最新記事一覧

Vol.268 凍結された東大病院への臨床研究補助金 ~問われているのは研究者ではなく指導部の体質~

医療ガバナンス学会 (2014年11月25日 06:00)


■ 関連タグ

関家 一樹

2014年11月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


10月18日付の読売新聞夕刊に「東大病院など補助金凍結」との見出しが躍った。

厚生労働省が「臨床研究中核病院整備事業等」と題して行っている東大病院を含む15病院を指定し先端的臨床研究を行う拠点作りを目指す予算事業において、今年度の東大病院に対する補助金交付が凍結されているとの内容である。

◆背景にあるのは製薬企業との不適切な関係

記事では補助金が凍結された背景として、SIGN研究事件(白血病治療薬事件)、ディオバン事件(バルサルタン事件)、CASE-J事件(ブロプレス事件)など、一連の製薬企業による医師主導臨床研究への不正関与事件が頻発していることが挙げられている。

さらに10月24日の集中CONFIDENTIALの報道によると、読売の記事を受けて作成された厚労省の内部資料においても、東大病院への補助金凍結は事実であり、その理由は臨床研究に関する不適切事案があったからである、とのことだ(東大以外で凍結されているのは読売の報道とは一部異なり、千葉大・京都大・慶應大・国立がん研究センター)。

このように補助金凍結の原因とされているSIGN研究事件やディオバン事件であるが、いずれも東大は適切な処分をしていない。

SIGN研究事件については、東大病院は6月24日に「SIGN研究に関する調査(最終報告)について」と題し記者会見を行った。

しかし、この記者会見は「最終報告」とされているものの、研究代表者である黒川峰夫教授らの責任関係については認定されず、質疑応答の段階になって、当事者の責任関係の認定と処分は別途開かれる懲戒委員会において行うと回答された次第だ。つまり世間一般的にはこの記者会見は最終報告ではなく、懲戒委員会の報告が待たれている状況なのである。

またディオバン事件については、現東大教授である小室一成氏が深く関与していたことが千葉大の報告書で明らかにされているが、東大は小室氏が千葉大教授時に起きた事件であるとしてなんらの対応もしていない。

東大がこれらの問題について最後に口を開いたのは、身内である東大医学部の学生から説明を求められた8月25日の学生との対話集会である。

参加学生に取材したところ「誠実に対応しようとしているとは感じた」とのことであり、集会では「調査を適切に進めていく」と説明していたようだ。

ところが実際にはこの集会から2か月が過ぎても、何らの進展を見せていないのが現実である。このままでは単なるガス抜きや、学生に対し嘘をついたと評価されても仕方がない。

さらに10月27日には、黒川教授についてSIGN研究とは別の白血病治療薬(ブリストルマイヤーズ社のスプリセル®(ダサチニブ))に関する不正関与事件の、第三者調査委員会の調査報告書が公表され、公益財団法人を経由することで数千万円に及ぶ資金が流れ込むなど、不正関与の実態が新たに報告されている。

◆何ひとつ対応をしていない東大

結局、東大はSIGN研究事件については4か月も進捗を報告しておらず、ディオバン事件については何らの対応もしていないのである。その間にも状況は悪くなっていると言っていいだろう。

現在の東大における最大の問題は、自分たちで作った内規を守らず、手続きに従った一定の結論を出そうとしない点にある。

SIGN研究事件に関して言えば、すでに「最終報告」の調査結果が出ているのであるから、後は自分たちで定めている膨大かつ立派な内規に従って、粛々と手続きを進めていけばいいだけである。

その際には期限を明確にして行うことが大切であり、STAP細胞事件で世間を騒がせた理化学研究所(理研)ですら期限と内規に従った進行はある程度適切に行われていた。この点につき6月24日の記者会見にも出席していた、コンプライアンス担当理事の苫米地令氏は何をしているのであろうか?

学生からの質問に対しても回答している同氏は、いわゆる文部科学省(文部省)からの天下りである。私は優秀な元官僚の方が、大学人事を行うことも悪いとは思わないが、元官僚であるならばその能力を生かして、内規に従った計画的な手続きの進行をお願いしたい。

内規に従って手続きを進めた結果、一連の臨床研究不正関与事件について「問題がない」という判断を下すであるならば、それも手続きに従った1つの結論である。もちろん、その結論を採用したことに対する非難はあるだろうが、それは別のレベルの問題である。

スポーツに例えるならば、現在は試合をして負けているのではなく、そもそも競技のルールを守っていない状況だ。まずは指導部の責任として手続きに従った結論を出し、その上で評価を受けるのが最低限の仕事である。

東大の指導部はこのまま頬かむりをしていれば、沙汰止みになるとでも考えているのだろうか?

このような指導部の体質は、研究不正に対して適切な対応を促すうえで許容されるべきではない。従って今回の厚労省の補助金凍結は評価できる。

当然のことであるが、東大病院の研究者で適切に臨床研究を行っている人たちは大勢いる(はずである)、そうした人たちが補助金の凍結という形で一蓮托生に扱われるのは本来おかしな話である。

しかし問題が統括をしている指導部にあるならば、病院全体に対して凍結されてしまうという判断になるのもやむを得ない。

株式会社であれば問題のある指導部は、株主の判断で交代させることができる。しかし大学であり医療機関でもある東大や東大病院においては、こうした社会的要請に基づくガバナンスが不完全である。

「大学の自治」や「患者さんのための医療」を美辞麗句に終わらせないためには、現場で研究されている先生方や医師達こそ、こうした不正関与事件を引き起こしている研究者や、適切な対応をとらない指導部に対して厳しい声を上げるべきである。

「先生」と呼ばれる方々の発奮に期待したい。
関家 一樹(せきや かずき)
1986年東京生まれ。2009年3月法政大学法学部卒業。現在は企業で法務担当

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