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臨時 vol 167 マッキンゼー元東京支社長 横山禎徳氏の医療システムデザイン勉強会(1)

医療ガバナンス学会 (2008年11月13日 11:12)


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                         東大法学部3年 城口洋平


●講師
横山禎徳(よこやま・) 社会システム・デザイナー
[略歴]
1966年東京大学工学部建築学科卒業。建築設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。現在は、社会システムデザイナーとして医療をはじめ社会制度の再構築に取り組むことで、明日の日本を創る仕事に尽力している。
[著書]
○「豊かなる衰退」と日本の戦略 ダイヤモンド社  2003/03 横山禎徳(著)
○ポストM&Aリーダーの役割  ファーストプレス 2007/04 横山禎徳(著)
○マッキンゼー合従連衡戦略   東洋経済新報社  1998/10 横山禎徳(著)
●筆記者より
2008年9月21日、横山禎徳(マッキンゼー前東京支社長)さんを講師に迎えた医療システムデザイン勉強会が開催されました。これは、同勉強会に出席し、横山さんのもとで「明日の日本を創ること」に情熱を燃やす城口洋平の傍聴録です。
横山禎徳先生は、2002年マッキンゼー東京支社長を引退後、高齢社会における医療制度改革の必要性を唱え、さまざまなプロジェクトにアドバイザーとして入ることで日本の医療の明日をつくることを目指されています。医療システムデザイン勉強会(以後、横山勉強会)は、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門(2008年10月1日より「先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門」に名称変更)が主宰し、約3年にわたり1‐2ヶ月に1回の頻度で開催されています。
勉強会には臨床医、研究者、学生を中心に、財務省、厚労省、総務省の方々やコンサルタントの方々が集まり、横山先生から「マネージメント」を学びながらじっくりと議論を行っています。毎回10‐20人程度と小規模で、うちとけた雰囲気の会となっています。原則公開の方針ですので、参加をご希望の方はexp-office@umin.netまでご一報頂ければと思います。
今回の勉強会では、横山先生は大きく3つの議題についてお話しになりました。その骨子を以下にご紹介させていただきたいと思います(文章中の「私」は横山先生)。
■ 医療費cutではなく、医療に資金が流入する体制を構築する発想の転換
日本は780兆円を上回る巨大な財政赤字をかかえています(財務省平成20年度末予想、国・地方の長期債務残高総額)。ですから当分、巨大な財政赤字を減らすことに注力しないといけません。従って、国民医療費は「コスト」として削減の対象であることは変わらないでしょう。たとえ税収増があっても、その一部を国民医療費に回そうと考えてくれるとは全く期待できません。
しかし、よくよく考えてみたら、日本人は総体として豊かなのです。問題は、日本が貧乏なのではなく、日本政府が貧乏なのです。よく新聞で1,500兆円の個人金融資産という話が出ますが、1,500兆円とは別に、非金融資産である土地、建物、書画、骨董が2,000兆円ほどあるそうです。合計で2500兆円あるわけです。個人にめちゃくちゃお金がある国なのです。特に高齢者をみると、日本は非常に豊かな国であります。実際に高齢者が今どのくらい持っているのかと言いますと、60歳以上が金融・非金融資産両方の大体7割方を持っているといいます。個人の借金の大きなものは住宅ローンですが、すでに払い終わっています。ということで、実質2000兆円から2500兆円あるということになります。日本政府に頼っている限りは絶対に医療システムにお金が入ってくる良循環はできないことは、明らかです。そうではない、すなわち税金に頼らないで医療分野にお金が入ってくる仕組みを考えようというのが、私のデザインの基本的な考えです。
