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臨時 vol 166 「拝啓二階殿:兵庫県立柏原病院の小児科を守る会からの手紙」

医療ガバナンス学会 (2008年11月13日 11:13)


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 ■□ 「モラルの問題」との非難、批判は妥当でしょうか? □■
兵庫県立柏原病院の小児科を守る会
代表 丹生裕子


 私たち「県立柏原病院の小児科を守る会」は、兵庫県丹波市で、「子どもを守ろう、お医者さんを守ろう」をスローガンに活動しているグループです。市民を助けたいと思っている医療者と、助けてほしいと思っている市民の間に横たわっている溝を埋めようと、活動をしています。
先日の「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思います。忙しいだの 、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」という二階俊博経済産業大臣の発言は、患者を救おうと、過酷な労働環境の中でがんばっておられる産科、小児科、いわゆる周産期医療にたずさわっておられるお医者さんの心を折る発言ではなかったかと、残念に感じています。
赤ちゃんは、何時に生まれるか分かりません。私の3人の子どもは。日中に生まれましたが、明けがたに出産したり、年末の深夜に生んだメンバーもいます。交代勤務ができるほどお医者さんはおられませんから、へその緒を切って下さったドクターは、その翌日も、朝から夜まで働き続けられたことと思います。ほとんど、眠れないままに、です。
産科医は、ここ数年でものすごい勢いで数が減っています。その結果、辞めずに残られたお医者さんたちの負担がどんどん増える悪循環に陥っています。今も周産期医療に携わり続けておられるお医者さんたち、私たちのためにがんばっていただいているお医者さんたちにかける言葉は、「モラルの問題」という非難めいたものなのでしょうか?夜も寝ない、眠ることができない状況でがんばっている人たちを、「忙しいだの、人が足りないだの」と、批判することが、果たして妥当なのでしょうか?
私たちの地元の兵庫県立柏原病院も43人おられたお医者さんが、3年ほどで20人にまで減りました。今年7月、病院のすぐ近くで開かれた医療フォーラムで兵庫県知事は、こんなあいさつをされました。「もっと情熱に燃えた医師と地域が協力し、医療を確保している所がある。我々も負けてはおれぬ」。半分に減った医師数で身を粉にして働くより、医師数が多い別の病院に移った方が、お医者さん自身は幸せでしょう。しかし、自分の幸せよりも、患者の、住民の幸せを優先し、地域医療を支える道を選んで頂いている。そんなお医者さんに対して、「もっと情熱に燃えた医師が」などと、あたかもお医者さんの情熱に問題があり、お医者さんの情熱不足が医師不足や地域医療の低下を招いているかのような発言をされたことに、落胆しました。お医者さんたちに申し訳なく、涙がこぼれそうになりました。
兵庫県立柏原病院には、今は3人の産婦人科の先生がおられますが、4月からは、55歳の上田先生と50歳の丸尾先生のお2人になります。2人でお産を続けるということは、2日に1度、年間180日病院に泊まらなければならないということになります。泊まらない残りの180日も、緊急帝王切開などが入った時に駆けつけられるよう、待機が必要になり、24時間365日の緊張状態、休めない、ということになります。
地方には、1人、2人で産科医療を支えておられる病院がたくさんあります。1人、2人のお医者さんが「もう続けられない」とお辞めになるだけで、産科医療がゼロになってしまう地域がいたるところにあるのです。東京で産科医が不足すれば、地方から補充され、地方の医師不足は進みます。これは周産期に限ったことでなく、全ての救急医療現場に共通していることです。
政治家の先生の不用意なひと言が、医療を壊してしまうことがあります。とにかく現場に足を運び、お医者さんの声に耳を傾けて下さい。
今日の産科医療、医療崩壊の原因は、医師個人の資質にあるのではなく、産科医を、勤務医を続けたくても続けられなくしている社会にあるのではないでしょうか。私たちは、患者、国民の側から、医師を守り、医療を守る運動を続けます。大臣が、政治の側から、医師を守り、医療を守る運動を展開して頂けることを期待します。
終わりに、墨東病院でお亡くなりになられた方のご冥福と、意識不明が続いておられる方の回復を心からお祈り申し上げます。また、この世に生を受けた2人のお子さんが健やかに成長されることをお祈り申し上げます。

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