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Vol.215 ママチャリ14日間の旅 ~札幌から名古屋へ~

医療ガバナンス学会 (2014年9月23日 06:00)


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北海道大学医学部医学科3年
箱山昂汰

2014年9月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は北海道大学の学生だ。実家は名古屋にある。将来は国際医療に何らかの形で従事し、アフリカやアジアの国一つ分くらい幸せにできるような仕事をしたい。その将来の夢のため現在何ができるか定かではないので、食わず嫌いをすることなく何でも挑戦し、貪欲に世界にぶつかっていこうと考えている。そういった想いから来年は大学を休学して、世界放浪の旅をする予定だ。
この文章は帰省を兼ねて自転車で東日本を旅した際に感じたことを記した道中記である。
【1日目】札幌→苫小牧
「風が気持ちいいな。名古屋まで行けそうだ。」部活からの帰り道、ふと思い立った。思い立ったらすぐ実行、難しいことは出発してから考えるべし。苫小牧から八戸に渡るフェリーだけ予約して、その日のうちに札幌を発った。相棒の自転車、レッドバロン3号はママチャリだ。カゴは壊れ、前ブレーキの調子も悪いけれど、大学生活を一緒に走り抜けてきた大事な相棒だ。
【2日目】苫小牧→久慈
苫小牧にて早朝乗船したフェリーが八戸に着いたのはお昼過ぎだった。海岸沿いの道をゆっくり漕いで行くと綺麗な松原と天然芝の種差海岸に出た。タイヤの空気が少し抜けていたので、近くのお宅にて空気入れをお借りしたところ「名古屋まで行くの?」と驚かれた。「地続きですから少しずつ漕いで行けば着きますよ」と見栄を張っていたが、内心不安でいっぱいであった。
【3日目】久慈→宮古
岩手の海岸沿いの道はリアス式海岸のため激しい山道で、土砂降りの大雨と合わせて、ノックアウト寸前だった。岩手県のギザギザ部分一つ一つに私の悲喜こもごも詰まっている。
【4日目】宮古→陸前高田
道を走っているとUターンして向かってくるトラックがあった。なんだろうと思っていると、中のおじさんが出てきて宮古名物のいかせんべいを三箱もくれた。本当に嬉しかった。山道は引き続き険しく、大船渡の山道では終わりの見えない登り坂に心折れそうだったが、止まっても誰も助けてくれない。大雨の空に文句を言いつつ乗り越えた。
山を越え陸前高田の街に出た時、大きな工事現場に迷い込んだのかと思った。津波の被害を伝える痕跡がそこかしこにあり、慰霊碑のある建物には千羽鶴やお供え物が沢山あった。涙が止まらず、早く一人前の医師になりたいと強く思った。
陸前高田では奇跡の一本松の近くのベンチで野宿をしようと思い、暗くなりつつある中で一本松を眺めていた。そこで偶然、同じく旅人の方に拾って頂き、鶴亀鮨というお寿司屋さんの大将を紹介して頂いた。大将にはその日の宿だけでなく、美味しい海鮮丼とビールをご馳走して頂いた。とても気さくで温かい大将だった。ご飯をご馳走になった後は温泉へ行き、湯船に浸かりながら震災のお話を伺った。大将曰く、大変だった時の一番の薬は親身になって話を聞いてくれる医師の姿勢そのものとのことだった。

