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臨時 vol 150 「第2回 臨床研修制度のあり方等に関する検討会傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2008年10月24日 11:28)


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       ~ 大臣こんどはマスコミと一戦ですか ~
ロハス・メディカル発行人 川口恭



厚生労働省と文部科学省合同の『臨床研修制度のあり方等に関する検討会』の第二回会議が先週16日に開催された。ちょっとご報告が遅れてしまい申し訳ないが、方向性はともかく話の内容は面白かったのと、それからこの会議の後で、舛添厚労相がwebメディアのインタビューを立て続けに受けて、この検討会のテーマに関して話しているので、そういうインタビューをよりよく理解する意味でも、お読みいただければと思う。メディアも巻き込んで、大臣と官僚との闘いが、何やらまた始まっているようだ。
さて、委員名簿はこちら(

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/s1016-1.html )。資料はこちら(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/s1016-2.html )。

先日の後期研修班会議で珍答弁を繰り返した日本医師会の飯沼常任理事、それから国立病院機構の矢崎理事長の2人が欠席。矢崎理事長は臨床研修制度誕生の立役者だけに、前回一言も発言をせず、そして今回また欠席したことに意図を感じざるを得ない。
この日は地方の大学病院を代表する立場の3人からヒアリングして、その後で討論という議事次第。3人からすると噛みつくはずの矢崎理事長に逃げられた感じかもしれない。最後の方でどうしても一言付け加えたいところがあるのだが、そこ以外には特に注釈を加えない。
最初の発表者は今井浩三・札幌医大学長理事長。
「学長の立場、そして病院を経営する立場でお話をさせていただく。札幌医大の理念は、最高レベルの医科大学をめざしますということであり、そのために、人間性豊かな医療人の育成に努めます、道民の皆様に対する医療サービスの向上に邁進します、国際的先端的な研究を進めますという3つを謳っている。
最後の研究に関して言うと、文部科学省の科学研究補助金の教員1人あたり配分額を見てみると、札幌医大は13位。全国の公立の医大は8校あって12位に京都府立医大、14位に横浜市立大と3校並んでいる。それから38位に大阪市立大、39位に名古屋市立大、40位に奈良県立医大があり、上位50校の中に6校の公立大が入っているということと、札幌医大は研究面でもトップレベルにあるということを言いたい。
最も重要な教育についても、地域医療に焦点を当ててたくさんの文部科学省GPに応募しており採択もされている。それによって実習を次々に行っている。6年間に医学部だけで4回の実習があり、さらに看護師を養成している保健医療学部と合同の実習も1つある。この合同実習は重要な柱として、私も一緒に行って年に2回に分けて行っている。地域の皆さんのニーズを知ることによって地域医療をめざす人が増える狙いだ。
しかしながら、そういうことをしていても昨年市立根室病院で内科医がいなくなったり、5カ所で診療体制縮小が起きている。なぜそうなったのかと言えば、臨床研修制度で大学に人材が足りなくなったというのが大きな要因であることは間違いない。そのことをデータでお示ししたい。たとえば市立根室病院では、平成18年11月に11人の常勤医がいたのに5カ月後には3人になってしまった。札幌医大でも何とか支援しなければいけないということで、現在少し持ち直している。
札幌医大の初期研修医数の推移を見ると、平成16年度から70人→58人→50人→36人→47人と徐々に減っている。それ以上に問題なのは後期研修医が平成12年度の106人→97人→97人→77人と来ていたものが平成16年度と17年度は0、18年度から78人→77人→71人になって、2年間0だった。これが悪い状態を作る原因になって、地域へ送り出す医師の順繰りがうまくつかなくなった。
札幌医大には、いわゆる医局は存在しない。廃止した。で、平成16年度から医師の派遣要請に対しては窓口を一本化して大学全体で行うことになった。その派遣人数を見てみると、平成16年度には派遣可な医師が427人いたのだけれど、その後344人→331人→318人と減っている。結果として新しい所にはほとんど出せていない。その分、教官や大学院生が非常勤として出て行っている。教員は1人月に28.5時間、それ以外は7.4日外にいる。過剰な労働になって、だんだん問題が出てきており、この辺がギリギリ限界だと思う。
