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臨時 vol 80 「福田衣里子さんインタビュー」

医療ガバナンス学会 (2009年4月10日 10:47)


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「おかしいことは、おかしいと声を上げて」

医師のキャリアパスを考える医学生の会
竹内麻里子(東京大学医学部4年)


去る2月18日、参議院議員会館の一室で、薬害肝炎原告である福田衣里子さん
に、「医師のキャリアパスを考える医学生の会」を代表してインタビューさせて
いただきました。福田さんは、フィブリノゲン製剤によりC型肝炎ウイルスに感
染していたことを2001年(当時20才)に知り、闘病生活を続けつつ、2004年から
は実名公表原告となって国を相手に闘われました。現在は、次期選挙で国会議員
に立候補することを決め、精力的に活動なさっています。医学生という立場から、
福田さんがこれまで感じてこられた思いと、これからに向けての決意を伺いまし
た。


――どういった思いで議員を目指していらっしゃるのですか。

今の政治は、人の命、人生が、どんなに尊いか分かっていないと思うんです。
政治がこのままでは、たとえ薬害がなくなったとしても、救えるはずの命が救わ
れない現状は変わらないでしょう。だから根本を正さないといけない、そう考え
たのがきっかけです。

基本的には、国民の皆さん誰にとっても「命」そして「人生」を第一と考えて、
それを支えていきたいという思いがあります。一部の人たちのために沢山のお金
が無駄に使われ、一方、そこまで苦しまなくてもいいはずの人たちが苦しんでい
る、という現実があります。前者のお金をもっと有効に活用したなら、どれだけ
の命と人生が救われると思っているのか、と悔しくてなりません。ときに、怒り
さえこみ上げてきます。こうしている今も、医療者の方々は、労働基準法に違反
してまで診療にあたっています。その思い、忍耐、苦労で、現在の医療はようや
く保たれているのです。しかし、それも限界に来ているのではないでしょうか。
医療・社会保障費がこれ以上かさむと国が大変だ、などと言われますが、医療者
の現状を知らずにないがしろにしておいて、国民の命が救われるとは思えません。

政治の世界に入ることについては実際、「これからはのんびり普通に生きてい
きたい」という気持ちとの葛藤がありました。しかし、そもそも薬害という不幸
な事態は、「自分さえ、今さえ良ければいい」という気持ちの産物でした。医者、
患者、薬剤師、企業、厚労省……、どこかで気づいた人はいたと思うのです。け
れども、保身のため、家族のため、と言いながら、それぞれが口をつぐんでしまっ
たことで、何十年にも亘って被害が拡大してしまいました。それは被害者も同じ
だと思ったんです。自分が病気だとわざわざ言いたくないから、言わない。けれ
ど、言わないことが、被害を拡大させる一端を担うのではないか。だから薬害に
立ち向かっていくためには、そんな理由で声を上げるのをやめてはいけない。そ
う思ったのです。どれだけのことが自分にできるかわからない。でも、チャンス
があれば挑んでいかないといけない。勇気を持って声を上げれば、同じ思いを持っ
た仲間は沢山いる、そう信じています。


――ひとつの目標として、肝炎対策の法案を出すことがあると思うのですが、そ
れについて具体的に教えていただけませんか?

2008年に和解が成立して、国の責任が認められました。しかしそこでは一部の
原告しか救済されなかったため、福田総理大臣(当時)に一般肝炎対策とそのた
めの法案成立をお願いしました。しかし現在、いまだ実現されていません。あれ
から1年以上経ったというのに、どうなっているのでしょうか。患者の命は待っ
てくれないのだから、早く何とかしなければなりません。国会議員という考えも、
「こうなったら現場に行って、自分が法案を作る側になって活動していきたい」
というところから出てきたものなんです。


――政治の世界で活動する上で目標にしている方はいらっしゃいますか

上杉鷹山です。上杉鷹山のような、思いやり、真心を持った改革が今こそ必要
です。小泉純一郎元総理は、改革には痛みを伴うと言ってはばかりませんでした。
しかし、それで成功した例は一つもないと思うのです。痛みだけおしつけて改革
だといっても、それはだれのための改革でしょうか。そうではなく、それぞれが
支えあって生きていけるような社会を実現したい。それは、「子供が一番」「お
年寄りが特に大事」というような考え方でなくて、それぞれすべてが大事、とい
うことです。


――福田さんはとてもパワフルに見えますが、その原動力は何ですか?

はっきりとは自分でもわからないんですが、自分のためだけだったら、これほ
ど力は出ないと思います。幼い頃から、何に関しても、誰のことでも、おかしい
ことをおかしいと思いながら中途半端に諦めることはできないという気持ちがあ
りました。見据えるような表情をした小さい頃の写真があるんですが、今でも同
じ顔をしているといわれます。「簡単にだまされてたまるか!」って。

でも、それは今まで本当にたくさん騙され続けてきたからだとも思います
「やります、信じてください」という言葉を信じても、何ヶ月たっても音沙汰が
ない。最初はまだ素直で、「誰々さんがやってくれるって!よかったね」と喜ん
でいたのが、だんだんと、「どうせまた嘘だ」と思うようになっていきました。


――もともとの性格というより、裁判の中でそういった気持ちが生まれてきたと
いうことですか?

