医療ガバナンス学会 (2015年2月11日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/2015020200040.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2015年2月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
そのため、周辺環境の放射線が多い場合(空間線量が高い場合、言い換えれば周りの騒音が大きい場合)に、その体から漏れ出る小さな音が聞き取れない。という事態が発生しました。機器は通常、周辺環境の放射線分を引き算する(聞き取った音から周りの騒音だけを取り除き、体から発せられるものだけ残す)機能を備えています。しかしながらその当時、騒音が大きすぎてうまく分離できないという状況が続いていました。椅子型でバス(屋外)に搭載されていたからということもあります。バスの周りに遮蔽のためのついたてを置いたり、周辺を洗浄したりしましたが、十分な効果が得られませんでした。2011年9月ごろから、病院内に設置し、遮蔽も強い機器を運用できるようになり、問題は解決しましたが、その当時のデータの再解析が必要でした。
もう3年以上も経ち、何をいまさらとお感じになる方も多いかもしれません。しかしながら、やっと再解析が終了し、その解析方法の妥当性について、学術誌による査読を経た上で、検査を受けられた600人弱の方々に結果の再通知までたどり着くことが出来ました。論文自体は下記です。
http://stacks.iop.org/0952-4746/34/787
プレスでの発表や、説明文、必要であればもちろん外来でも説明させていただこうと思っています。きっと突然で驚かれた方もいらっしゃるのではないかと推測します。こんなにも報告が遅くなってしまったこと、検査に携わっているものとしてお詫びしたいと思います。
ただ、この再解析は2つの理由で重要な意味を持っていました。1点目は、2011年7月の検査結果であり、事故初期の内部被曝がどの程度かを知るために重要な情報であることです。今でこそ色々な検査体制が維持されていますが、2011年7月に検査を行っていた機関はほとんどありませんでした。そして2点目は、この当時、主に原町区と鹿島区の山沿いに居住の住民の方を対象に検査を行っていたことです。プルームの影響で、南相馬市は西の山側の汚染が市内で相対的に高いことが知られています。以上をあわせると、今回の再解析の結果は、南相馬市の事故初期の内部被曝で相対的に高いだろう値の方がどの程度だったかを示していることになります。
結果としては、以前に計測されていた値と比べ、さほど大きな誤差をうむことはありませんでした。600人全員でCs-134および137からの預託実効線量で1mSv以下、むしろ多くの方が0.1mSv~0.2mSv以下ということがわかりました。ただ、スペクトル上のピーク位置の関係上Cs-134のみ復元可能であったこと、成人は2011年9月以降に導入された機器でも汚染が検出されたため、そこから遡ってデータの復元が出来た、言い換えればその当時の小児の計測結果が復元できなかったことは付け加えておかねばならないと思います。(ただし小児はその後2011年9月以降に導入された器械で早期に再検査を受けている。)
再解析は、早野龍五先生が中心になって行ってくださいました。教室の学生さんも尽力してくれました。完全にボランティアでここまでやってくださいました。感謝しています。最終的に再解析を可能にする決め手となったのは、市立病院のスタッフが、機器の精度を見るため自分たち自身を何度も繰り返し計測し残してくれていたおかげで、データの整合性を確認できたこと。2011年9月以降に導入された機器でも計測を行っていたため、最終的に再解析した結果の妥当性の検証が可能であったことでした。遅くなってしまいましたが、報告させていただきます。
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