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臨時 vol 45 「医療再生議連 真の公聴会 傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2008年8月6日 13:21)


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         ~ 希望と課題の見えた夜だった ~
                              ロハス・メディカル発行人 川口恭

『医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟』の発足記念シンポジウムが12日土曜日に日比谷公会堂で行われた。恥ずかしながら、初めて日比谷公会堂へ入って感激したのだが、そんなこと知るかという方ばかりだと思うので、早速ご報告しよう。
午後5時半の開場前から100人ほどが列を作り、歴史的イベントの雰囲気をプンプン漂わせる。最終的には一階席がほぼ埋まり、二階席にも入っていたそうなので、来場者は1000人を少し超えるくらいだろうか。これを多いと見るか、少ないと見るか。
出席した国会議員は、壇上に上がったのが、五十音順に、尾辻秀久会長、塩崎恭久副会長、鈴木寛幹事長、世耕弘成幹事長代理、仙谷由人会長代理、西田実仁副幹事長。会場にいたのが、足立信也事務局次長、逢坂誠二代議士、小池晃幹事、萩生田光一事務局次長、橋本岳代議士。週末は選挙区回りをしなければならないという国会議員の常識からすると、特に壇上に上がらず会場にいた代議(参院議員はともかく)は、本気で医療に取り組もうとしていると思ってよいだろう。
さて中身のご報告に入る。
尾辻会長挨拶
「週末の貴重な時間にこんなに大勢の来場者がいてビックリしている。それだけ医療現場の危機を現しているのかなと思う。お産難民、麻酔医不足、訴訟リスク、萎縮医療、地域医療とキリがない程いろいろな問題がある。国会議員もこのまま何もしないわけにいかないと思って議連を立ち上げた。本日は様々な立場から率直な意見を伺いたい」
舛添厚労相のメッセージが代読され、意見陳述スタート。
網塚貴介・青森県立中央病院総合周産期母子医療センター新生児集中治療管理部部長
「当院でも医師不足は深刻で4人で24時間365日診療にあたっており、私自身年100回近い当直をこなしている。が、今日はその話ではなくNICUにおける看護体制について話をしたい。スライドの写真は『一人飲み』と呼んでいるもので、看護師があまりにも多忙なために抱っこして授乳することができなくなっている。なぜこのようなことになっているかというと、新生児を扱う病棟に看護士の配置基準がないから。厳密にいうと狭義のNICUは3対1になっているのだが、NICUから出た後の回復期病棟は成人の配置基準と同じになってしまう。結果として、1人に1晩で9人-10人受け持つのが常態化しており、中には15人受け持つような病院もある。回復期だからよいではないかと思うかもしれないけれど、実際にはNICUが慢性的にベッド不足なために、本来ならまだNICUに入っていなければならないような人工呼吸器管理下の乳児もどんどん回復期病棟に押し出されている。このような状態で安全に看護できないのは明白である。実際、10数人受け持ちの看護婦がうつぶせ寝させていて突然死に遭遇し、その後で有罪になるような事案もあった。同じ乳児を預かる保育所では児童福祉法施設最低基準で保育士1人あたり受け持ち乳児が3人までに制限されているのと比べてもあまりにもアンバランスだ。全国の赤ちゃんの声なき声を代弁して、せめて抱っこして授乳できるようにしてほしい」
有賀徹・昭和大学病院副院長(日本救急医学会理事)
