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Vol.211 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(2)

医療ガバナンス学会 (2014年9月19日 15:00)


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尼崎医療生協病院 産婦人科
衣笠万里
2014年9月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


HPVワクチンのリスク(2)

ワクチン反対を唱える人々がその根拠として引用している論文の多くは少数例の報告にとどまっていて疫学的な裏付けを伴っていない。その中でもトムルジェノビック(Tomljenovic, L)氏およびショー(Shaw,CA)氏による論文がしばしば取り上げられている[10]。

http://focusautisminc.org/wp-content/uploads/2013/12/Death-after-quadrivalent-human-papillomavirus-vaccination-full-paper.pdf#search=’Tomljenovic+Shaw+CA’

著者らはガーダシル接種後(6カ月後および15日後)に突然死した2人の女性の検死によって得られた脳の標本に免疫組織化学を施し、ワクチンに含まれるHPV16型の蛋白抗原が脳血管壁に認められたことから、ワクチンに起因する脳血管炎によって急死したと主張している。
しかし米国疾病管理予防センター(CDC)のワクチンの安全性に関する作業部会は以下の理由で彼らの主張を退けている[11]。

①彼らは血管炎を死因としているが、病理組織像に血管の炎症所見は認められない
②免疫組織化学の方法に不備がある。具体的には陰性コントロール標本(HPVワクチン非接種者由来の標本や一次抗体抜きの染色標本など)を欠いているので、非特異的に染色された可能性がある。
③免疫組織化学所見の解釈に問題がある。彼らは血管壁にワクチン粒子が観察されたと記述しているが、実際にはそれは電子顕微鏡でなければ観察できない。
④他に考えられる死因についての情報が記載されていない。

さらに彼らの論文以外にHPVワクチンと血管炎との関連について報告されたものはなく、彼らの主張を支持する証拠はないとしている。同様にWHOの諮問委員会(GACVS)も彼らの主張には科学的根拠がないと述べている[1]。
もし時間があれば、この論文の4~5頁のFigure 1~6を見ていただきたい。著者らによれば死亡女性の大脳・小脳・橋・延髄・脳室脈絡叢など多くの部位の血管壁にワクチンに含まれるHPV16型の蛋白抗原(HPV-16L1)が陽性に染まっている。しかしワクチンに含まれるHPV-16L1はわずか40μgであり(μg:マイクログラム=1gの1/100万)、3回接種しても120μgに過ぎない。ティースプーン1杯の食塩が約5gなので、その4万分の1程度の量である。上腕に筋肉注射したそのような微量のHPV-16L1が大きな脳内の至るところの血管壁に分布しうるとは到底信じがたい。おそらく何か他の抗原が染まっている可能性が高いだろう。またCDCの作業部会が指摘しているように血管やその周囲に炎症所見は認められない。

さらに付け加えると、Figure 1の写真Dはワクチンに含まれるHPV18型の蛋白抗原(HPV-18L1)が脳組織中に局在するか否かを調べたものである。染色がみられないので抗原陰性との判定であるが、他の写真と比べてみると、この写真は異様に真っ白に抜けて見える。通常は抗原陰性であっても非特異的に淡い染色がみられることが多く、本文の記述によれば少なくとも対比染色で使用したメチルグリーンで細胞核が染まって見えるはずである。ところがこの写真はまるで何も染めていない白切片をそのまま撮影したかのように見える。論文の結論には直接影響しないが、このように不自然な画像の使用は実験の信憑性そのものを損なうものである(残念ながらSTAP細胞の論文もそうだった)。
このようにHPVワクチンによって脳内で血管炎が起こっているという彼らの主張には信じるに足る証拠がない。現在までに全世界ですでに1億数千万本ものHPVワクチンが出荷されているので、接種者の中にはワクチンとは無関係に重病を患ったり突然死したりする人々も相当数含まれることになる。したがってワクチン接種とその後の容体の悪化との因果関係の有無については十分な疫学的調査に基づいて評価すべきである。

