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特別号 「現場からの医療改革推進協議会」第三回シンポジウム抄録セッション1 現場からの医療改革のあゆみ

医療ガバナンス学会 (2008年11月7日 11:18)


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1 現場からの医療改革のあゆみ 10:15~11:00
1)医療改革のあゆみ
村重 直子(医師・官僚, 厚生労働省改革推進室)
2)医療改革とメディア
松村 有子(医師, 東大医科学研究所)
3)新しい医療サービス
久住 英二(医師, ナビタスクリニック立川 院長)
4)メディエーター
中村 芳彦(弁護士, 法政大学法科大学院 教授)
5)福島県立大野病院裁判
佐藤 章(医師, 福島県立医科大学産婦人科 教授)


1)医療改革のあゆみ
村重 直子(医師・官僚, 厚生労働省改革推進室)
2006年2月18日、福島県立大野病院の産婦人科医が逮捕されたことを契機に、医療事故への対応について、現場から議論が湧き起こり、社会現象とも言えるほどの国民的議論へと発展した。この議論を通して、抗議・声明文といった、他者への依存型から、一人一人が自ら情報収集し、判断し、行動するという、自律的な提案型へと変化した。さらに、徹底した情報共有や多様な意見の切磋琢磨を経て、提案の内容も進化してきた。足かけ3年に渡る議論の末、大きな進化を遂げた現場からの提案とは対照的に、医系技官発案の厚労省案は2007年3月の第1次試案から現在に至るまで、既定路線に縛られたままのようだ。厚労省案も、民意を反映した法案と国民に認められるよう、進化する必要があるのではないか。
一方で、医師養成数増加については、過去の閣議決定や「医療費亡国論」に代表される考え方に縛られた官僚に対し、舛添厚生労働大臣が国民の声を汲み上げてリーダーシップを発揮された。「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会等での議論を踏まえ、閣議決定の変更という、政府方針の大転換という形に結実した。医師養成数を増やせば医療に関する問題がすべて解決するわけではないが、歴史に残るマイルストーンとなることは間違いないだろう。
法治国家のルールは、ルールのために存在するのではなく、官僚組織の無謬性という幻を維持するために存在するのでもなく、国民の生活を守るために存在するはずだ。医療界で広まった”To err is human.(人は誰でも間違える)” という概念は、官にもあてはまることを、医系技官も含め国民一人一人が認識すべき時が来たのではないか。万能ではない官が与えたルールに、民が黙って従う時代は過ぎ、官が示したルールが国民の生活を脅かすものと認識されれば、民が自律的に”No”と言える時代になったのだろう。時代の変化とともに、政策立案過程が大きく変容しつつある。
※上記は、厚生労働省の公式見解ではなく、個人の見解です。
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2)医療改革とメディア
松村 有子(医師, 東大医科学研究所)
昨年までに引き続き、メディアが可能にした医療改革の実例を報告する。
そもそもマスメディアは、既に起こった出来事とその反響を扱うもので、医療改革に関しても読者が理解しにくい抽象的な議論や発案は記事になりにくい。しかし、医療改革は関係者が情報を共有しつつ徹底的に議論を行わねば進まない。以下の事例では、マスメディア以外の様々なメディアが医療者と社会の間の情報共有に重要な役割を担っている。このようなメディアが発達し、メディア同士が有機的に連携することで、国民の医療に関するリテラシーが向上することが期待できる。
1.丹波新聞と「県立柏原病院の小児科を守る会」
丹波新聞の足立智和記者が、柏原病院小児科の窮状を取材し続け、地元のお母さん達とも徹底的に情報交換した。その結果、お母さん達の市民運動が始まり、市民と小児科医の溝を埋める医療再生の解決策となった。最後の総括をいれる。
2.病院内設置フリーペーパー「ロハス・メディカル」が患者と医師をつなぐ
ロハス・メディカルは、病院の待ち時間に手にとれるフリーペーパーで、発行部数20万部。患者や家族の立場で知りたい病気や体調、医療制度に関する記事が正確にわかりやすく特集され、医療に関心の高い読者層を対象に、患者のリテラシーを向上させる役割を果たしている。
