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Vol.062 摂食障害や身体的コンプレックスは家族そろっての食事で減る

医療ガバナンス学会 (2015年4月1日 06:00)


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この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20150305/1062986/?rt=nocnt

内科医師
大西睦子

2015年4月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

家族と一緒にごはんを食べながらコミュニケーションをとることは、“食育”の原点と考えられ、日本だけでなく海外でも重視されています。

そこで今回は、カナダのオタワ大学小児科の、メガン・ハリソン教授らによる報告を参考に、家族そろっての食事が、子どもや若者にもたらす心理社会的(psychosocial)効果について考えてみましょう。

■参考文献
the College of Family Physicians of Canada「Systematic review of the effects of family meal frequency on psychosocial outcomes in youth」

http://www.cfp.ca/content/61/2/e96.short

ハリソン教授らは、これまでに報告された論文を解析しました。調査したのは家族との食事の頻度が子どもや若者の心理社会的に与える影響と、その影響の男女差です。

まず教授らは、オンラインデータベースの「MEDLINE」(米国立医学図書館、NLM〈National Library of Medicine〉が提供する医薬関連文献の索引・抄録2次資料データベース)を用いて1948年~2011年までの医学文献の検索を行いました。同様に会員13万人の世界最大の心理学者の団体である米心理学会(American Psychological Association:APA)の1806年~2011年までの報告を調べました。

検索キーワードは「家族」「食物摂取」「栄養」「ダイエット」「体重」「思春期の態度」「摂食行動」および「摂食障害」と、これらの単語の組み合わせです。

最初の検索で見つかった論文は1783本。さらに以下の基準を満たす論文を絞り込んでいきました。

[1]英語で査読付き医学雑誌の論文
[2]対象に子どもや若者を含む
[3]子どもや若者の心理社会的転機(例えば、薬物使用、摂食障害、うつ病)における家族との食事の役割を議論
[4]データ分析に適切な統計を用いている

最終的に条件を満たした論文は14本で、その内容を解析すると次のようになりました。

◆家族との食事の頻度:年齢、地理的、文化的背景で異なる
1日のうち、家族とともに食事をする頻度は32.9%から60.6%までと、報告によってさまざまな結果が出ていました。このばらつきは、年齢の違いなどいろんな要因が影響しているものと考えられます。実際に3つの研究論文では、思春期から成人になるにつれて家族との食事の頻度が減少していると報告されていました。

同様に、地理的条件、文化的背景などの要因も、結果に影響があるとされています。例えば、米国(45%)や英国(32.9%)の若者に比べて、スペイン(78%)の若者は一般的に、家族とともにより多く食事をしているという結果が出ています。

◆摂食障害:女性は家族との食事の頻度が重要
14本の研究論文のうち9本で、家族との食事の頻度と、極端な減量(ダイエット薬の内服、おう吐、下剤や利尿剤の使用)、その他の減量(断食、少食、代替食品を使用、食事を抜く、体重コントロールのための喫煙)、過食症や慢性のダイエットを含む摂食行動障害との関係を調査していました。一般的には家族との食事の頻度が増えると、摂食障害や減量行動が減少するという結果が出されており、特に女性にその傾向が強い可能性があると推測されていました。ただし男性の場合、家族との食事の頻度と体重コントロールに関係性が認められませんでした。

◆アルコール、薬物の使用:女性と男性で結果に違い
いくつかの研究論文で、家族との食事の頻度とタバコ(喫煙)、薬物、アルコール、違法薬物などの使用との関連性を調査していました。
女性は家族との食事の頻度が増えると、タバコ、アルコール、およびマリファナの使用は減少しましたが、男性については報告によって結果が一致しませんでした。

◆暴力:
2つの研究で、家族との食事の頻度が増えると、暴力が減るという報告があります。

◆身体イメージへの影響:コンプレックスが減る
これも女性に関する研究でしたが、家族との食事の頻度が増えると、身体への不満、コンプレックスが減ると報告されていました。男性の場合、この関係を調べた報告はありませんでした。

◆学業:家族との食事で良い結果に
ある研究では、家族と頻繁に食事をする人は、男女ともにより高い成績が挙げられていると報告しています。また別の研究では、家族との食事の頻度と学習意欲の間に、同様の関連が見いだされました。

◆抑うつ症状、自殺願望:男女ともに減少
研究の1つで、家族との頻繁な食事が、男女とも抑うつ症状や自殺願望の減少があると報告しています。

◆経済格差が家族そろっての食事の頻度の差を生む
以上をまとめると、家族との頻繁な食事は、若者の摂食行動障害、アルコールや薬物使用、暴力的な行為、抑うつの感情、自殺願望の削減に良い影響を与えていることになります。また男女差が大きく、特に女性によりポジティブな結果があるということを示しています。

そして今の時代、子どもや若者、彼らを育てる両親が忙しいことが、家族そろって食事をするのが難しい一般的な理由だと著者らは考察しています。さらに社会・経済的格差も、家族との食事の頻度に影響しています。1999年から2010年の間、社会・経済的地位が低い層の家族はそろって食事をする頻度が減っており、中間から上の層の家族はその頻度が増えているのです。