「いわゆる救急たらい回しで救急隊が困っているという話が多く報道されているが、本当に困っているのは患者さん。その原因は3つ。まず、搬送しようとした病院が処置中であるというもの。これは要するに需要を満たすだけの供給がないということで、高齢化が進んで搬送は増えているのに、病院は増えていないのである意味当然である。次にベッドが満床であるというもの。これは急性期病院から次に行く病院がなければ流れができないのだから、要するに地域全体の医療が足りないということ。最後に最も深刻なのが、搬送しようとした病院が手に負えないと断るというもの。これはある意味、患者さん側が専門のドクターでなければイヤだ、専門外のドクターで悪い結果が出たなら訴えるというのと表裏一体の関係にある」
内田絵子・NPO法人がん患者団体支援機構副理事長・NPO法人ブーゲンビリア理事長
「会場の皆さん、この中で医療提供者は手を挙げてほしい」ザッと見回した限り6割くらいが手を上げただろうか。
「では患者さんは」
1割くらいだろうか。
「国を挙げての重要な会議というからには参加者は50対50が原則と思う。私も声をかけて集めたいけれど、今後はそういう視点で取り組んでいただきたい。陳述人にしても9人のうち2人しか患者側がいない。さて、患者が望むもの。それは医療の安全であり、医療の質である。安心して受けたい、自分でよいと思うものを選択したい。それにはどうしたらよいのか。病院情報、医療情報を開示してほしい。中には不名誉なものも含まれるだろう。それを見たうえで患者が判断できるよう開示してほしい。それから事故を解決するための中立公正な受け皿をつくってほしい。医療者と患者、メディア、政治家とのコラボレーションが必要である。このような会合を継続的に開催していただき、医療者と患者の風通しをよくすることで、誤解も払拭されていくであろう。そのようなコラボレーションの成功例としては、がん対策基本法とがん対策推進基本計画の策定を見本にすればよかろう。受益者である患者が参画したことによって、あのようなものができた。グランドデザインを考える時にも一緒に考えていきたい。次回は登壇者が半々というのを望む。今回は医療提供者ばかりで患者不在を感じた。キーワードは負担と給付。後ほどまた述べる」
この晩の内田絵子さんの発言は医療者たちから評判が悪いようだ。たしかに若干空回りしていた感はあるが、実は重要なことを言っていると思うので、私なりに解釈したところを補ってみる。
医療費を増やすことで利益を得るのは患者であり医療者である。対して健常者が大半を占める国民は、自ら予備群であったり家族であったりはするが、単純に言うと、彼らにとって医療より重要なことがある場合、医療費増額は彼らの利益に反する。そうした人たちの利益代表者である国会議員も多数存在している。つまり患者と医療者とは、国民全体の中ではマイナーな存在であり、かつ利害の一致する存在なのである。患者を巻き込まないで、どうやって国民全体に訴えていくつもりだ、と、内田絵子さんは憤っているのだと思う。それが最後の「ボヤキ」という痛烈な一言に集約されている。
どうか敵を見誤らないでいただきたい。
内田健夫・日本医師会常任理事
「わが国は最低水準の医療費で最高水準の医療を提供してきた。皆保険制とか健診の普及とか要因はあるが、何といっても医療従事者の献身で支えてきた。しかし極端な財政優先策によって、危機に瀕している。また患者国民との意識の隔たりも医療従事者を苦しめているだろう。これまでは何とかがんばってきたが、何かあると医療従事者を責める風潮があって危機的になっている。必要な時に必要な医療が受けられることが大前提であるが、御承知のように医師不足であるし、たとえ医師が増えても病院に雇う余裕がない。誰もがお金の心配をせず医療を受けられるのも大前提のはずだが、現実にはそうでなくなりつつある。負担の面でも格差ができつつある。民間の医療保険は米国などの例を見ると、3割が保険会社の経費になっている。そういう保険になってしまってよいのか。それからお任せ医療からインフォームドコンセント重視が言われるようになって、でも患者側が過大な期待を抱いているために医療を萎縮させている面もある」
嘉山孝正・山形大学医学部長
