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特別号 「現場からの医療改革推進協議会」第三回シンポジウム抄録セッション2 コメディカル問題

医療ガバナンス学会 (2008年10月31日 11:24)


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    医療再生を目指して 患者と医療者の信頼関係再構築
11月8日(土)
2)コメディカル問題 11:10~13:00
福原 麻希(ジャーナリスト)
児玉 有子(看護師, 東大医科学研究所)
早坂 由美子 (ソーシャルワーカー, 北里大学病院患者支援センター部)
<総合討論>
黒岩 祐治(ジャーナリスト, フジテレビ)
嘉山 孝正(医師, 山形大学 医学部長)
誌上発表
安部 能成(作業療法士, 千葉県がんセンター)

 


●コメディカル不足
福原 麻希(ジャーナリスト)
2003年から、私は病院内で働くコメディカルを集中的に取材しています。きっかけは、患者さんの取材に行くたびに「体もつらいが、心もつらい」「病気について悩んでいるが、どこに相談すればいいかわからない」という話を聞いていたからです。患者は診察室で目の前にいる医師に訴えますが、医療現場はあまりにも多忙ですべてをサポートできません。でも、コメディカルで対応できることは多くあります。そこで、コメディカル(ソーシャルワーカー、がん看護専門看護師、薬剤師、放射線技師、細胞検査士、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床試験コーディネーター、心理士、リンパドレナージセラピスト、音楽療法士、医療コーディネーター、遺伝カウンセラー、フェイシャルセラピスト)の仕事内容を詳細に聞き取り、機会あるごとに本や記事でその人物像とともに紹介してきました。また、患者側にもたびたび取材し、コメディカルのもたらす効果やその必要性について確認しています。
取材をするたびに、それぞれの職種の専門知識の深さ・技術の高さには驚くことばかりで、いまでは「コメディカルの働きこそが医療の質、ひいては病院の質を向上させる」と確信しています。ところが、実際の臨床現場では、▽病院にコメディカルが足りない、人員配置が手薄である、▽人材がいてもうまく活用できていない、▽経営者や医師がそのスキルやキャリアを評価していない、などが起こっています。それは多くの医療関係者が、コメディカルの仕事内容を漠然とイメージできても、「どんなときに、だれに引継ぎすれば患者のニーズに応えられるか、本当はよく知らない」と答えていることが原因でしょう。
私は「治療や闘病で困ったときは、コメディカルに相談しよう!」と言える社会づくりを提案します。さらに、近年、医療がより専門化したこと、「患者中心の医療」を実現するため多くの病院でチーム医療が導入されたことから、「診療現場で患者と医師をつなぐ」「闘病中の患者の心のケアをサポートする」という役割の人を増やすことが、医療現場で医師の疲弊を緩和させ、医師不足を解消する方策になりうるとも考えます。
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●現場からの看護学改革
児玉 有子(看護師, 東大医科学研究所)
看護職が取り組まなくてはいけない問題に、医療機関での雇用数増加と、キャリアパスの改善があります。
「雇用数の増加」
今の日本の制度下では、病床あたりの看護師配置基準に応じた診療報酬のみが病院の収入です。したがって、基準以上に雇用しても人数に見合う収入が見込めないため、最低限の人数しか雇用されていません。この解決策には、病床あたりの看護師配置基準を引き上げることも考えられます。しかし、「現場の仕事量と人的資源を考慮し、現場レベルの管理職者にその配置を任せる。」という看護師配置の世界的なコンセンサスに沿うのであれば、ある基準で画一的に統制されるのではなく、現場の判断で雇用数を増やせるような制度への抜本的な改革が必要と考えます。 さらに現在の制度下では、常勤(=3交代が可能な人)という条件があるため、看護師不足を助長しています。この問題の解決には、短時間正社員制の導入により雇用を増やすことも解決策の一つになると考えます。
もちろん、雇用の増加は病床あたりの看護師数の増加につながります。看護師の病床への重点配置は医療安全の確保に必須の条件です。
「知識、技術のアップデートが可能な環境-キャリアパス」
今回のセッションを行うにあたり、看護職へのインターネットを通してアンケートを実施しました。寄せられた意見の中で特にお伝えしたいことは、「もっと勉強したい」という願いが受け入れられずにベッドサイドを離れようとしている優秀な看護師がたくさんいることです。
