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臨時 vol 149 「在宅医療への移行は患者を救えるのか?」

医療ガバナンス学会 (2008年10月23日 11:30)


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           医療環境情報研究所 大谷勇作


 既知のことではあるが医療崩壊が言われている現在、病院数は9,000を切り(2006年10月時点、 8,943病院)、さらなる医療費抑制政策によって病院数の減少が加速する一方、無床の診療所(開業医)数は増加傾向にある(なお、有床の診療所は減少傾向にある)。すなわち、病院の勤務医数は不足傾向、なかでも必須とされる救急、産科、小児科、外科などの診療科の勤務医数は過酷な勤務状態から大幅な減少傾向にあり、求められる医療と提供できる医療のバランスが大きく崩れつつある。
さらに、今回のテーマである在宅医療については、提供される医療・看護・介護の内容や受け入れ体制の良否はともかく、療養病床の大幅な削減や介護福祉施設の不足の結果、否応なく、病院から在宅への患者の移行が促進されてきている。
以上のような医療提供体制の変化が実際に在宅へ移行する患者(家族を含む)に対してどのような影響を与えるのか、特に、在宅患者自身だけでなく、在宅患者を支えるべき地域社会(地域医療)へ与える影響を全体的に考察した報告は、いまだ見られないように思われる。また地方医療の崩壊が言われている現在、その影響の大きさは予想を超えるものと推察される。
筆者はこれまで、地域薬剤師会(横浜市中区薬剤師会)とともに、地域医療(地域とはいっても対象は大都市ではあるが)における薬局のあり方を模索してきた。今回は、その活動を通じて得られた「在宅医療から発生する医療廃棄物の処理」という観点から、病院から在宅へ患者が移行することでどのような問題が発生するかを考察し、現在の政策の問題点を指摘したい。
医療廃棄物(特別管理廃棄物/廃棄物処理法:定義や分類の詳細については各専門書をご参照下さい)は、病院において大量に発生するが、病院という集中した場所(1ヶ所)に存在しているため、保管や回収が非常に容易である。しかし、病院数が減少し、診療所数が増加すると、医療廃棄物が発生する場所も分散し広範囲となることから、回収が困難となる。すなわち、個々の診療所での保管場所の確保や回収などの費用の問題も発生してくることとなり、不法投棄の増加が懸念されている。加えて在宅への患者移行は、医療廃棄物の分散を加速し、さらなる問題を発生させるものと推察される(在宅患者による保管場所確保、回収費用負担、不法投棄等)。
実際に不法投棄については、自治体のごみの有料化の促進に伴い、一般ごみとともに医療廃棄物(注射針を含む)がコンビニのごみ箱に廃棄されていた例や海岸に漂着していた例などが、すでに多数報告されている(医療廃棄物研究会『医療廃棄物研究』「国内マスコミ情報」参照)。また最近では、筆者在住の東京都多摩市広報(2008年8月20日)に、在宅医療から発生した点滴袋やチューブ類(針付き)の廃棄に対する注意が掲載されていた。実際に廃棄された例があったためと考えられる。
このように、医療施設の分散化や在宅への患者移行は、医療廃棄物も分散化させるとともに、個々の排出する量が病院より少量となるため不法投棄への意識を薄れさせることとなり、さらなる不法投棄の増加を促進させる危険性がある。なお実際には、診療所から発生する医療廃棄物の総量のみならず在宅医療廃棄物(液体も含む)がどのくらい発生しているか、総量の把握はなされていないというのが現状であり、拡散の状況も不明である。
また、医療廃棄物に含まれる感染性廃棄物は針刺し事故などにより感染の危険性があるが、医療廃棄物の存在する場所が拡散することで、病院という特定の場所で抑え込まれていた感染性廃棄物を原因とする感染の問題をも、拡散させてしまうのではないかと懸念される。
廃棄物処理法(「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」2004年3月)の改正により、現在、多くの病院では使用済み「紙おむつ」を感染性廃棄物とする場合が多くなっているが、在宅患者から発生する使用済み「紙おむつ」については、一般廃棄物として廃棄される場合の多いことが調査結果からも示されており(高橋洋一、大谷勇作、他「在宅医療における医療廃棄物の発生及び排出状況に関する調査(1)-薬局及び看護ステーションからの情報-」第32回日本薬剤師会学術大会(1999)など)、その対応状況はバラバラであるというのが現状である。在宅医療・看護・介護では感染例はほとんどないとの報告もあるが、実際の調査では在宅患者においてもMRSAなどの感染例が多数確認されていることから、在宅への移行によって患者の感染数の増加(拡散)が予想される。のみならず、老老介護の状況となりつつある現在および今後を考えると、患者だけでなく介護している家族への感染の拡散(二次感染)といった危険性が考えられる。
発生する在宅医療廃棄物の回収については、従来、地域の病院・診療所や看護ステーションなどが個々の努力で行ってきたが、人的(作業負担等)かつ費用的な問題だけでなく、特に感染性廃棄物についての対応方法や回収のあり方については不完全な状態のままである。また最近では、訪問看護での駐車が違反とされる例も報告されており、在宅医療・看護のサービス提供と同時に行ってきた医療廃棄物の回収も不可能となりつつある。
病院から在宅への患者の移行にあたっては、今回、在宅医療・看護・介護で発生してくる医療廃棄物処理の視点から考察しただけでも、多くの社会的な状況(在宅医療・看護・介護とは無関係に思われる種々の規制など)が関与・影響しており、種々の問題を発生させる可能性のあることが確認された。このことからも、当然かつ基本的なことであるが、一つの医療政策を進めるにあたっては、現状の把握と将来的な影響をしっかりと認識することが大切であり、逆に医療体制全体を崩壊させてしまう一因とならぬよう十分な検討が必要と考える。
最後に、在宅医療廃棄物の処理対策の一つとして、地域(横浜市中区)薬剤師会と薬局が医療廃棄物(使用済み注射針や医薬品、不要医薬品など。今後、在宅での癌治療などの増加に伴い、抗癌剤など医薬品の廃棄の問題も増加するものと予想されている)の回収を10年以上前から行ってきた例を紹介する(http://www.hamayaku.or.jp/)。
当時、地域コミュニティにおける個々の薬局の役割(生き残り方)を再検討していた時期でもあり、開始にあたっては、医療廃棄物の処理に関係するための資格(最終的には薬剤師の資格で可となる)や廃棄物自体の取扱い方(回収の仕方や保管の仕方など)などについて、行政とのやり取りで多大な苦労と時間を要した。
このような活動を容易とした条件は、薬剤師会や薬局関係者の意識が高く協力的であったことだけでなく、周辺の医療関係者や施設などとの連携を含め、小規模な地域コミュニティの中での活動であったためと考えられた。しかしその後、横浜市中区といった小さな地域から始まった活動は、横浜市全体へと拡大できた。このことから、さらなる規模への拡大も可能と思われる。
薬局を利用した医療廃棄物の処理システムはその後、他の地域薬剤師会の活動へと反映された。しかし、必ずしも横浜市薬剤師会と同じ認識の下で行われた訳ではないため、全体的な盛り上がり、すなわち社会的な認知に欠ける状態となっており、残念ながら一般の方々にはほとんど知られていないのが現状である。
病院から在宅への患者への移行をスムーズかつ適切に受け入れる体制(地域医療・看護・介護の体制)を構築していくためには、上記のような地域コミュニティの中で育成されたシステムを活かすことが大切である。そのためにも個々の活動の掘り起こしと支援が必要と考える。

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