臨時 vol 53 「韓国患者会との交流会を終えて」
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東京大学医科学研究所
探索医療ヒューマンネットワークシステム部門
特任助教 田中祐次
2008年4月12日、第1回日韓血液患者会交流会が開催されました。
日本側は2000年に私と患者が一緒に設立した血液患者コミュニティももの木、韓国側は、韓国白血病患友会」(韓友会)です。
韓友会は、慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬であるグリベックの患者負担を減額してもらうことを目的に7年前に設立さました。当時の韓国では、健康保険の患者本人の負担額は医療費全額の30%でしたが、政府、製薬企業との交渉の結果、政府が本人の負担額を20%に下げ、さらにノバルティスファーマ社より10%分を患者に還元することになりました。その後、政府が患者負担額を10%に引き下げたため、月約30万円の患者負担額が現在では実質ゼロになりました。
現在の韓友会は、スタッフ5人、ボランティア100人、会員4,000人の組織へと成長し、慢性骨髄性白血病だけでなく血液疾患全般の患者・家族が集まる会になっているそうです。薬の減額だけではなく、後述する献血問題や患者・家族の心理サポートなど活動の幅が広がっています。
今回の訪日の目的は、日本の献血システムの調査だそうです。日本ではほとんど行われていない感染症に対する白血球輸注が韓国では年間3,000件ほど行われています。ちなみに、日本でも骨髄移植後の再発に対するドナーリンパ球輸注やEBウイルスによるリンパ増殖性疾患に対する全血輸血という形で白血球が輸注されることはあります。韓国ではG-CSFを投与された血液提供者(ドナー)から採取した白血球を、感染症を発症した白血病患者に投与します。ここで問題になるのは、韓国ではドナーを白血病患者自身およびその家族が探さなければならないことです。韓友会では、このような白血病患者の負担を減らすために、ドナー確保への協力活動を行っています。また、日本をはじめ諸外国を訪問し、献血や白血球輸注の事情を調査し、報告書を政府に提出するそうです。日本で献血ルームの視察などを終え、日本と韓国との献血の違いなどを実感し、特に白血球輸注が行われてないことを知り驚いていました。私自身も韓国の現状をほとんど知らなかったため、韓国の現状に少なからぬ驚きを感じました。
また、ボランティアの中に日本語の通訳をしていた方(2年前に骨髄移植を受けた患者です)がおられ、その方を通じて日本の血液関係の患者会に連絡があり、交流会の依頼がありました。そこで血液患者コミュニティももの木との交流会が企画されました。当日は韓友会4人、NPO血液患者コミュニティももの木20人が交流会に参加しました。自己紹介後は、医療制度や費用の違い、医師とのコミュニケーションの問題、病院の問題など、互いの興味が尽きず会話は途切れることなく続きました。初めての患者会の国際交流は大盛況でした。
また、日韓患者会交流会の前日には、韓友会の方々と私で帝京大学医学部附属病院、都立駒込病院、国立がんセンター中央病院の病院見学を行い、日本の医療現場、特に血液病棟や無菌病棟を視察し、医師や看護師と意見交換しました。国立がんセンター中央病院では、我が国の臨床医の代表的存在ともいえる土屋了介院長が病棟、外来、相談室、調剤部など病院全体を案内してくれました。院長自ら、患者会活動を重視していることを身をもって示されたことに、医療者と患者とのコミュニケーションに問題を感じていた韓友会の方々は、喜びとともに非常に驚いていました。
今回の活動を通じ、韓友会の方々の医療に対する強く真剣な思いがグリベックの患者負担ゼロという結果を生み出し、さらに海外との交流活動につながっていることを実感しました。このような草の根の活動を医療者側も真摯に受け止め、ともに活動することは、今後の日本においても医療界に大きな影響を与えていくことになるでしょう。私もこのような活動を通じて、我が国の医療界に貢献できればと考えています。