まず、現行の医療に存在する多くの悪循環を抽出し、明示します。そして、最終的には医療費削減ではなく、逆に、資金が流入することが良循環を作り出すのだという方向に発想を転換します。「議論した結果、資金面での変革はほとんど期待できないから、現状の少ない資金の制約のなかで皆がもっと努力する」――ということで終わってしまうのではだめで、やはり一番望ましいのは、医療システム全体にもっとお金が入って来るようにあらゆる工夫をすることです。
■ ビジネスクラスの発想 ――お金持ちがお金を多く払うことで医療の好循環を生む
航空機業界でのビジネスクラス導入の成功事例を、医療業界に持ち込んではどうでしょう。
「ビジネスクラス」は、まさにビジネス向け、法人、富裕層向けのサービスだからこそ「ビジネスクラス」なのです。航空業界では、個人向けの格安チケット販売により航空会社が利益を圧迫され、航空機の購入等が進まず、飛行機事故という悲惨な結末を招いた過去がありました。そこで法人向けに、高価格で快適性、即時性を重視したビジネスクラスを導入しました。その結果、利益率を高めることに成功。航空業者が潤い、設備投資すなわち新型機購入を促進する余裕ができました。この好循環により、格安チケットを購入する一般消費者も航空機の快適性・安全性の向上という恩恵を享受でき、航空機業界全体の質が向上したという成功事例があります。
医療システムにお金が入るということは結局、高齢者も若者も、貧乏人も金持ちも全部含めて皆が得をするのだと発想すべきです。それをどうやって成し遂げるかということですが、対厚労省的には「皆が自己規律を持って無駄遣いしない仕組みになったのだから、必要なお金であれば使っても良いのではないか」という方向に発想を転換してもらうべきなのでしょう。
医療における「混合診療」も同様かと思います。「金持ちがカネで命を買う」と批判するのではなく、富裕層に高付加価値のサービスを高額で提供することにより、低価格の均一サービスによる低利益率で疲弊した医療業界の状況を改善し、最新の医療機器・設備の導入、投資等に資金を循環させることにより、低所得者向けの医療品質の向上を図ることにもつながるのです。潤沢な資金が医療システムに入ってくれば、最たる低所得層に無料で治療を提供することも可能となるのです。すなわち、「お金がある人からたくさん取って、その一部を”医療基金”としてプールし、使うことが出来れば良いじゃないか」という発想のほうが、まだ素直ではないかと思います。「貴方の命を高く買ってください」というと語弊がありますが、「貴方の病気を治療する費用の倍を出してくださると、貴方と同じ病気だが貧しくて医療を受けられない人を一人治療できます。三倍出してくださるとそれが二人になります」ということではないでしょうか。
■ 100兆円の医療市場 ――医療をCostからValueへ
先ほど日本では個人が実質2,000から2,500兆円近い資産を有している、なかでも高齢者がその7割方を持っているというお話をしましたが、先のリーマン破綻を始めとする金融崩壊により資金の行き場を失った資金が、一時的に他分野に流入し、各地でmini-babbleが起こるでしょう。そういった状況を逆に好機と捕えて、医療費40兆円を問題視するのではなく、医療marketを100兆円に誘導すべきであります。一国の産業規模はたかだか20‐50兆円程度でして、日本国内の医療市場を100兆円まで育てて世界最大の産業規模とすることで、世界経済における存在感を高めるのであります。
医療をCostではなくValueだと考えること、つまり「国民医療費」ではなく「国民医療消費」という価値観に転換することが、まず重要であります。医療消費とは医療の提供する「価値」を消費すると考えるのです。この「価値」あるいはValueというのは、ビジネスの感覚からいうと「かかっている人件費の4倍以上の値段を取ることができる」ということです。このようにValueで考えると、「国民医療消費」100兆円というのはそんなに非現実的な話ではありません。ひいては、「国が面倒をみなければいけないのは、3分の1強くらいに抑える」というやり方も考えられるようになってきます。それがまさに、システム・デザインなのです。システムにお金が入ってくると色々な応用ができます。「本当にお金に困っている人には高額な医療でも無料」とすることも、可能になります。お金持ちも低所得者も一律3割自己負担というほうが、かえって不平等になっているのではないでしょうか。

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