最新記事一覧

臨時 vol 83 「「医の中の蛙」4 コミュニティー・ソリューション」

医療ガバナンス学会 (2009年4月13日 10:31)


■ 関連タグ

 

久住英二


昨年11月8・9日に、第3回「現場からの医療改革推進協議会」を開催しました。
同協議会は、現場にいる人たちが医療を良くするための提言をすることを目的と
しています。私が当時所属していた東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニ
ケーションシステム社会連携研究部門の上昌広准教授と、参議院の鈴木寛議員が
事務局となり、フジテレビの黒岩祐治解説委員、国立がんセンター中央病院の土
屋了介院長など、現代のオピニオンリーダーが発起人となっています。

第3回協議会は、薬事改革や医師の自律など、7つのセッションから構成されて
いました。医療関係者や法曹、メディアなど、多数の方に参加いただき、熱い議
論がたたかわされました。この中で、今回は兵庫県丹波市の「県立柏原病院の小
児科を守る会」(http://momorushonika.com/index.html)の取り組みを紹介し
たいと思います。

兵庫県立柏原病院では、過重労働が原因で、小児科医がいなくなる危機にあり
ました。この状況を知った小児患者のお母さんたちが立ち上がりました。「コン
ビニ受診を控えよう」「かかりつけ医を持とう」「お医者さんに感謝の気持ちを
伝えよう」のスローガンを掲げ、本当に医療が必要な人が必要な時に治療を受け
られるよう、不必要な受診を控えるよう、自ら運動を始めたのです。結果、柏原
病院では小児科医が5人まで増加しました。お母さんたちの自律的運動が見事に
実を結んだのです。

医師不足の問題は、とかく「県がやれ」「国が責任をとれ」などの議論になり
がちです。ところが、この「県立柏原病院の小児科を守る会」の事例で、地域住
民が自ら行動を起こすことでも解決しうることが証明されました。このような解
決方法は、コミュニティー・ソリューションといいます。地域という共同体(コ
ミュニティー)の中で、そのメンバーが自律性を持つことが、地域の問題解決に
つながります。自律性とは、権利ばかりを求めるのではなく、自らの行為を規制
し、譲るべきは譲るということです。

医師不足が著しい地方は、新興住宅地や都市部と異なり、既存のコミュニティー
があります。私が赴任していた新潟の地元でも、いわゆる道普請などといって、
道路の草刈りなどをみんなでやったりしていました。このような地域では、医師
不足を解決する方法として、小児科を守る会のような方法が有効かもしれません。

一方、当然ながら医師にも自律性が求められます。医師の自律の上で、最大の
問題は、医師全体を代表する組織がないことです。日本医師会という組織があり
ますが、その実情は、医師総数25万人に対し加入医師は16万人程度。約60%の加
入率です。特に、病院勤務医16万人に関しては3万人しか加入しておらず、加入
率は2割にも届きません。したがって、既存の医師会では勤務医の意見を代弁す
ることができません。また、これまで病院勤務医の多くは県立病院などに勤務す
る公務員でしたので、自由な発言をすることが制限されていました。医療を良く
するためには、医師にもコミュニティー・ソリューションが必要です。そのため
にはまず、医師自らが医師全体をまとめ、コミュニティーを構築することが喫緊
の課題といえるでしょう。


くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業、国家
公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。2006年から
東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立川」開設。

※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