まとめると、大学に人がいないのは本当。引き金は臨床研修制度。何しろ北海道から2年間で600人の医師が消えたことになる。何とかしようという努力は色々な角度からやっているけれど、それだけではどうにもならない。最後にささやかな個人的提案をしたい。現状に照らして臨床研修をゼロにするのは現実的でないと思うので、現在「自由選択」になっている2年目の後ろ8か月を地域医療もしくは総合医療なものにして地域に出て行ってもらったらどうか。研修にも役立つし地元の患者のためにもなる」
この発表の途中で参院予算委員会を終えた両大臣が到着。まず塩谷文部科学大臣が挨拶
「大変大きな問題であり、舛添大臣が熱心に取り組んでいる。最初は渡海大臣、1回目の会議が鈴木大臣、2回目が私と次々にメンバーが代わっているが、舛添大臣に常にリードしていただいている。ぜひとも十分な議論のうえ結論をいただきたい。産科、小児科をはじめ地域医療に深刻な状態をもたらしている。それを何とかするためにも大学病院を応援していかなきゃならんと思っている。実は私、河村官房長官と一緒に大学病院を考える議連の会長代行をしていて、前々から臨床研修制度には検討すべき点が多いと思っていた。能力、志ともに高い医師を育てるのが大学病院の役目であり、また地域医療を支える最後の砦でもある。臨床研修制度を始めればどうなるか、最初から予想できたのでないかと思うのだが、当然見直しということを含めて積極的に議論いただいてできるだけ早い機会に結論をいただきたいと期待している」
明らかに前任者よりも制度見直しに前のめりだ。矢崎理事長が欠席したくなるのも分かる気がした。続いて舛添大臣
「今、文部科学大臣から話があったように、内閣は変わったけれど、麻生内閣でも両大臣のもとでこの検討会を実施していく。ビジョン会議、そのメンバーもいるが、重点的なポイントとして、新しい臨床研修制度が地域医療の崩壊に拍車をかけたことは今データでお示しくださった通りだと思う。卒前と卒後で重複して無駄じゃないかという声もあった。だからこうして両大臣のもとでやっている。1人の医師を養成するには、厚生労働省だけでも文部科学省だけでもできないから。今、今井先生から2年間の後ろ9カ月を地域医療枠にするという提案があって、いいアイデアだなと思った。それに関連するのだが、卒前卒後の重複を考えたら、思い切って2年を1年に縮めたらどうだろうか。医師養成数の1.5倍増をすると言っても、大臣バカを言っちゃいけない、育ってくるのは10年後じゃないか、もっと目の前にできることをしろと言われる。そういうことを予算委員会でもさんざん指摘されてきた。2年を1年にすれば単純にいって8000人医師が増えることになって即効性があるんでないか。もちろんプラスマイナスあると思うので、この案について重点的にご議論いただけないだろうか。
それからもう一度確認しておきたいのは、臨床研修制度が悪いということではなくて、全体のレベルアップは果たされ、専門しか診られないというような弊害は改善されたと思う。私の隣に国民代表たる大熊委員がいらして、研修医に逃げられる病院の方もしっかりしなさいという話だった。この点についても活発な忌憚のないご議論をいただきたい。例えば医師が一人前になるところで、プライマリーケアはどの段階でやるべきだろうか。両大臣に遠慮は要らない。自由にご意見をちょうだいしたい。
こういう政局ではあるが、どういう内閣になっても、どういう政党の政権になっても、この問題は国民代表としてやらなければならない改革である。一刻も早く方向性を示すことが国民にとっても重要であろう。何とか年内ぐらいに何らかの中間報告をいただけたらと思う。総選挙がいつあるのかは麻生総理とお話をしても私にもサッパリ分からない。それを気にせずやるしかない。今朝の読売新聞朝刊に計画的な医師派遣の提案が載っていたけれど、そういう規制強化がいいのか、いやいやそんなんだったら医師やめるよと言われたらそれまでなんで、一つの新聞社の考え方ではあるが、こういうことにもご反論いただいたり、ご議論いただければと思う」
発表に戻って冨田勝郎・金沢大学病院長
「頭の中では、このことばかり考えてきたし、今も考えている。舛添大臣の問いに対しても即答できるけれど、まずは自分の任務を果たしたい。といっても、北陸の惨状を訴えに来たつもりはない。日本の医療をどうしたら良いかその答えを持ってきたつもりだ。臨床研修制度が、現在の混乱を招いたことは議論の余地がない。この制度がいいと言った大学病院長に会ったことがない。ここに3人呼んでいただいたということは、行政も地域医療立て直しには大学がキーとなって支えないといかんと理解していただいているのだろう。そこで述べたい。