「まず大きな目から。グランドデザインとして医療費亡国論がハバを利かせている。しかし医療と教育にお金をかけない国は衰退するというので、ヨーロッパではずっとお金をかけてきている。日本の医療はWHOの判定で世界最高である。一方何かというとメディアにとりあげられる米国は15位に過ぎない。国民に情報がきちんと伝わっていないので、医療者ともどもお互いに不幸。しかも、それを国際的に見て非常に少ない医療スタッフで支えてきた。現場の医師が疲弊しているのは当然であり、医療にあまりお金をかけずにやってきたのが限界にきている。内田さんが安全と質を求めると言ったが、それを求めるには人とお金が必要である。事故情報などの開示についても、全国80の大学病院では既に始めている。あとは患者家族の救済策を国か日本医師会が作ってくれるとよいのでないか。もう一つ診療関連死の調査委員会第三次試案について述べる。果たして実現可能なのか。あの通りに始まったら、ただでさえ医師不足なのに、患者さんを診るより事故調査をする方に医師が割かれるようになる。そうなった時に誰が責任をとるのか。患者さんを救うと言いつつ、結果がよい方に向かっていかないであろう。正しい情報を国民の皆さんと共有して、裁判によらない信頼関係構築の必要性があるだろう」
黒川衛・全国医師連盟準備委員会代表
「患者さんを救おうとしている医師を救ってください。このままでは必ず医療は崩壊する。この国は医療制度偽装国家だ。守られない医師配置基準、労働基準法違反の長時間労働、なおかつその賃金すら支払われていない。このような医療体制で国民の生命を守れるのか。しかも結果が悪ければ逮捕されるなど、医師不足の中でさらに現場の士気を失わせることが相次いでいる。医師を法的に守ってほしい。せめて先進国並みの医療費を投入してほしい。病院を元気にすれば驚くほどの雇用が生まれる。医学医療立国を実現すれば、他国から人もお金も集まる。医療費は決してムダ金でない。国・国民を元気にするため以下を求めたい。救命活動を行う人への刑事免責、患者遺族支援のための無過失補償制度の創設、これらがセットになると患者家族も医療者も救われる。それから医療機関内の長時間労働を取り締まってほしい」
桑江千鶴子・都立府中病院産婦人科部長
「(前半部はビジョン会議と同じ要約 http://lohasmedical.jp/blog/2008/02/post_1092.php#more 参照のこと)産婦人科医だけが年に180人くらいずつ減り続けている。各地で産科崩壊も続いている。どうしてこんなになり手がいなくて、せっかくなってもやめるのか。24時間365日お産というものはあるのに、昼間だけ勤務が前提の定員になっているというのももちろんある。それ以上に医療訴訟によって私たちは心を打ち砕かれている。福島県立大野病院事件だけではない。医療側からするとあまりに不当で対策の立てようもない判例がどんどん出ている。そういう勤務で、どうやって続けていけと言えるのか。日本の司法は国民感情に配慮しすぎだ。生命という偉大な自然現象の前では、人間の貧弱な知識で何とかなることなど本当に少ない。死亡や不幸な結果は絶対にゼロにならない。ゼロにならないからといって逮捕するのか。もし大野病院事件で加藤先生に有罪判決が出たら、うちの病院では分娩取扱いを中止するか、絶対に安全な数まで制限する」
涙声で桑江部長が言った途端に会場から雷のように拍手が湧き起こった。妊婦を人質に取る発言とも言えるので、状況を知らない人に誤解されることを恐れるが、しかし誤解した人間が吊し上げでもしようものなら本当に辞めてしまうだろう。やはり追い詰められると人は腹をくくるし、失うもののある人間は、腹をくくった人間に勝てない。
「女性医師が踏み止まってくれるよう、全体の労働環境整備をして、子供を生み育てることのできるようにしてほしい」
丹生裕子・県立柏原病院小児科を守る会代表
