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臨時 vol 100 『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会 第1回会議傍聴記

医療ガバナンス学会 (2008年7月25日 12:17)


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 ~ 要するに、医療行政の病巣を診断する検討会だ ~
              ロハス・メディカル発行人 川口恭

15日午前中の閣議後に舛添厚生労働大臣が会見で発表し、その2日後の夕刻に新しい検討会が開かれた。タイトルは『「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会』。何とも急な話だし、あれ、ビジョン会議ってこの間終わったんじゃなかったっけ、とも思う。確認してみると、この前まで開かれていたのは『「安心と希望の医療確保ビジョン」会議』。ちょっとだけ違う。
で、政治側のメンバーは変わってないけれど、医療側・市民側メンバーは総入れ替え。
誰が新検討会のメンバーなのかは、こちら(http://www-bm.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/s0717-4.html)をご参照いただきたい。県立柏原病院小児科を守る会代表の丹生さんは今回欠席。「守る会を通して学んだことや希望を伝えたい」とメッセージを寄せた。
さて、検討会のタイトルを見ただけだと、何がどう違うのか、なぜ改めて検討会を設置する必要があるのか今イチよく分からなかったのだが、以下の大臣の趣旨説明を聴いて、「ああそう来たのか」と思った。そして会議最後の大臣発言を聴いて、「おおそう来るのか」と楽しくなった。ということで皆さんにも検討会
の模様をお楽しみいただきたい。
舛添
「ご承知のように安心と希望の医療確保ビジョンが先般策定された。このビジョンには3つのポイントがある。(1)医師数を増やす(2)地域ネットワークの再生(3)柏原病院の小児科を守る会のように患者・国民に参画してもらう。この3つの視点を来年度予算策定に向けて具体化していかなければならない。医師をどれ位増やせばいいのか。偏在を解消するにはどうしたらよいのか。スキルミックスにはどうしたらよいのか。看護師のスキルを上げて医師の仕事を一部肩代わりできる方がよいのか、あるいはよくないのか、した方がよいならどうするのか。患者と医療者の信頼関係を何とかするためにメディエーター、和田先生にも来ていただいているがも、どういう形がいいのか。岡井先生、海野先生に来ていただいたのは産科をどうするのか。高久先生、小川先生、嘉山先生には、それぞれ自治医大、私立大、地方の国公立大から来ていただいていてバラエティに富む。同じ医学教育でも全部違うと思う。それぞれに対応できるようなキメ細かな施策をして、それにどれ位の予算いるのかやっていきたい。
それから新木(アラキ)君いるかな、立って。彼が課長(医学教育課長)として三浦君の後任で文部科学省へ出向する。ここできちんと議論しても文部科学省の施策に反映されないと意味がないので、その意味で非常に重要。発令の際にも直接話をしたけれど、リエゾン役として会議には毎回出席してもらう。月末には5つの安心プランを打ち出さないといけない。それは総理の命令。このビジョンの内容も、そのうちの1つなので、厚生労働省だけでなく政府全体の仕事としてやっていかないといけない。
おそらく5~6回ご議論いただいてきちんとした報告を出したい。この検討会の議論の結果が、これからの日本の医療、崩壊しかけているとか既に崩壊しているとか言われているが、それが立ち直ることができるかどうか、その役割を担う検討会だと思っている。ぜひ忌憚のないご意見をいただきたいし、資料もこちらで用意したものがダメだと言うのならどうぞご自由に出していただきたい。私に対しても厚生労働省に対しても、一切遠慮していただく必要はない。国民の目線で何をすれば、国民の医療が再構築できるのか、その視点だけあれば結構だ。この検討会に、これからの日本の明日がかかっていると言っても過言ではない」
何とも高揚感の感じられる挨拶だ。旧検討会では「ビジョン」と言いながら、具体的な数字まで踏み込まなかった。当初は具体化するようなことを言っていたのに、途中で「政治マター」と棚上げした。でも、メンバーを代えてまた検討会に戻した。旧検討会では「国民目線」の議論ができなかったということなのかもしれない。
