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臨時vol 50 「全国医師連盟準備委員会発起人 黒川 衛氏 厚生労働省 第三次試案に強く反対します。」

医療ガバナンス学会 (2008年4月24日 13:16)


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■□ 厚生労働省 第三次試案に強く反対します。 □■
全国医師連盟準備委員会発起人世話役
黒川 衛



多くの関係者の論議によって、厚労省の試案は修正され、問題点も明確になりつつあります。あと一年、試案で三~四回ほど努力を積み重ね、他省庁との実効的な調整を進める事が出来れば、制度として禍根のないものに近づけるだろうというのが、率直な感想です。
逆に、今、この第三次試案で良しとすれば、折角の関係者の論議の深まりが中断され、拙速な判断で決めたこの制度によって、医療の問題点は放置され、固定化されてしまうことになってしまいます。
現実の医療状況は、ますます厳しくなってきています。「医療事故死亡での原因究明・再発防止」に限らず、厚労省が抱える領域には多くの課題が山積しています。医療関連に限っても、地域医療の疲弊、産科救急医療問題、高齢者医療制度、療養ベッドの削減、リハビリ等の診療制限、メタボ検診、医師の技術料抑制、違法な医療労働放置など、いずれの課題も、解決の目途は立っていません。
第三次試案の問題は、こうした医療行政が抱える絡み合った関連課題の一つであって、孤立した課題ではありません。そして、この問題は厚労省単一省庁の努力で解決できるものでもありません。法務省、総務省等との十分なすりあわせが必要ですし、何よりも政治決断により医療関連予算の適正な予算確保も前提となるでしょう。
医療事故の原因究明・再発防止を目的とした制度が、結果的に、真摯に救命・診療する医師への懲罰制度となるようでは、萎縮医療が加速し、本来、国民が享受すべき医療は崩壊してしまいます。ですから、医療安全調査委員会の制度は、充分な検討を重ねる必要があるのです。 第三次試案では、根本的な修正はなく、このままでは患者さんにとって好ましい診療環境には繋がりません。調査委員会の本来の目的である、原因究明、再発防止を、阻害する重大な問題点を、二次試案に引き続き継承しているからです。 全国医師連盟(準)世話役として、医療安全調の拙速な新設には反対いたします。
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重大な問題点とは、
【遺族から告訴があった場合には、警察は捜査に着手することになる】と明記されている点(問2の回答2)と、調査委員会と捜査機関との情報交換問題(通知の有無とは何か、通知内容が不明、実質的連動)があげられます。 このままでは、医療事故の際、関係者からの証言が得られにくくなり、原因究明、再発防止の目的は果たせません。 これらの問題点は、いずれも、安全委員会の判断を起訴要件とし、安全委員会等を訴訟前置強制するなど、特別法で安全委員会の位置づけを規定しないことに由来するものです。
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一方、前回の試案から詳細な明示となり改善された部分としては、
1 届け出義務違反は、刑事罰ではなく行政処分(行政命令)
2 地方委員会に対する黙秘権
3 調査終了前の事情聴取機会と委員会の少数意見付記
4 施行準備期間の設置
などが、あります。パブリックコメントを含めた多くの関係者の提言により、こうした改善が見られたことを評価したいと思います。 しかし、上記した重大な問題点が解消されていない以上、これらの修正事項は、不十分な修正にとどまります。
また、新たな問題点として浮かび上がった事項として、
1 問題点の多い機能評価機構を情報提供機関として公式に位置づけたこと、
2 調査チームメンバーを非常勤国家公務員として、該当事務方よりも低待遇にする懸念
3 委員会の最終報告書以外の調査資料の管理や取り扱いが不明
などがあり、いずれも、懸念材料として浮上しています。
厚労省試案で課題とした、医療事故死亡での原因究明・再発防止策の制度的確立は、現在の医療情勢全体を見渡したときに、唯一の優先事項ではありませんが、決定的な意味を持っています。それは、医療崩壊から再生へ転換するために必要な、医療供給側の現場の士気に直接関わる問題であるからです。
医療崩壊という、いわば敗戦濃厚な時期に、医療現場で戦う兵士達をいたわることをせず、あたかも補給路を断ち、後方支援のないまま、憲兵制度を作る愚は取るべきではありません。 困難な救命や診療にチャレンジし続ける私達医師の診療技術は、10年以上かかって、研鑽し文字通り血と汗の試練の中で培われたものです。私達医師の初心や努力をもっと信頼して欲しいと思います。現場の医師達が、誇りを持って医療に携われるようにすることを抜きにして、医療の再生は不可能だと深く思っています。
一、【医療問題の焦点】
医療問題の焦点は、WHOが世界一と評価している日本の優秀な医療が、医療費抑制政策などの放置により、ついに医療崩壊を迎えてしまった現状をどう立て直すべきかという問題に絞られてきています。「医療安全調査委員会制度」は、医療再生に向けた視点を持たなければ、いずれ、破綻するでしょう。医療自体が崩壊したときに、医療事故の原因究明も再発防止も、もはや意味がありません。 日本の医療に横たわる構造的問題点を含めて、広く国民的論議を行い、医療問題を医療供給側と医療需要側との両者間の問題に矮小化せず、国の問題として政治問題として論議する事が重要です。 医療安全委員会は、禍根を残さないよう、じっくりと時間をかけ、単独省庁の枠を超えて、他省庁との十分な調整をし、特別法の制定を追求実現するべきです。
二、【莫大な予算は有効に使うべき】
厚労省は、新設する医療安全調査委員会には、中央の委員会のほかに、地方ブロック単位に委員会を設置し、更に中央、ブロックにそれぞれ調査チームを構成させるとしています。このような組織を維持するには、課長・部長級の公務員を大幅増設する必要性があり莫大な予算を必要とします。今、医療費抑制政策によって、直接患者を救済し、診療する為の費用が削減されています。このような、医療費削減をしながら、原因追及にも再発防止にも繋がらない新組織設立の予算を組むことは、省益を叶えることにはなっても、国民の利益に反するものとなってしまいます。
三、【医療訴訟地獄が加速する】
訴訟不安と過労、赤字診療により、現場の医師達の逃散が進行しています。本来、予見と回避の不可能性が生じる医療には、予見回避義務の過失・責任を問う現行の司法枠組みはなじまないと考えます。 医療安全調査委員会でのレトロスペクティブ(後方研究)な調査報告は、医療事故再発予防に供されるべきものです。これが公費で行われ、本来プロスペクティブな責任を問うべき医療裁判に過って導入されることになれば、医療訴訟は続発し、アメリカ型の医療訴訟地獄が到来してしまいます。
厚労省の言う、医療安全調査委員会の新設は、現行診療の限界や問題点を改善する方向ではなく、現場の医療提供者に鞭を打ち、医療訴訟の続発による訴訟地獄社会を生むことになります。
総じて、幾つかの修正はあったものの、第三次試案に提示された医療安全委員会は、医師にも患者さんにも納税者にも、配慮を欠いたものとなっていると指摘せざるを得ません。
著者ご略歴
黒川 衛 医学博士 85年長崎大学卒業、九州大学第一内科入局、97年大分医科大内科助手、98年同病棟医長。99年長崎大学医学部神経解剖学助手、講師、2001年准教授、2003-7年長崎大学医学部教官会議代表、2007年9月長崎大学退職、2007年10月真珠園療養所勤務医、全国医師連盟準備委員会発起人世話役

 

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