臨床研修制度の根源にあったのは、大学病院の医局制度の良さを適正に評価せず崩壊を図ったこと、これだと思う。皆さん認めるのは苦しいかもしれないが、これが事実だと思う。大学の医局制度は日本が150年かけて木が枝を伸ばすように試行錯誤しつつ築いてきた『資本主義と社会主義の中庸をいく』すばらしいシステムである。たしかに山崎豊子さんに書かれた白い巨塔のような問題点も一部にあったが、そのような問題点は修正していけばいい。皆さんそういう知恵は持っていると思う。
日本では大学病院が軸となって『医の心、倫理観』を大切にし、金の事を考えずに一番よい治療を行うというような拝金主義・市場原理主義に偏らない真の医療を追求・実行・教育することを許されてきたし地域医療を支えてきた。現在の研修医は、症例の数を競って、何をさせてもらったかを競う。それは大きな間違い。患者さんにそんなことを言っちゃいかん。1人を徹底的に見て最良の医療をすること、それこそが大切。数じゃないし、させてもらうということでもない。それから地域医療に若い医者を回せばいいだなんて、とんでもない。私は地域の出身だが、地域の人間にしたら、こんな失礼な話はない。私は家族をそんな危なっかしい医者に診てもらいたくない。なぜそんなドクターを地域に回そうという話になるのか、悲しい。経験豊富な医師かリタイアした医師、もしくは中堅の医師が欧米の医師がアフリカへ行っているように年の3分の1はボランティアをするような、そんな風にして担うべき。若い医師というけれど、そんなのが東京のここに来て、東京も地域だとするならば、それでいいのか。憤りさえ感じる。
以前なら大学病院では経営のことなど考えずに何が最もよい治療か叩きこんだものだ。その後で一般の病院に出て行ったなら経営を考えながらやることも必要だろう。しかし今は、大学病院まで一般の病院と同じように競争させているから拝金主義になって地域医療の崩壊につながっている。大学病院は教育・診療・研究が仕事。研究を行うからこそ新しい医療が次々に実行される。逆に医療はリニューアルしていかないといけない。医師が年いったから古い医療で構わないなどという患者はいない。その患者の要求に応えるためには、医師は障害学び続けないといけない。その生涯教育をやっていくのも大学病院が常にリードしていかないといけない。
大学病院をしっかり立て直せば、つまり医局をしっかり支えていく体制に戻せば、地域医療もしっかりする。大学病院を他の病院と競争させるから地域医療がおかしくなってくる。
実は明るい兆しが見えている。ことしの7月だったか8月だったか、驚くべきことが厚生労働省から発表された。正式名称は忘れたが臨床研修に『大学病院専門医型特別コース』というものを設けるという。しかし足りないのは、産科、小児科、麻酔科、救急だけでない。これを全科に適用・推進させていくことによって、既に目標を定めている研修医は安心して研修に励める。実際問題ほとんどの研修医は医学部6年の間に進む方向性を決めているし選ばなければならない。6年の直後に決めなければダラーンとしてしまう。卒後にさらにベッドサイドちーちんぐを繰り返すような無駄なことになる。研修医も8割方はどのコースを選ぶか決めている。特別コースに入れば、実質的に研修を1年短縮したことになる。最初の1年でプライマリケアの基本的なことをやって、2年目は自分のめざした科を回ればいい。このようにしてもらえば、大学病院としても自分の科に来たのと同様の教育ができる。このようなことを言うのは、今、一般の病院では研修医に対するゴマスリが行われている。評判を良くしてもらってどんどん研修医が集まればいいと。だから、症例の数や種類という話になる。1人の患者を診ても10の病気を勉強することはできる。これが本当の教育であり、特別コースが標準になれば専門科との一貫教育の流れができて、大学病院の定着率も元通りになる。
大学病院は教育・診療・研究の三本柱が使命と言われてきたが、そこに改めて地域医療を支えるということもやっているんだと、行政にも認識していただくべきでないか。先ほど舛添大臣が『即効性』とおっしゃった。8月に出されたプランを4月から全科に適用すれば、すぐにグングン立ち直っていくと私は確信している」
と、ここで前の発表者である今井学長が手を挙げた。
「今、地域に未熟な人が行くかのような発言がなされたけれど、そうではないので一言。当然のことながら、研修医が行くからには指導医もいて、きちんとした医療が行われる。地域が大事なのは、北海道にいる私が誰よりも分かっている」
最後の発表者は河野茂・長崎大医学部長。