「私たちは昨年4月に発足した。市内の病院で唯一小児科のあった県立柏原病院で1人しかいない小児科医が辞意をもらし、小児科がなくなるからということで分娩予約の受付を中止したと新聞報道で知り、このままでは産科も小児科も両方失ってしまうと慌てた。安心して子供を生み育てることのできる地域でありたいと考えた時、お医者さんに頼らなければならない、だったらお医者さんを大切にすること守ることが、安心して子供を生み育てることになるのでないかと思ったのが私たちの活動の原点。それを3つのスローガンに込めて活動してきた。1、コンビニ受診をやめよう、2、かかりつけ医を持とう、3、お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう。このスローガンを乗せたマグネットを作ったり、子供を持たない住民にも地域医療の現状を知ってもらおうとビラを作って配布したりしている。それから賢い親が増えることを願って柏原病院の医師、保健師の監修を受けて『病院へ行く前に』という冊子も作った。私達の活動がどの程度浸透しているかは分からないけれど、柏原病院では昨年の時間外受診が前の年の4分の1に減ったという。4月から新しく小児科医も2人来てくれることになり、とても嬉しく思う。でも新しく来たお医者さんが疲れてしまわないようにしないといけないと思っている。柏原病院ではお医者さんが増えたので夜間二次救急の輪番に復帰することを検討している。お医者さんに感謝の心を伝えようといったことでお医者さんの立場を思いやる人が増えたと思う。医療は施すもの、施されるものではなく、ともに力を合わせて作り上げていくパートナーのようなものだと思う。柏原病院全体では、大学医局からの引き揚げが相次いで4年前まで43人いた医師がこの春には20人にまで減ってしまった。増えたのは小児科だけ。私たち住民にできることは、丹波で働くのも悪くないかなとお医者さんに思ってもらえるような地域をつくることだと考えている」
久常節子・日本看護協会会長
「最初の網塚先生のNICUの話は衝撃的。一般家庭で1人のお母さんが1人の健常な乳児をみるのも大変なのに。皆さんの言うように医療費が足りないという話はもちろんあってパイを増やせという話には賛成だが、それに加えて医療費の配分も考え直さないといけない。日本の医療の特徴は、入院期間が長く、医師や看護師の配置が少なく、薬の使用量が多い、よく私どもは、多い少ない長いの医療と言っている。このうち人の配置に関して言うと、看護師の受け持ち患者が1人増えるごとに患者の死亡率が7%上がるという研究があるし、また逆に看護師が増えると回復が早く入院機関が短くなるという研究もある。このように看護師を増やすことの効果は明らかであるにもかかわらず、10対1の基準から7対1の基準ができるまでに10数年かかったように、なかなか良くなっていかない。医療費の配分を人の配置に視点を置いてやってもらいたいなと思う。7対1を導入した時には看護師が足りないと騒がれた。しかし本当に足らないのか。日本全国で80万人の看護師が働いている。このうち10万人が毎年離職していく。なぜこんなに辞めていくのか、桑江先生の女医さんの問題と重なる。3交代で夜勤務をしなければならないうえに、超過勤務の平均が14時間40分と一般企業の1.5倍ある。これでは子育てしながらではとても続けられない。緊張を強いられるし、ちょっとしたことですぐ医療事故になる。現在厚労省が音頭をとって、短時間正職員制度というのが進められているが、ぜひ推進してもらいたい」
コーディネーター役の土屋了介・国立がんセンター中央病院院長
「私にあたえられた時間は10分。内田絵子さんが医療関係者が多すぎるということだったので、内田さんの味方をしながら、いくつか聴いていきたい。嘉山先生は医療費亡国論が悪いというけれど、では亡国論が出てから25年間医療者は何をしていたののだろうか」
内田絵
「私も医師に感謝の気持ちを持つということで患者会を立ち上げている。現状を考えると勤務医が週に80時間以上働いているようなことは何とかしなければならない。その目的は何か。医師がプロフェッショナリズムを発揮して、受益者たる患者の利益追求をするということなんだろう。だとすると9人のうち2人しか患者がいないのはどういうことなのか。患者がこういうから大変、クレーム言うから大変ではない。患者の敵は病気であって医者ではない。なぜそう(接続がおかしいのでメモ不備か)なるか。共通目的は再発防止であり、中立公正な開示をして、どうしてというのを、医師のミスなのか、それとも他の医療提供者のミスだったのか、不可抗力だったのか、きちんと出すことが必要。患者は真実を知りたい、隠せば追うというよくない関係になる。医療をサポートしてほしい人材不足を何とかしてほしいというなら、医療の資源配分がどうなっているか開示してもらわないと」
