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Vol.296 小学生の呼込み型がん教育;帝京サマースクールを開催して

医療ガバナンス学会 (2014年12月22日 06:00)


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この原稿は緩和ケア(2014, 24(6), 448-450)11月号から再掲(短縮改編)です。

 

帝京大学医学部 緩和医療学講座
有賀 悦子

2014年12月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


○はじめに
2013 年の春,念願だった小学生へのがん教育について学内・院内の賛同を得るために,病院中を走り回った1 日がありました。このプロジェクトには,小学生へのがん教育は教育者として大きな役割があるという共通の意識と,私たちが誇りに思っている医療・職場・姿勢を伝えられることに嬉しさがあり,スタッフは忙しい診療の合間を見ながら,力を惜しまず取り組んでくれました。そんな2013 年のスタートから,今年(2014 年7 月26 日)は第2 回目を迎えました。

○なぜ,小学生なのか
これは何度も受けた質問の1 つです。
20 年ほど前,筆者が在米中に小学生患児への不安軽減プログラムが目的以上の効果を上げることを経験し,いつか日本でも,これからの意識とある程度の知識もある小学校5,6 年生を対象とした医療プログラムを実施したいと思っていました。
募集は,50 名。広報は,近隣小学校(3 つの区)へのチラシの配布やホームページの掲載で,1 年目の成果の口コミのお蔭もあり,受付開始後数日で定員以上の申し込みとなりました。

○開催の流れ
学校に出向く授業ではなく,小学生に夏休みに大学に来てもらう呼び込み型スクールです。朝10 時からオープニングレクチャー(がんの発生のメカニズムと罹患状況,代表的ながん,タバコやアルコールの影響について,クイズも交えながら,30分)で始まり,3グループに分かれて実習室での体験実習(外科,内科,病理),昼食,病院見学(手術室,外来化学療法室,放射線治療室),クロージングレクチャー,副学長からの修了証授与で午後3時過ぎに終わるプログラムでした。
外科体験では,本物のガウン・キャップ・マスクをして腹腔鏡を体験してもらい,病理体験では,がん細胞と正常細胞を見ることでその差を顕微レベルで知ってもらいました。内科体験では,小学生用白衣を着て血圧測定で自分の身体が生きていることを感じ,苦痛をもった人のストーリーからつらさは人によって感じ方が異なり,つらさの質問をすることで他者の痛みを知る方法があることを経験してもらいました。
病院見学では,麻酔科医や看護師の案内でダ・ヴィンチロボットの手術室を見学し,外来化学療法室ではリクライニングの椅子に座るなどの体験を,放射線治療室では治療台を触ったりしました。こうした体験を通して,がんに罹患しても対処できること,身体への負担が少なく治療できる取り組みがされていること,心地よさや医療安全のために多くのスタッフが働いていることを学んでもらいました。
初年度企画時に,問題として挙がっていた身近にがん体験者がいる児童が参加している可能性を考え,最後のレクチャーでは,1日の振り返りをした後,次のようなまとめを加えています。
予防や検診は大切なことですが,努力していても2 人に1 人はがんになる時代ですから,罹患することもありえます。しかし,そのことは予防の取り組みの失敗ではないこと。また,健康とはよりよく生きること(Well-being)で,がんであるかないかで決まることではなく,心と身体が落ち着いて日々が過ごせていることであり,そのことを大切に生活していきたいこと。困った人がいたら「大丈夫ですか?」と声をかけることで社会を支えるチームの一員として参加できることを話し,終わりました。

○行動変容が認められた感想
子どもたちからの感想から,単に楽しいというだけに留まらない具体的な行動変容が認められます。
「けんびきょうでがんを見た時は,がんの病気にかかっている人はこんな風になっているんだと気づいた」「内科では実際に(血圧測定の)音を聞いてみて,どういう音かわかりました」「はさみで切るのが楽しかったです。でも,手術でやるとしたらとても大変そうでした」「放射線ちりょうの機械を動かしてくれるのが良かった」「手術室はすごいと思いました。ここ最近の機械などを初めてしりました」「ガンを予防することはとても大切なことだとおもった。だから,食事のえいようを考えるようにする」「将来,医者になりたいとおもっていたので,さらに勉強になったと思っています」「がんは100 人中50 人がなることを知って,気をつけたいと思いました」「けんしんをうけたい」「今日学んだことをお母さん,家族に話したいです」「親せきががんなので,少しでも役に立てたら良いと思います」
子どもたちは,冊子に手術ガウン・キャップ・手袋・外科体験でゲットしたストラップなどでパンパンになったバックを持って,興奮気味に大学の教室を後にしていきました。

○まとめ
文部科学省は,がんに対する正しい理解とがん患者に対する正しい認識および命の大切さに対する理解のために,がん教育を推進し,検討会の設置やモデル事業を実施しています1)。各地でがん教育は始まっていますが,その多くは,「がん=死」という恐怖心の払拭2)や,予防や検診の普及を目指したプログラム3)が念頭に置かれています。
このことはとても大切なことではありますが,それだけではなく,本来の健康教育の目的は,疾病に対する基本的な知識と揺らがない心の育成にあります。国民2 人に1 人はがんになることを思うと,発症後の感情にも配慮した教育を実施することはがんに負けない(揺るがない)社会を目指すことをより可能にすると考えます。
がん治療とともに提供される緩和ケアは,単に心身の不快な症状に対処するに留まるものではありません。患者1 人ひとりが,がんに罹患したとしても,人生を歩みきる力を最大限発揮できるよう支援することにあります。小学生に対する教育も,この人生を歩みきる力を育てることにあると考えると,「真の健康とは何か」「がんを通して自分の身体に興味をもち心身を大切にする」「社会を支えるチームの一員としての役割に気づく」ことが重要であると,緩和ケアに携わる医療人からの視点で提案していくことができると考えています。
これからの取り組みとして,全国で始まっているがん教育にこの広い意味を知ってもらうことにあります。そして,これは,緩和ケアの啓発でもあると考えています。

文 献
1)文部科学省:平成26 年度がんの教育総合支援事業の実施について.2014 年8 月25 日アクセス〔http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/07/1349621.htm〕
2)文部科学省:がん教育に関する委員からの意見のまとめ.2 0 1 4 年8 月2 5 日アクセス〔http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001oeht-att/2r9852000001oelk.pdf〕
3)朝日新聞:こわがらず正しく知って.(2014 年8月25 日朝刊)

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