医療ガバナンス学会 (2014年10月2日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2014年10月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
検査には、震災後に生まれたお子さんも多くいらっしゃいます。検出限界は50Bq/bodyですが、今のところセシウムが検出された方は1人もおられません。まあそうだろうな、と思われる方が多いのではないでしょうか。
検査や測定などを行う立場で外来をしていて、重要だと感じることがあります。住民の方たちが放射線について聞きたいことや知りたいことがある際、どうやってその情報をお伝えしていくか? 情報へのアクセスをどう維持していくか? ということです。
外来をしていると、来られた半分以上の方から放射線に関して何らかの質問を受けます。だいぶ慣れてはきたけれど、まだ納得はしていない、という感じでしょうか。不安だから、何か頭の中で引っかかっているから、別にそれほど気にしているわけではないが確認のために、水のこと、野菜のこと、家庭菜園のこと、外遊びのこと、甲状腺のこと、検査自体のことについて知りたい、聞きたい――。内容は様々です。こちらとしては、うまくお伝えする特別な方法があるわけではなく、淡々と状況を説明します。難しいから分からないとか、納得できないとかいうことはほとんどなく、ふつうに理解して帰っていかれます。「ふざけんな!」といわれて、突然つかみかかられた2011年7月の外来のころとはだいぶ違っています。ふつうに特定健診の結果説明をしているような感覚さえあります。伝える内容やその主体が誰かが問題なのではなく、どうやって伝える場面を持つか、が大事なのかと思っています。
もっと早く知っていただくことができていればと思うことも多いです。
多くの解説書が本屋に並んでいます。冊子やパンフレットなども多くあります。新聞やテレビなどでも繰り返し報道されています。インターネットを調べれば情報はいくらでも見つかります。それでも、まだまだ「初めて聞きました」という反応をされる方が多いです。質問の内容もこの3年間、ほとんど変わっていません。
大規模な講演会にはもう人はあまり集まりません。行政がやるにはそういう形の方が組みやすいのでしょうけれど、一部の声の大きい方の話に引きずられてしまい、住民にとっても話す側にとっても十分な意味が見いだしにくい会になってしまうことも多いのではないかと感じます。一方向性の情報提供では、もううまく行かないのはないでしょうか。
そんな中で、現状の放射線について触れ、理解を深めてもらう場をどうやって共有するか。子供であれば学校の授業でと言うことになると思いますが、小さな子供さんを持つ大人の方たちとどうやって共有するか。土地によってやり方は違うのでしょうが、試行錯誤が必要のように思います。Babyscanは一種のコミュニケーションツールだと、以前に申し上げました。上記の様な共有の場の一つだろうと認識しています。医療にかけられるお金もリソースも有限ですが、今しばらく淡々と続けていきたいと思っています。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/2014092400003.html
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