土屋
「私の持ち時間のうち5分を内田さんに差し上げたので、それでフィフティーフィフティーということにしてほしい。ところで、なぜ情報開示してこなかったのだろう?」
嘉山
「資料にもつけたが事故に関しては80大学は昨年9月から基準を設けて開示を始めている。uminという東大にあるサーバーに全情報が載っている。この数年で大きく変化した。山形大では、医療事故を隠蔽した教授が懲戒処分になっている。たしかに取り組みとして遅かったかもしれないが、先ほど土屋先生から医療者を何をやっていたかという指摘があったが、医療者は医療をやっていた。日本医師会がやてくれていると思っていた。国民がきちんと情報を持っていなかったことが問題なので、まず全部出すことが大切だと思う」
土屋
「第三者機関が必要なのか、それともまず各機関が努力すべきなのか」
嘉山
「日本医療機能評価機構には既に報告をすることになっている。あえて、そのうえに事故調をつくって、国の施策としてやるとして、各大学がやっている以外に誰がやるのかという問題がある。方向として正しいことは正しいけれど、現実問題として無理があって、患者さんを診るより事故調査をするようになってしまう。これは脅しでも何でもなくて、法律ができてしまえば、それに従わざるを得ないのだから」
土屋
「医師会は診療所を中心にマネジメントしていたから、病院の変化、社会の変化に合わせて考える努力が足りなかったのだろう。国会議員にしても患者にしても、医療現場から声が上がらないと分からない。労働基準法を守らないといけないという問題は、我々の施設では国家公務員だからということで残業代を払ってこなかったし、臨床医もその実態を訴えてこなかった。それから救急の問題については、後ろに控える全科のバックアップがないと成り立たないのだから、そういう施設が必要だし、なおかつドラマERのように勤務時間外に患者が来ても帰れるようになっていないといけないと思う、ということで私の質問を終わる」
ここから議員による質疑。まず尾辻会長から
「いくらでも質問したいことがあるが、時間もないので、一点だけ内田先生に尋ねたい。厚生労働相の時には大分いじめられたから、その恨みも込めて話をさせていただくのだが、日本医師会の経済財政諮問会議に対する評価を伺いたい」
内田健
「国の将来を考える会であるのに、社会保障と教育の専門家が入っていないことが非常に大きな問題だと考えている。社会保障と教育にお金をかけない国は衰退するというのに、財政の帳尻合わせばかりに終始しているのが不満だ。特に自然増の1兆1千億円を抑制するという方策によって、本当に日本の医療は崩壊の瀬戸際に追い詰められている。誰かが負担しなければならないんだと国民にお知らせしていただきたい」
尾辻
「私の言いたいことを言っていただいた。私から言うと角が立つので、ありがたいことと思う。2200億円これ以上削れと言われたら間違いなく医療は崩壊する。お互いにがんばっていきましょう」
仙谷
「医療提供者側ばかりと注文がついたが、議員は提供者ではないので、そのバランスもあるだろう。現場の生の声が聴けて良かった。前回の議連の会合(http://lohasmedical.jp/blog/2008/03/3.php#more参照)で、厚生労働省の担当者に医療現場のムチャクチャな違法状態を何とかするような対策を取ったのかと尋ねたら、そんなことは関知するところでないというようなフザケた答だった。診療報酬をつけても勤務環境は変わらないのだろうか。それから中医協では、こういう交代制を可能にするにはというような観点の議論は出ているのか。日医から出ている診療側委員が何か言ったりしないのか」
網塚
