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特別号 「現場からの医療改革推進協議会」第三回シンポジウム抄録セッション3 薬事改革

医療ガバナンス学会 (2008年11月1日 11:23)


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   医療再生を目指して 患者と医療者の信頼関係再構築
11月8日(土)
3)薬事改革 14:15~16:00
近藤 達也(医師, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 理事長)
小野 俊介(薬剤師, 東京大学大学院薬学系研究科 医薬品評価科学 准教授)
堀  明子(医師, 帝京大学腫瘍内科 講師)
山口 拓洋(統計家, 東京大学医学部附属病院 臨床試験データ管理学講座 特任准教授)
細田 雅人(創薬, インタープロテイン 代表取締役社長)
指定発言:寺野 彰(医師・弁護士, 獨協大学 理事長)



PMDAをレギュラトリー・サイエンスの梁山泊に
近藤 達也(医師, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 理事長)
私は、本年4月に、医師として始めて我が国規制当局の一つであるPMDAのトップに就任した。
以後7か月が経過し、この間、非常に興味深い経験をさせていただき、私の知的好奇心は大いに刺激されたが、今、一番痛切に感じているのは、我が国に、レギュラトリー・サイエンスをしっかりと根付かせることが、医療技術の向上に伴う様々な恩恵を、国民が迅速に享受する上で、極めて重要であるということである。
そのために、PMDAができることは大きい。私は、PMDAを、レギュラトリー・サイエンスのプロを志す有為の人材が集まる、梁山泊のような組織にしたいと思っている。そのための努力は、絶対に惜しまないつもりである。
そしてここで一番大切なのは、このPMDAで経験を積んだ人材が、我が組織の中核的人材として活躍してもらえるだけではなく、むしろ、(本日の私以外の3人の先生方のように)PMDAでの経験を生かして、積極的に臨床研究の現場、あるいは学問研究の現場に羽ばたいていかれて、我が国の臨床研究の水準の向上に貢献されるということだ。そのような状況をできるだけ速やかに作り出していきたい。その人材が、またPMDAに戻ってきていただけるような人材の流動化が図れれば、規制当局、臨床研究の現場双方にとっても大きなメリットがある。それは、取りも直さず、国民の利益に繋がるということでもある。
薬事規制というのは、これまでは少なくとも「性悪説」の立場から捉えられてきたと理解している。これは、過去の歴史、経験を踏まえれば、残念ながらやむを得ない面もある。
ただ、PMDAで経験を積んだ数多くの人材が、臨床研究の現場で広く活躍するような状況が生まれれば、そのときはじめて、薬事規制というものを、「性善説」の立場から捉えられるようになることもあるのではないかと思っている。もちろん、必要な規制はしっかりと行っていかなければいけないが、そういう理想
を追い求めていきたいと、私は思っている。
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「真剣にやろうよ」当事者意識なき薬事改革論議
小野俊介(薬剤師, 東京大学大学院薬学系研究科 医薬品評価科学 准教授)
医薬品規制をめぐる論議が盛んだが、多くは「規制は何を目的とするのか」という根本的な問題意識を欠いた、無責任極まりないものである。当局からの提案は、公務員組織の拡大を制度改善と同義と捉えているとしか思えない前時代的なものだ。アカデミアからの一見立派な提案は、欧米の仕組みを真似ただけのハリボテだ。普段は鼻息が荒い産業界はこの議論からは逃げ腰で、何ら実のある提案をしない。
しかし真に深刻な病状をさらけ出しているのは、実は、これらの無責任な提案を何十年間も許し続けている我々自身である。「この国ではなぜ薬害が繰り返されるのか?」と国会やお役所に叫び続ければ問題が解決すると何十年間も夢想し続けている我々自身である。
現在進行中の薬害再発防止委員会でも、ご立派な理念やあるべき姿を報告書や議事録に残すことが任務だという姿勢が垣間見られる。「再発防止策は、我々の知恵を盛り込んだこの報告書に書いてある。『誰か』がこれに従えばよい。うまくいかなければその『誰か』のせいだ」という他人任せの無責任さが透けて見える。中間報告書作成時には、医薬品のリスクベネフィット評価の基本姿勢の書き方にこだわり、「修正して立派になった」と悦に入っていた委員がいたが、そんなものは薬効評価の教科書にはずっと立派に書いてある。(教科書の著者は薬害に与した学者や役人かもしれぬ。)あるべき基本姿勢を知らずに医薬品行政に携わる者などいない。「知っているのにできない」ことが問題なのである。
一方で安全性部門300人増員は、「300人が一体誰で、どこで、どう働くのか」を問う声一つ無いまま、報告書の目玉として記載された。驚いたことに、300人が当面PMDAで働くことすら確認されなかった。これでは「あんたら、再発防止策を真剣に考えてんのか?」と叱責されて当然である。
結論:真剣にやろう。当事者意識を持とう。行政を論じる時は、あなたも役人になってみよう。
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堀  明子(医師, 帝京大学腫瘍内科 講師)
新薬に関する最近の議論の中心は、開発・治験の促進、審査の迅速化、ドラッグラグの短縮といった、「新薬のメリットを如何に早く手にするか」といった観点の議論であった。しかし、現在は、「如何にして安全性のリスクをコントロールするか」、すなわち、どのようなリスクマネージメント(日本風にいうと安全対策)が望ましいかといった、次の段階の議論に世界的にシフトしつつある。
