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臨時 vol 48 「孤軍奮闘、厚労省の血液事業審議会に参加して」

医療ガバナンス学会 (2008年4月21日 13:17)


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               信州大学先端細胞治療センター
               下平滋隆

厚生労働省の審議会は4月8日、輸血用血液製剤の不活化技術に関するヒアリングを行いました(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/04/s0408-6.html)。当初は不活化技術を有するメーカーによる非公開での開催予定でしたが、前半部が公開ヒアリングとなり、小職が参考人として招かれました。30分間のプレゼンテーションと、その後、質疑応答が約1時間でした。ご想像いただきたいのですが、17名からなる委員、厚生労働省、日本赤十字社に対峙するたった1人の参考人という配置で、さながら裁判所の判事と証言者のような光景だったわけです。以下に少しだけ日経BPの橋本記者の記事を引用致します。
「下平副センター長の提案も、海外の状況などに基づき、不活化技術の導入を前向きに検討するよう求めたもので、至極まっとうだと思って聞いていたのですが、委員会の委員にはそうは聞こえなかったようです。もちろん、中には下平副センター長の提案に賛意を示す人もいましたが、全般的には提案に疑問を示す発言が目立ちました。それも、揚げ足を取るような質問が多く、ある委員が『不活化技術を推進するメーカーとの関係なく、ニュートラルな立場で発言しているのか』質問した時には、傍聴席に失笑が起こりました。ある委員は、『遺伝子核酸増幅検査(NAT)の導入など、安全対策は進んでいるのに、なぜ今、不活化技術の導入を言うのか』質問していました。確かに今、現時点で感染リスクはかなり抑えられているとしても、新型インフルエンザなどの新興感染症のことを考えれば、先手を打って技術を導入できるようにしておくのは重要だと思います。いずれにせよ、新しい技術の登場に対して、どのように使っていくのが有効かを検討するのがこの委員会の役割だと思っていたのですが、実態は『下平副センター長の提案を審査する会』でもいった印象でした。恐らく傍聴席にいた多くの人が同じような印象を抱いたに違いありません。」
以上、日経BPの引用でした。この様子は、NHK、毎日新聞、中日新聞等のメディアも既に取り上げていますのでそちらもご確認いただければ幸いです。
上記の場で、私は医療現場の医師として「薬害の教訓を生かし、将来を見据えて今可能な対策を講じる必要がある」「輸血血液安全監視体制(ヘモビジランス)の構築を前提に、不活化技術の導入について早期に結論を出す時期である」と提案しました。輸血の安全性に関する認識や不活化に対する見解は委員でも人によりさまざまと思いますが、不活化技術導入の是非に関する議論には皆様ぜひ注目してください。「輸血用血液の不活化導入は時期尚早である」、「日本で不活化導入を早期に決めるエビデンスがない」、「米国の承認・導入を踏まえて日本の方針を決める」、「赤血球製剤に対する不活化が欧州・米国で承認されたら検討する」等の審議会での発言は。そのためにも情報の公開が重要と考えています。
日本で最初に不活化技術導入についての議論が始まったのは、2003年12月20日、日本輸血学会主催、厚生労働省・日本医師会・日本赤十字社後援、シーラス(米国)、バクスター㈱、ガンブロ㈱、マコファルジャパン㈱、ヘモネティクスジャパン㈱の共催で「病原体(感染性因子)不活化の現状とその意義」と題して開催されたシンポジウム(於:全電通労働会館ホール)でした。そこでは結論として、20世紀に最良とされたシステム(ウイルスと細菌の汚染の防止のための検査、T細胞の除去、白血球の除去などの方法)からの方針転換、つまりパラダイムのシフトが重要であると示されました。具体的には、病原体不活化技術の導入です。会場には反対の意見もありましたが、このパラダイムシフトに大勢は賛成でした。ただし病原体不活化技術を導入するためには、日本赤十字社・厚生労働省・日本輸血学会および医療機関の輸血部の協力と努力が必要であること、コスト負担はどうするのか、さらには現状のシステムをどう変えるのか、などの課題も確認されました。
この4年間に各国での不活化技術の導入が進み、また昨年開催されたトロントでの「不活化技術導入に関するコンセンサス会議」(Vox Sanguinis 93:179-182,2007)の内容にある通り、使用実態の情報の蓄積が進み、安全性に関する信頼が高まってきました。それでも、より大規模な使用実態と安全性に関する情報は重要であり、国際的な協力体制による蓄積が必要である、というのが世界の流れであろうと思います。日本でもNATで安全性が保証される時代から、不活化導入へのパラダイムの転換を図る時期にさしかかっています。日本における不活化技術導入には基礎試験、治験、申請、承認、許可といった多くのステップがあり、長い時間を要します。まず検討から実際の導入に至るまでそれぞれのステップを踏んでいき、日本は将来においても世界で最も安全で先進的な輸血医療が行われる国たらんとする目標を持つことが重要だと思います。
こうした状況において、今回の血液事業部会での審議の意義は大きく、いずれにしても不活化導入に向けた検討が加速するものと期待されます。
著者ご略歴
1990年信州大学医学部医学科卒業。2008年信州大学医学部附属病院輸血部准教授、
先端細胞治療センター副センター長。輸血・細胞治療、再生療法の開発研究に従
事。
 

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