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Vol.245 エナジードリンクを飲む前に、知っておくべき7カ条

医療ガバナンス学会 (2014年10月24日 06:00)


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この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20141016/1060848/?n_cid=nbptrn_leaf_back

内科医師
大西睦子

2014年10月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
疲れがたまっているとき、あとひと頑張りしたいとき、眠いとき……“エナジードリンク”をグイッと飲むことはありませんか? そんなエナジードリンクについて、今、米国では議論が起きているようです。今回はそんなエナジードリンクについて解説します。

レッドブルが訴えられた!?
日本でも「翼をさずける」というキャンペーンで人気の「レッドブル」。宣伝から伝わるパフォーマンスや集中力、瞬発力の向上などの効果を期待し、値段は高めでも、利用するビジネスパーソンは多いのではないでしょうか?
ところが、実際にはそのような効果はないなどの理由から、米国で集団訴訟が起こりました。
結果、米国在住で、2002年1月1日から2014年10月3日の間にレッドブルの製品を購入した人は、現金10ドル、あるいは15ドル相当のレッドブル製品を受け取るということで和解しました。申し込みの期限は2015年3月2日です。ただし上限が約1300万ドルで、すでに希望者が殺到しているため、実際の1人あたりの返金率はかなり少なくなると思います。

■参考文献
The Atlantic「Red Bull Is Just Soda」http://www.theatlantic.com/health/archive/2014/10/red-bull-sad-soda/381276/
The Washington Post「It may already be too late to get your $10 Red Bull settlement」http://www.washingtonpost.com/news/morning-mix/wp/2014/10/10/it-may-already-be-too-late-to-get-your-10-red-bull-settlement/
Red Bull Settlement http://www.energydrinksettlement.com/court

大手飲料市場の売り上げの49%!
エナジードリンクは、米国では1980年代後半に登場しました。2006年には約200もの新ブランドが市場に投入され、年間50億ドルもの収益をもたらすようになりました。現在、エナジードリンクは米国の大手飲料市場の売り上げの約49%を占めています。
市場調査では、米国の10代の若者において、2003~2008年にエナジードリンク消費量が16%増加し、10代の若者のうち35%は定期的にエナジードリンクを飲んでいます。エナジードリンクのメーカーはさまざまなスポーツチームのスポンサーにもなっており、消費者は男子学生が多いようです。最近はさらに、女性をはじめターゲットを広げた新しい戦略が考えられています。
エナジードリンクを飲む理由としては、「睡眠が不十分」「エネルギーが必要」そして「アルコールと混合したいため」という答えでした。
世界を見渡すと、同じブランド・商品銘柄のエナジードリンクでも、各国間で成分に違いがあります。ただ調査によれば、ほとんどのエナジードリンクにカフェイン、ガラナ、タウリン、朝鮮人参、糖類、ビタミンB群などの成分が、基本的には同じように含まれています。

この成分について、1つずつ、詳しく見ていきましょう。

【成分1:カフェイン】アスリートの死亡原因にもなり得る!?

米食品医薬品局(US Food and Drug Administration;FDA)は、コーラなどの飲料に含まれるカフェインの量を規制していますが、カフェインそのものは、法的に禁止や制限された薬物ではなく、一般的には安全と認められる物質です。レッドブルは1缶(250ml)あたり80mgのカフェインが含まれています。最近、米国で大人気のエナジードリンク、5 Hour Energyは、1缶(60ml)当たり200mgのカフェインが含まれています。ちなみに、コーヒーカップ1杯で約80~120mg、紅茶カップ1杯で約50mg、コーラ350ml 1本で35mgのカフェインを含むとされます。

■参考文献
Caffeine Informer「Caffeine Content of Drinks」 http://pedsinreview.aappublications.org/content/34/2/55

カフェインは、脳神経系に作用します。

適度な量のカフェイン摂取は、エネルギーの増加、身体能力の向上、疲労減少、瞬発性の向上、認知機能の強化、集中力と短期記憶の向上につながるという研究報告があります。
一方で、カフェインの摂取とその減量や中止による、さまざまな健康への影響が懸念されています。神経過敏、不安、精神錯乱、手足の震え、骨粗しょう症、消化器系の問題、吐き気、不眠、眠気、頻尿、頭痛、動悸、不整脈、および高血圧などの症状が表れたり、学齢期の子どもたちの場合、1日あたり120mgから145mgのカフェインを2週間摂取すると、禁断症状が表れることも報告されています。
またカフェインの過剰摂取(使用)によって生じる心血管系への影響は、アスリートの死亡原因にもなっています。カフェインの値が高い場合、十分な水分補給がないと、カフェインの利尿効果により脱水症状を誘発します。
ある研究では、米国における高校生の95%が、カフェインを摂取していることが明らかになりました。そのほとんどは炭酸飲料からの摂取です。カフェインを摂取している若者は、摂取していない若者よりも、日々の不安が悪化しているという報告もあります。

