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臨時 vol 118 「厚生労働省第3次試案に対するパブリックコメントの分析」

医療ガバナンス学会 (2008年9月1日 11:58)


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      一医療者の大多数は反対または要修正
            大阪船員保険病院 麻酔科部長    木内淳子
            大阪船員保険病院 泌尿器科部長   客野宮治
            神戸大学     医療安全室副室長 江原一雅


 厚生労働省は、2008年4月3日に医療安全調査委員会に関する「医療安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・防止の在り方に関する試案―第3次試案」を公表し、この試案に対するパブリックコメントを募集した。また6月には公募したパブコメを、厚労省のホームページで公表した。さらに、6月3日には、その改訂版である「医療安全委員会設置法案(仮称)大綱案」が公表され、これに対するパブコメが募集され、現在も募集中である。今回、厚生労働省ホームページに公表された、7月末の時点までに提出された第3次試案に対するパブリックコメントを分析した。
(1) 集計結果
公表された意見は、団体58件、個人404件であった。
試案に賛成するもの(以下 賛成と略す)、修正を求めるもの(以下 修正)、反対するもの(以下 反対)、態度不明のもの(以下 不明)として分類した。
I、団体
団体でみると、賛成、修正、反対がほぼ同数に分かれた(<a href=”http://mric.tanaka.md/%E7%AC%AC3%E6%AC%A1%E8%A9%A6%E6%A1%88%E9%9B%86%E8%A8%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95.pdf”>図1</a>)。医療側の団体のみでみると、賛成15%、修正36%、反対49%で、約8割以上が反対または修正であった(<a href=”http://mric.tanaka.md/%E7%AC%AC3%E6%AC%A1%E8%A9%A6%E6%A1%88%E9%9B%86%E8%A8%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95.pdf”>図2</a>)。団体の種別で分類すると結果は下記の如くになった。
1)学会:応募した学会は13であり、表明した意見により以下のように分類した。
賛成2:日本外科学会、日本心臓外科学会
修正6:日本医学会、日本胸部外科学会、日本脳神経外科学会、日本病理学会、日本内科学会および内科関連12学会、日本臨床細胞学会
反対5:日本救急外科学会、日本産婦人科学会、日本集中治療医学会、日本麻酔科学会、日本脳卒中学会
2)医療団体:医師会7、保険医師会5、その他14の、総計26団体であった。
1 医師会系
賛成1:日本医師会
修正3:小樽医師会、神戸市医師会、日本歯科医師会
反対3:諫早医師会、大阪府医師会勤務医部会、兵庫県医師会
2 保険医師会系
賛成 :なし
修正1:日本保険医団体連合会
反対4:愛知県保険医協会勤務医の会、愛知県保険医協会政策部、東京保険医協会、北海道保険医会
3 その他
賛成3:日本看護協会、日本病院会、日本薬剤師会
修正5:全日本民主医療機関連合、日本医療法人協会、日本産婦人科医会、日本病院団体協議会、四病院団体協議会、
反対6:全国医学部長病院長会議、全国済生会病院長会医療政策委員会、全日本病院協会、東大医科研探索医療ヒューマンネットワーク部、日本精神化病院協会、地域医療研究会
3)患者団体:総計11であった。全て賛成で、修正および反対は全くなかった。
医療過誤原告の会、医療事故市民オンブズマン・メディオ、医療事故情報センター、医療情報の公開・開示を求める市民の会、医療の良心を守る市民の会、患者の権利オンブズマン、患者の視点から医療安全を考える連絡協議準備会、京都医療ひろば、陣痛促進剤による被害を考える会、東京女子医大病院患者連絡会、薬害・医療被害をなくすための厚労省交渉実行委員会
4)その他の団体:総計8であった
賛成2:医療問題弁護団、日本労働組合連合会
修正4:日本医療労働組合連合会、NPO法人マネジメントアシスト、特別非営利活動法人医療と法律研究協会、生存科学研究所医療政策研究会
反対1:NPO法人医療制度研究会
不明1
II、個人
個人として応募したものは、総計404で、賛成11名(3%)、反対は348名(86%)、何らかの修正を求めるものを含めると、386名(95%)となった(<a href=”http://mric.tanaka.md/%E7%AC%AC3%E6%AC%A1%E8%A9%A6%E6%A1%88%E9%9B%86%E8%A8%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95.pdf”>図3</a>)。医師(303名)のみでみると反対267名、修正28名、合計295名で97%になった(<a href=”http://mric.tanaka.md/%E7%AC%AC3%E6%AC%A1%E8%A9%A6%E6%A1%88%E9%9B%86%E8%A8%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95.pdf”>図4</a>)。
(2) 内容分析
賛成を表明した団体は、いずれも医師法21条・業務上過失致死罪により医師が警察に逮捕されていること、医療行為が刑事罰に問われている現状が問題であると認識していることからであると考えられた。また賛成した団体はいずれも、この調査委員会ができることにより医師の刑事罰が減少すると主張している。例えば、医師法21条に基づく異状死の届け出先を警察でなく、事故調査委員会のような第3者機関に変更されることが賛成を表明した大きな理由のひとつであった。
反対を表明した団体の理由としては、
1、真相究明及び再発防止策作成と紛争処理機関との2つの矛盾した役割をこの調査委員会に任せていることが根本的問題である。
2、第3者が医療事故に介入することにより、事故調査と真相究解明に長期間を要する場合は、従来よりも患者・医師の関係が悪化する、と指摘している。
また修正を要するとした意見では、
1、事故調査委員会への届出範囲が明確でない。
2、事故調査委員会から警察に重大な過失を届け出る場合はその範囲を明確にするべきである。
3、この調査委員会を医療従事者の処分権を持っている厚生労働省の下に設置するべきでない、とする意見が多かった。
(3) まとめ
パブリックコメントを分析してみると、団体個人ともに反対または修正を要するとの意見が大多数で、特に医療系団体、個人では医師にこの傾向が著明であった。

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