3.オンラインメディアと、福島県立大野病院事件、医療事故調論争
福島県立大野病院事件の裁判や、厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」における議論を、オンラインメディア(キャリアブレイン、ロハスメディカルブログ、So-net M3、日経メディカルオンライン)が紹介した。これらオンラインメディアは情報提供に加えて、業界メディアとしてアンケート調査発表などを企画し、双方向性の情報流通を担い業界内関係者の合意形成の役割も果たした。旧来なら事故調問題は厚労省案に検討会がお墨付きを与え、そのまま与党賛成で法案通過というプロセスを辿り、医療崩壊の決定打となったであろう。しかし、これらオンラインメディアを通じ、医療界の「風通し」が改善され、新しいガバナンスが芽生えつつある。
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3)新しい医療サービス
久住 英二(医師, ナビタスクリニック立川 院長)
生活動線にあり、会社帰りに寄れる「コラボクリニック新宿」は、2007年末で閉院しました。この社会実験により、生活動線上にあるクリニックおよび夜間診療へのニーズの存在が明らかになりました。この経験をふまえ、2008年6月にJR東日本立川駅エキュート立川内に「ナビタスクリニック立川」を開設しました。改札出てすぐの立地で、10時から21時まで診療しています。診療科は内科(血液内科、心療内科、トラベルクリニック)、小児科、皮膚科、女性内科です。
受診者数は1日100人程度です。時間帯別では17時以降が半数を占め、18-19時台がピークです。疾患は、風邪などの急性疾患が殆どですが、生活習慣病やうつ病、貧血などの慢性疾患の方も増えています。受診者を対象のアンケート調査では、「また受診しますか?」との問いに対して、99% がYESと回答しており、「遅くまで開いているから」、「会社や学校帰りに寄れるから」などの理由です。
当院のような診療形態のクリニックが対象とすべき疾患として、トラベルクリニックの経験は示唆に富みます。トラベルクリニックに、8-9月には月間70人を超える新患が受診し、200本弱のワクチン接種がおこなわれました。7月、8月、9月と売り上げは直線的に増加しています。ワクチンは需要の密度が低く、高価で有効期限が短いことから、一般の開業医では対応が困難でした。一方、国立国際医療センターや検疫所などは不便でした。当院は広範囲から電車で来やすいこと、会社や学校に影響せず夜間に接種が受けられることから、受診者が増えているのだと考えています。これは癌医療にも当てはまります。すでに私は血液腫瘍内科医として、癌患者の外来化学療法もおこなっています。今後は高度医療機関との連携を深め、夜間の外来化学療法など、新たな医療提供体制の実現可能性を模索していきたいと思っています。
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4)メディエーター
中村 芳彦(弁護士, 法政大学法科大学院 教授)
医療の質と安全を向上させていくためには、患者と医療者の信頼関係を築き上げていくことが極めて重要である。そして、そのためには、患者と医療者の間を真摯につないでいく役割を担う人材が強く求められている。
院内医療メディエーターは、患者のための医療の一環として、医療事故発生時などに、患者のニーズに誠実に応答し、医療機関との対話の高度な専門技法と倫理性を備えた人材を意味する。その役割は、事故などについての事実認定や評価・判断や解決案提示は一切行わずに、自らの専門技法による患者・医療者間の対話・情報開示促進や関係修復機能を発揮していくことにある。そして、メディエーションは、医療事故だけでなく、医療の多様な現場、すなわち、インフォームド・コンセント、終末期、日常診療など多様な場面で適用可能なものである。これまで、日本医療機能評価機構では、こうした人材養成事業を2004年から開始し、その研修を受けた人々が年々増加してきている。