たしかに以後読み進めていただくと分かることだが、新検討会では、真意がどこにあるのか判断に困る禅問答のような発言がほとんどなく、各委員の言っていることは実に平明である。今回こんなに分かりやすい言葉で進められるのなら、普段の審議会・検討会というのは、どうとでも解釈できるようワザワザ難解にやっているに違いない。恐ろしきかな、霞が関の文学者たち。
報告に戻る。事務局が座長に高久史麿・自治医大学長、座長代理に小川秀興・日本私立医科大学協会会長(順天堂理事長)を指名。以後、高久座長が進行役を務める。なお資料は、近く厚労省サイトにアップされると思うので、それをご覧いただきたい。
高久
「本日はビジョンの流れに沿って進めたい。まず医師の養成数を中心テーマに議論いただきたい。1時間弱ある。どなたでも結構、ご意見を伺いたい」
土屋了介・国立がんセンター中央病院院長
「資料4の11頁に医師需給推計グラフがあり、注釈として医師の診療・教育・会議などの時間を週48時間に制限する前提で推計したと書いてあるが、実際には勤務医は週40時間残業なんてのがザラにあるんで、その実態を無視していては予測にならない」
嘉山孝正・山形大学医学部長
「もっと正確なデータを出していただかないと前提が狂っちゃってディスカッションできない。医師不足と言っても、一番問題なのは勤務医であって、山形でも開業医は増えている。二つに分けて数を出さないと実態が出ない。それと年々女性が増えていて、どうしても子育てなどで抜ける時間があるので、タイムスタディをやってもらわないと単純な人数だけでは分からない。資料の4頁で日本のベッド数が諸外国に比べて多いと言われても、舛添大臣は百も承知と思うが、福祉政策とリンクする話であって、単にベッド数だけで医師数を語れない。現実に、そういう患者を診ているのだから。
それから6頁で、1人あたり医療費が世界で19位というデータが出ているが、これは患者の窓口負担は多いということ、総医療費の対GDP比は22位で少ないけれど、何となく一般の患者からすると日本の国富が医療に吸い取られていると誤解を招く原因になっている、そのように理解していただきたい。アメリカやスイスなんかは、基礎研究費も医療費から出ている。そのように他へもリンクする話である。
それから土屋先生のお話にも出た11頁。私の出した資料では24頁になるが、医師も高齢化が進んでいる。単純な人数だけでは2022年に本当にマッチとなるのか分からない。2000年位から教室に戻らない人間が増えたのは、何となく仕事が増えているからだと思う。その辺りも次回はぜひデータを出してほしい。現場と乖離したデータを出しても始まらない」
高久
「色々と注文が出たので次回までに大変だろうがお願いしたい。もし今説明できることがあれば」
杉野剛・医事課長
「できれば次回まとめて説明したい」
和田仁孝・早稲田大学教授
「補足。医師国家試験の合格者の3分の1が女性。産科では若手は女性の方が多いという現象が起きて問題になっているけれど、産科だけでなくどの診療科でも同じような問題が起きる。それから医師を含めて国民の価値観が変わってきていることを考えると、今後は男性医師だって子育てするようになるだろう。医師1人あたりの労働時間は減ってくるだろうということを考慮に入れる必要がある」
海野信也・北里大教授
「産科が最初に壊れたのだけれど、まさに他の診療科でも同じことはすぐに起きる。産科では20代の70%が女性。で彼女たちは一生懸命にやるのだけれど、それでも10年経つとバーンアウトしてしまう。若い医師が働き続けられず、せっかくの専門を放棄している状況だ。そういう状態を前提に数を数えても崩壊したものは元に戻らない。現段階で産科で法令遵守するのは、とうてい不可能。それをどうやって改善するのか。増えた医師をどうやって迎えて、そのまま働き続けられるような、そういう現場を作らないといけない。調査してみると、在院時間が月300時間なんて医師は管理職でもゴロゴロいる。それを踏まえて検討したい」
高久
「今日は持ってこなかったが、平成16年に日本女医会が行った調査では、大ざっぱに言うと、女性の労働時間は男性の半分、収入も半分、それはパートタイマーが多いからだが、そのようだった。それから診療科に関しても外科が少なく眼科に多いとそんな感じだった。次回、データを出す。で、外科が少ないという件に関して、外科の方々は非常に危機感を持っていると思うのだが、産科以上にむしろ一般の人にとってみれば切実。技術を持った人が少なくなっているのは問題だろう。外科の人としてどうか」
吉村博邦・地域医療振興協会顧問(前北里大医学部長)