「先ほど日本で150年かけてというお話があったが、本学は創立150年。西洋医学発祥の地であり、また原爆ですべて壊滅したところから立ち直って頑張っている。長崎県も五島や対馬の離島を持ち、五島には教授が張り付いて実習を行っている。毎年、ほかの大学からも30人程度の実習を受け入れている。このように頑張っているんだけれど、という話をしたい。
長崎大学病院のマッチング結果だ。平成17年度をピークにどんどん下がっている。これは何も大学病院に限った話だけではなく、県内の病院でも同じ傾向だ。魅力的なプログラムがないという批判の声はあるが、何とか魅力的なものと佐賀県と共同でプログラムをつくって新しいGPも獲得したが、しかしこの低落傾向を変えられない。大学の入局者も臨床研修開始前は90人近くいたのに、このままだと平成22年には39人になる。診療科を見ても、ローテートで回ることになっている小児、産婦人科、麻酔科、精神神経科が軒並み減っていて、要するに回ってもそこをめざす人はかえって激減している。その結果として、長崎の医師の資質が劣るわけではないけれど、乳児死亡率は全国ワースト4位、新生児死亡率もワースト5位だ。これは何かというと、NICUに勤務する医師が足りないということ。明らかにデータとして出ている。
地元の出身者なら長崎に残るのかというと、これがそうでもない。結構、福岡へ行ったり、もっと遠くへ行ってしまったりする。なんでかというと、現在の研修制度だと地方にずっといる人間に『地方を離れてみたい、一度は都会に出てみたい』という気持ちをわざわざ呼び起こしているようなものだから。このように研修医と入局者が減った結果、当然の結果として多くの病院について派遣人数の削減を行うことになった。
では、どうすべきか。まず入学定数が必要だ。長崎大はMAX120まであった。来年は増やして105。MAXがもっと必要だ。県外に流出してしまって地域の不足に悩むようなところには入口から広くしてほしい。それから、たとえばカナダでも90年代にマッチングが行われたが、今の日本と同じような医師の偏在が起き1年で廃止になって、現在は定数と参加者が一致している。大学でプログラムを組み一般病院も含まれる形になっている。今の日本は講義の時間に抜けてマッチングの試験を受けに行っている。全国統一期間にしてもらわないと。諸外国では、国全体でマッチング枠を決めて専門性持つ人間を何人育成するかの制度既に持っている。すべて自由というのはありがたいことだけれど、何らかの手を打つ必要はある。自分の希望しないかを回るのは時間のムダという声が強い。全員、満遍なく回す必要があるのか検討は必要だろう。大学病院の従来の良さは経済的なことを考えずに教育できるシステムだったこと。それなのに人が足りないばかりに将来の医療を支える研究を犠牲にして苦闘している」
高久座長
「ひとつ質問だが、長崎大は地域枠を持っていたか」
河野
「昨年からAO入試で5名取っている。定員枠が広がったら、今後20名まで増やしたいという希望を持っているので、新木課長ぜひお願いします」
ここから討論。
辻本
「素朴な質問。大学病院がだいぶ被害者意識を持った発言に聞こえた。では、なぜ大学病院が研修医に嫌われたかについては、どう考えているのか。昔、大学病院の人から、病院の中で偉い順に、婦長・看護婦・医師・プロパー・犬猫ネズミに研修医という言葉があると聞いたことがある」
今井
「よく言われていた話だが、大学は教育と研究と診療をすることになっているけれど、それを担っているのはほとんど全部同じ人間だ。だから人員的に厳しい。看護師もトレーニングしなきゃいけないとか、普通の病院とはかなり異なる。それから雑用が多い。クラークがほとんどいない。先ほども高等教育費が少ないという話があったけれど、大学も予算が厳しい。結果的に人が足りない中で研修医が最下層でやらなければならない。そこに対する反発は当然あるだろうし、時代が変わって研修医のものの考え方も変わった。もっといい所でやってみたいと思うのは自然なことで、医局だけで元に戻すのは無理だ」
富田
「わたし自身、大学病院から逃れたい逃れたいと思いながら教授になってしまった身だ。思い返してみれば、先輩たちは手術は教えない、見て盗めというスタンスだった。つまり医師となった以上自ら学び取るんだ、教わるんじゃないということ。犬猫ネズミより下というのはブラックジョークであり、犬猫ネズミを研究材料として使い、その成果で医療を行っているんだから、そのことを理解していれば、まだ自分たちは犬猫ネズミよりも役に立っていないという謙虚さが必要。それをそうやってジョークにしてしまう浅はかさに愕然とする。笑い話にして、それがマスコミに面白おかしく取り上げられて曲解されて。我々は研究に使った動物たちを墓に葬ってお参りしている、そんなことも分からないのだろうか。
