していない以上、改竄の防止策にはならないと思う。各地の訴訟の実例を見ても、医療機関のそういった振る舞いに歯止めがかかっているとは思っていない。そういったことができないよう三次試案明確にしていただきたい」
永池
「徳田参考人に質問。P5の1の『患者・家族に診療の内容を十分に説明し納得を得る』ということに異論はないのだが、しかし医療者が一生懸命説明をしたとしても患者さんご家族の納得を得られるかは別だと思う。事故直後の、その時点で分かることを最大限説明したとしても、患者さん側の知りたいと思うところが伝えられるとは限らないのでは」
徳田
「ここに書いてあるのは診療前のことであって、死亡事故が発生した後の対応ではない」
永池
「では発生した時のこととして伺う。現代の医学をもっても解剖しなければ十分に分からないような時に納得しない遺族は当然いる。協会の中の看護倫理委員会にも、一生懸命説明をしたけれど納得してもらえなかったというような報告がいくつか来ているので。嘉山参考人にも伺いたい。大学病院が調査委員会として機能した時に、解剖したとしても分からないことは出てくるのでないか。そういう時に遺族が納得するか。宮脇参考人には、大学病院が調査委員会の機能を果たして納得いかない内容の報告が出てきた時に納得はいくか(ママ)、大学病院が調査委員会の機能を果たすことについてどう思うか」
徳田
「看護協会の結果に関しては原本を見ていないので、どういう説明をしたのか分からない限り、それに関しての見解は述べられない。私どもの5つの項目のキーポイントは診療記録の電子化であって、これを行えば途中段階での改竄は起こらない前提となることがお分かりいただけるはずだ。そういったものを示しながら説明して、そういうことをしてもなお分からないということに関しては考えないといけないが、看護協会の結果はそういうものでないと思う」
嘉山
「失礼ながら永池委員の意見は自然科学をやっている人のものとは思えない。分からないことがあるなんて当たり前のことなんで、分からないことがあるから我々も日々研究しているんだし、たとえ人類としては分かっていることであっても宇宙船の仕組みなんかどんなに説明されても分かるはずない。だから患者さんご家族がどれだけ説明しても理解できないということは起こり得る。もっと身近な例で言えば、我々が判決文を読んでも、きちんとは分からない。要するに、100%分かれと言う方がおかしい。どうやったら分かることができるかと言うけれど、説明する方と受ける側との間に信頼関係がある場合は、理解度が上がる。上がるというより、分かったような気になる度合いが上がる。医療に関して言えば、6年間医学部で勉強して医師になっている人間とそうでない人とで理解度が違うのは当たり前。今不幸なのは、不信感があるために理解度が下がってしまうこと。早稲田の和田先生がやっているような間を取り持って理解度を上げていく取り組みがとても大事だ。我々が一つひとつ順番に情報を丁寧に説明していくことによって、理解したような感じがする、そこをめざすしかない。信頼を築くことこそが一番大事だ」
宮脇
「10月2日に日弁連から発表された院内調査委員会についてのアンケート調査によれば、これは300床以上の病院の25%から回答を得たそうで全部で1900件の委員会が設置されていたが。大学病院の関係者で委員会を設置してのが6割で、しかし4割は患者からの聞き取りもやっていない。現在のこの状況で納得しろと言われても納得できない」
嘉山
「今のお話、患者さん家族の気持ちをsatisfyすることに焦点が当たっているということがよく分かる。しかし、それは医療事故を調査するのとは別の方策で行うべきだ」
木下
「医学部長や大学病院長の中で先生の考えが全てだとすると問題だ。先ほど、座長に対して迷惑だと言ったが、それは言葉として私たちにも向けられたものだと理解した。私も大学にいた。状況は知っている。大学病院で取り組んできたことはあるにしても、過失があるなら責任を問われる。刑法の枠内で我々は仕事をしている。どんなに我々が、何のために医療安全調査委員会というものを設けるのか、刑法、刑事訴訟法は帰られない中で何とか刑事事件で扱われるものを減らそうという明確な目標はそこなんで、その途中で医療の質を上げながら、医療安全の取り組みもするということだ。過失があった時、刑事かどう判断されるのか、大学病院でやるにしても、それが院内事故調査だとすると、報告書をきちっと作ったからそれでよろしいという話にはならない。そうではなくて、我々医療界が一体となって真剣に見て、どうしようもないと見たら通知するということにしてくれたら、それで構わないという風になったんで、それ以外は刑事で扱われないことになるのは、医療界にとって実に意味の大きい話だ。それを迷惑とは、極めて不穏当な発言だ」