「数は確かに減っている。開業も増えている。もちろん数を増やすことが必要だと思うが、インセンティブをどうするかも問題だと思う。インセンティブというのは専門性をどう処遇するかということで、ただし専門医であるというだけで評価するとおかしなことになるので、専門医が手術をしたらドクターフィーがつくような形も入れていかないといけないのでないか」
土屋
「私も元外科医。昨年の今年の日本外科学会で外科医数のデータが出ているので次回示したい。外科医も労働基準法に則って仕事をしないといけないと思うのだが、胸部外科学会で調査をしたら、労働基準法を守れているという所が10%、まあまあ守れているという所が28%だった。一般病院だと守れているが14%、まあまあが36%で半分は守れている。でも大学病院だと守れている3%、まあまあ16%と2割しかない。医師にはタイムレコーダーなどないけれど実態はこういうことで、実際問題疲弊している。このような疲弊した医師の手術を受けるのは国民にとって大変不幸なことであり、健全に働ける医師の数を数えてほしい」
小川
「診療科毎の偏在があるという話も女性が増えたというのも事実ではあるが、間違っちゃいかんのは女性が働きやすい環境を作ろうという話にしないといけないんであって、女性はダメという話ではない。マスとして医師が満ちているかに関して3点だけ申し上げたい。人口あたりの医師数は、OECD加盟諸国のうち27位。OECDの平均が1000人あたり3.0人なのに対して、日本は2.0人しかいない。明らかに足りない。それから各国の医師の勤務時間をOECDのデータに基づいて比較すると、日本の場合29歳未満では平均が週80時間であり、60歳以上ですら他国の壮年と同じだけ働いている。文字通り死力を振り絞って頑張っているのだということ。それから都道府県別に医師数を見ると、多いのは京都、徳島、東京、高知、福岡、鳥取の順だが、しかし京都ですらOECD平均を下回っている。東京が研修医を集め過ぎて諸悪の根源かのように言われることもあるが、そんなことはないということだ。すべての都道府県でOECDを下回っているということは歴然としている。少ない方は埼玉、茨木、千葉、静岡といった首都圏サラウンドの地域。各論に入る前に、絶対的に少ないということ、東京が多いと言ってもOECD平均を下回っているということ、ここからスタートしないと。女性がけしからんという話にしたくない」
和田
「私も女性がけしからんとは言ってない。もちろん女性に頑張って働いてもらえるような環境整備こそが大切だとは思っている。言いたかったのは、医師1人の医療供給能力が、かつてを1としたならば、現在そして今後は粗々半分になっていくということ。だから医師数を100増やしても、昔の感覚でいうと60~80ぐらいにしかならない可能性があり、そういうことを念頭において検討しないといけないということだ」
高久
「勤務医の勤務時間は確かに長いのだけれど開業医はどうなのだろう」
川越厚・川越ホームクリニック院長
「私は特殊で、ポケベル2つ持って365日24時間だから参考にならないと思う」
高久
「チラっと昔見た資料では、開業医の方が勤務時間が短いというデータがあった記憶がある。その辺どうなんだろう」
川越
「私も元産科医だが、これで解決するのかなという思いがある、最初の数はもちろん大切だけれど、数だけでは解決しないような気がする。私自身、産科医を選ぶときには、キツイこと、あまりキレイでないことは分かっていた。その上で選んだ。なぜならば当時は産科の医療が魅力ある領域だったからだ。生命誕生の場に立ち会えるという喜びと、それから言葉は悪いが自分の腕を試すというか挑戦することができた。今は母児の安全を優先するために、帝王切開事例が増えているようなことも聞く。その辺、職業としての魅力がどうなのか。それから大きいのは福島県での出来事じゃないか。詳しくは知らないが、あれで随分、産科の先生が引いちゃったというような話ではないか。その辺どうなのか現場の声を聴かせてほしい」
岡井崇・昭和大学教授
「最近の産科は魅力ないんじゃないかというご指摘だが、それは間違いだと思う。先生のころより数段進んでいて、学生も興味を持っている。学問の面白さ、職業としてのやり甲斐、両方ともある。学生に志望を聴くと必ず上位に産科が入ってくる。ところが研修で回ってみて、忙しそうという所がマイナスになる。当直の回数が多いのは、明らかに産科、小児科、麻酔科で、やりたいなと思っても一生続けられるだろうかと思ってしまうようだ。そこにもちろん訴訟の問題もある。ただ大臣がやってくれたことでもあるのだが、診療報酬で産科が評価された、要するに国が産科を大事にするとアピールしてくれたと思うのだが、そうすると躊躇していた学生も将来は改善されるのかもしれないと入りやすくなる。一度入り始めると、それがまた勢いになっていくというのはあるんでないか。