http://expres.umin.jp/mric/mric.vol.215_1.pdf

http://expres.umin.jp/mric/mric.vol.215_2.pdf

【5日目】陸前高田→石巻
石巻で保健師をされている学生団体の先輩、園田友紀さんにお会いした。園田さんのご紹介で地元の医療者の方主催のワークショップに飛び入り参加させて頂き、地域における障がいへの理解に関して、さまざまな立場の方からお話を伺った。私自身は障がい支援に関してあたりさわりのない意見しか発信できず、この分野をもっと勉強したいと思った。その後の飲み会にて、ファーストキッスを男性の方に奪われ、かなりショッキングだった。
【6日目】石巻→仙台
杜の都は久しぶりの大都会だった。高校の同期が東北大におり、彼に会いに行った。急遽泊めてもらえるようお願いしたところ、部活の飲み会があるから無理だと断られたので、私もその飲み会に行けば良いのだ!と開き直って、急遽東北大学オリエンテーリング部の飲み会にお邪魔した。突然小汚い男がお邪魔したのにも関わらず本当に良くして頂き、楽しいひと時を過ごせた。
【7日目】仙台→郡山
朝は二日酔いのためひどく頭痛がしたが、このままゆっくりしてばかりでは名古屋にいつまで経っても着かない。炎天下の中ひたすらペダルを漕いだ。福島の道は遠くに連なる山々が本当に美しい。
【8日目】郡山→小山
宇都宮までで漕ぎやめたいところだったが、早く東京に着かねばと思い漕いだ。しかし、私もレッドバロンもかなりガタが来ており、特におしりの激痛が我慢出来なかった。
【9日目】小山→東京
北大の先輩であり現在は虎の門病院で看護師をされている樋口朝霞さんにお会いした。赤坂にある高級な和菓子屋さんにてかき氷をご馳走になったのだが、仙台からお風呂に入っておらず、汗臭さでお店のマダム達を驚かせてしまった。その後、樋口さんのご紹介で医科学研究所の上昌広先生にお会いした。何から何まで良くして頂いた。研究所には様々な方が出入りされていて、興味深いお話を伺うことが出来た。
【10日目】東京
前日、上先生の研究室のお食事会にて先生に「いろいろなものを見たいです!」と鼻息荒くお願いしたところ、同席していらっしゃったデイサービス事業の重役の方をご紹介頂いた。この日は急遽、リハビリやフィットネスもできるデイサービス施設アルクルさんにて見学をさせて頂いた。利用者さんが活き活きと体を動かされていて、見ている私も元気が出た。技術的なお手伝いはできなかったが、利用者さんに旅のお話をさせて頂くなど、素敵な時間を過ごせた。特に午前中は利用者さんが女性だけというハーレム状態の中で、ファンクラブを作って頂いた。
この日は21歳の誕生日でもあった。誕生日にデイサービス施設を見学することになるとは思いもよらず、不思議なご縁に心から感謝した。

http://expres.umin.jp/mric/mric.vol.215_3.pdf

【11日目】東京→小田原
途中、天国のような江の島を友人に案内して頂いた。その友人は笑顔のかわいい女の子で、一緒に歩きながらここまで無事に着けて本当に良かったと思った。
【12日目】小田原→静岡
箱根の山は天下の嶮。登り坂にかなり苦戦した。しかし本当に怖いのは下り坂で、スピードが出過ぎないようにあの手この手で減速せねばならなかった。足でブレーキをかけ過ぎて、左足の雪駄だけペラペラになった。
【13日目】静岡→浜松
上先生の研究室で知り合った森亘平君や学生団体の友人に会うため浜松医科大学に伺った。ここまで来ると体臭が自分でも我慢できないほどであったが、試験期間中にも関わらず温かく迎えてくださった。森君にご紹介頂いた大磯義一郎先生からは、新たな挑戦へのヒントを頂いた。
【14日目】浜松→名古屋
故郷の道は懐かしく旅の終わりを実感し少し名残惜しかった。実家に到着すると母や伯母に臭いと言われ続け、凹んだ。いつもはすぐに近づいてくる飼い犬も離れたところから吠えてきた。うるさい親戚の声を聞きながら、無事に着けたことにほっとした。
当てもなく出発したが、開けてみると沢山の出会いに恵まれた。アルクルさんにてお話しさせて頂いたおばあちゃんに「これまで本当に素敵な人に会ってばかりです。」と伝えると、「それはあなたが素敵だから。いい人にはいい出会いがあるのですよ。」と言われ、因果応報という言葉の意味をその方の体験とともに教えて頂いた。
旅を終えて、もっともっと旅に出たいと思った。私は人が好きだ。これからも国や地域を問わず、沢山の人に出会って話を聞いてみたい。そしていつかはその人たちの力になれるような医師になる。

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