嘉山
「ものの見事に仰った。先生、我々の所に説明に来た時に何といったか。刑法とは関係ないと言わなかったか。原因究明する機関なんだ、と。ところが今仰ったのは、完全に責任追及の話になっているではないか」
ここから2人の罵り合いが始まった。文字面からは順々に喋ったように見えるかもしれないが、実際には2人がほぼ同時に発言している。誰も割って入れず30秒ほど唖然呆然という感じだった。
木下
「そんなこと言ってない」
嘉山
「私がしゃべっているんだ。罰するかどうか…」
木下
「そんなこと一言も言ってない」
嘉山
「静かにしなさい。私たちは現場で事故調査をやってきたんだ。現実に、警察と結び付いたら情報が出てこなくなっちゃう。クレームフリーでやっているからこそ情報が出てくる。だから迷惑だと言った。ちゃんとした調査ができなくなるから。先生は医師会の説明で。。。矛盾しないか。過去に何を言ったか、議事録を読めば出てくるんだぞ」
木下
「法律家に聴いてみればいい。わが国には刑法があるんだ。先生がいくらこれは犯罪でないと言ったところで、刑法がある限り警察は入ってくる」
嘉山
「日本で刑事訴訟になるのがおかしいんで、医療事故の調査と患者さんの応報とを連結してはいけないというのは世界の常識だ」
木下
「常識であろうが…」
嘉山
「日本の医療安全をどういう風にするつもりだ。国民から健全な医療を受ける権利を奪うつもりか」
木下
「院内事故調査でこれは犯罪でないと言ったところで、警察がそれは違うと思えば、院内の判断に何の意味もない。法律の方が上なんだ」
嘉山
「?応報感情で法文をつくったらいかん」
木下
「?いけない」
嘉山
「?」
木下
「全然分かってない」
嘉山
「あたり前のことを言っている。それをやって医療がどうなるのか、お金の予算も決まってないのに」
木下
「この第三者機関を作らないということは、医師法21条が変わらなくても構わないということだな」
嘉山
「この法律が変わると、どこに書いてある」
木下
「書いてある」
嘉山
「どこにある」
木下
「よく読め」
嘉山
「素人が何の説明もなしでも分かるように明文化してくれ」
ここでようやく座長が割って入る。しかし、その座長自ら爆弾発言をする。
前田
「ちょっとすれ違いがある。犯罪かどうかという話をしているけれど、過失犯も犯罪だから。医療過誤は犯罪だから」
それを言っちゃあ、お仕舞いよというやつだ。こんな人に座長を頼んだのは一体誰だ。
嘉山
「犯罪なのだとしたら、規定が明確にされていなければならない。しかし自然現象の上に基準を持ってくるのはなじまない。先生、これは現場の声だ」
前田
「犯罪であるもの、不透明なもの、もう少し医療側の基準で切り分けてくれるならば、処罰されるのは非常にごく一部に限られることになる。応報という言葉が反発を招いているのだとしたら不徳の致すところだが、ひどい事件があったら処罰しないわけにいかない。なので免責はできない。どんなにひどい過失でも処罰できないことになってしまう」
嘉山
「基準があると本気で思っているのか。質の問題に法を科す、そんなこと。私なんか、外来で頭を開いて助けたことがある。そんなの教科書に載ってない。助かったから感謝されたけど、死んでたら処罰されるのか。きちんと運用するから大丈夫だと言っている人がいるけれど、実際に運用されている頃には法を作った人たちは死んでいないんだ。法文が独り歩きするのは目に見えている。我々はもうすぐ現場を去るから、別に今のまま法になったって困らない。でも、こんなものができてしまったら、これからを支える使命感を持った若い人たちが何もチャレンジできなくなってしまう。そんなの社会にとってはかりしれない損失だ。もっと教養を持って、ものごとを進めてほしい」
徳田
「確認だが、この委員会は、責任追及を行わないことでよろしいか。木下先生に伺いたいが、21条のことも含めて、この問題はあまりにも我々にとって理不尽だ」
木下
