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Vol.237 <第4回 提言>わが国の医薬品安全対策を科学的なものにするために -当局及び企業への提言- ~その3

医療ガバナンス学会 (2014年10月16日 18:00)


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一般財団法人 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団
理事長 土井 脩

2014年10月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


3.当局及び企業への提言
(1)当局への提言
1)「副作用」の定義の見直しとPV査察の強化
1.で述べたように、わが国の医薬品行政における「副作用」の定義はICH-
E2A時代の理解を踏襲したままであり、欧米のその後の変遷に合わせて、国際的にみて妥当な定義に変更すべきである。また、「副作用の疑い」や「有害事象」との関係を整理すべきである。市販後の自発報告を除き、治験時や市販後の臨床試験において因果関係を否定できないすべての有害事象を行政に報告させ、行政が添付文書への記載根拠となる因果関係評価を最終的に行っている現状は、改める必要がある。
同時に、医薬品の製造販売承認を有する企業に対して、「有害事象」の把握から「副
作用」評価に至るまでの流れ・プロセスが適切に行われているかどうかをチェックす
るための、合理的なPV査察を行えるよう、行政の体制を整備すべきである。

2)3,000例調査などの定型化された調査の廃止とリサーチ・クエスチョンに基づいた調査の実施
新しく導入されたRMP制度の趣旨に則り、また、欧米規制当局のプラクティスに倣い、科学的意義の乏しい3,000例等の「使用成績調査」をなくし、申請者との議論を通じて、調査等が必要な場合はその目的や手法を明確化した上で、調査の実施を求めるべきである。
なお、リサーチ・クエスチョンがオーファンドラッグのように市販後の使用実態下で探索的に安全性プロフィルを検討するということが正当であるならば、対応する調査が使用成績調査であることも考えうる。そのためにはこれまでの使用成績調査の枠組みを活かしたうえで、創意工夫することにより、価値を見出すことも十分可能である。
例えば営業部門が参加施設あるいは参加医師を選択したり、MR(医薬情報担当者)が症例票収集に関わることにより、第三者から恣意性を指摘される恐れのある点については改善の方策の検討が必要であり、このためには処方と患者の調査への登録は区別しておくことが不可欠である。抗がん剤の全例調査についても最終アウトカムまで追跡することによって有用な情報を得ることができ、またデータ収集方法や解析方法を工夫することでPEMのようにシグナル検出も可能となる。さらにMIHARI Projectでも利用しているSS-MIXデータを用いる24)ことになれば、上記のいくつかの懸念は解消できる。

3)RMP通知の改正等
現行のリスク管理計画と使用成績調査の関係は、RMP通知発出時には全く整理されていなかった。例えば、平成24年4月11日厚労省医薬食品局安全対策課長・審査管理課長連名通知「医薬品リスク管理計画指針について」25)には医薬品安全性監視計画の項があるが、「使用成績調査」の文字はない。
また、平成24年4月26日厚労省医薬食品局審査管理課長・安全対策課長連名通知「医薬品リスク管理計画の策定について」26)では、「製造販売後調査等基本計画書」の案に代えてRMPの案を提出することとされているが、「製造販売後調査等基本計画書」中の中心項目として「使用成績調査」が位置づけられていたにも拘わらず、それはただ記3.(2)の「追加の医薬品安全性監視活動についての個別の製造販売後調査等実施計画書は、別添に掲げる事項を記載し...」中の別添に、1.使用成績調査実施計画書、2.特定使用成績調査実施計画書として記されているのみである。この点は一応、約1年後の平成25年3月11日に公布された「改正GVP省令及び改正GPSP省令」のうち、後者の第6条(使用成績調査)第1項が改正され、「使用成績調査の実施は医薬品リスク管理計画書に基づくこと」とされたことで改善されたと思われた。
しかし、「使用成績調査」がRMP通知(上記平成24年4月26日付)において明確に「追加の医薬品安全性監視活動」に位置づけられているということは、通常の場合は実施する必要はないことを意味しているが、薬事法第14条の4第4項は、再審査申請の際には当該医薬品の「使用成績に関する資料等」を添付することを規定しており、また、通常の場合は「使用成績に関する資料等」の中で「使用成績調査」が中心を占めているにも拘わらず、その位置づけは曖昧である。また、GPSP省令第3条(製造販売後調査等業務手順書)においても「使用成績調査」は通常行うべきものと理解される。
速やかに、「使用成績調査」に代わる新たな「使用成績に関する資料等」に関するガイダンスを発出すべきである。

