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Vol.300 「刑事訴追4%は極く僅かな例外」発言は撤回した方がよい

医療ガバナンス学会 (2014年12月27日 06:00)


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この原稿は『月刊集中』12月末日発売号からの転載です。
井上法律事務所 弁護士
井上清成
2014年12月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.医療側弁護士に「スター誕生」

医療事故調査制度の議論が佳境に入りつつある。この12月11日には、第3回目の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」が開催された。
大きく意見が分かれたのは、医療事故調査報告書に「再発防止策」を記載すべきかどうか、という論点である。医師兼弁護士で浜松医科大学教授の大磯義一郎構成員が、「原因分析であったり、医学的評価、再発防止策のところで個人のヒューマンエラーを指摘するような記載がされていて、実際に4%刑事訴追を受けてしまっているわけですよね。そのような状況にある以上は、やはり現段階で書くのは時期尚早である」旨の発言をした。すると、大磯氏の発言に反論して、いわゆる医療側弁護士に分類されているはずの宮澤潤構成員が、「刑事訴追されるのが4%あるからというようなお話がありましたけれども、ごくわずかな例外をもって制度全体の構造を考えるというのは、制度全体を考える上で誤りなのではないか。」と発言し返した。

当然、その「ごくわずかな例外」発言に対しては、直ちに何人もの構成員が異議を述べようとする。結局、医師兼弁護士である田邉昇構成員が、「4%の刑事事件化がですね、そんな稀なことをという風に言われては、到底、医療現場としては容認しがたい。」と叱責したのであった。
この瞬間、真の医療側弁護士として、大磯義一郎氏と田邉昇氏が医療事故調にデビューしたのである。新たな「スター誕生」と言ってもよい。

ちなみに、従来からいわゆる医療側弁護士に分類されている宮澤潤弁護士は、第3回検討会の終了に至るまで、「刑事訴追4%はごくわずかな例外」発言を撤回することは無かった。宮澤弁護士としても必ずしも意を尽くした表現では無かったであろう、と推測する。次回1月14日に開催される第4回検討会の冒頭で取り敢えず、「刑事訴追4%はごくわずかな例外」発言だけは撤回した方がよいと思う。
少なくとも厚労省や日本医療安全調査機構では、今回の制度の対象となる「医療事故」を年間2000件から2500件と予測しているらしい。とすると、刑事訴追4%というのは、年間80件から100件ということになるのであるから、到底「ごくわずか」とは言えないのである。
2.非懲罰性の担保のための諸方策

刑事訴追は、ごくわずかな例外ではない。当然、そこには医師法に基づく医道審議会の行政処分も伴うのである。さらには、訴訟、訴訟外も含めた民事紛争がそれ以上に多数、ひき起こされるであろう。しかし、厚労省のホームページ上の「医療事故調査制度に関するQ&A」では、A1〈参考〉において、「今般の我が国の医療事故調査制度は、WHOドラフトガイドライン上の『学習を目的としたシステム』にあたります。したがって、責任追及を目的とするものではなく、医療者が特定されないようにする方向であり、第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではないことから、WHOドラフトガイドラインでいうところの非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています。」と既に明言されている。
そうすると、これから重要なことは、非懲罰性を担保するための具体的な諸方策の議論であろう。

(1)調査報告書への再発防止策等の不記載
既に検討会でも議論されているとおり、院内・第三者機関を問わず、個別事例に関する事故調査報告書には「再発防止策」の項目を設けず、記載しないことは必須である。前のめりの医学的評価や原因分析も記載しないことが望まれよう。
つまり再発防止策その他は、個々的には院内の安全(管理)委員会などで検討すべきことであるし、他方、第三者機関としては多数事例を集積した結果を基礎にして比較検討し、個々的ではなくもっと普遍的・類型的な対策を見い出すべきなのである。

(2)調査委員会からの法律家の排除
宮澤氏に限らず、往々にして法律家は結局は規範予期的な思考に傾いてしまう。もともと医療安全の向上には直結していないのである。
したがって、院内の事故調査委員会からも第三者機関の事故調査委員会からも、医療側・患者側を問わず、弁護士を始めとした法律家は一切排除せねばならない。

(3)証拠制限契約の導入
もともと厚労省は、「医療者と患者の間の証拠制限契約については民間契約であり、国がコメントする立場ではない。証拠制限契約の妥当性等については厚労省が判断する立場にないため、規制も含めて実施することは想定していない。」と宣明している。しかし、証拠制限契約は、非懲罰性の担保としては最も有効適切であることに疑いはない。ただ、それだけに、法律家は皆、本能的にこれを嫌う。
そこで、非懲罰性の担保のために最も有効適切な証拠制限契約について、選択可能であってこれを規制するものではないことを、医政局長通知などで宣明しておくのがよい。もちろん、証拠制限契約を個々の患者との間で結んでおくかどうかは、個別の患者や医療機関の自由である。しかし、一旦結んだならば、第三者機関たる医療事故調査・支援センターも当該証拠制限契約には拘束されることとすればよいであろう。この点をどう考えるかが、第三者機関たる医療事故調査・支援センターが真に医療安全のことだけを指向しているかどうかを見極める試金石となるのである。
3.ダブルライセンス構成員への期待

今回の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」は、今までの医療事故調の検討会とは違う。今までの政策論議の検討会でなく、既に成立した改正医療法にのっとった議論のみをする検討会だからである。構成員24名中9名もの大量の法律家が入っているのも、このためであろう。そして、その中でも、新たなスターの2名を始めとする計4名のダブルライセンス(弁護士登録はしていないが、司法試験合格の場合も含む。)の構成員に対して、真の医療安全の向上、非懲罰性の担保のための諸方策の確立への期待は高い。

 

 

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