このような中で、日本医療メディエーター協会(理事長 高久史麿 自治医科大学学長)は、院内でこうした医療メディエーターとしての役割を担う人材育成と、その質の保証と向上を目指して2008年3月発足した。同協会は、医療コンフリクト・マネージメントセミナーを各地で開催し、様々な病院関係者がこれに参加し、2008年だけで、既に1000名近くがこうした研修を受けている。そして、現在、北海道から沖縄まで、各地で地域部会体制を作り、その拡充を図るべく支部ごとに様々な活動に取り組み始めている。また、国際的な意見交換のための国際連携活動や、一般市民・患者向けの連携活動にも尽力していくことで活動を開始している。
医療全体の質の向上や信頼回復にとって、院内医療メディエーターの育成、普及、その相互研鑽をさらに図っていくための努力や工夫が不可欠かつ急務であり、今後、さらに地域ごとの展開、病院団体での展開、個別病院での展開など様々な普及・展開が試みられる必要がある。
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5)福島県立大野病院事件 裁判
佐藤 章 (医師, 福島県立医科大学産婦人科 教授)
2006年2月の逮捕から2008年8月に第一審無罪判決、9月に検察が控訴せず無罪が確定するまで、長かったです。無罪が確定してほっといたしました。加藤医師も漸く地域の産科医療に復帰することができました。色々な意味でご支援いただいた皆様方にこの場を借りてお礼申し上げます。
しかし、これで大野病院事件が終わったわけではありません。課題は色々あります。
ご遺族に対する説明や対応についても、今回病院や県がご遺族にとった対応が明かになりましたが、問題点が多かったと思います。
何よりも、産科医療の中でどうすれば癒着胎盤を事前に診断できるようになるか等、リスクの高い産科医療をより安全に行うための方策は、事件を教訓としながら、専門家として我々がなすべき仕事だと考えています。
加えて、この事件を機に、医療事故調査のあり方についても色々考えされられました。私はこのような医療事故の調査は、行政が行ってもうまくいかないと思います。医師が自浄作用を働かせる仕組みの必要性を痛感しました。遺族の補償を行うために作成された「県立大野病院医療事故調査委員会報告書」の一通が、警察が動いたきっかけになり、医学的な事実究明を歪めた可能性を十分に検討しなければならないと思っています。
もう一点、裁判が終わった時点で、私がやりたいと思っていたことを始めることができましたので、ここでご報告させていただきたいと思います。それは、周産期医療の崩壊をくい止める会の『福島県立大野病院事件を無駄にしないために
――妊産婦死亡した方のご家族を支える募金活動』です。刑事裁判の最中でも、一方的に「加藤君は悪くない」ではなくて、「医療の力が及ばず亡くなられたことは残念だ」とずっと言ってきました。医師が一生懸命にミスなく医療をしても亡くなることはある、その現実を分かってほしいと言い続けてきました。そしてそういう不幸なことが起きた時には医療者も悲しいし、自分たちにできることはしたいと思っています。医療には限界があるという現実と、我々医療者もご遺族に寄り添いたいという気持ちを、百万言を費やすより行動で示すべきだと思っていました。しかし刑事裁判の間は迂闊な行動もできなかったのですが、幸い一審だけで決着がついたので、今回の活動を始めることにしました。来年から始まる産科無過失補償が、脳性まひの新生児対象で、妊産婦死亡した方は救済の網から漏れてしまうことも産科医の間で問題意識がありました。ご遺族は悲しみと共に乳児を抱えて大変なご苦労なさっています。まさに大野病院事件も妊産婦の亡くなった事例でした。その方々に救済の網がかかるまで何年かかるかも分からない。だったら自分たちでやってみよう、と思いました。モデルとしてイメージしたのは、交通遺児に対する支援活動です。
医師が一生懸命ミス無く医療を行っても、助けられない現実がある。それを医師にミスがあったかどうか、という次元に留まっていては、第二第三の大野病院事件が必ず発生してしまいます。ですから、私はこの周産期医療の崩壊をくい止める会では、その先の次元に進むことができるような活動をしたいと思いました。この活動が良い活動だと思っていただけたら、そういった方々にも広く支援をお願いしたいと思います。それからメディアにも協力していただいて粘り強く広報活動を続けたいと思います。ある程度、我々が頑張って成果を出してみせれば、この活動を種に制度が追い付いてくるという可能性は十分あると思っていますし、そうなるよう政治家の方々にもご協力いただければと思います。

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