「医療界として了承した身として申し上げるのは、この第三者機関は責任追及はしない、と。ただ、その時にこれは明らかにヒドイという例は通知してほしい、それを警察・検察は尊重する、そういう仕組みになっている。通知しないとするならば、今まで通り警察の方が判断する。そこから見れば非常に狭められたことだけ通知すればよいのだから、対象が非常に狭くなって、我々医療側も動きやすくなる」
徳田
「大変申し訳ないが、それでは責任について判断していて、責任追及の一端を担っていると言わざるを得ない。何度も同じことを繰り返すが、医療安全のためには、当事者が包み隠さず話すということが大切で、そのことをどう担保するのか。一般的に責任を追及されると分かっていると本当のことを言わなくなってしまう。医療安全という観点から、事故死をどのように位置づけるのか、その結論をいただいたうえで改めて意見を述べる機会をいただきたい。1人1人の委員から、ご意見を伺えればと思う。そのために、もう一度時間を割いていただきたい」
豊田
「嘉山先生に伺いたい。私も、そんなにたくさんの数じゃないけれど、自分の病院の事故調や他の病院の院内事故調の外部委員をやったりしている。それから自分が関わってなくても、委員をやったような方のお話を伺うことがある。医療側が誠実に対応した事例では、ちゃんとやってくれたんだから刑事には問わないでほしいという声が患者側から出てくる。嘉山先生もそういう経験をされているのではないか。なぜ全部警察へ行っちゃうと思うのか。きちんと対応すれば、自然と警察へ流れる方向へは行かなくなると思うのに、どうしてそんなことを言うのか」
嘉山
「最近でもウチの科で過誤があった。亡くなったわけじゃないんだが、明らかな計算間違いだったので謝罪した。ただね、いくら患者家族が言わなくても、犯罪だと思えば警察は自律的に捜査に入る。そうなっている。なぜそうなっているか、法律がそうなっているから。私ハッキリ言っておく。これが通ったら、私は事故調査をやめる。なぜならば真実を聴けなくなるから。人間そういうものだ。たぶん手術もできなくなっちゃう。何が犯罪になるか分からない以上怖くてできない。これが現場の声だ」
前田
「大学病院の院内事故調でこれは犯罪じゃないかというのが出てきたらどうするのか」
嘉山
「何が間違ってて何が正当な医療か我々でも判断をくだすのは難しい。この委員会とは別の話になってしまうが、医療界が自律してこなかったのは確か。木下委員にも申し上げたいが、日医にはガバナンスがない。自律的な組織をつくって自分たちで処罰していくのが専門家としての義務だと思っている。でも、それを刑法でやるのは萎縮医療を招くだけだ」
前田
「医療界がやるから口を出すなというのでは、治外法権だ」
嘉山
「自然科学だから規定するのは無理なんだ。無理だから明文化もできない。法でやるんだというなら明文化したものを出してくれ。責任追及じゃないと言いながら、普通の人が文章を読んだらペナルティを問う仕組みにしか見えない。だいたい民主党案にこれだけ賛成が集まっているのに、どうして議論の俎上にも上がらないのか。それが民主主義的なのか」
前田
「もちろん最後には国会で議論されるわけだから、その際には民主党案との比較もされるだろう」
嘉山
「ここでも検討したらよいではないか」
加藤
「私が今まで院内事故調にかかわった経験から言うと、たとえ刑事罰があっても、包み隠さず執刀医やナースが話されたという経験をしてきている。02年に名古屋大病院であったカテーテルで腹部大動脈を突き破った件では、院内事故調で執刀医は弁護人をつけ黙秘権の告示も受けたうえで、二度とこういうことを起こさないようにという気持ちで全部話してくれた。そういう気持ちの医療者が少なくないのでないか。刑事免責がなければしゃべらないという人が本当に大半か。私はそうは認識していない。
資料1のP4、『原因究明・再発防止と責任追及とは明確に分離し、それぞれ独立した組織』という表現は、読み方によっては責任追及は刑事が独立で動いちゃえというようにも読める。が、それは本意ではないのだろう。今回の第三次試案はごくごく悪質なものに限って通知するわけで、部分的・例外的なものだけが対象になる。それを全面的に否定して、警察が動いた方がいいということか」
徳田