それから雑用が多いという話があったが、雑用って何?と言いたい。雑巾がけは、雑という文字が入っているけれど、そんなにイヤなことですか。お寿司屋さんになりたいと思って入っても最初は丁稚奉公で寿司なんか握らしてもらえずにテーブルを拭いたり水まきしたりさせられる。あれは根性論とか雑用とかではなくて、飲食店が食中毒やると命取りになるから、衛生の習慣を植え付けるためにやらせている。そういうことを理解せずに表面だけを見て雑用と笑われるのは非常に悲しい。もっと深い所を理解してほしい。
たしかに指導も厳しいだろう。しかし厳しく指導するのは良い医療者に育ってほしいと思っているからであって、そう思わなければ叱ったりすらしない。きちんとした医師に育てようとすれば厳しいことも言わざるを得ない。そういう厳しいことを教えようとすると若い人は嫌がるんだけれど、自分たちがどの程度のものなのか、謙虚な気持ちを持ってほしいと思う。そう考えれば大学病院は決して悪いところではない。ただ給料が安いことだけは私も悲しい」
嘉山
「大学に問題があったことは間違いない。雑用なんかないというお話だったが、たしかに診療に関連することはそうかもしれないが、文書関係の医師がやらなくてもいい、そういう雑用も多い。高等教育費が先進国中ビリから二番目で、大学病院にはクラークなんて全然いなかった。我々がわざわざやらせてたわけではなくて、構造的に仕方なくだ。最近ではCBTというものも導入されて、大学教育自体がモダーンになってきた。徒弟制で何かと問題が起きていたことも確かで10年以上前にはたしかにあった。
辻本委員と富田先生が大学病院の問題を表面に出しすぎたので、少し話を戻して国民目線で整理をしたい。臨床研修制度のアドバンテージは、眼科や皮膚科、精神科などストレート研修に入ってしまうと全身を診られない医師ができて、命にかかわる事象が起きた時に対処できないという弊害があったが、循環器とか呼吸器とか脳とか命にかかわる分野を一通り回っておくことで、できるようになった。一方で悪い面は、子供たちにパンドラの箱を開けさせてしまったこと。マッチングで全国どこへでも行けるようになったことで、一般社会と同じ倫理観、一般社会にもちゃんとした人はいるけれど、それで病院を選ぶような状態になってしまった。上の方の3分の2位はよく研修できていると思う。全体をボトムアップさせる視線は必要で、今後は質を担保しながら地域医療の崩壊をくいとめつつ、診療科の偏在も解消する取り組みをしないといけない。ただし前提となるのが、絶対的な医師不足であり、医療費が少ないということであり、教育費も足りないということ。
臨床研修制度のマズかったところは科ごとにやっちゃったこと。実は命にかかわるプライマリケアは、一部の科を除けば全科でやっている。その最低限のところをマスターしたらよい。実はそういう目標は既に決められていて、4年生時のCBT、卒業時の国家試験、さらに2年間の臨床研修で学ぶことになっている。文部科学省とシームレスにできるのならば、知識は4年時のテストと国家試験で終わっている。あとは実地だけだ。そう考えれば1年でできるだろう。資料として、いつも大熊委員が使う手法を私も使ってみた。群馬大の5年生からメールをもらったので個人情報だけ消して出す。学生は、現在の教育は無駄を繰り返していると見ている。実技に関して言うと、何歳で始めようが最初は皆同じ状態だ。
どこの科で勉強しても構わないから、最低限の目標をクリアしたところで指導医が保証することにすればよい。現在の研修では500床以下の病院に行った場合、きちんと身についたのかは自己評価しかない。500床以上では第三者が保証している。現在は100床以上が研修医受け入れを許されているが制限を加えてもよいのでないか。毎年2000人程度が、そういう質の担保のない研修を受けて、往々にして専門研修にきちんと入れないから、フリーター医師予備群になってしまう。どこで線引きをするかについては意見分かれるにしても、きちんと受け入れ体制のある病院に絞るべきでないか。文部科学省の方には失礼な言いかたになるが、これは厚生労働省がやってしまった「医のゆとり教育」でないかと思う。もちろん線引きにあたって、地域医療の崩壊をくいとめる観点から、地域の特性を考慮することはあって構わないだろう。一県一医大制というのには、大学病院に地域を守る使命があると思う。
それから前回齋藤委員が指摘したように、国家が法律で行わせている研修であるにもかかわらず、処遇が病院によって違うというのもおかしいのでないか。司法修習生は全員同じだ。研修を義務づけているということは、一人前になるために勉強しなさいということで、同じ勉強をするのに、なぜ処遇が違うのか。
