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臨時vol 76 「厚生労働省第三次試案に関する日本医師会の見解についての意見」

医療ガバナンス学会 (2008年6月4日 12:45)


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               国立病院機構 名古屋医療センター
産婦人科 野村麻実


 先日5月28日、日本医師会の定例記者会見(http://www.med.or.jp/teireikaiken/index.html)において厚生労働省第三次試案に関する日本医師会の見解(http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20080528_1.pdf)が木下常任理事より示されました。
その席上、見解内の「警察庁・法務省に対しては、参議院決算委員会での両刑事局長による「試案の内容は厚労省と合議し、了解している」との答弁の通り、文書は交わしていないが、試案の記載内容の遵守を求めていく。」という一文に、記者から「『明文化されている』と日医ニュースに書いていたはずですが」との質問をうけ、木下理事は「ああ、ちょっと行き過ぎた書き方をしてしまったかもしれない。お詫びします」と謝罪されたそうです。
木下理事はこれまでも医師会の代表として医療安全委員会についての説明を何度も行ってきました。どのように厚生労働省に説明を受け、どの時点の部分までが誤解や嘘だったり希望的観測だったり、だまされていたのかはわかりませんが、これでは医師には真相がわかりません。今後、日本医師会の言うことをどの程度なら真に受けていいのか迷うところです。信用が失墜するのは間違いないでしょう。いまさら謝罪されても仕方無いのですが、誤った説明を元にとったアンケート結果であるならば、また一から説明をやり直し、アンケートを取り直すのが筋ではないでしょうか。日医見解提出の日付をみると、定例記者会見の前日5月27日であり、「出してしまったから、もう大丈夫」との確信的謝罪であったと感じずにはいられません。
さて円満にまとめられたようにみえる日本医師会の見解ですが、本来であれば、4月22日都道府県医師会担当理事連絡協議会で決定され、発表される予定でした。「「種々の問題はあるが、それらが解決できれば賛成」という医師会を含めて36医師会(77%)、「第三次試案に基づき制度を創設すべきでない」は7医師会(15%)、その他4医師会(9%)」の数字もその時点ですでにでていたのです。しかし会議はまとまらず、何度かの会議の末、最終的には5月24日にFaxで見解を各都道府県支部に送りつけ、「問題点があれば翌日までにファックスで回答を」という結果で現在の形になりました。
このようにまとめられた「厚生労働省第三次試案に関する日本医師会の見解」(http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20080528_1.pdf)ですが、かなりつっこみどころ満載で楽しい見解となっています。
冒頭の「医師法第21条による異状死の解釈問題に関して、都立広尾病院事件における平成16年4月13日の最高裁判決は「死体を検案して異状を認めた医師は自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死罪の罪責を問われるおそれがある場合にも、本件届出義務を負うとすることは憲法第38条1項に違反するものではないと解するのが相当である。」(http://www.courts.go.jp/
hanrei/pdf/28C31AA0426F913649256F8D002684AD.pdf)との判断を示すことで決着した。」には異論がありませんが、医療安全委員会を作らなくても医師法21条をかえることは可能なのではないでしょうか。医療安全委員会なしでは医師法21条を変更できないという前提が私にはわかりません。
また、「医師法第21条による医療事故による死亡事例の警察への届出義務から始まる刑法第211条の業務上過失致死罪を適応する仕組みが続く限り、(略)医療崩壊に拍車がかかることは必定である。」の部分ですが、「医師法第21条による医療事故による死亡事例の警察への届出義務から始まる」を削除するとした方が本質が見えてすっきりすると思います。
「刑法第211条の業務上過失致死罪を適応する仕組みが続く限り、(略)医療崩壊に拍車がかかることは必定である。」 今、問題になっているのは、医師法ではないのです。
「医師法第21条を改正し、警察ではなく新たな届出先として中立的な第三者機関である医療安全調査委員会を新たに設置」しても、民事・刑事ともに現行法下であることが問題となっています。「第三次試案が今日の刑事訴追の誤った流れから一歩も二歩も改善させた現実的解決策である」とありますが、第三次試案は法的な力を与えられていないために、刑事訴追の誤った流れを正すための解決に向けて半歩も前進していない無意味な策なのです。
そのため悲しいことに、「利害関係が異なる人々に影響する法律を作成するということは大変難しい作業」とあるのですが、第三次試案において利害が不一致なのは、行政処分権を強めたい厚生労働省と、行政処分を含めた厳罰化をはかりたい患者遺族、そして現場医師しかいないのです。
日本医師会の方々なら、すでに発表されたパブリックコメントの中間発表(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/iken-matome080516.html)にはすでに目を通されているでしょう。現場医師からは数々の否定的意見、現実的意見が寄せられています。あまりにも穴が多すぎ、矛盾が目立つため、評価する意見は社会的には少数です。莫大な予算をつぎこみ新機構を創設するくらいなら、ADRを充実、メディエーターを育成、現在行われている日本医療機能評価機構による医療事故情報の収集・分析機能を強化し、労働環境(特に人手)を充実させ、被害者の救済を強化するなどを行った方がよいという意見が目立ちます。
最後に二つのパブリックコメントをご紹介してこの稿を終えたいと思います。
従来の厚生省から出され法案化された制度(新臨床研修医制度、年金、後期高齢者医療制度など)を見てもいずれも議論が不十分なまま法令化され種々の社会的問題を引き起こしていることもあり、一端、法案が通れば取り返しのないことも考えられ、今回の試案に関しても急ぐことなく慎重かつ十分な討議が必要と考えます。(通し番号139 p264(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anz
en/kentou/dl/iken-matome080516g_0006.pdf) 50代 医師)
日医の木下理事は、けっして刑事事件にはならない、と言われていますが、本当でしょうか。以前の看護師内診問題。それまで医師法のもと、うまく活用されて問題の無かったものが、厚労省看護科の1課長通達によって、保助看法によってひっくりかえされてしまいました。そのような例があるにもかかわらず、まだまだ反対の多いこの三次案を性急にきめてしまおうとする、厚生省、日医に疑問
を感じます。
刑事事件になる要素を残している限り、医師は萎縮し、医療は疲弊し、結局被害を受けるのは患者である国民です。性急な妥協で法律は作られてはなりません。1度できたものは完璧に近いものでないといけません。まだまだ4次、5次案と考えるべきと、思います。(通し番号135 p
256(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/dl/iken-matome080516g_0005.pdf) 60代 産婦人科開業医院長) 

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