(2)製薬企業への提言
1)規制当局への働きかけ
上の(1)に示したとおり、わが国の安全対策行政は、副作用の定義や使用成績調査等に大きな問題を抱え、その状況はRMPの施行によっても改まっていない。欧米等海外規制当局の定める医薬品市販後安全対策を経験している企業であれば熟知しているように、欧米は近年安全対策を質的に大きく転換しており、今やわが国の安全対策は、世界的な流れから大きく遅れてしまっている。
従って、海外の動向に通じている製薬企業は率先して、欧米にも通用する国際的なレベルの安全対策への転換を図るとともに、わが国規制当局に働きかけるべきである。さもないと、海外に展開している製薬企業内においては、欧米向けの安全対策のプラクティスと国内向けのプラクティスの乖離は深まるばかりであり、日本国民の安全を国際レベルで守ることができない恐れがある。

2)使用成績調査の抜本的見直し
各方面からの改善を求める意見があるにも拘わらず、依然としていわゆる3,000例調査や類似の定型化した調査が行われ続けている。また、MR(医薬情報担当者)が関与している点も、国際的には問題視されている。従って、製薬企業はリサーチ・クエスチョンがはっきりしない使用成績調査等は止め、真にRMPの安全性検討事項に基づく、追加の安全性監視活動及びリスク最小化活動のみを行うという大転換を図るべきである。また、従来の使用成績調査等に代わる再審査で要求されている「新たな使用成績に関する資料等」のあるべき姿を、アカデミア等と協力して示すべきである。おそらく、現在PMDAがすすめているデータベースを用いた調査もその検討対象となるものと考えられる。

3)市販後安全対策における各種制度の更地からの見直しに向けた提案
わが国の安全対策の一つの欠点としてよく指摘されることに、次々と新しい制度や措置を講じるが、その見直し、スクラップ・アンド・ビルドにはあまり注力しないというものがある。制度もそうであるし、一度講じた特定の医薬品に対する安全対策についても、それが言える。また、添付文書についても、今回の薬事法改正で届出制となったが、制度改正を活かすためには、添付文書の内容を如何に医療現場において理解しやすいものにするかについて速やかに検討し、当局に対して提案していくべきである。
今まで述べてきた使用成績調査や特定使用成績調査、市販直後調査や承認条件としての全例調査等、いずれも制度が設けられてから長い年月が経過している。この間の安全対策に関する世界の知見等の集積には、目を見張るものがある。従来の制度にとらわれることなく、国際的に通用する新たな制度の構築を求め、当局に対し積極的に提案していくべきである。