理由として、新薬の開発や販売がグローバル化していること、また、通信手段の進歩の結果、国境を越えた速やかな情報流通が可能となったことにより、発生した安全性上の問題に対しての、迅速かつ適切な世界同時対応が求められる時代となったことがあろう。
また、具体的な「薬害」の発生も引き金となる。米国ではCOX2阻害剤と心血管系リスクの関係や、SSRIと自殺の関係の問題が、日本では(最近では)薬害肝炎が該当するであろう。なお、「薬害」とは、明確な定義がある言葉ではないため、本発表では、安全性上の問題を早期に発見、対応、情報公開できずに、健康被害として拡大し、社会問題化することを「薬害」と表現する。
現在の日本では、欧米とは比較にならないほどの少人数の職員で、欧米と同等の安全対策業務を行っている。したがって、より良い安全対策のためには、「規制当局」の職員数を増やすことは必要不可欠であり、そこに疑いの余地はない。しかし、単に「規制当局」の組織の人数枠を増やすだけでは不十分だ。今後、海外に遅れることなく、かつ、日本に適した方法で安全対策機能を充実させるには、誰が、何を、どのようにしたらよいか?
本発表では、上記の状況をより詳細に解説し、(1)PMDAが審査・開発段階からの安全対策として行ってきた最近の実例・取り組み、(2)現在日本で行われている、薬害肝炎を契機とした医薬品行政の見直しをめぐる状況、(3)米国でFDA Amendment Actを受けて変わろうとしている安全対策の状況などを御紹介すると共に、(4)日本において安全対策機能を充実し、安全性上の問題や副作用を「薬害」としないためにはどうしたらよいかについて考えてみたい。
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医薬品等の安全性確保のためのデータベースの利用
山口拓洋(東京大学大学院医学系研究科臨床試験データ管理学)
2006年1月に総務省IT戦略本部より「IT改革戦略」が発表され、医療分野においては、診療報酬請求(レセプト)の完全オンライン化の実現、さらに、厚生労働省によるレセプトデータの学術的・疫学的利用の推進が謳われている。一方、2008年6月に厚生労働省医薬食品局に「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が設置され、レセプトデータの医薬品等の安全性確保への有効利用が議論に挙がっている。電子化されるレセプトには、患者の性、年齢、医療機関(薬局)コード、レセプト原本に記載された全傷病コード、全診療行為コード、調剤日及び全ての薬剤コード(調剤レセプト)が含まれており、これらがナショナルデータベース化されれば、全世界で最大の薬剤使用に関するデータベースが構築されることになる。既に欧米には、保険請求などの大規模なデータベースが何十も存在し、医薬品の使用状況、副作用なども含めた患者の健康状態などがデータ化されており、市販後の医薬品に安全性対策に重要な役割を果たしている。日本にも、例えば、医薬品医療機器総合機構に自発報告に関するデータベースが存在するが、有効かつ効率的な使用にはまだ道のりは長く、また、自発報告制度のみでは医薬品の安全性確保、特に、未知・重篤な副作用の検証には限界がある。このような背景のもとで、今回のレセプトデータのナショナルデータベース化は日本国民にとって重要な意味合いを持つものである。本発表では、レセプトデータを中心に医薬品等の安全性確保のためのデータベースの利用可能性について言及する。
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創薬から見た薬事改革
細田 雅人(創薬, インタープロテイン 代表取締役社長)
治験空洞化が云われ久しい。また薬害問題もメディアの報道により、国民に周知されている。治験空洞化では、薬事行政への批判が長年続いていたが、現在のPMDAを米国FDAと比較すると、要員数などの課題は存在するもののシステムや行政対応としては遜色ないところまで改革が進んでいる。薬害問題は、生物製剤使用後の肝炎にフォーカスされているが、メルク社のバイオックスの薬害問題等、現在も続く訴訟問題を契機に社会の様相は大きく変わったことにも気がつく。すなわち製薬企業サイドは、薬害問題を踏まえ、創薬に極めて慎重になった。特にメカニズムや標的の生理的機能が不明解な創薬には手を出しにくくなっている。では、難病で苦しみ、新薬を期待している患者さんは創薬活動に委縮がある現状をどう受け止めているのか。もし全ての製薬企業が、新たな標的での創薬、すなわちFirst in Classを追い求めず、常に二番手、三番手で手ぐすね引いてBest in Classを求め出したとするなら患者さんは救われないと言わざるを得ない。創薬は、病気に苦しむ患者さんのためにのみ必要な企業と行政が一体になった活動である。冒頭述べた、PMDAのシステムの成熟方向をさらに行動レベルで向上させるためには、創薬と言う、一見、複雑で多段階的な仕事を俯瞰できるエキスパート或いは、個々のステージに精通したエキスパートの多数の参画が必要である。一方で国内においても製薬企業同士のM&A、それに伴う組織の最適化のための社員数圧縮、早期退職の奨励により優秀な人材が活躍の場を求めている。これらの人材の一部は製薬企業出身のエキスパートとしてPMDAに採用され、他の一部はバイオテックに参画している。また治験を実施する医療機関においても治験のエキスパートが登用されつつある。薬事改革のキーワードの一つは、社会のコンセンサスを取りながらのエキスパートの登用、活用にある。

 
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