臨時 vol 24 「大学病院の医療事故対策に関する委員会の現時点での見解」
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「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案(厚生労働省)」
に対する全国医学部長病院長会議―大学病院の医療事故対策に関する委員会の現
時点での見解
全国医学部長病院長会議
会長 大橋俊夫
大学病院の医療事故対策に関する委員会
委員長 嘉山孝正
「はじめに」
昨今、国民が医療に期待する医療レベルは高く、医療の複雑性が知られていない事が原因で、また、医療側の説明不足で、患者と医療と間に不信感が増しています。双方に不幸な結果となっています。その結果、医療結果のみで患者側が医療者を恨むという不幸な事態を招いています。もちろん、とんでもない医療人がいる場合には、しっかり、対処すべきです。事実、一部の大学では、医療事故を隠蔽した理由で、懲戒処分を行っております。多くの医療者は医師、看護師、薬剤師を含め誠実に医療を行っています。その結果、日本の医療レベルは、最新のWHOの評価では世界一位です。{資料1}ちなみに、米国はレベルで24位、総合で15位です。一方、日本の医療費が高額だとおもわれておりますが、大きな間違いで、OECDの最新の報告では、GDP当たり22位{資料1}です。しかし、国民が医療費は高いのではないかと感じるのは、制度的に病院の窓口での支払いが世界の上位にあるからです{資料1}。自助努力をしていない病院があるにしても、全国の病院の7割が赤字{資料1}となるのは当然のことなのです。また、医師数にしても、医師数の偏在ではなく、医師数を人口あたりでみると、OECD国家の平均より少ないのが現実なのです。従って東京都ですらOECDの平均より少ないのです。都立病院で産科医療ができなくなっていることが、それを物語っています。医師の絶対数が足りないのです{資料1}。なぜ、医師数が少ないかといいますと、昭和23年に、国立病院の16ベッドに一人の医師でまかなうように計算したからです{資料1}。昭和23年といえば、結核か戦傷者がベッドに横たわっていて、心臓や脳の困難な手術はなされていません。医師不足になることは当然で、単に医師の偏在ではありません。{資料1}これでは、世界一位の手間のかかる医療を行っていて、医師が現場から立ち去っていくのは当然です。従って、日本の勤務医の労働時間は先進国で図抜けて多いのです{資料1}。勤務医が立ち去り医療崩壊が東京都も含めて起きていることは自明の事です。
「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案」
今般、全国医学部長病院長会議は、国民が健全な医療を受ける事ができることを眼目に、また、第一の優先度に置いて、「大学病院の医療事故に関する委員会」で議論を重ねて参りました。
この試案の骨子は、2つあります。一つは、国民が自分の家族が病院で亡くなったとき、不信感(必ずしも根拠があるわけではなく)から、事実を知りたいという希望を適えようという事です。医療内容の調査です。もう一つは、関係医療者の過誤、過失(実際は単純ではありません)の責任追及です。従って、本試案はその後多少の修正はあるものの、骨格は変わっていません。
医療内容の調査の原則は、平成17年日本学術会議が提言しているように、現代社会では科学技術の進歩、工学医療事故が個人の過失だけで起きるものでないことは、明白です。{資料2-ページ1-3}事故調査の原則は誰がではなく何故を調査し、次の事故を防ぐ事が、事故に遭われた人々への謝罪になると提言しています。また、刑事との関わりは、調査結果を使わない{資料2、ページ5}事が原則です。そうでないと科学的ではなく、また、刑事で使われることが解っていれば情報が出てこないとも提言しています。冷静な調査は飛行機事故調査と同様に科学的に行われるべきです。そのことが患者さんへの責任を果たすことになると確信いたします。情報の開示です。国際民間航空条約での事故調査の原則も科学的に専門家が行うことを決めています{資料3}。本試案のように利害関係者が入る調査機関は世界的に一つもありません。従って、悪意のある医療事故やとんでもない医療を行った場合には免責はまぬがれられませんが、刑事ではなく行政処分や民事処分を行うべきです。事実米国では、行政処分、民事処分で対処しています。誠意で施行した行為が犯罪と扱われることが問題です。
一方、患者さんを救うためには、まず、患者さんと医療側の信頼を取り戻すことです。近年の日本の大学付属病院は平成11年1月11日の横浜市立大学付属病院の事件(患者取り違い)を契機に、大改革を行ってきました。未だ、全ての大学付属病院で意識改革が進行したわけではありませんが、昨年9月に全国大学付属病院(80大学)は公表基準を統一し、さらに、日本病院機能評価機構へ報告しています。{資料4}また、向後は経済的保証も考慮する必要があるとも考えております。その例としては、米国医師会が1995年に創設した全米患者安全基金(National Patient Safety Foundation; NPSF)を日本医師会か国家が創設すべきと考えます。
本試案の根本的問題点は医療内容の調査と患者さんおよびその御家族を救うというジャンルの異なる二つの事物が一つの試案に含まれていることです。ジャンルの異なる両方の目的が達せるとは思えません。また、自然現象(病気)を扱った業務の結果が悪ければ、刑事処分にすることに問題点があります。これでは、全ての医療者;医師、看護師、薬剤師、検査技師を目指す人はいないことは普通に考えれば解ることです。現代の医療は複雑でよほどきちんとした法文でないととんでもないことになることは明白です。日本医師会は、本試案をきちんと運用するから心配ないといっていますが、昭和34年に制定された年金法の一文{資料5}がその後、グリーンピア等国民の税金を無駄にしたことでも、法案は完全に運用に任せてはいけないと思っております。もし、運用でというなら、明文化し担保をつけるべきです。医療の健全な運営を保証する文章にすべきと考えます。それこそが、患者さんを含む国民への義務と考えます。また、現行の医師法21条が病院内の異常死を警察に届けるようにとなっていることも問題です。数年前までは、犯罪に関係する死を届けるようになっていたものです。この医師法21条の問題は、別に考えねばなりません。あたかも医師法21条を人質にとり、一見改善するように説明する人々がおりますが、医療の荒廃をさらに増悪すると考えます。医師法21条は、以前の犯罪のみを届けるようにすべきです。
全国医学部長病院長会議の大学病院の医療事故対策委員会は、日本国の患者さんに適切な医療を行うために、以上記した理由で現時点では反対をいたします。大学病院が全ての分野で自然(病気)を相手にし、さらにその中でもっとも高いリスクを対象にしている{資料6}からこそ危機感を持っています。本委員会の顧問の先生方の声明文{資料7}を添付いたします。また、本試案の対案を委員長案(嘉山私案;資料8)として添付いたします。