「今回の改定で何も変わっていない。私は部長だけれど名ばかり管理職。残業代が出なくなっただけで勤務は何も変わっていない。労働基準法を守るというのは率直に行って難しいかもしれないが、せめて労働時間は把握してほしいと思う。病院としては、知ったらマズイということのようだ」
有賀
「病院そのものの運営原資が診療報酬なのだから、整理すれば良くなるに決まっている。そうならないのは、そうしないから」
黒川
「診療報酬の改定システムは厚労省、中医協、財務相の3者によって行われることになっており、現状では特に財務相の声が大きいのだろう。財務相に枠を示されてしまうと、結局医療費の中のパイの争いにならざるを得ない。そうではなく、本当に必要な費用はつけてもらうようにしないといけない」
内田健
「中医協はそういう場ではないと考えられる。内閣府から何%アップとか何%ダウンとか示されて、それをどこに重点的に配分するかというのを考えているところだ」
桑江
「私たちの労働をきちんと評価してほしい。タダ働きばかりしている。絶対にイヤだとは言わないけれど、現在はタダ働きしても報われない」
仙谷
「どうすればこの問題を解決できるのか。つまり、大野病院事件が起きるまで、我々も医療現場がこんなことになっていると知らなかったし、日本医師会は把握していたのか。今日出てきた話も大衆的な意味ではまだ全然知られていない。どうすれば国民に『ああそうなんだ』と分かってもらえるのか」
嘉山
「我々医療者も反省しなければいけない。患者さんに正しい情報が行っていない、知っていただきたい。その情報を持っているのは厚労省なんだが、厚労省がグランドデザイン出さないことには、患者さんが際限なく要求するのも仕方ない面がある。誰だって悪い医療よりは良い医療を受けたいのだから。で、その意味では、医師の養成数削減を決めた86年の閣議決定、医療費抑制を決めた96年の閣議決定を外さない限り、厚労省が閣議決定に逆らって動くわけにはいかない」
塩崎
「ずっと地元の医師会と勉強会をしてきた。医師不足の話なども聞いていたので、その話を厚労省に尋ねると、なんだか数字を持ってきて全然足らないことはないと言われてきた。これは要するに一次情報は厚労省しか持っていない。日医総研の出すものも情報の一つではあるだろうが、それは供給側の情報であるから、もっといくつかの情報源を持っていないといけないということなんだろう。どこか中立のシンクタンク的なもので伝えていただかないと厚労省の言うことを信じざるを得ない。最近はSickoの上映会もしたけれど、最後は国民負担の問題だと思う。770兆円の大借金がある。これを逆転させるにはどうしたらよいのか。財源は3つしかない。保険料、窓口負担、税金だ。保険料と窓口負担は限界に近付いているとすると残るのは税金であり、トータルとして官邸、国会が決めることだろう。医師の一人勝ちはおかしいけれど、誇りと希望を持ってない医師に診てもらうのも御免蒙りたい。医師が医療に専念するために財源が必要だと言うのなら消費税を上げるということも現実味を持って議論しないといけないのでないか。ところで女性医師を1人としてカウントできないとすると、どうカウントすればよいのだろうか。それから、インフォームドコンセント(IC)の行き過ぎと安心できる医療の二律背反とはどういうことか。またNICUの配置基準はどのようなものであるべきか。司法の硬直性については医療だけでなく経済の分野でもブルドックソースを巡る判決で世界中が驚いて投資家たちが日本から出ていったということが起きている」
桑江
「きちんと労働基準法を遵守した交代勤務になっていれば女性だって1人前に働ける。現状で何人分というのは言っても仕方ないし、現状を追認するだけと考える。労働基準法を守れば自然に解決する」
内田健
「ICは進めるべきであることは言うまでもないが、しかし医療者と患者との間には知識や情報料に凄まじいギャップがある。だから情報を全部伝えることはしていない。いかに患者さんに決定し納得していただくか、そのための情報提供であり、その正しさを支えるのは専門職としてのモラルだ。その辺り高久先生が最も詳しいので一言いただければ」
高久史麿・日本医学会会長