むしろ、裁判の前のことかもしれません。肝炎の治療をする時、私自身のまわ
りには誰も肝炎の人はいなかったし、友達も今ほど肝炎のことを知りませんでし
た。病気や治療の話は「やっぱり暗い話題だから」と、人にもあまり話せず、孤
独な思いでいました。信じていた薬や国といったものにも裏切られて、人間不信
になって、「結局人間なんて、自分の欲のために人が病気になって死のうが構わ
ないんだ」と思っていたんです。

それが原告になったら、皆、肝炎という病気と闘っていて、言えばわかってく
れた。「皆が頑張っているから自分も頑張らないと」と、お互い支えることがで
きました。まるで自分のことのように考え、協力してくれた学生さんや、事務所
を傾けながらも、いつ終わるかわからない裁判をずっと支え続けてくれた弁護団
の皆さん、原告の仲間、政治家の方々など、本当に無償の愛にあふれた多くの人
々に出会うことができたんです。

それで心の回復ができました。「人間なんて皆同じ、誰も信じられない」と思っ
ていたのが、「悪いことをしたのはごく一部の人達なんだ」と思えるようになり
ました。正義感を持って、正しいことは正しい、おかしいことはおかしい、と立
ち向かっていける仲間、一緒になって泣いて喜んで怒ってくれる仲間にたくさん
出会えたことが、今の自分を作っていると思っています。

人間の醜さも、人間の美しさ強さも両方見て、そしてまた醜さを見て・・・、
これまでその繰り返しだったと思います。官僚の抵抗や、ブログやネットでの誹
謗中傷もありました。「肝炎患者は金かかるから早く死んでしまえ」と書かれた
こともありました。一方で、患者にも身勝手な人はいました。救済法が成立した
後、次のステップに向かって、カルテが無い人達をどうやって救済していこうか
考えているのに、自分が救済されるかどうかしか関心がなかったり、母子手帳に
フィブリノゲンと自分で書き込んで持って来たりする人もいました。とにかく、
いろいろな人たち、人間のいろいろな姿を見ることができましたね。


――世間には、薬害のような問題をどこか他人事のように見てしまう人も多いと
感じますが、そういった国民性についてどう感じますか?

問題自体をよく知らないという理由もあるでしょうが、結局、多くの人が、自
分のことしか考えていないのだと思います。

たとえ裁判で国に責任を認めさせたところで、薬害を被った事実が無くなるわ
けではなく、病気が治ったり、その時間が戻ってくるわけでもありません。では
なぜ闘うかというと、同じ悲劇を二度と繰り返させないために他なりません。私
も最初は自分一人の問題としか考えられていませんでしたが、そうではなく社会
全体の問題なのだ、と気づいたときに、何かしないといけないと思えたのです。
しかし現在の日本には、「今を我慢して諦めるのは、子供や孫の未来を諦めるこ
とだ」という発想がありません。逆に、今さえよければいいという風潮があるよ
うです。

例えば訴訟でいえば、原告だけでなく、弁護士や支持してくれる人たち、政治
家の方々など、誰が欠けていても解決しませんでした。これが普通に暮らしてい
ても、自分を支えてくれる様々な人がいて、その上で自分が存在できていると感
じることが必要なのではないでしょうか。


――最後に、医学生へのメッセージをお願いします。

信頼できるお医者さんに出会えた時に、私は死なないと確信できました。入院
した時、担当医はどちらかというと無口なお医者さんでしたが、外来の前と、終
わった後にもう一回来て、「大丈夫ですか、何ともないですか」と声をかけてく
れました。急変するような病気じゃないけれど、それでも一日2回も来てくれて、
「今日は元気でした」と言うと、「良かったですね」って喜んでくれる。心から
「この人に任せておけば大丈夫だ」と思えました。疾患ではなく、人として診て
くれるんだと感じられたからです。

他の患者さんの話を聞くと、目も合わせずパソコンを見ながら「今日はどうで
したか」と聞く医師もいるらしいのですが、それではやっぱり不安です。医療訴
訟の増加が問題になっていますが、私は自分の主治医を信頼していますから、何
か起きても訴えようとは思いません。

医師の方々にしてみれば、激務の中で患者とのコミュニケーションもなかなか
難しいことでしょう。だったら、そこは政治の力で、院内メディエーターを設置
するなどして、医師の負担を減らしたいですね。医学生の皆さんも、おかしいこ
とに気づいたらおかしいと声を上げてほしいです。「自分を」ではなくて「医療
を」良くしたい、命を救いたい、という気持ちで、医療に携わっていって欲しい
と思います。


<インタビューを終えて>
福田さんは非常にまっすぐな、熱い気持ちをお持ちの方で、正しいことは正し
い、おかしいことはおかしい、という頑ななまでの信念が伝わってきました。自
分のためだけでなく社会全体を考えて行動するというのは、当たり前のことでは
ありますが、政治の世界では難しいことなのかもしれません。小さな体につまっ
た大きなパワーで、これからの日本の社会、日本の医療のため、妥協せずに頑張っ
ていただきたいと思いました。

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