おわりに
我が国は、承認条件制度や市販直後調査制度を世界でいち早く導入し、また、ICHにおいても開発・審査段階から市販後段階に至るライフサイクルリスクマネジメントの重要性を提唱した歴史もある。そのような実績を考えると、わが国は世界レベルの安全対策に追いつき、日本から新しい安全対策のあり方を発信するなど、安全対策の分野においても世界と協働して取り組むべきである。
安全対策の国際化を求める声は既に各方面から上がっており、今回の当財団の提言と同じ方向の内容は、すでに日本薬剤疫学会から「よりよい医薬品安全性監視計画作成とチェックリスト」27)が公表されている。さらには日本製薬工業協会のデータサイエンス部会からは、「科学的な医薬品リスク管理計画(RMP)実践のための安全性検討事項・研究課題(リサーチ・クエスチョン)の設定」17)が、またPMS部会・臨床評価部会からも「医薬品リスク管理計画(RMP)策定の手引き-暫定版(平成26年8月改訂版)-」28)が公表されている。
さらに当財団からは、RMP導入に際してのパブリックコメント募集に際して、平成23年10月25日付で「『医薬品リスク管理計画ガイダンス(案)』に対する意見と要望」29)として、欧米との調和にも留意した既存の各種制度の見直し等の要望を提出している。すなわち、現在のわが国の市販後安全対策は根本的な転換点に直面しているといえる。
わが国は世界でも数少ない継続的に新薬を世界に送り出すことのできる国の一つである。そして、欧米においても多くの新薬の承認を得てきた。現在わが国は、新成長戦略や健康・医療戦略,先駆けプロジェクト、ライフ・イノベーション等の各種施策により,日本発の革新的医薬品の創出,実用化を目指し、既にその成果が上がり始めている。その際、創薬とともに、世界で使われるようになった医薬品のベネフィット・リスク・プロファイルを常に責任を持ってアプデートし,適正使用に結びつける「育薬への貢献」の視点もわが国には必須である。
医薬品開発・審査から市販後安全対策に至るまでの諸規制がグローバル化し、企業活動もグローバル化する中で、本提言が、欧米と同様にわが国も科学的な安全対策への切り替えをすみやかに行うことにより、わが国が3極の一つとして、医薬品の開発・審査のみではなく、安全対策においても世界をリードできるようになるための一助となることを期待したい。

最後に、本提言はできるだけ平易な内容を心がけたが、そのため一部不正確な表現となっている可能性がある。当財団市販後・データサイエンスアドバイザリーグループ有志が執筆した「科学的な安全対策への転換をめざして(1)~(3)」本文1~3)を、是非ご一読頂きたい。

文献

1)市販後・データサイエンスアドバイザリーグループ有志.科学的な安全対策への転換をめざして(1).医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス.2014, 45(1), 4-9.
2)市販後・データサイエンスアドバイザリーグループ有志.科学的な安全対策への転換をめざして(2)―個別の有害事象が副作用になるまで―.医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス.2014, 45(2), 98-105.
3)市販後・データサイエンスアドバイザリーグループ有志.科学的な安全対策への転換をめざして(3).医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス.2014, 45(3), 172-179.
4)ICH Steering Committee.  Clinical Safety Data Management: Definitions and Standards for Expedited Reporting.  ICH Harmonised Tripartite Guideline. 1994

http://www.pmda.go.jp/ich/e/e2a_95_3_20e.pdf

5)厚生省薬務局審査課長.治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて.薬審第227号.平成7年3月20日.
6)厚生労働省医薬食品局安全対策課長.承認後の安全性情報の取扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準について.薬食安発0328 007号.平成17年3月28日.
7)厚生労働省医薬食品局審査管理課長.「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて.薬食審査発1228第7号.平成24年12月28日
8)Report of CIOMS Working Group VI.  Causality Criteria and Threshold Considerations for Inclusion of Safety Data in Development Core Safety Inforamtion (DCSI).  Management of Safety Information from Clinical Trials, Appendix 7, 275-277, 2005
9)久保田潔 監訳. 医薬品安全性監視入門―ファーマコビジランスの基本原理.  じほう, 2011
Waller, P.  An Introduction to Pharmacovigilance, 2010
10) Hill, AB.  The environment and disease: association or causation?. Proc R Soc Med. 1965, 58, 295-300.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1898525/

11) 小宮山靖, 酒井弘憲, 木村友美, 東浩, 照井佳子 監訳. くすりの安全性を科学する. サイエンティスト社, 2012.
Klepper, MJ. and Cobert B.  Drug Safety Data, 2011
12) European Medicines Agency.  Note for Guidance on Clinical Safety Data Management: Definitions and Standards for Expedited Reporting (CPMP/ICH/377/95)

http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/2009/09/WC500002749.pdf.