日本でも2011年に、食品安全委員会(内閣府)が海外のリスク管理機関等の状況をまとめ、悪影響のない最大カフェイン摂取量を、以下のように設定しています。

■参考文献
内閣府・食品安全委員会「食品中のカフェイン」

http://expres.umin.jp/mric/mric20141024.pdf

人気のカフェインとアルコールとの混合は危険?
アルコールを繰り返し飲んでいると効果が減少して酔いにくくなり、やがて耐性につながるのと同様に、カフェインにも耐性があります。そしてアルコールとカフェインを一緒に摂取すると、カフェイン単独あるいはアルコール単独を摂取するよりも、さらに耐性を強めます。
つまりアルコール入りのエナジードリンクや、エナジードリンクとアルコールを混ぜたカクテルは、若者の健康に害を及ぼし、乱用の危険にもつながるのです。
ノースカロライナ州にある10大学の最近の調査では、大学生の4分の1は、過去1カ月間に、アルコールとエナジードリンクを自分たちで混ぜて作ったカクテルを飲んでいました。アルコールをエナジードリンクに混ぜたカクテルは、実際のアルコール摂取量に対して酔っている感じがしない(酔いが弱く感じる)のですが、多くの若者はこれを意識していません。研究者は、市販されているとある人気のアルコール入りエナジードリンクを1缶飲むことは、ワインのボトル1本あるいはビール6缶と、5杯ものコーヒーを一緒に飲むのと同じ影響があると説明しています。
実際、2010年にはワシントン州の大学生9人が、フルーツ味のアルコール入りエナジードリンクが原因で入院、1人は命に関わる危険な状態でした。その1カ月前にも、ニュージャージー州の大学構内で、23人の学生が同じもの飲んで、酔って入院しました。以来、両大学はこのアルコール入りエナジードリンクを禁止しています。この騒動があってから間もなく、ワシントン州ルブ・マッケナ司法長官が、「アルコール入りエナジードリンクの販売に終止符を打つべきです。メーカーは今、こうしたドリンクをフルーツ味にして、アルコールの影響を分かりにくくし、若者たちに販売しているのです。若者たちは、どのくらい酔うか分からないままに、強い刺激物質を摂取することになります」と指摘しました。

これまでにFDAは、少なくともメーカーの1社に、アルコールとカフェインが混成しているときの安全上の懸念について、強く警告しています。

【成分2:ガラナ】ドリンクのカフェイン含有量に表示されない!?

南米の植物で「ブラジルのココア」としても知られるガラナには、カフェインの一種であるguaranineと呼ばれる物質が含まれ、ガラナ1gはカフェイン40mgに相当します。
ところが栄養ドリンクのカフェイン含有量の表示には、通常ガラナは考慮されていません。だからガラナ入りのエナジードリンクには、より多いカフェインが含まれていると認識しなければなりません。

【成分3:タウリン】害は限られているがアルコール消費を助長?

タウリンは、エナジードリンクの中で最も一般的な成分の1つです。私たち人間の体は、他のアミノ酸から独自にタウリンを合成できます。また、タウリンは肉、魚介類、牛乳中に存在し、私たちの健康に有益な効果がされています。
ただし、タウリンの効果のほとんどは、タウリン単独ではなく、カフェインや他の物質と混合されて発揮します。エナジードリンクの定期的な摂取によって消費されるタウリンの量は、普通の食事から摂取するタウリンの量(1日あたり40~400mg)を超えますが、タウリンの過剰な摂取による害は限られています。

ただしタウリンはアルコールの悪い影響を抑えることが示唆されており、それがアルコールの消費を助長しかねません。

【成分4:朝鮮人参】実は有害性も

朝鮮人参は、運動パフォーマンスの向上、免疫系の刺激や気分の向上に効果があると言われていますが、不眠症、動悸、頻脈、高血圧、むくみ、頭痛、めまい、躁病あるいはエストロゲン様作用などの有害性も報告されています。
注意したいのは多くのエナジードリンクには、治療用量(100~200mg/日)ほどには朝鮮人参は含まれていないこと。最低治療用量を得るためには、エナジードリンクを2~4本摂取しなければならず、そうなるとほかの成分は摂りすぎということになります。

【エナジードリンク成分5】その他の添加剤

その他の添加剤(例えば、ビタミンB群やカルニチンなど)にも、さまざまな効果が噂されていますが、 今の段階では十分な科学的証拠を欠いています。それらを少量あるいは大量、さらに長期に摂取することが人体にどのような影響があるかは、分かっていないのです。

エナジードリンクを飲む前に、知っておくべきこと
[1]エナジードリンク市場規模や展望を理解し、どのエナジードリンク(ブランド)が人気があるのかを認識する
[2]10代の若者が、パフォーマンスの向上のために、エナジードリンクを多く消費していることを認識する
[3]エナジードリンクの成分を知って、それらの健康に対する懸念を理解する
[4]エナジードリンクは、若者の肥満や高血圧、頻脈を引き起こす可能性があることを理解する
[5]アルコールとエナジードリンクを混ぜたカクテルの危険性を知る
[6]アルコール耐性/依存と、カフェイン耐性/依存の関係を理解する
[7]若者のエナジードリンク消費の調査や、適切なカウンセリングの実施が重要であることを理解する

眠気を覚まし、ビタミンやミネラル、その他の成分が強化されたエナジードリンクは、パフォーマンスを向上させたいときには確かに一見魅力的です。ただし、こうしたエナジードリンクが、カフェインや人体への影響がはっきりしない添加物を摂り過ぎる結果を招くであろうことも、よく念頭に置き、飲みすぎないよう慎重になるべきですよね。

何より、エナジードリンクに頼る前に、基本に立ち返り、健康に良い食べ物を食べ、適度な睡眠をとったほうが、エネルギーを獲得するのにいい方法だと思いませんか?

大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。

 

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