「長崎大に行くと、医学を伝えたポンペの言葉が飾ってある。『医者は患者のために働く者だから、患者のために働く気がないなら医者を辞めた方がいい』という内容。そんなことでよろしいか」
網塚
「おそらくギリギリに頑張って看護師1人あたり5人から6人。保育士より甘いじゃないかと思うだろうが、保育所は受け入れを断っている待機児童の存在があるから3人以下にできる。でもNICUの場合は入院拒否でそんなわけにいかない。そこを譲歩して、この数字だ」
ここから自由討論に入る。土屋
「萎縮医療を防ぐ方策として刑事免責が真っ先に上がってくるが、反対側の意見としてはカルテ改竄や保険の不正請求のような違法行為が実際に行われてきたじゃないか、そういうものを放置しておいて免責など受け入れられないということ。自浄作用がないままに一方的に免責を言うと反発を食らう」
有賀
「悪いヤツがいるじゃないかというのは、どの業界にも困った人がいるということだと思う。私も医療訴訟に関与してみて、少なからずきちんと裁かないといけない事例のあることは知っている。しかし今は腐ったリンゴの排除の話ではなく、まじめな人たちが萎縮していくことをどうするかの話だと思う」
土屋
「信頼関係を再構築するには、ギャップをどう解消するかが問題になるので、メディエーターを用意した方がよいのでないか」
嘉山
「ADRは進んでいくのでないか。メディエーターも山形大では導入する方向で進めている。ICの根本は、全部分からせることではなくて、話しているうちに真剣さが伝わって信頼関係ができてくるということなんだろう。ヒポクラテスの時代からの我々に任せればよいではないということだ。メディエーターは健全な医療のために必要だ」
土屋
「財政的裏付けはあるのか」
嘉山
「戦前からロジスティクスを考えないのがこの国の伝統だから、何も裏付けはない。厚労省から通知が出て、普通の企業だったら、それに必要な資源の支給があるものだと思うが、通知の裏を見ても真っ白だ」
土屋
「その辺から手をつけたい。この間も医政局長通知で、医師は医師業務に専念し、その他の業務は看護師や技師に任せよ、看護師や技師も専念し事務職に任せよというようなありがたい通知が出てきたが、じゃあ事務職は余っているのかといったら毎年削減され続けている。じゃ、外注するかといっても、その分の予算措置もされていない。施策を行えと言いながら財源は知らんという、これをまず改めてもらわないと」
内田絵
「負担と給付に尽きる。患者は目的税で負担が増えても仕方ないと納得している、しかし今のままで増えるのには納得できない。負担増になった分、どれだけの安全と質の向上があるのかそこを明確に表してほしい。患者も市民も参画して負担と給付の問題を考えよう。患者も負担増は当然だと思っている」
土屋
「この問題の解決はたしかに中医協の枠を超えているし小手先の改定では限界に来ていることも明らか。質の保証という意味では医道審という立派な名前の審議会があるが単に刑事処分の後追いをしているに過ぎない。医師の集団が自ら身を正す自浄作用を示さないと信頼回復はありえない。医師は社会の中で活躍するものなのだから社会を忘れてはうまくいくはずがない」
フロアの議員たちからの発言に移り、小池晃参院議員
「自民党の尾辻さんの言うことに共産党の私がその通りということは滅多にないが、今日はその珍しい時。国会議員の責任として骨太の方針の骨を抜こうではないか。2200億円削減をやめること、それから医学部定員削減の閣議決定も一緒に外そう」
足立信也参院議員
「丹生さん素敵なお話をありがとうございます。4月12日というのは実は私がメスを置いた日。現場にいた人間として反省すべきは反省し、でもこれから新しい医療の形を作っていかなければならないと思っている。医療提供者というのは一方的に提供側ではなく、自分が患者になったり家族が患者になったりもしているので、実は両方の気持ちが分かるのは提供者側。逡巡している時間はない。この一刻も壊れていこうとしている。作り上げていかないといけない」
橋本岳代議士