看護師はある専門科に所属しているのではなく、病院に就職しています。就職時の配属は、本人の希望に添うよう配慮はされますが、100%叶うわけでもありません。また、配属された科で専門性を高めようと努力しても、突然異動を命じられることもあります。これは、個人の意志で専門科を選択し経験を積む医師のキャリアパスと大きく異なる点です。また、医師は個人の裁量で研修を受けたり講習を受けたりすることが可能な環境で、かつ特別なコースを経ずとも個人の努力で、認定や専門医を取得しています。しかし、ぎりぎりの人数でシフト勤務をやりくりしている看護の現場では、キャリアアップの為の時間すら保証されない等、個人のキャリアアップが組織の都合に左右される側面あります。また、専門看護師等の取得には一時臨床を離れ、特別なコースを経る必要も有ります。専門職としての一個人のキャリアアップが尊重されない環境は、中堅看護師の士気の低下を招き離職を加速させる一つの理由になっています。看護師自身もキャリアアップの方法を考え直して行かなくてはいけません。
最後に、看護師不足についての新たな問題として、医学科定員増加があります。医学科定員増により、今後は現在看護学科へ入学していた高偏差値群が医学科へ進学することが予想されます。実際に看護学科の志望理由が「医学科を落ちたから。」という人も少なくありません。現在の高偏差値群がいなくなることは、看護職種のリーダー養成に大きな影響をおよぼします。現状においても全体の養成数は定員割れしており、また看護職を目指す学生の偏差値は非常に幅が広い状況です。医学科定員増により上位群がいなくなった後にも、現状もしくはそれ以上の看護職者の質を担保するためには、基礎教育年限の延長や教育に関わる人材を増やすなどの対策が必要と考えます。
看護職のリーダー層の人材確保は看護師不足のみならず、新たな医療界の重要課題として取り組まなくてはならないと考えます。
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●患者さんや家族の「心」と「生活」を支えるソーシャルワーカー
早坂 由美子 (ソーシャルワーカー, 北里大学病院患者支援センター部)
病院で働くソーシャルワーカー(以下SW)とは、病気や障害によって生じる生活上の相談に対応する専門の職種です。病気になるということは、その人が今まで経験しなかった様々な不安や悩みを抱える日々が始まることでもあります。それまでは普通に対処できていたことができなくなったり、ご家族もそのような患者さんを支える立場となったりするため、生活を変えていく必要が生じてきます。そのようなときには、第3者の支援が必要になることが多くあります。SWは、患者さんや家族の「心」と「生活」を支える視点から様々な相談に応じています。具体的な相談例は次の通りです。
・医療費はどのぐらいかかるのか?支払いに不安がある。
・病気で落ち込んでしまった。誰かに話を聞いてほしい。
・一人暮らし。がんになった。今後どのような経過をたどるのか相談したい。
・脳卒中で倒れた。どのようなリハビリ病院があるのか?どうアプローチすればいいか。
・高齢の夫との二人暮らし。夫は介護が必要だが、不安で自信がない。
・医療ケアが必要な障害児がいる。一時預かってくれるところはないか?
・透析を始めた。どうしたら、今まで通り仕事が続けられるか。
現在の日本は高齢者社会を迎え、社会保障費の抑制、医療費の削減は国の命題です。そんな中、制度は目まぐるしく変化し、急性期の病院のほとんどは「平均在院日数短縮」という目標に向かってまい進しています。そのため入院患者さんは、自分が思うより早期に転院や退院をしなければならなくなり、戸惑い、不安を抱いています。SWはこのような患者さんや家族に「今後どう生活していきたいのか?」という気持ちをうかがい、その気持ちを尊重しながら、生活の再構築するための支援を行っています。一緒に考え、最新の地域の社会資源やサービスに関する情報を提供し、いくつかのことに折り合ってもらいながら、患者さんや家族が自己決定するプロセスを支援しています。今回は二つの事例の支援「退院後の在宅療養について」「家族との関係の維持に悩む患者について」を紹介します。
最後に昨年行った日本医療社会事業協会の退院支援調査の一部を報告し、SWが行う「機関同士の連携を生かした在宅支援」について紹介します。
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●コメディカル不足も医療崩壊を促進している
嘉山 孝正(医師, 山形大学 医学部長)