以上3点述べた。ベッド数制限に関しては、小さな病院が大きな病院と組んでたすき架けのプログラムを組むことは可能としても、ある程度のベッド数制限は必要と考える。いずれにしても、3つの根本的な悪条件のもとでやらないといけない。医師不足に関しては、養成数1.5倍という方向性が示されて少し改善の動きが見えた。しかし根本的には医療費の増額、教育費の増額が必要だ。これだけモノがない国でセーフティネットである医療と教育にお金を使わないとは一体どういうことか」
齋藤
「出身地に帰りたいというのは自然なこと。これまでは大学の外に出てしまって医師としてやっていくのが難しかったから医局に入っただけで、その縛りがなくなった今、2年を1年にしたからといって大学に人が集まるのかは疑問だ。価値観や人生観が昔とは違う。大学がキーとなるのは確かだと思うが、もう一回新しい養成制度を作り直す必要があるのだろう。研修病院の違いによる経済的インセンティブはやめさせるべきというのは前回も主張した通りで、数をあらかじめ各地で枠として決めて、そのうえで全国でマッチングをしたらよいのでないか」
高久
「前回の主張は、各都道府県でマッチングをするということではなかったか」
齋藤
「そうではない。枠は都道府県ごとに決めて、全国でマッチングする」
武藤
「要はカリキュラムを前倒しにして5年生6年生の時にどれだけやらせるのか、具体的案を出したらいいのでないか。スチューデントドクターにどこまでやらせるのか法律を変えられないんだったら、処置の範囲だけ決めてやったら済む。2年やって後半をフリーにするくらいなら、前倒しにする方がいいんじゃないか。ただお願いしたいのは、現場の生の声をもっと集めてほしい。特に教える側の声が出てこない中で我々があれこれ決めてしまって、始まってから違うぞと言われても遅い。
大学の労働環境が悪いのはその通りで、クラークもいないし。雑用じゃないぞという話だったが、少なくとも事務的な雑用はある。医師本来の仕事に専念させることは必要なんじゃないか。米国だったら、クラークも10倍いるし、医師も10倍いる。そんな現状で現場にいる医師がとても疲弊していることは事実だ」
福井
「マッチングに関しては齋藤委員と同じ意見。参加者が8000人ちょっとしかいないのに定員が1万1千もあるのはおかしい。せめて定員を9000位まで絞って、さらに病院の質と分布もうまく考えて地域バランスも整えるべきだというのは私自身が当初から言っていたこと。そのことは前提として、今臨床研修を変えるという話になるのならば、そもそもなぜ臨床研修を導入したかというところも再確認したい。卒業直後からのストレート研修で育った場合、専門外の患者について診られない診たくないという医師が目立ってきて、それではいけないからということで幅広い研修をしようということになった。その状況は変わっていない。研修自体は1年でよいのかもしれないが、しかし大学教育の実習実態が大学によって差がありクリニカルクラークシップを多くの大学で行っていない、だからこそ2年は必要だという論法だった。医師不足の要因にはたしかになったのかもしれないが、しかしそれは数多くある要因のうちの一つで、まずは医師の質を保証することの方が大切でないか。であれば、卒前教育をどれだけ改善できるかの裏付けがないうちに研修だけ見直すのでは、医師の質の基盤が弱い。どういう医師を養成しなければいけないかと何十年もかけて議論してやっと導入された臨床研修だ。いい医師をつくるために、卒前の部分も十分に検討してほしい」
能勢
「今の臨床研修に関して言えば、いろいろと案があった中で2年で収まった。だいたい妥当なところであろうというのが個人的な見解。養成を所管する省と研修を所管する省とが一緒に入っているのだから、前倒しでダブっているところをどうするのか議論することはできる。ただ、免許を取ってない段階での医療行為は、最近どんどんされない方向になっている。それには社会的要請もある。また、前倒しをして医学部教育6年、実習1年にするとして、医学部教育の内容はどうなっていくのか。というのが、あまりに人間性に欠けた医師が多いという批判がブームになって、教養教育を強化した結果、専門教育が圧迫されている。それから医学が細分化されて最先端まで教えるとなると全然時間が足りない。最先端のことは卒後にするとなれば間に合うのだが、しかし最先端のことを教えるべきだという意見もあって一致しない。大学の任務として先端の研究がある以上、学生にも触れさせたいし、触れさせることでモチベーションが上がるということもある。要は、日本の医療水準をどこに置くのかの問題でもある。いずれにしても期間を短くするとか教える内容を制限するとか具体的に出してみて、叩いた方がよいのではないか」
小川(彰)
