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Vol.246 なぜもめる医療事故報告制度

医療ガバナンス学会 (2014年10月27日 06:00)


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医療制度研究会理事長
中澤堅次

2014年10月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


医療事故調査制度は、医療介護関係18法案一括審議のひとつとして軽く扱われ、ごまかしともとれる内容を含みながら、報告義務化と第三者機関設置を基本に法令化された。ガイドライン作成の過程に入り、制度の根幹ともいえる報告基準具体化の段階で、議論が別れもめている。この法案が出来る前の「医療事故調査の仕組みのあり方に関する検討部会」で原案審議に関わった一人として感想を述べる。

一言に言えば、この問題は、現在考えられている制度の枠組みに矛盾があり、それが報告基準に影響し、世の常識や法令に抵触してしまっていることであり、もう少し突っ込めば、医療事故という高度に個別的な案件すべてに、公的な視点で介入し、責任問題に利用できる原因分析を行う第三者機関を設置するという、古い誤った日本的な問題解決手法に起因するものだと考える。

医療は患者と医療者という一対一の関係で行われる、きわめて個別的なサービスである。患者の守秘義務が、ヒポクラテスの時代から一貫して、基本理念の重要な位置を占めていることから見ても、その重要性を疑う者はいない。また安全学的には複雑系のシステムと言われ、医療において事故はつきものであり、その範囲は広いが、患者個人と医療機関との間で個別に解決すべき問題が多く、またそれが可能なことも少なくない。医療側にはインフォームドコンセント、被害を最小限に食い止める努力、院内調査による詳細報告、責任が明らかであれば、謝罪と補償、再発防止など、事故被害者の思いに応える努力が出来るからである。

センターは第三者機関という性質上、現場から距離を置いており、報告がなければ直接事実を把握できないという難点がある。また、遅れて介入する性格上、死亡という結果に最初から結果悪しという先入観を持ちやすい。現場から見ると、補償に責任は持たず、再発防止の改善に直接責任はなく、第三者機関による調査は公の利益から見た善悪の判断にならざるを得ないと感じる。目的も、判断の基準も、調査の結果も、現場の認識とは異なる可能性が高く、センターへの報告義務は、最初から猜疑心を持って迎えられている。
守秘義務を基本とする一対一の問題解決に、公開を手段とする第三者機関、医療事故調査・支援センターが関わることにより、物事は複雑になり、多くの矛盾が生じる。その一つが調査支援センターへの報告基準である。

第三者機関は、医療事故の発生を自らつかむことが出来ず、何もしなければ介入できないという、第三者特有の難点がある。介入の機会を確保するためには、医療側に対し報告を上げさせる仕組みが必要で、新事故調法は、再発防止という誰も反対できない目的を掲げ、全例報告義務を課す仕組みによりこの難点を補おうとしている。センターには、他にも院内調査に納得しない当事者からの要請を受ける形の介入ルートを持っており、これにも問題があるが今回は触れない。

純粋に再発防止の改善が目的であれば、全例報告義務であっても問題はない。現在稼働している医療機能評価機構の役割がそれであり、全国の医療現場において共通する問題、例えば薬品のネーミングや医療器具の規格変更など、個別要素の少ない分野ではそれなりの意味があり、電子カルテの規格化などは中央機関が責任を持って指導すれば、有意義な方向性が期待できる。これは安全面での現場支援となり、公正に行われれば存続することが望ましい。全例報告義務があれば質の良い情報を共有することが出来る。

しかし、問題は再発防止で強制力を持って集めたケースを調査し、善悪の判定を行うセンターの性格で、これが同一の機関で行われると、必ず報告基準の論争が発生し、疑いをかけられるのを恐れ、改善手法の根幹である、誤りに学ぶ安全管理システムに支障をきたす。出自のはっきりしない第三者機関が作動するために作られた調査の仕組みは、結果的には、再発防止の名目で個人情報を集め、目的がはっきりしない原因分析を行い、最終的に法的手続きの証拠として結果の流用を許すという。個人情報の目的外使用、ふりこめ詐欺まがいの報告制度になってしまう。ちなみに、厚労省の見解は、調査の目的は原因究明だが、調査により判明した事実は客観的事実として訴訟など法的手続きの証拠に使用することを妨げないとしており、この見解は昔も今も変わっていない。これは、再発防止と責任問題という、二つの相反する目的を持った第三者機関が抱える矛盾である。

一つの機関に調査と責任追及を組み合わせる仕組みは、封建時代に権力者が、禁制に違反する事件に対し、調査も判決も一手に行ったのと構造が似ている。医療事故調査・支援センターは、日本医療機能評価機構と日本医療事故調査機構の統合を目指しているといわれるが、統合された暁には、名実ともに現場安全にとって互いに逆行する二つの権限を併せ持つ、避けるべき調査機関になることが一層明確になる。

話は飛ぶが、いま現場では報告の範囲に管理による過誤の事例を入れるかどうかで議論が起きている。管理が何を指すか明らかではないが、介護施設における転倒転落などによる死に対する報告を求めているふしがある。原因を分析すれば個人の責任で監視が不十分ということになり、責任だけが追及される恐れを感じてしまう。この事態を完璧に防止するためには、24時間、肢体不自由の入所者一人一人に監視を付けるしかない。それを怠った施設の責任は追及の対象になる。これもやはり不祥事としてお上が、現場を支援することなく取り締まるという、安全対策とは無縁な体制管理のにおいがのこる。第三者機関が純粋に再発防止に責任を持ち調査にあたるのならば、介護の人材不足を時の政府が責任を持って支援するような結論になるかもしれないが、今回の、吹けば飛ぶような法案の扱いでそこまで覚悟があるはずはない。やはり、第三者機関は監視のために現場を取り締まるだけが役割と考えられ、今後もこの問題は残るだろう。

報告基準は第三者機関の性格により作られるものであり、現在の法案で想定しているセンターの役割では、無理を押しての報告制度となり、誰が行っても報告基準に納得行く答えは出ない。事故被害者の思いに応える院内調査の充実は医療者にとって喫緊の課題だが、施行半年後に予定されている見直しでは、現在の形の第三者機関の存続か否かは重大な論点として、今から議論するべきである。

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