医師数不足とともにコメディカル不足も日本の医療崩壊を加速させている。病院に勤務する100床当たり従業者数は、イギリス740人、アメリカ504人、イタリア307人、ドイツ204人に対して、日本はわずかに100.8人で諸外国と比べて1/4に過ぎない。日本の病院は諸外国のコメディカル数に対し、圧倒的なマンパワー不足である。看護師でみてみると、欧米のそれと比較し約7倍のひらきがある。また、薬剤師も同様に約5倍の開きがある。看護師、薬剤師の場合には養成数は欧米のそれと変わりがないが、病院での雇用数が不足している。更に医師ほどではないが職場環境の劣悪さが原因で、看護師が社会で活躍していない所謂潜在看護師数は約50万とも60万人といいわれており、この人材の活用を推進しなければならない。事務職も欧米と比較し約1/7と不足している。
このようなコメディカル数の不足は医師、看護師、薬剤師が本来施行すべき仕事以外の仕事を日常的に施行せざるおえない状態になっている。特に頑張ってしまう医師にその仕事が負荷となっている。
医療現場で、このようなコメディカル不足が一番影響を受けるのは医療安全であり、とりもなおさず国民、患者さんである。日本の医療者は欧米の医療者より頑張ってしまうので、米国の資料が日本にそのまま当てはまるわけではないが、病床当たり看護師、薬剤師などのコメディカルの人数が多い方が医療の安全性が高い結果が出ている。看護師の受け持ち患者が一人増えると死亡率が約7%増える。また、病棟薬剤師が100床当たり2.5人増えると死亡率が1000人当たり約20%減るという結果がある。
医師数の増員とともにコメディカル数の病院での増員が医療の質を確保するには不可欠である。
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●がん患者に対するリハビリテーションは真空地帯
安部能成 (作業療法士, 千葉県がんセンター)
がん患者にリハビリテーションは必要だろうか? 日本では、一般に「がんは悪性で死亡率が高いから、リハビリする余地はないだろう」と考えられているらしい。
日本のがん治療の総本山は国立がんセンターであろう。そこには数多くの診療科目が備えられているが、リハビリテーション科はない。リハビリテーション専門のスタッフとしては、中央病院と東病院を兼務している理学療法士が1名配属されているのみである。先進国と目されている国のナショナルセンターで、リハビリテーション部が置かれていないのは我が国だけではないだろうか? 北欧の小国・人口5百万人のデンマークでさえ、ダーランドに国立のがんリハビリテーションセンターがある。
1980年、我が国の医学的リハビリテーションのパイオニアである砂原はその著書の中で、傷痍軍人に始まる整形外科疾患から、成人病としての脳卒中に対象者が拡大する証左として、その生存率が50%を超えたことを挙げている。21世紀を迎えた今日、我が国のがん患者の5年生存率は50%を超えている。砂原の説に従えば、がんリハビリテーション開始の時期に到達したはずである。しかし、その実態はいかがであろうか?
1990年から15年間の日本リハビリテーション医学会、理学療法学術集会、作業療法学会の一般演題における、がんリハビリテーション関連演題の調査をしたことがある。各回400~800演題にがん関連演題の占める割合は、いずれの学会においても1%前後だった。つまり、99%はがんと無関係である。その逆に、この間の日本癌学会、日本癌治療学会では、ほとんどリハビリテーション関連演題が見られない。すなわち、我が国においては、リハビリテーションの対象にはがん患者が含まれず、がん治療にはリハビリテーションが含まれない状況にあり、あたかも真空地帯のようである。
本当に、がん患者にリハビリテーションは必要性ないのだろうか?筆者は南関東の県立がんセンターで、専従職員として孤軍奮闘、がん患者のリハビリテーションに従事して14年目になる。今日までにリハビリテーション実施回数は3万件を越えた。データの揃っている過去12年間に限っても、日平均取扱数(4→16)、月平均取扱数(70→275)、年平均取扱数(850→3280)、年間新患紹介数は(58→216)、いずれも4倍増である。この事実からみて確実にニーズは存在している。
たとえば、日本人に多い胃癌では、胃切除術後に歩行障害となりリハビリテーションに紹介されてくる症例がある.運動機能に障害はない.ところが、血液検査の成績をみると総蛋白もアルブミンも低値で、栄養不良を示している.術前と同様の食生活をしていたため消化しても吸収できず、栄養不良状態から筋力低下をきたし、結果的に歩行障害となっていた。この場合、胃切除術後の胃機能障害に対し、食事指導と活動療法を組み合わせたリハビリテーションを実施しないと、生活の再建、社会復帰はおぼつかない.がん患者にはリハビリテーションが必要不可欠である。
このようなことは患者のみならず、その家族、治療関係者、ひいては市民社会にとっても大きな損失ではないだろうか?リハビリテーションがないために、がん難民化している事態が今日も続いている。

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