「臨床研修が2年になった経緯は皆さんのおっしゃる通りと理解しているが、しかしもっと歴史的なことを整理すると、平成3年にそれまで2年と4年に分かれていた医学部が6年一貫に大綱改正された。もっと実質的な医師を養成するんだという理念の変革だった。一方で厚労省の側は、文部省が送り出してくる医師の技量が十分でないということで平成13年に臨床研修を法制化して平成16年に実施したと、こういうことだ。
なぜ大学病院が嫌われるかということに関して言うと、国民皆保険は素晴らしい制度だけれど、それができた当時はメスと注射器とお薬だけあれば医療ができた。高額医療機器はなかった。CTとかMRIとかスペクトルエコーとかPETとか。それらの高額なものを国民皆保険の中にムリ無理閉じ込めた結果、人件費に回せる分が少なくなって、人が少なく給与も安いということになってしまった。大学の中では、研修医と上の医師との間に給料の逆転もある。そもそも大学病院の先生というのは医師とは認められず教員としての給与体系になっている。文学部の助手と同じ給料で責任重く夜中まで働いている。入るのが難しい学部で6年勉強させられてこれしかもらえないのか、ということになる。全体の構造的な問題であることをぜひご理解いただきたい」
高久
「武藤委員、福井委員から、学生の実習を変えなきゃという意見が出された。これに関しては確かに文部科学省の検討会、辻本委員も参加されていたと思うが、でも、能勢委員指摘のようにどんどん後退しているという話になっていた。それは患者さんが、学生に診られるのがイヤと言うし、指導教官の方も事故があったら困るということでやらせたがらないということだった。
ところがこれ欧米、カナダなんかだと、患者さんが喜んで学生に診てもらっている。イギリス、カナダなんかは国家試験がないので、医学部を卒業したら即医師ということもあるだろう。日本の国家試験がかなり難しくなっていて集中してらないと通らないというのもある。もし最後までクリニカルクラークシップをさせたら、国家試験の成績は悲惨なことになるのでないか。それからプライマリケアがイコール医師の基本的な診療能力ではないと思う。現場に行って勉強しないと、やはり本当のところは身に付かない。だからどうしても中心は卒後にならざるを得ない面があるだろう。ただグルグル各科を回っても本当の意味のプライマリケアの勉強にはならないので、そこは大臣にもご理解いただきたい」
西澤
「卒前教育だけでは臨床に足りないし、国民にニーズのあるプライマリケアをやる医師が育たない、それには2年必要だという話だった。2年を動かす前提として卒前をどうするのか。今のままなら臨床研修は2年必要だと思う。それから、そもそも論として大学医局が医師の派遣機能を持っているのは良くないだろう、地域でそういうことをするのが大事であろう。大学にその役割を負わせてきたのは、実は行政の怠慢だと思う。行政の責任でそういう仕組みができれば大学は楽になる」
永井
「1年あたり8000人の医師が減ったというプレゼンだったが、大学の外にいると8000人減ったという実感はない。臨床研修があるために、卒前教育の部分が後退してすぐには戦力にならないということはあるかもしれないが、存在はしているので必ずしもゼロになったとは私自身は思っていない。
むしろ国民の目線から見れば、昔は内科とか外科とか広い分野を診られる医師が当たり前だったけれど、多くの大学病院が臓器を冠した専門科になってしまっていて、しかも若い先生たちは卒後2年でもう『自分は循環器専門』というような話し方をする。まずは国民のニーズとしての救急とか初動としてのプライマリの能力を担保するために臨床研修制度が始まったんだろう。それがいいバランスになっているかは別の問題である程度ベッド数を地域のオンジョブで決めていくことは大切だろう。2年を1年にするんであれば、1年で何を期待されるかしっかり議論しておかないと、1年すらもう要らないという話になりかねない。メリットとデメリットをしっかり整理したうえでないと。
自分が5年間医局で研修を受けた経験からすると屋根瓦制というか、2年生から1年生が教わるというようなのが身に着いた。大学の教官数は諸外国と比べてもケタ違いに少ないのだから、研修指定病院と大学とで協調してもよいのではないか」
大熊
「元に戻したいと言っている方々は二つの意味で人を差別している。若い人たちは、お金に目がくらむということと、都会を好むのだと決めつけている。そうではない。彼らは真剣に自分の将来を考えて選んでいる。もし素晴らしい研修があるのなら、少しくらいの不便は受け入れようという気がある。学生に選ばれる大学になることが先でないか。それから大学病院より一般病院の方が倫理観に欠けるというような発言があったけれど、そういう発言が特に金沢大病院の方からされるというのが不思議だ。金沢大の産婦人科では、わざと抗がん剤を大量に投与して患者が死んでしまって、しかもそのことを注意した人を干すということをしているではないか。