私がむしろ言いたいのは11頁の需給予測のグラフで供給側は条件によって何本か線を引いてあるのに、需要側が一本しかない、これはおかしいのでないか。条件を変えれば色々な線になるだろう。というのも明らかに受ける側の要求水準が急に上がっている。安全、質に対して、それから情報も増えて、セカンドオピニオンだ、もう1人専門医の意見も聴いてといった具合でサービスを望むレベルが上がって忙しくなっていることはある。1人の医師がどの程度濃密なサービスをするのかによっても需給関係は変わってくるだろう。それから、もちろん無駄のない診療体制といったことも大事だ。この辺もぜひ取り入れてデータを出してほしい」
嘉山
「なぜ、こんなに医者が足りなくなっちゃったかといえば、従来の推計というのは昭和23年から手法が変わっていない。当時の患者は傷病者や結核が主。心臓の手術もしないし、脳の手術もしない。昨日も私、MRIを手術室で使う手術をしたけれど、手術室の中に20人も医師が入った。そこまで手間をかけたからWHOで1位の医療を提供できたのだし、患者もその水準を要求してきた。だから実際には需要がもっと高いんじゃないかと思う。そこを最初に詰めておきたい。それから私の資料の20頁にあるようにロジスティクス部門について日米ではこんなに人数が違う。それが全部医師の負担になっている。大臣の国民目線でというコンセンサスに大賛成だ。医師をきちんと増やしていけば、国民が一番恩恵を受け
るのでないか」
この発言の途中で大臣が退席。
大熊由紀子・国際医療福祉大大学院教授(元朝日新聞記者)
「これは旧労働省分野の話になるけれど、女性が働けないんじゃなくて男性の働き方がメチャクチャ。男性医師も含めて労働基準法を守ったらどうなるかで推計してほしい。ベッド数の問題は、老健局とか社会局とかの予算が増えないと解決不可能だと思う。それから、厚労省自身が医師の忙しさを助長させている。訳の分からない通知、なぜこんなことを、誰が言ったのかというような空しいことに時間を費やしている現実がある。そこをそのままにして、その分をクラークさんに投げようと言っても、大元を考え直さないといけないのでないか。
それから医療崩壊は産科、小児科という話になっているが、患者の立場から見ると、そういった声の挙げられない診療科が既に崩壊している。精神科では国際的に見て少ない医師数のさらに3分の1で良い、看護師も少なくて良いということになっていて、それすら満たせない所が出てきている。ベッドの話では、ベルギーやスウェーデンの施設は特養の上等なものであり、そういった差を無視して日本も他国並みであるというデータを出してくるのは世を惑わすものでないか。
医師数を増やすことも必要だが、前回医師数を減らした時のことを思い出すと、授業料が安くて志の高い人が行きやすいような大学ばかりが定員を減らされ、授業料のとても高い所が定員をあまり減らされなかったということがあった。で、そういう所へ授業を教えに行くと、『こんな人が医師になっていいのかしら』と思うようなことがある。そこら辺も考えないといけないのでないか」
なかなか大胆な発言だが、私学代表の小川委員が引き取って話をウヤムヤにする。
「まさに仰る通りで、数はどうなのかということと同時に、アンバランスはどうなのかの視点も欠かせない。昔は産科医は「ありがとう」「おめでとう」でハッピーだったのが、最近ではちょっとでも何かあると問題になる。やり甲斐のある所に行かないのを志が低いで片づけてほしくない。むしろ志の熱いうちに制度システムで導いてあげるようなことが必要だろう」
海野
「医師数増加させなきゃいかんことは確か。女性も男性もゆとりを持って働けるようにすることが必要だろうが、現に偏在している状況のまま増えるんではなく、是正する仕掛けも同時に考えないといけないんだと思う。国公立については増員枠に自治医大方式を導入するとか、何か崩壊している診療科の医師が増えるようでないと、医師数を増やすには莫大な予算がかかるんだろうから、それは国民の理解が得られないと思う」
高久
「十分に考えねばならないことだと思う。今のまま増やしてもアンバランスが広がるだけになる可能性はある。根本的に考え直さないといけない。それを医師を増やす過程の中でそちらも考えないと解決しない」
嘉山