「医療安全という立場では、きちんと方向がされることが大事であり、そのためには報告の免責が大前提と申し上げている。それによって全ての情報があからさまになることの方が大事だ。それをどう裁くかは別建てで別の枠組みを考えたらいがかと申し上げている。最後に提案をしたい。どのように事故調査をしても患者遺族が納得しなければ当然訴訟になる。それでも医療安全全体のためには情報が出てくる方がいいと考えている。現状の枠組みでも、医療機能評価機構を強化していけば、かなりの調査はできるはず。ところが、そういう安全の仕組みの構築がすごく遅れている。この検討会でも、死亡事故だけでなくて全部を扱ったらどうかという意見が出ていたはずだ。ヒヤリハットをどうするのか、そういうことをもっとちっとやってくれるシステムこそ医療現場は必要としている。そこのところをきちんとこの検討会で議論してきたか、してこなかったと承知している。少し時間はかかるかもしれないが、医療安全のために本当に必要なシステムをつくってほしい」
嘉山
「加藤先生、普段は医療者性悪説で見ていて、今度は性善説でものを言っている。先生が事故調でどんな言い方をしているかも聞いているけれど、正直に言ったら警察には言ってあげるから、私の言うことなら警察はきいてくれるからという言い方をしているだろう。それは加藤先生だけの特殊な話だ。ここまで揉めている話をこのまま通さないというのは、患者さんのため、国民のためだ」
児玉
「嘉山参考人の資料の2-4-5は、私どもの趣旨で言うところの調査報告書が民事や刑事に使われることを想定しているならば、現行法上はこの程度のことしかできないという例示か」
嘉山
「こういうことを我々の事故調はやってますとという趣旨。厚労省主導で機構に届けるやり方に則っている。それが法律上どういう意味を持つのかは知らない。現状でも調査をしっかりやっているという趣旨だ」
児玉
「p51のようなものの言い方は責任追及とは違うのか」
嘉山
「大学での懲戒処分はある。それを念頭においている」
児玉
「調査報告書が民事にも刑事にも使われるということでよろしいか」
嘉山
「何に使われるという意識はない」
鮎澤
「嘉山先生に伺いたいのは、大学に預けてくれれば調査できるという趣旨だったと思うが、そのことについて全国の大学は了解しているのか。徳田先生は、日本全国の病院は、その一部である大学病院が調査委員会を主宰することに同意するかお答えいただきたい」
嘉山
「この委員会の大綱だって別に了解したわけじゃないし、予算だって分かってない。海のものとも山のものともつかない。それと同じレベルの話で、大学病院全部がこれを受けるかといったら、まだ話をしてはいない。国立大学の中では案として出したことがある。鮎澤委員は、大学病院は一部だというけれど、ハイリスク医療をやっているのは主に大学病院だ。だから調査対象に占める割合は多い。この委員会として法案をつくって大学にやりなさいと言えば、対応可能だと考えている」
徳田
「基本的に各病院がまず自分で調査すべきという考えだ。ただ大学病院のようにやれるかは別。今ある機構のシステムを利用して支援してほしい。現実論として大学病院を使うという考え方もあるのかもしれないが、しかしその情報を1カ所に集めてきちんと分析しないと意味がない」
この先いったいどうするのだろうかと呆然とした思いでいたら、最後に事務局からとんでもない発表があった。
「国民の皆様に現時点の検討状況をお知らせし、理解を深めていただくことを目的として」「『第三次試案』及び『医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案』の地域説明会」を開くという。その1回目は、なんと来週、11月19日の16時から18時に福岡国際会議場メインホールでだそうだ。その後に順次全国で開催していくらしい。
こんな急な話に関心のない人が来るはずもないので、医療側、医療事故被害者側がそれぞれに動員をかけて激論を戦わせることになるだろう。議論した結果として止揚できればよいが、厚労省側には案をいじる気はさらさらないわけで、それでは止揚するはずもなく、単に軋轢をバラ撒くだけだ。税金を使って、どうしてわざわざ対立関係を煽るようなことをするのか。
最近はどちらかというと厚労省に対して同情的に見ていたのだが、彼らは一体何をしたいのか。自分たちのメンツのためには医療を破壊しても構わないということなのだろうか。
(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載されています)

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