2年か1年かということで言えば、グローバルスタンダードは2年だ。例外は米国が1年だけだけれど、しかし米国では大学にいる時から濃密な研修をしている。変に短くすると患者からすれば危なっかしい医者が出てきてイヤだ。
元々の医師の数が論じられていないが、そもそも数が少なすぎる。特に千葉や埼玉といった戦後急激に人口の増えた所がすごく少ない。たとえば千葉には600万人に千葉大1個しかない。だから調子市民みたいに日大が引き上げたらすぐお手上げといった感じになってしまう。そういう所では少し位定員を増やしたところで焼け石に水。メディカルスクールを作って社会人からの養成を積極的に進めるべきでないか。そういう医師の少ない県に限ってでも作ることを検討したらどうか。大学の機能評価などで訪問してみると社会人になってから入り直した人はしっかりしていて、ストレートの医学生からも尊敬されていることが多いようだ。2つとか3つとか、メディカルスクールを増やすことを検討してはどうか」
やはり大熊委員は何を言うか油断がならない。冨田院長はかわいそうに言われっぱなしだろうかと思っていたら、大熊委員の隣の席から大きな声がした。
嘉山
「いつも大熊先生とは論争になるのだが、先生の話し方には悪い癖がある。特殊な例を挙げて一般化するという悪い癖がある。金沢大がどうか知らないが、大学病院が悪いというのなら、じゃあ一般病院がちゃんとやっているという証拠を示してもらいたい。天下の大熊先生ともあろう人が、と思う。山形大病院では医療事故の存在を隠しただけで教授が処分された。先生の論法でいくのならば、山形大の特殊例を見れば大学病院は実に素晴らしいことが分かると言わなければならない」
実に鮮やかなカウンターパンチだったと思う。実は、ミクロでマクロを語るのは日本のマスメディア全部そうであって、癖でも何でもなくて、そういう風に記者を育てている。私も現役の時によく「データはいいから実例を見つけて来い」と言われたものだ。傍聴していたマスコミの連中は、嘉山委員の批判は自分にも向けられていることに思い当たっただろうか。
嘉山委員の発言に戻る。
「福井先生のご質問にお答えすると、教養部が解体されて前倒しになっている。コアカリキュラムとアドバンスと全国にデコボコはあったがCBTなんかカンニングできない仕組みが導入されて随分と均質化された。先生が大学病院にいたころよりは全国のボトムが上がっている。大部分は臨床研修で良くなっている。でも将来ちゃんと働けないような少数の人もいる。そういう人も含めてきちんと質を担保しないと医療への信頼回復することがなくなっちゃう。これはevidenceである」
小川
「大学と大学以外という括り方はやめていただきたい。大学がなければ医師は
できないのであり、同様に市中病院も欠かせない、それだけのことだ」
吉村
「先ほど、制度が入ったのは専門分化が進み過ぎたからプライマリケアを診られるようにとの趣旨との話だったが、プライマリをいつやるのかは重大な論点だろう。今のようなシステムがいいのか。2年終わった段階で即座に担えるなら、ある意味今のような医療崩壊にはなっていないはず。大学の医師派遣能力が失われたという話にしても、中堅なら派遣だろうが、5年目までは育成の一環として一線に出てみるということのはず、その二つは分けてもらわないと。後期研修につながるよう、専門医の育つところで初期研修も行うべきではないか」
舛添
「本会議の開始がズレたので最後までいられた。いろいろなご意見ありがとうございます。これ提案というか厚労省、文部科学省ともにやってもらいたいのが実態調査とアンケート。対象は学生でも研修医でもいい。金のためなのか、何がイヤで大学を離れるのか。読売私案のように行き先を決めるのは反対だ。ペイを一緒にするという話、これは必ずしも悪くない。でもペイが悪くても、どうしても行きたいところへ行くというのなら意味がなくなる。その辺り、ここにも様々な立場の先生方がいらっしゃるので、ご協力いただいて、今の現場の意識を知りたい。それなしに読売のような提案をして、医師を計画配置しても医学生に規制はイヤだと言われたらどうするのか。それから現場で研修を担っている先生たちにも、教育現場はどう考えているのか外口局長と新木課長、早急にアンケートして実感をつかんでおきたい。それをたたきだいに議論すべきだろう」
次回は11月18日だそうだ。
(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載されています)

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