ワクチン接種後の慢性疼痛について

国内ではHPVワクチン接種後に注射箇所以外の広範囲の部位に慢性的な痛みを訴えたり、けいれん様の不随意運動や学習障害がみられたりして日常生活に支障をきたしているケースが相次いで報告されている。厚労省の調査報告によれば10万接種あたり2~4件程度の発生率であるが[12]、ワクチン接種勧奨の是非にかかわる重大な問題となっている。浜氏は最初に紹介した論説の中でそれらの症状を抗リン脂質抗体による自己免疫疾患の徴候ではないかと推測しているが、その根拠となるデータ、たとえば血清中の抗リン脂質抗体の存在などについては示されていない。厚労省のワクチン副反応に関する検討部会では上記症状を局所の疼痛刺激に起因する心身の反応あるいは機能性身体症状ではないかと評価している。実際に同省の痛み対策研究事業・牛田班の成績では心身医学的アプローチにより治療を継続した患者70人中47人(67%)に症状の改善が得られたことが示されている[13]。

しかしワクチン反対派や被害者団体の中にはこの心身の反応説に対して強い反発を示している人たちもいる。実際、上記報告でも受診者のうち42人がフォローから漏れており、真の有効率はもっと低くなる可能性もある。心身の反応説の真否については今後さらなる検討が必要であろう。
ただし症状の強弱によって心身の反応、あるいは機能性身体症状の可能性を肯定することも否定することもできない。実際、身体所見や臨床検査・画像診断などで特に器質的病変が認められないのに長期間にわたって繰り返し激しい疼痛を訴える患者に遭遇することは日常診療において珍しくない。それらの症状は生活環境の変化で自然に軽快する場合もあれば、心理療法や抗うつ薬・抗不安薬などの薬物療法によって次第に改善される場合もある。しかし最初に精神神経科あるいは心療内科への紹介を打診したときには、あからさまに拒否されないまでも受診をしぶる患者が多い。「こんなに痛くて苦しいのに、どうして先生は“気の病”のように言うのか?」と。しかしそのような心身の症状はもちろん仮病でもなければ“気の病”と呼ぶべきものでもなく、他の身体疾患と同様に専門的な知識と経験、ときに集学的な治療を要する一つの疾患群であると心を込めて丁寧に説明すれば、理解していただけることも多い。

ワクチン接種後の女性を苦しめている多彩な症状についてはあらゆる可能性を視野に入れながら治療法が解明されていくことが望ましく、心身の反応あるいは機能性身体症状という学説に対しても最初から門前払いするのではなく、考慮しうる一つの可能性として前向きに治療に取り組んでいただきたいと願っている。

引用文献・関連ウェブサイト

[1] WHO: Global Advisory Committee on Vaccine Safety Statement on the continued safety of HPV vaccination. March 12, 2014.  http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/hpv/GACVS_Statement_HPV_12_Mar_2014.pdf
日本語訳はこちらを参照されたい(子宮頸がん征圧をめざす専門家会議より引用)

http://www.cczeropro.jp/assets/files/2014.3.12J.pdf

[10] Tomljenovic L, Shaw CA. Death after quadrivalent human papillomavirus (HPV) vaccination: causal or coincidental?.  Pharmaceut Reg Affairs 2012, S12:001

http://focusautisminc.org/wp-content/uploads/2013/12/Death-after-quadrivalent-human-papillomavirus-vaccination-full-paper.pdf#search=’Tomljenovic+Shaw+CA’

[11] Centers for Disease Control and Prevention: Clinical Immunization Safety
Assessment (CISA) Network Publications and Technical Reports. Review of a published report of cerebral vasculitis after vaccination with the Human Papillomavirus (HPV) Vaccine.

http://www.cdc.gov/vaccinesafety/Activities/cisa/technical_report.html

[12] 厚生労働省結核感染症課:HPV(子宮頸がん予防)ワクチンの接種に当たって ~医療従事者の方へ.

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/pdf/tsuuchi_h26_07_16_1c.pdf

[13] 第10回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成26年度第4回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 参考資料1:牛田享宏. 慢性痛の発症と維持のメカニズム

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000050379.pdf

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