◆家族と食卓を囲む昔ながらの日本の食事が子どもの健康につながっている?
こうした中、日本では食育を成功させている地域があることをご存じでしょうか。

2014年、カリフォルニア州立大学と新潟大学の研究者らは、家族と食卓を囲む昔ながらの日本の食事が子どもの健康につながっているのではないかと医学雑誌「Global Health Promotion」に報告しました。

■参考文献
SAGE journals「Globalization, localization and food culture: perceived roles of social and cultural capitals in healthy child feeding practices in Japan」

http://ped.sagepub.com/content/21/1/50

調査では、三重県の農業地帯に住む3歳から5歳の子どもの母親15人に対し、健康的な子どもの食事と生活に対する考え方と、グローバル社会の中で食育を実践していくことへの認識が調査・検証されました。以前の調査から、日本の地方住民が食文化の継承を非常に重視しているという推察があったため、研究者らは都市部でなく農業地帯の町を対象に選びました。

対象地域は天候が穏やかで平地が多く、住民は米や野菜、果物、畜産、花などバラエティ豊かな農業を営み、主な収入源としています。
母親たちの年齢は22歳から39歳で平均33歳、学歴は中卒から大卒までまちまちで、5人が専業主婦、残る10人はパートタイムもしくはフルタイムで働いていました。3家族が子どもは1人で、残る12家族は子どもが2人以上。また9家族が核家族で、6家族が大家族でした。
対象者には30分の自由回答インタビューが行われました。グローバル化や食文化、食育に関して、

▽子どもに食べさせたい食品・避けたい食品
▽食育の情報源
▽食育の実践
▽地元食材・輸入食材に関する認識
などの質問が文献をもとに作成され、事前に栄養学と子どもの発達に関する専門家の監修を受けています。

そしてこの調査の結果、日本あるいは地域で受け継がれた食文化と、家族等のサポートをはじめとする子育て環境が、食育に大きく影響を与えていることが分かったのです。

◆粗食、食事中のマナー、食べ物への感謝の気持ちを代々伝える
母親たちが子どもに食べさせたいのは、米を中心とした一汁三菜、肉より魚の多い昔ながらの食事で、特に、地元の旬の食材を活かしたシンプルな“粗食”を良しとしていました。伝統的な和食こそ健康食と考え、文化的アイデンティティーを見出し、プライドを持っていることも分かりました。

料理の内容のみならず食文化も母親・父親の両親から代々受け継いでいくことが重視されていました。子どもたちは、食事中は食事に集中し、テレビを見ずに食事と会話を楽しむ、姿勢良く座る、途中で立ち歩かない、肘をつかないといったテーブルマナーや、食べ物あるいは作ってくれた人への「いただきます」という感謝の気持ち、お米など食べ物を残さないことを教わります。そうした食事中のしつけを通じて子どもたちの社会性を伸ばすにあたっては、祖父母と食卓を囲むことも重要と考えられていました。

母親たちは、自分や夫の両親からの情報を最も信頼し、家庭菜園による新鮮な野菜・米の提供、食事の準備、子どもたちへの食材教育、共生といった実質的な部分でも、家族のサポートを重視し、感謝していました。また、自分や夫の両親が夕食やおやつの用意をしてくれるおかげで、子どもたちは加工食品でなく手作りの料理を口にでき、ファストフードやスナック菓子ではなく、大学芋などのおやつを食べられるとも答えています。

◆五感をフルに働かせて心から堪能する「マインドフル・イーティング」ができている
一方、自分や夫の両親と離れて暮らす核家族家庭の母親たちは、近所の仲間と新鮮な素材の情報を共有し合うなど、地元コミュニティーのサポートを活用していました。人気のスーパーマーケットには地元野菜コーナーも設置されているといいます。

保育園・幼稚園の給食も、食育に貢献していると認識されています。子どもが新しい食べ物に挑戦する機会を与えてくれ、加えて子ども同士が影響を与え合うことも、食習慣を形成する重要な要素だとしています。

母親たちからは食品の栄養価やヘルシーさについてのコメントは少なく、研究者らは、食育においては社会性の育成や食への感謝といった社会・文化的価値観を反映した食卓マナーが重視されていると考察しています。
これは、欧米の「マインドフル・イーティング」の考え方にも通じるところがあります。マインドフル・イーティングとは、食べ物に正面から向き合い、五感をフルに働かせて心から堪能することです。最近の研究では、マインドフル・イーティングの実践が、肥満の治療や予防につながると報告されています。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Pilot study: Mindful Eating and Living (MEAL):Weight, eating behavior, and psychological outcomes associated with a mindfulness-based intervention for people with obesity」

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21130363

今日の日本で昔ながらの食育を徹底するのは大変なことです。特に都市部では、大家族でテーブルを囲む機会は多くありません。それでも、お子さんと心を通わせながら感謝とともに食事をいただく姿勢を、どうか忘れないでくださいね。

大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。

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