「次回データを出したい。科の偏在に関してはインセンティブが絶対に必要だ。若者たちの志は低くない。その志を折ってしまうような社会がある。最終的にポンとやっちゃったのは臨床研修制度で、あれによって医局で何とか循環型でやっていたのが一気に立ち行かなくなった。医局には悪いところもいっぱいあるが、しかしパンドラの箱を開けてしまったのは確かだ。キツイ勤務をしても割に合わないというのが今の若者の最終判断だから、気負わずに自然に入っていける環境づくりが必要だ。ハーバード大学では、診療行為ごとに医師の精神的ストレスを評価しスコア化し、それを報酬に反映している。たとえば子宮摘出手術の精神的ストレスはヒステリー患者の診療に対してトータルで4.9倍と評価されている。
インセンティブの意味というのは、トップが下の仕事を認めてあげるということ。山形大ではお産1件につき2万円払っているし、難しい手術の場合は1割を医師に払っている。インセンティブがあると、あなたの仕事は大事だよ認めているよ、と国なりトップなりが表すということで、それが若い医師の励みになる」
土屋
「厚労省の通知の件を言っていただき、大熊さんに感謝申し上げたい。たとえば看護基準の7対1導入の時、前の年に増員しようとしたら却下された。ところが翌年になったら非常勤でもいいから7対1確保しろと言ってきた。同じ局内ですら連携がなく、どんどん異なる通知が来て、その度に現場が右往左往させられているのが現状だ。DPCにしても、いまだに毎年調査票が来て、それを医師がかなり長い時間かけて埋めさせられている。
診療科間の偏在の話だが、どの診療科が何人の医師を育てるかというのは各学会に任されていて、一応学会員が1000人以上とかの外形基準で広告できる専門医は制限されたけれど、専門医を何人作るのかは全く調整されていない結果、日本の医師総数よりも専門医の方が多いという状態になってしまっている。診療科間で調整するコミッティーがない。米国では卒後研修で各医療機関の何科は何人トレーニングしてよろしいというのが全部医療界の代表からなるコミッティーによって定められている。日本で同様のことをしようと思ったら卒後研修を国家予算でみることでコントロールするしかないだろう。がん専門医が足りないというと文部科学省が育成すべくプランを立てるのだけれど、そうすると大学院に講座を作る。大学院は授業料を取る。たとえばトヨタが専門技術者を育成する時に、入社後にもう一度学校に入れて授業料を取るなんて話があるか。逆で、給料を払いながら必要があれば研修として教えていくのでないか。医療についても専門医を育てる際には給料を払うのが当然。予算をつけるのなら卒後教育にこそ投入すべきだ」
吉村
「数が足りないのは事実だ。インセンティブを科ごとにつけるのも必要だろう。ただ一番大きな問題は、どういう医師を養成するのかだと思う。卒後研修は医師育成の一部に過ぎず、最終的にはどういう専門医を育てるかなんだろう。専門医といった時、ある限定的な領域の技量に優れているようなイメージがあるが、そうではなく基本的な診療科ごとのジェネラリストであるべきで、その上でさらにサブスペシャリティを取ったらドクターフィーが取れるようなインセンティブをつけてもいいかもしれないが、いずれにしても専門医はジェネラリストであるべきだ。その中に総合医も含まれるだろう。診療科ごとの専門医をまず作るには、臨床研修が終わった後でさらに3~5年の研修は必要だ」
大熊
「私も総合医は大事と訴えてきた。デンマークが特に進んでいて、そのお陰で日本だと80%が病院で亡くなるが、あちらは80%が在宅で亡くなる。総合医の後ろには緩和ケアなども控えている。日医は総合医育成に賛成していないようで、かつて構想を葬り去られたことがあるが、何とか突破していきたい。専門医のイメージが間違っているのは、まさにその通り。
患者の要求水準が上がったことと大野のことが効いているという話が出たが、訴訟の問題について申し上げたいのは、届出数は確かに増えたけれど、それは届け出の基準が変わったからであって、訴訟そのものは増えていない。一種の錯覚でないか。マスコミと一部の医師によって、そのように思わされているだけ。実態以上におびえて、それを前提に議論をするとおかしなことになる。実際、医療訴訟を起こす人は医師の家族のいる場合が多い。そのために費やす大変な金銭と心労とを考えたら、そうやたらと訴訟を起こすものではない。大野については時間がないので詳しくは私のサイトを見てほしいのだが、刑事事件に関しては、どんな過激なことを言う患者でもあれは間違いだと言っている。ただし本当にあの患者さんが亡くならなければならなかったのかについては、必ずしもそうではないのでないかということを書いている。その辺の実態を見ずに、大野に関して乱暴な議論が横行しているのは困ったこと。どうか間違った噂を広めないでいただきたい」
