臨時 vol 83 「「医の中の蛙」4 コミュニティー・ソリューション」
昨年11月8・9日に、第3回「現場からの医療改革推進協議会」を開催しました。同協議会は、現場にいる人たちが医療を良くするための提言をすることを目的としています。私が当時所属していた東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門の上昌広准教授と、参議院の鈴木寛議員が事務局となり、フジテレビの黒岩祐治解説委員、国立がんセンター中央病院の土屋了介院長など、現代のオピニオンリーダーが発起人となっています。第3回協議会は、薬事改革や医師の自律など、7つのセッションから構成されていました。医療関係者や法曹、メディアなど、多数の方に参加いただき、熱い議論がたたかわされました。この中で、今回は兵庫県丹波市の「県立柏原病院の小児科を守る会」(http://momorushonika.com/index.html)の取り組みを紹介したいと思います。兵庫県立柏原病院では、過重労働が原因で、小児科医がいなくなる危機にありました。この状況を知った小児患者のお母さんたちが立ち上がりました。「コンビニ受診を控えよう」「かかりつけ医を持とう」「お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう」のスローガンを掲げ、本当に医療が必要な人が必要な時に治療を受けられるよう、不必要な受診を控えるよう、自ら運動を始めたのです。結果、柏原病院では小児科医が5人まで増加しました。お母さんたちの自律的運動が見事に実を結んだのです。医師不足の問題は、とかく「県がやれ」「国が責任をとれ」などの議論になりがちです。ところが、この「県立柏原病院の小児科を守る会」の事例で、地域住民が自ら行動を起こすことでも解決しうることが証明されました。このような解決方法は、コミュニティー・ソリューションといいます。地域という共同体(コミュニティー)の中で、そのメンバーが自律性を持つことが、地域の問題解決につながります。自律性とは、権利ばかりを求めるのではなく、自らの行為を規制し、譲るべきは譲るということです。医師不足が著しい地方は、新興住宅地や都市部と異なり、既存のコミュニティーがあります。私が赴任していた新潟の地元でも、いわゆる道普請などといって、道路の草刈りなどをみんなでやったりしていました。このような地域では、医師不足を解決する方法として、小児科を守る会のような方法が有効かもしれません。一方、当然ながら医師にも自律性が求められます。医師の自律の上で、最大の問題は、医師全体を代表する組織がないことです。日本医師会という組織がありますが、その実情は、医師総数25万人に対し加入医師は16万人程度。約60%の加入率です。特に、病院勤務医16万人に関しては3万人しか加入しておらず、加入率は2割にも届きません。したがって、既存の医師会では勤務医の意見を代弁することができません。また、これまで病院勤務医の多くは県立病院などに勤務する公務員でしたので、自由な発言をすることが制限されていました。医療を良くするためには、医師にもコミュニティー・ソリューションが必要です。そのためにはまず、医師自らが医師全体をまとめ、コミュニティーを構築することが喫緊の課題といえるでしょう。くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立川」開設。※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。
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