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Vol.212 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(3)

医療ガバナンス学会 (2014年9月20日 06:00)


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尼崎医療生協病院 産婦人科
衣笠万里

2014年9月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


HPVワクチンの効果

まったく副作用のない薬剤は存在しない。ワクチンについても同様である。それでも薬物治療や予防接種がおこなわれるのは、副作用・副反応のリスクを上回るメリット、すなわち疾病の治療効果や予防効果が十分に期待できるからである。それではHPVワクチンの疾病予防効果はいかなるものだろうか?平成26年8月23日現在、インターネットの複数のサーチエンジンで「HPVワクチン」と「効果」を入力して検索すると、最初に厚労省の資料が出てくる[14]。
同資料によれば日本では年間約9,800 人の子宮頸がん患者が発生し、それによって約2,700 人が死亡しているとされている。実際に厚労省による2012年の死因統計を見ると、子宮頸がんによる死亡者数は2712人、子宮体がんによる死亡者数は2092人であった[15]。ところが頸がんとも体がんとも明記されていない「子宮がん」による死亡者が1309人いるので、仮にこの死者数を2712対2092で比例配分すると頸がんの死亡者数は推計3450人となる。正確な数値は分からないものの、子宮頸がんによる死亡者数は少なくとも年間3000人以上と考えられる。

現在までの臨床試験の成績から、2種類のHPVワクチンは子宮頸がんの原因となるウィルスのうち最も発がん性の高いHPV16型と18型の感染とそれらによる前がん病変の発生を90%以上予防できることが示されている[3][8]。ガーダシルはさらに外陰部や腟内に尖圭コンジローマ(先のとがったイボ状の病変が多発する性感染症)を作るHPV6型と11型に対しても有効である。子宮頸がんは正常な細胞がある日突然がん細胞になるのではなく、異形成と呼ばれる前がん病変を経由してがん化すると考えられており、前がん病変の発生を予防できれば、その後の発がんやがん死も防げると推定されている。

世界的には子宮頸がんの約70%にHPV16/18型が関与しているとされている。しかし日本を含む東アジアではHPV52型や58型による頸がんも比較的多く、国内の頸がん症例で16/18型の占める割合は50~60%台と報告されている[16][17]。現在HPV 6/11/16/18/31/33/45/52/58型に対して有効とされている新しいワクチン(9価ワクチン)が海外で治験中であり、より広範囲のカバーが期待されるものの、まだ十分に有効性や安全性は確認されていない。
それでも十代の全女性が現在のワクチンを接種すれば、将来的には単純計算で年間3000人の頸がん死亡者の約半数:1500人前後のがん死を防げることになる。接種率が70-80%にとどまっても年間1000人前後が救われることになる。さらに20~30代の女性に限れば約80%の頸がんに16/18型が関与していることが報告されている[17]。つまり妊娠出産を控えた若年女性が子宮摘出を余儀なくされたり、がんの進行・再発のために夭折したりする事態をワクチンによって80%まで避けられる可能性がある。
HPVワクチン接種に反対する人々・団体のウェブサイトにはしばしば以下のような記述がみられる。

―ワクチンが実際にがんの発生を抑えたというデータは存在せず、ワクチンを接種したグループに子宮頸がんになる前の異形成(前がん病変)が少なかったという臨床試験のデータがあるにすぎない。―

この内容自体はおおむね事実である。もっとも最近では臨床試験以外にオーストラリアや北欧など複数の国や地域の多数の若年女性を対象とした疫学調査でもワクチン接種者では実際に異形成が減っていることが示されてきている[18][19]。しかしHPVに感染して異形成から子宮頸がんに進展するまで通常は10年以上かかるので[14]、実際に頸がんが減るとしても10~20年先の話になる。したがってがんの発生を抑えたというデータは確かに現時点では存在しない。さらに臨床試験ではワクチン接種群も対照群も一般人口とは異なり相当厳重にフォローされていて、明らかな前がん病変が見つかった時点で多くの場合は子宮頸部の部分切除(円錐切除術など)が行われるので、実際に頸がん(浸潤がん)発症まで至ることは少ないであろう。そうすると発がん予防効果を数字で示すことはさらに困難となる。

しかしHPV感染から異形成を経て子宮頸がん発病に至るプロセスはこの数十年間の医学研究によってほぼ確立された定説となっている。たとえば高度異形成あるいは上皮内がん・上皮内腺がんと呼ばれる前がん病変を長期にわたってそのまま放置して浸潤癌になるまで見届けるということはもはや倫理上大きな問題となる。がん検診を受けていればワクチンは必要ないと主張する人々も、実際には検診で上記病変が見つかれば浸潤がんになる前に治療できることを前提にしている。すなわちワクチンで前がん病変を予防できるのなら、その先の頸がんもほとんど予防できるという予測には妥当性がある。

