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Vol.028 米FDAの警告で発覚! やっぱり危ない!? 粉末状カフェインの使用

医療ガバナンス学会 (2015年2月12日 06:00)


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この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20150205/1062527/

内科医師
大西睦子

2015年2月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
仕事や勉強のため、眠くならないようにとカフェインを摂取することはありませんか? そのカフェインを手軽に摂れて、眠気を抑えたり脂肪燃焼に期待できるなどとして人気を得ていた「粉末状カフェイン」の過剰摂取が原因とされる死亡事故が2014年5月に米国で発生しました。この状況を踏まえ、粉末カフェインについて解説していきます。

◆粉末状カフェインとは?

http://expres.umin.jp/mric/mric_vol.28.pdf

2014年、米食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)は、消費者に対し、純粋な粉末状カフェインの使用を避けるように警告を出しました。

【参考文献】
U.S. Food and Drug Administration「FDA Consumer Advice on Powdered Pure Caffeine」

http://www.fda.gov/Food/RecallsOutbreaksEmergencies/SafetyAlertsAdvisories/ucm405787.htm

純粋な粉末状カフェインとは、100%のカフェインのこと。ティースプーン1杯の粉末状カフェインに、コーヒー25杯分相当のカフェインが含まれています。

FDAによると、純粋なカフェインは強力な興奮剤であり、非常に少量でも過剰摂取になる危険性があります。過剰摂取は不整脈や発作を引き起こし、死に至る可能性もあります。あるいは軽くても嘔吐、下痢、昏迷や、「今がいつでどこなのか」などが分からなくなる見当識障害といったカフェイン中毒の症状をきたすことがあります。

粉末状カフェインによるこうした症状はコーヒー、紅茶、またはほかのカフェイン入りの飲み物を過剰に飲んだ場合よりも、はるかに深刻になることが多いというわけです。

しかし、粉末状カフェインは若者にとって魅力的な売られ方をしています。例えば運動のパフォーマンスを高めるためだったり、減量のためだったり、あるいは遅くまで勉強するためとして。

その弊害は大きく、米国では2014年5月と6月に、粉末カフェインの過剰摂取で少なくとも2人の若者の死亡が確認されています。

◆カフェインは、量しだいで良薬にも毒薬にもなる

そもそも粉末状カフェインと通常のカフェインは、人間が摂取するまでの過程が異なります。通常私たちが摂取するカフェインはチョコレートのココア、茶葉、コーヒー豆など、植物に含まれているものです。一方、粉末状カフェインは化学的に抽出されたもので、ソーダなどの飲み物、医薬品や食べ物に小量が使用されてきました。

FDAのデータによると、主な飲み物に含まれるカフェインの量は以下のようになります。

飲み物100gあたりの/カフェインの量(mg)

[1]コーヒー100g/カフェイン40mg
[2] デカフェインコーヒー100g/カフェイン1mg
[3]インスタントコーヒー100g/カフェイン26mg
[4] 紅茶100g/カフェイン20mg
[5]コーラ100g/カフェイン8mg
[6]レッドブル100g/カフェイン30mg

ただし、食品中に含まれるカフェインの量は、1人分の量、製品の種類、および調製方法などに応じて変化します。

例えば、コーヒーに含まれるカフェインの量は、コーヒー豆の種類や製造方法に応じて、大きく変化します。焙煎したコーヒー豆は、0.8~2.5%のカフェインが含まれています。 一般的には濃いローストコーヒーは、軽いローストコーヒーより、カフェインの量が少なくなります。なぜなら、焙煎の過程で、コーヒーの豆のカフェイン含有量が減少するからです。ですので、1杯のコーヒーに含まれるカフェインの量は、エスプレッソのシングルカップ(=30ml)64 mgから、自動ドリップコーヒー 8オンス(=237 ml) 約145mgまでと大きな差があります。

また、チャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)の新鮮な葉には、約4%、カフェインが含まれていますが、茶系飲料の1杯あたりのカフェインは一般的に、約20~80mgで、これはコーヒー1杯当たりに含まれるカフェインの約半分量です。紅茶のカフェイン含有量は、ほかの茶よりも高くなりますが、これは茶のカフェイン含有量が調製の仕方に影響を受けるからです。ちなみに茶の色はカフェインの量の良い指標ではありません。例えば、緑茶の玉露には正山小種(ラプサン・スーチョン)のような濃い色お茶よりもはるかに多くのカフェインが含まれています。

【参考文献】
U.S. Food and Drug Administration「New caffeine report shows no measurable change in consumption trends of the U.S. population.」

http://www.fda.gov/downloads/AboutFDA/CentersOffices/OfficeofFoods/CFSAN/CFSANFOIAElectronicReadingRoom/UCM333191.pdf

いずれにしても、適度な量のカフェイン摂取は、エネルギー消費の増加、身体能力の向上、疲労減少、瞬発性の向上、認知機能の強化、集中力と短期記憶の向上につながることが報告されています。

では、カフェインの適度な量をとはどれくらいなのでしょうか?

