去る8月20日、福島県立大野病院事件の判決がありました。産科医の被告は無罪。その瞬間を、私も福島地裁で迎えました。この事件は、帝王切開中の妊婦死亡に関し、業務上過失致死および医師法違反(異状死体届出義務違反)が問われたものです。
お亡くなりになられた患者様のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族にお悔やみ申し上げます。
加藤医師の逮捕後、周産期はじめハイリスク医療では、刑事訴追懸念から現場を立ち去る医師が急増、医療崩壊に拍車をかけました。福島県でも平成12年に166人いた産婦人科の現場医師が、平成18年は144人に減少するなど、全国各地で産科空白地帯が急速に拡大しています。
しかし今回の判決を受け警察庁長官も、「医療行為をめぐる捜査には慎重かつ適切に対応する必要がある」と明言し、今後は、最善を尽くした医師の逮捕・訴追リスクは大幅に減少すると期待されます。
とはいえ解決すべき問題も少なくありません。
今回、直接の死因は大量出血。産科医に過失はなかったとはいえ、手術時の全身管理がチームとして充実していれば、最悪の事態は避けられたかもしれません。産科医・麻酔科医の確保と適正配置が急務です。
また、刑事事件となった発端は、県の事故調査委員会が保険賠償金支払いのために無理やり過失認定したことにありました。強引な過失認定をなくすためにも、無過失補償制度の創設が重要です。
今回を含め、問題が深刻化しているケースの多くは、公立病院で起こっています。役所の管理下にあるため、役所の「ことなかれ主義」「隠蔽体質」による不適切な指示が、あるいは誠実な対応の機を逸しさせ、患者・家族の不信を招いている可能性もあります。
医療事故で、ときに患者・家族を刑事告発にまで追い込んでしまうのは何故なのか? 「事実隠蔽の疑念」、それを払拭するだけの「誠実な対応と丁寧な説明」の不足――真摯に受け止めねばなりません。
不幸な事態が起こった場合、最も必要なことは、医療側からの患者・家族への納得いくまでの十二分な説明です。それを支える医療メディエーターの普及も不可欠です。
著者紹介
鈴木寛(通称すずかん)
現場からの医療改革推進協議会事務総長、
中央大学公共政策研究科客員教授、参議院議員
1964年生まれ。慶應義塾大学SFC環境情報学部助教授などを経て、現職。
教育や医療など社会サービスに関する公共政策の構築がライフワーク。