医療ガバナンス学会 (2014年12月10日 15:00)
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(参加申込宛先:http://medg.jp/mt/?p=2885 )
2014年12月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2014年12月14日(日曜日)
【Session 09】13:30-15:00
Research Integrity (研究不正の構造と解決策)
●公開質問状を通し痛感した自律の必要性
岡崎幸治
東大医学部で、今年の1月から立て続けに臨床研究不正に関する疑惑が報じられている。循環器内科では降圧剤をめぐる論文研究不正で、教授が前職場の千葉大学から論文の撤回を求められた。血液腫瘍内科では製薬会社がお膳立てした白血病薬の臨床研究で患者の個人情報が流出した。東大教授が責任者を務めるアルツハイマー病研究の国家プロジェクトでも、データ改ざん疑惑が取り沙汰されている。
私は6月、東大医学生有志他4人と連名で、総長、学部長、病院長あてに公開質問状を提出し、説明を求めた。ブログを開設し、公開質問状やそれに対する返答や経緯を掲載した。大学からは結局満足のいく回答は得られなかったが、8月末になって、学生を対象とした「臨床研究について考える会」が開かれた。
考える会では、内容に新しい事実はなかったが、「臨床研究を今後どのようにすればいいか学生諸君と一緒に考えていきたい」という学生に向き合う姿勢は感じられた。
残念なのは、広く社会からの信頼を損なったことに鈍感であることだ。不正が指摘された当事者の先生は一切、説明に出てこない。研究に貴重な税金が使われていることへの認識も甘い。降圧剤の問題も「他大学(千葉大)で起こったこと」としている。
随時このような学生向けの説明を行うと言われている。しかし、聞く限りでは大学が社会からの信頼回復に向けて熱心に取り組んでいるとは思えない。改善策として新たな倫理教育プログラムを導入することも示されたが、新しいシステムを持ち出すことで「自分達が今後どうするべきか」という当事者としての問題の明確化や相互批判を回避していたように感じられる。
私は、私達の大学が歪んだエリート意識に拘泥しているのではと不安に思っている。先生方にご教示頂いている一学生として、医師のプロフェッショナリズムを大切にせねばと痛感している。
●グローバル化の中で取り残される我が国の医学教育システム
渋谷健司
今、世界で最も優秀な医学生はどこにいるか、皆さんはご存知だろうか。ハーバード?オックスフォード?答えは、おそらく、ノーだ。私見では、それは、「Duke-NUS」である。講義に訪れたことのあるこの米国デューク大学と国立シンガポール大学との合弁医学部では、米国と英連邦で通用する医師免許を取得でき、世界中から最優秀で多様な人材が集う。現在、東京大学は世界の大学ランキングでは23位だが、26位にシンガポール国立大学が迫っている。東大はかろうじてアジアでトップを維持しているが、シンガポール国立大学や香港大学に抜かれるのも時間の問題だ。
最近、東大医学部を中心に立て続けに明るみになった研究不正は、我が国の医学界を支えるべきトップスクールにおける医学研究・教育システムが、完全に時代遅れとなっていることをあらわにした。大学医学部と製薬企業による臨床研究不正は、おそらく今に始まった事ではなく、昔から存在した構造的な問題であろう。今の医療界の状況は、1980~90年代の監督官庁と業界の癒着、護送船団方式による馴れ合い、そして、市場原理と公正なルールが働かなかった金融セクターを彷彿とさせる。その後、金融セクターはバブルの崩壊と金融危機へと向かい、世界の潮流から取り残され、最後は金融ビッグバンへと至った。
大事なのは、グローバルなマーケットを呼び込み、フェアなルールに基づいてオープンに戦い、きちんと成果を公表して行くこと。そして、多様性を重視することだ。日本医療研究開発機構の設立も決まり、今後、創薬イノベーションへの追い風が吹くことが期待されている。しかし、公共事業のようにお金が来たら橋渡しができ、それで魔法のように薬ができるという幻想から脱却すべき時が来ている。その基盤となるのが、システムを見渡せる人材を育てる医学教育である。東大医学部が変わらない限り、我が国の医学界は世界から取り残されて行くであろう。