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臨時 vol 30 「最近話題のピロリ菌って何?」

医療ガバナンス学会 (2008年3月22日 13:34)


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国立国際医療センター 消化器科 小早川雅男
 

●ピロリ菌はいつ誰によって発見されたのでしょうか
ピロリ菌はオーストラリアのマーシャルとウォレンによって1983年ヒトの胃の中から発見されました。その後、ピロリ菌がヒトの胃に与える様々な影響が解明され、2005年には発見者の二人に、「ピロリ菌とその胃炎・消化性潰瘍疾患における役割」に関する発見を理由にノーベル生理学・医学賞が授与されました。
●ピロリ菌はどこに生息するのでしょうか
ピロリ菌は、主にヒトの胃に生息します。胃の中は胃酸により酸性に保たれていることから、他の細菌は生息することが出来ません。ピロリ菌はウレアーゼという酵素によりアンモニアを作ることで胃酸を中和し胃の組織と粘液の間に住み着いています。日本人の場合、約50%の人にピロリ菌が感染しています。高齢者ほど感染率が高く、若年者での感染率は低い傾向を示します。ピロリ菌は幼少時に口から感染し、成人となってから新たに感染することはほとんどないことから、幼少期の衛生環境がピロリ菌の感染率に影響していると考えられています。通常ピロリ菌が陽性と診断されれば、その人の年齢とほぼ同様の年月ピロリ菌の感染が持続していると考えられます。
●ピロリ菌が感染することで何が起こるのでしょうか。
ピロリ菌は胃に感染することによって慢性活動性胃炎と呼ばれる持続性の炎症を引き起こします。この炎症が持続することによって、胃粘膜は次第に萎縮していきます。胃粘膜が萎縮することによって胃酸の分泌は減少します。胃粘膜の萎縮は簡単に言えば胃の老化現象と例えることができるでしょう。胃の老化現象はピロリ菌に感染していない胃にはほとんど起きません。多くの日本人の場合、ピロリ菌に感染すると年齢とともに胃の老化(萎縮)が進行します。老化のスピードは人によって様々ですが、強い炎症が続き、老化現象がより進んだ人では胃癌の発生リスクがより高くなることが判明しています。また、胃の老化(萎縮)が高度に進行すると、ピロリ菌にとっては逆に生息しにくい環境になり、菌数が減少あるいは消失することがあります。このような場合ピロリ菌が陰性と判定されても、実は最も胃癌のリスクが高いと言えることから注意が必要です。日本人の場合、ピロリ菌の感染の有無を厳密に調べると、全くピロリ菌に感染したことのない人に比べて胃癌のリスクは約10倍であることが判明しています。
ピロリ菌は胃癌の他にも、胃?十二指腸潰瘍の原因となることも判明しています。ピロリ菌を除菌することによって、潰瘍の再発が1/10程度になることから、胃?十二指腸潰瘍患者では除菌療法が保険適応で認められています。そのほか、胃のマルトリンパ腫、過形成ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病などにおいても除菌療法の高い有効性が示されています。ピロリ菌を除菌した方がいいのでしょうか?
現在、胃?十二指腸潰瘍がある場合、またのその既往があれば保険適応にて除菌療法を行うことが可能です。しかしながら、ピロリ菌の感染は直接的に胃に症状を引き起こすことはないことから、現時点ではピロリ菌感染のみでは保険適応は認められていません。ピロリ菌が様々な疾患のリスクとなっていることは判明していますが、除菌することによって、これらを予防することは未だ証明されていないからです。
それでは、他の疾患ではどうでしょう。C型慢性肝炎ウイルスは、慢性肝炎を引き起こすことによって肝硬変となり肝癌が発生します。C型慢性肝炎自体は無症状で、ウイルスを排除することによって肝癌の発生を抑制することは証明されていませんが、インターフェロンなどによるウイルス排除の治療は保険で認められています。リスク因子の持続的な暴露という面ではピロリ感染は喫煙にも通じるものがあります。非喫煙者に比べ喫煙者の肺癌のリスクが高いことはよく知られています。喫煙者に、禁煙すると喫煙を続けるのに比べ肺癌のリスクが低下するとは証明されていないから禁煙は勧めないというのは無理があるような気がします。
ピロリ菌を除菌することにおけるデメリットも考えておかなければなりません。ピロリ菌の除菌は、制酸剤と2種類の抗生剤を1週間服用することから、服用中に、下痢、味覚異常などの副作用が約30%の患者に生じます。稀ではありますが、抗生剤によるアレルギー反応や、出血性腸炎などが起こる可能性もあります。また、除菌後には胃酸分泌が増加することから、逆流性食道炎のリスクがやや高まります。
除菌治療の成功率は約80%です。一度除菌に失敗しても別の除菌法を用いることで更に約80%除菌できます。除菌に成功すれば再感染は稀です。もしあなたが、これらのことをよく考え除菌を強く希望するならば、ピロリ菌について精通した医師に相談した上で、現時点においては自費(約7000円)にて除菌治療を行うのがよいでしょう。胃癌の予防が証明されているわけではないので除菌後の定期的検査もお忘れなく。
著者ご略歴
平成10年 広島大学医学部卒業
平成10年4月~平成12年3月 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 内科研修医
平成12年4月~平成15年3月 国家公務員共済組合連合会 広島記念病院 消化器科
平成15年4月~平成16年6月 国立国際医療センター 消化器科
平成16年7月~平成18年6月 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 審査専門員
平成18年7月~現在      国立国際医療センタ 消化器科 医系技官
日本内科学会認定医 日本消化器病学会専門医
 
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