一つの目安として、内閣府の食品安全委員会が2011年にまとめた海外のリスク管理機関等の状況の報告があります。それによると、悪影響のない最大カフェイン摂取量は、健常な成人で1日400mgまで。なお現在、米国の成人の80%は平均1日あたり200~300mgのカフェインを摂っているとされています。

ただし、習慣的にカフェインを摂取し続けると慢性中毒(依存)になり、不安、疲労感、吐き気や頭痛などの症状が出現する場合があります。また一般的な成人で、1時間以内に体重1kgに対し6.5mg(体重70kgの人で455mg)以上のカフェインを摂取した場合は約半数が、3時間以内に、体重1kgに対し17mg(体重70kgの人で1190mg)以上のカフェインを摂取した場合には100%の人が、急性中毒を発症します。つまり、コーヒー1杯を8オンス(=約240ml、カフェイン100mgを含む)とした場合、3時間で12杯のコーヒーを飲んでも、急性中毒になる可能性があるわけです。

◆粉末状カフェインはサプリメント

現在、粉末状カフェインは、米国ではサプリメントとして、オンラインショップや店舗で販売されており、購入に際し年齢を問われたりもしていません。FDAは、食品や医療品に含まれるカフェインについては、規制を設け安全性を管理していますが、サプリメントである粉末状カフェインは、FDAの承認がなくても販売できます。つまり粉末カフェインは、FDAが規制するインスタントコーヒーより、販売経路に制約がないといえます。

そもそも米国においてサプリメントは薬とも食品とも位置付けられていませんが、どちらかと言えば食品寄りで、販売前にFDAの承認を必要としません。つまり科学的根拠に基づく安全性や有効性をFDAに証明しなくても販売できます。しかも、含まれる成分が副作用を引き起こすことが知られていても、製造業者は副作用について消費者に通知しなくても罪に問われたりしません。

◆FDAの承認が必要なくても大丈夫?

とはいえサプリメントのラベル表示の内容が正確かつ真実であること、安全であることを保障するのは、製造業者や販売代理店の責任です。「この製品は栄養不足を助け、健康をサポートします」または「健康上の問題のリスクを低減します」という文言も、効果が本当であれば表示できます。

ただし同時に「この製品はFDAの評価を受けていません。またこの製品は疾病の診断、治療、治癒、予防を目的としたものではありません」とも表示しなくてはなりません。また「特定の疾患または状態の治療、予防または治癒」などの表示は、未承認薬に関しては違法な表示と判断されます。

もちろん実際に問題が起こり、安全ではないとFDAが判断すれば、FDAは業者に警告するか、市場から製品を排除することもできます。

◆過去にはダイエット・筋肉増強サプリメントが販売禁止に

例えば2004年にFDAは、Asia MedLabs社の「VITERA-XT」というダイエット・筋肉増強用サプリメントの販売を禁止しました。調査により、ラベルに表示されていた「伝統的なアジアのハーブ製剤」の一つとして天然植物由来で漢方薬(麻黄など)の主成分であるエフェドリンが含まれていると判明。覚醒や代謝促進の効果がある反面、血圧が上がって循環器に負担がかかり、高血圧や脳卒中、心筋梗塞を引き起こし、死に至る危険性があると認めたのです。

実際、エフェドリンに関連してすでに155人が死亡、健康被害の訴え(副作用報告)も1万6000件以上に上るなど、社会問題となっていたため、販売禁止の措置が取られたのです。

【参考文献】
U.S. Food and Drug Administration「FDA Acts to Remove Ephedra-Containing Dietary Supplements From Market」

http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/2004/ucm108379.htm

LAWYERS.COM「Ephedra Lawsuits」

http://toxic-torts.lawyers.com/toxic-torts/ephedra-lawsuits.html

◆薬物乱用衛生管理局が粉末状カフェインでの緊急搬送を把握していない

米国政府によると、エナジードリンクに関連する合併症で、年約2万1000人が、緊急治療室を受診したことが報告されています。ところが、薬物乱用衛生管理局(Substance Abuse and Mental Health Services Administration:SAMHSA)は、どれだけの人が、粉末状カフェインが原因で緊急治療室を受診したかを把握していません。

【参考文献】
Substance Abuse and Mental Health Services Administration(SAMHSA)「Update on Emergency Department Visits Involving Energy Drinks: A Continuing Public Health Concern」

http://www.samhsa.gov/data/sites/default/files/DAWN126/DAWN126/sr126-energy-drinks-use.pdf

今後FDAは、粉末状カフェインの安全性など調査を進める予定です。その結果次第で、粉末状カフェインの販売規制や禁止する可能性はあります。

◆魔法のサプリメントはない

さて今日、マルチビタミンやコラーゲンなど、サプリメントは日本人にとっても決して特別なものではありません。若者はもちろん、健康を気にする中高年や、関節痛等に悩む高齢者にも使用が広がっているようです。薬よりも気軽に手を伸ばせる健康食品という位置づけのせいかもしれません。

そんな中、アベノミクスの成長戦略の一環として、政府は、米国のように、サプリメントのラベル表示の規制を緩和する方針を打ち出しました。これにより今後、サプリメントの市場は拡大するでしょう。

しかし忘れてはならないことは、健康増進・維持には、適度な運動とバランスのいい食事、睡眠が必要だという基本です。これらに置き換わる、魔法のサプリメントはないのです。サプリメントを活用してメリットを得たい場合は、個別に専門家の意見を求め、慎重に慎重を重ねてその必要性を検討すべきでしょう。

議論されている規制緩和が、単なる市場拡大だけでなく、サプリメントの正しい知識と利用、ひいては国民の健康につながることを期待します。
大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。

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