「丹生さんのお話はとても大事だと思った。もう一つ診療関連死に関する第三次試案が出たが、あれについて伺いたい。免責は極端で今の国民の中で受け入れられるのは難しいだろう。となると、どうしたら不当な責任追及をされないですむようになるだろうか」
黒川
「刑事免責をしてほしいのは医師に限らない。警察官、救急隊員を含めて、救命活動にあたっている場合は免責してほしいと言っている。現状では立件用件が全く不明確で、人を助けようという意欲が削がれる」
内田絵
「医療政策を考えたり決定したりする時、その受益者が入っていないのはおかしいと思う。対立関係でなくパートナーシップということに異論はない。であれば、このような医療者のボヤキで終わるのではなく一緒に考えていく決定の場を考えていくことが必要だと思う」
逢坂誠二代議士
「今日のような対等な立場の情報交換が少なかったと思う。これが第一歩になって全国に広がっていくといいなと思った」
高久
「今日は現場の生の声をいろいろ聞けたと思う。実は私も昨日コンビニから出たところで自転車と激しく衝突して救急車で運ばれて1日入院してきたので発言する権利があるだろう。今までの話に賛成。自治医大のある栃木県でも医療崩壊が現実に起こりつつあるのを目にしている。2001年にイギリスの有名な医学雑誌に載った『なぜ医師は不幸なのか』という論文によれば、理由の第一位は為政者の無策だった。当時はサッチャー政権で医療費が非常に削減されていた。その後でブレア政権になって医療費を大幅に増やしたけれど、医療者の士気はなかなか戻っていないという。いったん下がった士気を上げるのは大変ということを示していると思う。現在の医療費を上げないとなかなか大変なことになるだろう。医療安全のことを考えても、人は誰でも間違える、のだから質と安全のためにはシステムを作らないといけない、そのためにも医療費増は避けられない。一緒になって日本の医療をよくするために医療費を上げることをまず求めたい」
鈴木寛参院議員
「患者側の代表が少ないではないかということに事務局として一言説明させていただくと、今回事前に136本の意見をいただいたが、うち130本が医師や医療従事者だった。その辺もあって、このような配分になっていることをご承知いただきたい。ぜひ2回目は医療提供者以外の方にも、どんどん意見を寄せていただき、登壇もいただきたい。今日はキックオフであり、議連の使命として世論喚起もあるので広く国民患者の方にもどんどんお伝えしていきたい。皆さんあまり意外に思っていないだろうが、政治家主催のシンポジウムに県立病院や国立病院の勤務医たちが参加してくれたのは画期的なこと。今まは、そういう厚労省を通さない形での直接的な意見交換ができなかった。それから、本日の運営には全国各地の医学生たちが40人も協力してくれたことを御紹介したい」
最後に仙谷会長代理が挨拶
「土曜日のこんな時間にこんなに多くの方にお越しいただき心から感謝申し上げる。丹生さんのお話は感動的だったが、健常な国民の多くはまだ全然気づいていないと思う。私も6年前にがんの手術を受けて医療従事者たちの働きぶりを見るまでは全然気づいていなかった、今の医療がなくなって初めて分かるというのではいかん。丹生さんのように感じとる人が多ければ全国あちこちに同じ動きが出てきて日本医療は再生するだろうし、それが出てこないようなら、他の分野と同じようにcomfortable sinking心地よい沈没が待っているだろう。医療の場合、心地よいとは言えないかもしれないが、いずれにしても国民が気づかなければ沈没するしかない。現場の声が直接生かされるしくみを作っていただきたいし、我々国会議員も真剣に議論したい」
いみじくも仙谷代議士の総括が全てを表している。真の敵、働きかけるべき相手は、無関心な国民であり、そのためには、まだまだ全然力が足りない。それを医療者も患者も認識しなければいけない。
(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載されています)
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