医療ガバナンス学会 (2015年2月13日 06:00)
中国における最近20年間の主な伝染病の流行傾向
復旦大学公共衛生学院
周芸彪
姜慶五
2015年02月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
1949年以前は、伝染病は死亡の主因であり、総死亡人口の15%は伝染病が原因だった。しかし、中国で持続的に報告されていた18種の法定伝染病の年間発病率は、1970年から急速な低下傾向を示すようになった。全体的な調査や治療、予防法や予防接種等一連の措置が普及することにより、マラリア、麻疹、百日咳や赤痢等の伝染病はいずれも効果的にコントロールされるようになった。但し1990年以降は、報告された伝染病の年間発病率は変動傾向を見せている(表1)。
http://expres.umin.jp/mric/mric_vol.029.pdf
ここ数年では、法定伝染病のうち、大多数の発病と死亡例はいずれも数種の主要な伝染病に集約され、報告数が比較的多い伝染病は結核、B型肝炎、梅毒、淋病等であった。中国で肺結核の報告発病率は全体的に上昇傾向を示し、1997~2002年の上昇率は緩やかであるが、2003年以降は一定の勢いで上昇し、2005年にピークに達し、現在に至ってもなお比較的高い水準を維持している。
また、中国は肝炎大国で、A、B、C、D、E5種のそれぞれの肝炎はいずれも流行しており、そのうちB型肝炎の患者が最も多い。B型肝炎ワクチンの推進・普及と衛生意識の強化に伴い、新しくB型肝炎に罹患する集団は低下し続けている。それでも毎年が感染している。2013年を見ると、B型肝炎の発病は125万例余りで、739人が死亡した。性感染症は中国でなお大きな社会問題の一つとなっており、急速な増加傾向をたどっている。
1970年代までに、性感染症は中国ですでにほぼ撲滅されていた。しかし、社会経済改革の進捗過程に伴って、また大量の流動人口から、性感染症は再び活発化し、かつ急速に増加している。今日では、淋病と梅毒はすでに中国法定報告伝染病のトップ5に入っている。中国で流行する寄生虫疾患も比較的多く、その流行の歴史は長い。ただし、1949年以降、住血吸虫症とマラリアの流行状況はある程度コントロールできるものとなった。
広東省は中国でのデング熱多発地区であり、発症例は中国の約80%以上をも占める。1990年~2010年まで、発症例は合計13,539例が報告されている。さらに2014年に広東省でデング熱の発症が突発的に再燃し、報告されたデング熱発症例は累計38,753例、そのうち重症例が20例、死亡例が6例あった。
中国は1985年にHIV感染の第一例が出現した後、流行が始まり、現在では中国31の省、市、自治区でいずれもHIV感染者が同定されている。2008年末まで、報告されたHIV感染者/エイズ患者の累計は276,335人、そのうちエイズ患者は82,322例あり、死亡は38,150例であった。その死亡率は比較的高く、報告死亡者数は中国のトップ5を占める。2008年から手足口病が法定上のC型伝染病に分類され、2010年までの3年間で、341万例余りの発病例が報告されており、そのうち死亡は1,384例あった。
21世紀でも、伝染病は依然として公衆衛生業務の重点課題であり、中国はウイルス性肝炎(特にB型)、肺結核、下痢、手足口病、エイズ等を伝染病防止・予防の重点疾患とするべきである。疫病状況のコントロールや監視を強化し、予防を中心に、治療をも心掛ける必要がある。
Yibiao Zhou(周芸彪):上海復旦大学公衆衛生学院准教授。1996年北京医科大学卒。2006年復旦大学学位取得。専門は住血吸虫症の疫学で、130以上の論文を発表。
Qingwu JIANG(姜慶五):マカオ特別区政府衛生局顧問。1975年上海第一医科大学卒。同大学公衆衛生学院で疫学の学位取得後、ハーバード大学、バークレー大学、英国サセックス大学等留学を経て、1996年より2013年まで上海復旦大学公衆衛生学院学長。公衆衛生関連で多数の政府委員会や学会の役員を勤めている。専門は住血吸虫症やインフルエンザの疫学や対策。200以上の論文を発表。疫学の教科書編纂にも携わる。