13) European Commission.  Communication from the Commission ? Detailed guidance on the collection, verification and presentation of adverse event/reaction reports arising from clinical trials on medicinal products for human use (‘CT-3’) (2011/C 172/01)

http://www.kme-nmec.si/Docu/ct-3.pdf

14) European Medicines Agency.  Good Pharmacovigilance Practices.

http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/regulation/document_

listing/document_listing_000345.jsp
15) Food and Drug Administration.  Investigational New Drug Safety Reporting Requirements for Human Drug and Biological Products and Safety Reporting Requirements for Bioavailability and Bioequivalence Studies in Humans (Final Rule).  FR 75(188), 59935-59963, 2010.

http://www.fda.gov/Drugs/DevelopmentApprovalProcess/HowDrugsareDevelopedandApproved/ApprovalApplications/InvestigationalNewDrugINDApplication/ucm226358.htm

16) 久保田潔. 日本と欧米での規制措置に見る安全性評価の違い. 第156回レギュラトリーサイエンス エキスパート研修会「科学的な安全対策への転換を目指して(その1)―製造販売後調査―」. 平成26年3月18日
17)日本製薬工業協会データサイエンス部会. 科学的な医薬品リスク管理計画(RMP)実践のための安全性検討事項・研究課題(リサーチ・クエスチョン)の設定. http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/research_question.html
18) 厚生労働省医薬食品局審査管理課長.新医療用医薬品の再審査申請に際し添付すべき資料について.薬食審査発1027004号.平成17年10月27日
19) 厚生労働省医薬食品局審査管理課長.新医療用医薬品の再審査申請に際し添付すべき資料の別紙様式3の変更について.薬食審査発0313007号.平成18年3月13日
20) 成川衛.医薬品の使用成績調査の実施状況及び意義に関する調査研究(アンケート調査に基づく考察). レギュラトリーサイエンス学会誌. 2014, 4 (1), 11-19
21) 斎藤一文字ら.新医薬品等の副作用集計データの検討-承認時迄と承認時以降の副作用発現症例率の比較.病院薬学. 1992, 18(5), 540-547

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs1975/18/5/18_5_540/_pdf

22) 後藤伸之ら. アンジオテンシン変換酵素阻害薬服用患者の咳発生頻度に及ぼす調査方法の影響.臨床薬理. 1996, 27(4), 725-730.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt1970/27/4/27_4_725/_pdf

23) Osaki, M. et al.  Beneficial effect of risedronate for preventing recurrent hip fracture in the elderly Japanese women.  Osteoporos Int. 2012, 23, 695-703.
24) 多田詠子ら. SS-MIXを基盤とした電子診療情報等の医薬品安全対策への活用. 薬剤疫学. 2013, 18(1), 23-29

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/18/1/18_23/_pdf

25) 厚生労働省医薬食品局安全対策課長・同審査管理課長.医薬品リスク管理計画指針について.薬食安発0411第1号、薬食審査発第0411第2号.平成24年4月11日
26) 厚生労働省医薬食品局審査管理課長・同安全対策課長.医薬品リスク管理計画の策定について.薬食審査発0426第2号、薬食安発0426第1号.平成24年4月26日
27) 久保田潔ら. 「日本における適正な安全性監視計画作成のためのタスクフォース」報告書 よりよい医薬品安全性監視計画作成とチェックリスト.薬剤疫学. 2014, 19(1), 57-74.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/19/1/19_57/_pdf

28) 日本製薬工業協会PMS部会・臨床評価部会.医薬品リスク管理計画(RMP)策定の手引き-暫定版(平成26年8月改訂版)-

http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/rmp.html

29) 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団.「医薬品リスク管理計画ガイダンス(案)」に対する意見と要望.平成23年10月25日http://www.pmrj.jp/teigen/PMRJ_comment_RMP.pdf

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