ところでHPVワクチンの添付文書にはいずれも「本剤の予防効果の持続期間は確立していない」と記載されている。それはいずれも認可されてから10年に満たないため、有効期間がいつまで続くのか現時点で明らかではないからである。しかしHPV16/18型由来の病変に対する両ワクチンの予防効果は接種後8~9年間減弱することなく持続している[20][21]。ワクチンの効果はある日突然消えてなくなるというものではなく、減衰するとしても年月を経て緩徐に低下していくと考えられる。ガーダシルと同成分のアルミニウム化合物をアジュバントとして含んでいるB型肝炎ワクチンの感染予防効果は20年以上続くことが確認されており、製薬会社の試算ではHPVワクチンも同様に20年以上にわたって有効であろうと予測されている。しかしその真否については今後長期のフォローアップが必要である。ネット上で「ワクチンの効果は数年間しか続かない」といった書き込みを見かけることがあるが、少なくともそれは誤りである。

ここで性感染症の年齢別発症数について国立感染症研究所のグラフを供覧する[22]。

http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/34/403/graph/kf40331.pdf

このグラフによれば子宮頸がんと同様にHPV(ただし大半は6型と11型)を原因とする性感染症である尖圭コンジローマの報告数は10代後半から急増し、20代前半でピークとなり、それ以後は加齢とともに減少していくことが分かる。他の性感染症も同様の傾向にあり、これは女性の性的活動をそのまま反映している。厚労省による年齢階級別にみた性感染症報告数の統計表[23]によれば、平成25年の全年齢における尖圭コンジローマ報告数2387件のうち1756件(74%、約3/4)が15~34歳に集中している。10代前半まではほとんど発症していない。HPVワクチンはB型肝炎ワクチンなどと同様にすでに感染が成立した人には効かない。従ってこのグラフや統計表から類推されるように、できればほとんどの女性が未感染である10代前半のうちにワクチンを接種しておいて、その効果が20年間続けば、過半数のHPV感染を予防できる可能性がある。少なくとも妊娠出産前に子宮頸がんを発症するリスクは大幅に低減される。

引用文献・関連ウェブサイト

[3] Lehtinen M, Paavonen J, Wheeler CM, et al. Overall efficacy of HPV-16/18 AS04-adjuvanted vaccine against grade 3 or greater cervical intraepithelial neoplasia: 4-year end-of-study analysis of the randomised, double-blind PATRICIA trial. Lancet Oncol. 2012 13(1):89-99.

[8] FUTURE II Study Group. Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent high-grade cervical lesions. N Engl J Med. 2007.356(19):1915-27.

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa061741

[14] 厚生労働省. HPVワクチンの有効性について

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000014815.pdf#search=’HPV%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3+%E5%8A%B9%E6%9E%9C

[15] 国立がん研究センターがん対策情報センター:がん情報サービス「集計表のダウンロード」 http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#01

[16] Miura S, Matsumoto K, Oki A, et al. Do we need a different strategy for HPV screening and vaccination in East Asia? Int. J. Cancer 2006. 119: 2713–2715.

[17] Onuki M1, Matsumoto K, Satoh T, et al. Human papillomavirus infections among Japanese women: age-related prevalence and type-specific risk for cervical cancer. Cancer Sci. 2009. 100(7):1312-6.

[18] Brotherton JM. Human papillomavirus vaccination: Where are we now? J Paediatr Child Health. 2014. doi: 10.1111/jpc.12627.

[19] Baldur-Felskov B1, Dehlendorff C, Munk C et al. Early impact of human papillomavirus vaccination on cervical neoplasia–nationwide follow-up of young Danish women. J Natl Cancer Inst. 2014 Mar;106(3):djt460. doi: 10.1093/jnci/djt460

[20] Naud PS, Roteli-Martins CM, De Carvalho NS et al. Sustained efficacy, immunogenicity, and safety of the HPV-16/18 AS04-adjuvanted vaccine: Final analysis of a long-term follow-up study up to 9.4 years post-vaccination. Hum Vaccin Immunother. 2014. 10(8):.

https://www.landesbioscience.com/journals/vaccines/article/29532/

[21] Ferris D, Samakoses R, Block SL, et al. Long-term study of a quadrivalent human papillomavirus vaccine. Pediatrics. 2014. 134(3):e657-65. doi: 10.1542/peds. 2013-4144.

[22] 国立感染症研究所. 性感染症定点把握4 疾患における年齢階級別の疾病負荷と発生率の推移(IASR 2013. 34:271-273)

http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/34/403/graph/kf40331.pdf

[23] 厚生労働省. 性感染症報告数「年齢(5歳階級)別にみた性感染症(STD) 報告数の年次推移・尖圭コンジローマ」

http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html

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