委員会の途中では、ふーん何か大熊さんなりの取材に基づく見解が書いてあるんだあ、と思ったのだが、読んでみたらこれら(http://www.yuki-enishi.com/accident/accident-12.pdf)(http://www.yuki-enishi.com/accident/accident-13.pdf)だった。正直これらの記事に基づいて上記のような主張をするのはいただけない。裁判を傍聴していれば、かなりナンセンスな主張をしていると分かるはずなのだが。
海野
「大野病院事件について先生の仰るようなことがあるのかもしれないが、学生たちがそのように受け止めているという現実がある。私としては、偏在について資料をいただきたい。専門医になるには学会に入らなければならないので、各学会の新規入会者を見ていけば専門医の将来数は予測できる。今の専門医の数だけでなく、今後どうなっていくのかの動向も前提に検討したい」
和田
「大熊さんのお話で少し違うと思うのは、民事訴訟は明らかに増加傾向にある。刑事も21条での立件がほんの数件から90件まで増えている。おっしゃるように、告訴・訴訟にいたる前に医療機関としてできることがあったのでないかという、そういう視点を持つことは大切だが、しかし訴訟増は幻想ではない」
大臣、席に戻る。
高久
「医師数を増やすということに関しては皆さん異存がない。ただ、単に増やすのでなく、日本の医療提供体制も根本から考え直さないと、現在の歪みが広がるだけだとの意見もあった。次回も引き続き、この点について議論したい。事務局は大変だと思うが可能な限り資料を集めて提出してほしい」
最後に舛添大臣が締めくくりの挨拶。この検討会の真の狙いが明らかにされた。
「予算措置を前提に議論していただいているわけだが、そのためには国民に理解してもらうことが不可欠。税金でやるのだから。改革をして無駄排除の努力をしっかりやって、その上で皆さんの命を守るためにこれ位出してくださいと説明するしかない。ラフな数字で言うと、仮にビジョンの施策を実現するために2500億円かかると仮定すると、半分の1250億円は構造改革し間違っている点を正すことで捻出する。残りについては、これは皆さんにご負担いただけませんかという形でないとと思っている。この金額を出したのは国民にイメージしていただきやすくするため、分かりやすく言うと1人千円出してください。皆さんの命を完璧に救っていきますので、半分は無駄を省きますので、どうか半分はお願いします、とそういう言い方にならざるを得ない。ビジョンに改革をやりますと書いてあるのもそういうこと。その意味で、もし私が間違っていたらご指摘いただきたいのだが、この検討会では医療とその行政のどこにメスを入れればいいのかということも議題になると思う。ここに切り込めば財源が出てくるよという話。ジェネリックの話、本当にジェネリックを推進するのがいいのか、もっとできるのか。あるいは医療機器の問題、諸外国に比べて高い価格はどうやったら下がるのか。ぜひ皆さん方のご意見を伺いたい」
大臣がこのように考えているということは、厚生労働行政の無駄によって現場でヒドイ目に遭わされている方々、あるいはそういう状態をご存じの方は、資料をつけて委員の方々へ伝えると面白いことになるだろう。ただし大臣の発言は以下のように続いたので、医療者も無条件に自分たちの言い分が通ると思ってはいけない。
「それから、もう一点。私が、お医者さんの言うことばかり聞いているじゃないかという風に仰る人たちもいる。医療がどうのこうの言う前に、俺達は医者を信じてないんだ。その不信感をどうにかしてくれ、そのために事故調早くつくってくれとこのように言う。私は、そのような方々と医療者との板挟みにある。この検討会の委員は圧倒的多数が提供側なので、医者を信用しない国民の視点で発言することもお許しいただきたい。最後は国民に理解をいただくことが必要なので、その視点で発言しないと国民の理解が得られないこともあると思う」
国民を説得できるだけのデータとロジックがなければ通りませんよ、そういうことだ。さて予算要求に間に合わせるには、あと1カ月ちょっと。今後どんな議論が行われるのか楽しみだ。
(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載されています)
 

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