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Vol.075 男と女、実はどちらがナルシストなのか?

医療ガバナンス学会 (2015年4月17日 06:00)


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この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20150326/1063363/?P=3

内科医師
大西睦子

2015年4月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


◆フロイト博士の“女性の方がナルシシズムが強い”説は過去の話

ナルシシズム(自己愛)を呈する人を「ナルシスト」と呼びますが、男女のどちらにその傾向が強いのでしょうか?

精神分析学の創始者ジークムント・フロイト博士は、身体的な美しさに夢中になる女性は、男性よりもナルシシズムが強いと信じていました。ところがその後の研究で、フロイト博士の主張と反対のパターン、つまり男性のほうが女性より強いナルシシズムを示すことや、性差はほとんどないという報告がされました。また、生涯における自己愛性人格障害(Narcissistic Personality Disorder)の有病率は、男性7.7%、女性4.8%という報告もあり、男性のほうが女性より、ナルシシズムが強いとされたりしましたが、結論は明瞭ではありませんでした。

しかし2015年3月、ニューヨーク州立大学バッファロー校(University at Buffalo)の研究者らが、男性は平均して女性より強いナルシシズムを示す傾向があるというメタ解析の結果を報告し、話題になっています。

研究者らは「ナルシシズム」「ナルシスト」「自己陶酔」「男女」「性別」「男性」「女性」というキーワードを用いて、8つのデータベースからこれまでの論文報告など絞り込みました。そこからさらにナルシシズムを調査した研究、男女差を解析するのに十分な情報を持つ研究かどうかなどの条件を加え、最終的に過去30年におよぶ、約47万5千人のデータを含む、355以上の報告をピックアップしました。

◆ナルシシズムはもろ刃の剣

筆頭著者のエミリー・グリハルバ教授は、学内ニュースのインタビューに対して以下のように述べました。

「良い人間関係を築くのに必要な健全な関係を長期間維持することができない、あるいは非倫理的な行動をとったり攻撃性を見せるなどの、さまざまな問題行動に、ナルシシズムが関わっています。同時にナルシシズムがあることで、自尊心が高まり、情緒が安定し、リーダーとしての資質が高まる傾向も示されています。
さらに“ナルシシズムにおける男女の違い”を調べることによって、“男女の格差”を説明し得る可能性も分かってきたのです」

■参考文献
UNIVERSITY AT BUFFALO News Center「Study: Men tend to be more narcissistic than women」

https://www.buffalo.edu/news/releases/2015/03/009.html

研究者らはナルシシズムの「リーダーシップ/権威」「誇大妄想性/自己顕示癖」「権利主張」という“3つの側面”における性差について、355以上の過去の論文を使い分析しました。以下に具体的な例を示します。ご自分に当てはまる例はありませんか?

[1]リーダーシップ/権威
リーダーになりたい。私は良いリーダーだと思う。権威を持つことが好き。私は生まれつき他人に影響を与える能力がある。みんな私の権威を知っている。私は生まれつきのリーダーである。

[2]誇大妄想性/自己顕示癖
公の場で自分に気づかないことに怒りを感じる。自分の体を見せたい。注目の的になりたい。自分の姿を見るのが好き。鏡にうつる自分が好き。賞賛されるのが好き。

[3]特別な権利主張
自分は特別な人間だ。人を利用することは簡単。自分の要求をすべて満たすまで満足しない。自分が満足するためなら、他の人を利用して構わない。自分を批判する人が許せない。自分の価値を下げるようなことをする人は認めない。

◆ナルシシズムにおける男女の違い

研究者らによれば男女差が最も大きいのは[3]の特別な権利主張で、男性は他人を利用することで、より特権意識を感じる可能性が高いといいます。

次に男女差が大きかったのが、[1]のリーダーシップ/権威に関する感覚で、権威への欲望の強さが現れています。

差が見られなかったのは[2]の誇大妄想性/自己顕示癖で、注目されたいという虚栄心は、男女ともに同じように示す可能性があるといいます。

加えて年齢による違いを見てみると、男性は年齢に関係なく一貫して、ナルシシズムの傾向あることが示されました。1990年から2013年までの大学生のデータを比較してみても、男女とも時間の経過によってナルシシズムの傾向が強まったという結論には至りませんでした。

◆ナルシシズムが男女の格差まで生んでいた!?

2013年には、米国では、女性が管理職の約半分(51%)を占めています。ところが、指導者の立場においては男女の格差を認めます。米国の大企業をランク付けしたフォーチュン500(Fortune 500)では、取締役17%、CEO15%、トップ所得者8%のみが女性でした。

これまでの研究によれば、ナルシシズムのような性質の違いは、男女の固定観念、長い間深く根付いてきた周囲からの期待から生じている可能性があります。研究者らは、リーダーシップの役割における根強い女性不足は、固定観念における女性らしさとリーダーシップの間の格差に由来するのではないかと推測しています。

グリハルバ教授は前出のインタビューで、次の点についても言及しました。

「人間はそれぞれ幼いころから、男女の役割を観察しながら学んでいくものですが、社会が期待する男女の役割から逸脱すると、反発に直面することがあります。特に女性は男性より、積極的だったり影響力を持つ存在になると、厳しい批判を受けることが多く、それが原因で男性に比べて、ナルシスト的なふるまいを控えるようになるのです」

またグリハルバ教授は、「ガーディアン」紙に、結論づけてもいます。

「1960年代、1970年代を通じて、女性はプロとして目標を持つようになり、社会的役割が変化してきました。しかしナルシシズムの大規模な研究は、1980年代まで行われてこなかったため、過去30年間での女性のナルシシズムの変化についての分析はできていません。今後、男女の固定観念が減少した場合は、女性は現在よりナルシシズムの高い行動を示すようになっていくでしょう。そうなると今後30年で、女性幹部が増えていく可能性があります」

■参考文献
The Guardian「Narcissism increases the chance you’ll be seen as a leader, especially if you’re a man」

http://www.theguardian.com/commentisfree/2015/mar/09/narcissism-seen-as-leader-if-a-man

◆変わりつつある米国企業

本当に女性幹部が増えるのかどうか。それは今後の見ものですが、実は米国大手メディア「Fortune」が選んだトップ1000社において、2002年から2014年の間、女性のCEOを擁する80社の株主資本利益率は226%で、S&P500(米国の代表的株価指数)よりも良い業績が報告されています。

■参考文献
FORTUNE「Women-led companies perform three times better than the S&P 500」

http://fortune.com/2015/03/03/women-led-companies-perform-three-times-better-than-the-sp-500/

では女性リーダーを増やすためには、女性に男性のようにナルシシズムを強めてもらうことが重要なのかというと、私はそうは思いません。まず女性を受け入れて信頼し、CEOや管理職になる機会を、男性と同じように与えることが重要なのです。そうなれば、「Fortune」の80社のように、本来の女性の個性を生かして、よい結果が生まれるでしょう。

大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。

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