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Vol.017 痩せたがる女性アスリートのヘルスコントロールについて

医療ガバナンス学会 (2015年1月27日 06:00)


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金沢大学 人間社会学域
地域創造学類 健康スポーツコース3年
松原 亮

2015年01月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は金沢大学でスポーツ栄養を学ぶ大学3年生です。スポーツを支える機能性食品素材について学んでおり、食からのスポーツ競技力向上や健康へのアプローチに関心を持っています。
現在、若い女性アスリートのダイエットが問題となっています。金沢大学の体育会に所属している女性達も、「きれいになるために痩せたい、そのためにヘルシーなものを摂取する」「揚げ物を控えている」という人は少なくありません。アスリートは一般人よりも摂取カロリーや食事回数などが多くなければならないはずなのに、ダイエットをするとどういった影響があるのか、なぜ日本女性は痩せたいという気持ちが強いのかという2点について調査を進めました。

まず、女性アスリートのダイエットの影響として、主に無月経や骨粗鬆症、摂食障害などが引き起こされます。国立科学スポーツセンターで行われた国内トップレベルの女性アスリート683名を対象にしたアンケート調査によると、ダイエットや低体脂肪などにより引き起こされた無月経を含む月経周期異常のあるアスリートは約40%を占めます(能瀬ら2014)。無月経は女性ホルモンの分泌を妨げることで結果的に骨密度の低下をもたらし、疲労骨折につながります。そして選手寿命が絶たれるといった負のサイクルに陥ってしまいます。2012年に開かれた新体操のワールドカップで日本の選手が演技中に太ももを疲労骨折してしまいました。この選手は日本チームを引っ張る中心選手であり、21歳と若い年齢でした。中学時代からかなり減量をしており、それが原因で中学性の時から月経異常が現れていたようです。減量によって強い身体を作ることができない状態にあったのでしょう。しかしながら、アスリートにとって減量は、競技パフォーマンスの向上のために欠かせないこともあります。例えば、水泳部では、ベスト体重を設定し、それより体重が多い場合は、追加トレーニングやごはんなどの炭水化物量を減らすといった取り組みをするところもあります。こういった減量の有無、あるいは質といったものは競技種目によって大きく変わるようです。体脂肪率が低くなる傾向にある審美系のスポーツである新体操やフィギュアスケート、持久系競技の陸上(長距離)などの多くの選手が減量をしているそうです。スポーツの厳しい世界で戦う上で、必要な減量があるのかもしれませんが、過度の減量は選手生命を奪いかねません。現代の日本社会においてアスリートを含む女性は「痩せること」にたいへん注目しており、女性アスリートにもこの影響がうかがえます。これはアスリートとしては好ましくない状況であるといえます。

そもそも、なぜ痩せている女性が美しいとされるようになったのでしょうか。大きな要因は2つあると考えられます。1つ目は上流階級への憧れです。平安時代には太った女性は、ふっくらとした女性が美人とされ、着物を着るうえで「短足、寸胴、大顔」の女性が美しいとされました。大正時代になると、西洋文化である洋服が入ってきて、、西洋の美意識を受け取り、洋服の似合う痩せた身体が美しいという流れになってきました。この時代からファッションショーが始まりモデルなどのすらっとした美しさが評価されるようになりました。ここから世間では痩せ形が注目されるようになったといえます。2つ目にメディアの影響です。現代社会の中で、メディアから発せられる情報が与える影響の例として、2008年に「朝バナナダイエット」がテレビ場番組で取り上げられ、バナナが全国的に品薄状態となりました。メディアによって痩せることを肯定するような価値観の普及や氾濫した様々なダイエット法が紹介されることで女性たちが無理なダイエットをすることが危惧されます。

日本人の女性は世界の先進国のなかで特に痩せている女性の多い国です。厚生労働省が公表した2013年の国民健康・栄養調査では、痩せている成人女性の割合(BMI18.5未満)が過去最高の12.3%となっており、現在女性にとって痩せるということはたいへんな関心があるといえます。しかし、ダイエットをする女性たちの中には、栄養を考慮せず、食事を抜くようなダイエットや、サプリメントのみの食事にする人などがたいへん多く、健康への悪影響が懸念されます。本来は食べるものを減らすことではなく、運動量を増やすことにより、消費エネルギーを増加させ、体重を落とすことがベストであると言えます。しかし、多くの女性は運動嫌いや時間が無いなど様々な理由で運動をすることを避け、食事のコントロールでダイエットをしたがる傾向にあります。また、最近はメディアが女性アスリートを取り上げる頻度が増え、競技以外の面でも美しさを求められる場面が増えてきています。そのためか、トレーニングによって体格が大きくなることに消極的に捉える女性も少なくないようです。このように、女性アスリートのダイエットには社会的背景も大きく影響しているようです。
女性アスリートは前述したような理由から、ダイエットを強いられる環境にいることが多いです。食事と運動のバランスをしっかりと取ることはアスリートとして健康を維持した身体作りをするだけでなく、女性アスリートの女性としての将来に対して非常に重要な課題です。

スポーツ先進国である米国でも、競争の激しいアスリートの世界で、パフォーマンス向上のため、摂食障害などの問題が大きな議論となっています。とくにバレエ、フィギュアスケートなどのような審美系のスポーツに多いです。米国のあるバレエダンスの学生はダイエットにより食行動が乱れがちであり、半数以上(52.3%)が疲労骨折などの障害をしていることが報告されました(Thomas et al. 2011)。日本と米国との違いは、米国は問題意識を大きく持って、多くの論文を報告している点と、各トレーナーが栄養学を学び、アスリートを教育するという栄養指導の専門家が普及している点です。The National Eating Disorders Association(NEDA)が、アスリートの摂食障害に関して、コーチやトレーナー、家族がしかるべきことを警告しています。

トップクラスのアスリートを育てるためには家族や、スタッフ・コーチなどの周りの大人のサポートも重要です。特に指導者の知識や指導方法はきめ細やかなものにして、選手のベストパフォーマンスを出せる食事をふまえた減量などを行ってほしいと思います。2020年の東京オリンピックに向けて、若い女性アスリートの育成のため、食事を通したサポートがもっと充実していけば素晴らしいと思います。私自身もそういったサポートについて勉強していきます。

<引用参考文献>
日本スポーツ振興センター 女性アスリートの三主徴

http://www.jpnsport.go.jp/jiss/Portals/0/column/woman/seichoki_handobook_5.pdf

Thomas JJ & Keel PK. Disordered eating and injuries among adolescent ballet dancers. Eat Weight Disord 2011 Sep;16(3):e216-22.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22290040

Athletes and Eating Disorders

https://www.nationaleatingdisorders.org/athletes-and-eating-disorders

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