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臨時 vol 107 輸血による薬害の防止策 -病原体不活化導入に向けた提案-

医療ガバナンス学会 (2008年8月7日 12:10)


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          信州大学医学部附属病院 先端細胞治療センター
          下平滋隆


 今年1月,輸血によりB型肝炎ウイルス(HBV)による劇症肝炎で死亡した事例が,日本赤十字社から厚生労働省 薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会に報告されました。つい最近のことです。死亡例は2002年以来ですが,検査精度をすり抜けて感染した可能性の高い方でした。
これだけ安全になっていると言われても,輸血による薬害の防止策には,以下のための連携・協力・支援体制の基盤整備こそが緊急の課題と考えます。
ー 輸血血液のさらなる安全性向上を目指してパラダイム転換を図り,病原体不活化技術の導入が図れるようにする
ー最新かつ正確な国際的な情報を収集・開示して,将来の血液事業,行政による制度設立,競争力のある学術事業の発展に貢献できるようにする
ー医療現場における質の高い治療の提供を可能とし,国民医療・福祉に寄与する
輸血感染症の回避のためには,段階的な戦略が言われています。まず,1.ドナー血液のウインドウ期(感染しても検査で陽性と分からない期間)の回避,2.皮膚消毒および初流血(針を刺して最初に流出する血液)の除去による細菌汚染の防止,3.病原スクリーニング検査と遺伝子核酸増幅検査(NAT検査)によるリスク軽減,さらに,4.製剤品質を損なうことのない病原体不活化,5.適正使用の啓発,6.副作用/有害事象のサーベイランスと国家間ネットワークの構築は最終的なレベルです。今まで地道に進められてきた日赤血の安全対策も,4から6の水準について飛躍できることこそ,10年先の医療の在り方と考えます。
輸血によるHCV, HBV, HIV感染は,NAT導入により99%以上抑えることに成功しているにもかかわらず,年間数10例前後の肝炎患者が発生しています。問診を強化しても,献血者においてHIVの感染者が増加(2008年上半期の献血抗体検査で58人にHIV陽性, 2.316人/10万人)している社会背景があります。使用期限が4日間に延びた血小板製剤には,細菌感染リスクが残ります。検査未実施の病原体について,検査を追加することによる低減化には,感度,時間,費用の限界があります。国立感染症研究所によると,昨年,国内デング熱の輸入症例が89人と増加,本年上半期でも昨年を上回るペースとなっています。ご存じでしたか?新興・再興感染症が,国内でさらに増加した場合,血液の安定供給に支障をきたす可能性があります。
こうした状況下,7月23日に薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会・安全技術調査会合同委員会が開催され,日本赤十字社から,「血小板製剤に対する不活化の段階的導入の方向」が示されました。拙速は避けるというコンセプトから一変,まず,ある地域あるいは特定施設において,不活化血小板製剤の患者への影響をフォローしたいという提案です。しかし,審議会において,提案に対する具体的な議論や計画の審議はありませんでした。本来の役割のはずではと疑問を感じたのは私だけではありませんでした。
不活化技術に係る長期の安全性評価には,日米EU医薬品規制調和国際会議 (ICH)のガイドラインに準拠して,各国が協力してデータの蓄積と情報交換を行なう市販後調査が重要となっています。日本における不活化製剤には,薬事製造承認の課題はありますが,導入後の市販後調査は,ヘモビジランス(輸血血液安全監視体制)の基盤整備とリンクしなければなりません。日本でのヘモビジランスには,利益相反のない総合解析機構,日本赤十字社と輸血を行う全ての医療機関,安全対策の制度を講じる行政機関とのネットワークの構築が重要と考えます。こうした施策は,国の薬害防止の一環であることは明らかです。

 
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