医療ガバナンス学会 (2015年1月30日 06:00)
この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20150115/1062167/?n_cid=nbptrn_top_osusume
内科医師
大西睦子
2015年1月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
◆中性脂肪は「二酸化炭素、体液」になる!?
みなさんに質問です。「ダイエットで減った脂肪はどこへ行くのでしょうか?」
この答えを、ニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales)のアンドリュー・ブラウン教授と、ABCテレビの科学番組などで活躍の物理学者ルーベン・メアーマン氏が、世界五大医学雑誌の1つ、イギリス医師会雑誌(British Medical Journal)に報告しました。
■参考文献
the British Medical Journal「When somebody loses weight, where does the fat go?」
http://www.bmj.com/content/349/bmj.g7257
University of New South Wales「When we lose weight, where does the fat go?」
http://newsroom.unsw.edu.au/news/science/when-we-lose-weight-where-does-fat-go
太り過ぎや肥満の増加に伴い、世界中の人が、ダイエットやフィットネスに高い関心を抱いています。ところが、ブラウン教授とメアーマン氏は、専門家でさえ、体重が減少したときの脂肪の代謝に関し、驚くほど無知で混乱しているというのです。
彼らは医師、栄養士やパーソナルトレーナー各50人(計150人)に「脂肪が減ると、それはどこに行くのか?」という質問をしました。するとほとんどの人が、脂肪はエネルギーまたは熱に変換されると考えており、その他の人たちは脂肪の代謝物は糞便中に排泄される、筋肉になると答えていました。
私たちの脂肪細胞は、中性脂肪が蓄えられています。ですので生物化学的に言えば、減量で脂肪だけを落としたいときは、脂肪細胞に貯蔵された中性脂肪を代謝すればいいということになります。
では中性脂肪として貯蔵されるのは何かといえば、食事中の過剰な炭水化物やタンパク質。これが変換されて脂肪細胞の脂肪滴に貯蔵されるわけです。また過剰に摂取された脂肪は、いったん分解されて吸収され、脂肪に戻して貯蔵されます。
中性脂肪は、炭素、酸素および水素からなりますので、私たちが蓄えられた脂肪(つまり中性脂肪をエネルギー化したもの)を代謝すると、老廃物である水と二酸化炭素になります。二酸化炭素は、私たちが息を吐き出すときに放出されます。また水分、尿、汗や涙という体液として排出されます。
つまり「脂肪が減ると、それはどこに行くのか?」という問いに対する、著者らが求めた正しい回答は「二酸化炭素、体液」でした。
◆中性脂肪は84%が呼吸で、16%が汗や尿など体液で排出されている。
さて、1つの中性脂肪の分子を、完全に酸化するには、たくさんの酵素や生物化学的なプロセスが含まれるため、解説しようとすると複雑なのですが、著者らはこれを、次のように要約しました。
まず、中性脂肪が酸化されると、二酸化炭素、水およびエネルギーに変換されます。
変換の化学反応式は「C55H104O6(トリグリセリド分子)+78O2→55CO2+52H2O+energy」で、ここから推定し、化学量論的には脂肪10kgを失うためには、酸素29kgの吸入が必要ということになります。この化学反応により生成される二酸化炭素量が28kg、水分が11kgだと著者らは算定しました。ただしこの時点では10kgの脂肪の質量の割合は不明です。
そこで著者らは、質量保存の法則に従い、重さの換算をしました。結果、体重減少の間に、失われた脂肪の84%が私たちの息を通じて、16%が尿、汗、涙、または他の体液などを経由して排出されることを発見しました。二酸化炭素の排出が肺なので、脂肪燃焼はエネルギーの放出ではなく呼気なんだ、というわけですよね。
つまり質量レベルでは10kgの脂肪を失うと、8.4kgが肺を介して二酸化炭素となり吐き出され、残りの1.6kgは水となり、尿、汗、涙および他の体液中に排泄されるということです。
では、より多く呼吸をすれば、体重は減少するのでしょうか? もちろん、答えはノーです。
必要以上の呼吸は、過呼吸を引き起こしますし、めまい、動悸、意識の損失を失う可能性まであります。やはり鍵は運動なのです。
運動中は体内のより多くの二酸化炭素を取り除く必要があるため、自然に呼吸が速くなります。
例えば、70kgの成人が座ってばかりいる生活を送っている場合に吐き出す二酸化炭素量は1日約200gです。運動をすれば当然増え、ジョギング1時間で代謝率は7倍も増加し、追加で約40g、二酸化炭素を体内から取り除きます。
さて、体脂肪10kgだと大きな目標なわけですが、一般人からすると体脂肪1kg減らすにはと考えてみましょう。
1日1時間のジョギングで40gの二酸化炭素が追加排出されるので、単純に計算すると1時間ジョギングを月21回する必要があります。ゆっくり走ったとしても、月21回ジョギングをすると月に150~200km走る計算になります。この運動量は、アスリート並みです。それだけ摂取したものを排出するのが大変なわけです。
一般的に、ダイエットの効果が目に見えて出てくるのは開始から2~3カ月後とされている通り、日々の積み重ねが大切だということが分かります。初めの基礎代謝率の向上がダイエットの鍵になるので、続けられる習慣づけの工夫が必要ですね。
とはいえ運動を毎日継続すれば、自然に体の脂肪が落とせる可能性が高まります。過激なカロリー制限をすれば、ある程度体重は落とせますが、体のシェイプ=良い体型のためには、結局、余分な脂肪を減らし、筋肉をつけなければならないのです。
当たり前のことではありますが、毎日の適度な運動とバランスの良い食事が、一番おすすめです。
大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。