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臨時 vol 17 「化学療法と緩和ケアの接点、希望格差を生まないために」

医療ガバナンス学会 (2008年2月19日 14:17)


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  小林一彦・臨床医ネット代表に聞く
ロハス・メディカル発行人 川口恭


 臨床医ネット(患者さんとともに納得の医療を目指す臨床医の会)をご記憶だろうか。05年のNHKスペシャル『日本のがん医療を問う』に真っ向から疑義を提し、マスコミなどで大いに話題になった医師たちの集合だ。先日、代表の小林一彦医師に久し振りに会ったところ、医療再生議連が設立されたことに刺激を受け、また新たに活動を始めようとしているらしい。今どんな問題意識を持っているのか、聴いてみた。  小林医師は、再発難治がんの治療を受ける患者さんには、生きる「希望」が必要であるという。そして自身の臨床体験から、希望とは「現在苦労すれば将来的に報われるということを現在において確信できる心理的状況」と定義できるという。このため、患者さんの多くが、進んで今の苦労を求めるという。以下、小林医師の一人語りの形で話を続ける。  患者さんは担当医に「私は何をどう努力すれば良いですか」と問うてくる。たいていの医師は、早寝早起きや栄養のバランスといった当たり障りのない答えをするか、化学療法の合併症を抑制するための方法論にすり替えて答える。患者さんの求めているものは化学療法の成功率が上がるような方法論なので、求めているものに対して答えていないのだが、すり替えを自覚していない医師も多い。  意図的にすり替えてしまう、もしくはすり替えにすら気づかないという背景には大きな問題が横たわっている。西洋医学の方法論として良質なevidenceを得るためには比較試験が必須であり、理想的な比較試験とは、解析対象となる行為以外は全て同じ条件にそろえたものである。だから、そこに患者の努力のような定性化も定量化もしづらい因子は取り込めないし、そのような因子が存在することそのものから目を逸らしていた方が楽なのだ。この部分から医師は目を逸らしていて良いのか。  患者さんの「努力」は様々な形態を取り、せっぱつまってくると、なりふり構わなくなってくる。放射線の出る温泉に入ったり、細胞療法をやったり、健康食品に手を出したり。今までは、そういうものを否定せよと医師は教えられてきた。しかし、そういう代替療法を否定することは、実は患者さんの希望を打ち砕くことなのでないか。たしかに治療効果はなく有害であることも多いが、たとえ代替療法を否定したとしても、その背後にある患者さんの希望まで否定することがあってはならない。  医師が、自ら目を背けているものを認識して、患者さんの希望を肯定できるかどうかで、患者さんには希望格差が生まれる。たとえ報われなくても努力は尊いことなのですよという接し方、発想の転換があり得ないものか。自らのことは受容し、そのうえで他の人が同じ目に遭わないように努力する人もいる。  最後まで希望を捨てないということと、あきらめ受容することとを両立させられないものか。限界まで治療するということをあきらめてもらわないと、緩和医療は関与していけない。現代の日本人は、かつてない程あきらめることが下手になっていると思う。あきらめることは悪いことなのか。むしろ、それが納得いく死と、その前にある納得いく生とのスタート地点なのではないか。  人生は誰でも有限であるという当たり前の事実に立ち返れば、何かをあきらめつつ、しかし希望を捨てずに努力を続けるということは矛盾しないはずだ。  以上が小林医師の言いたいことだそうだ。がん医療の現場で逃げずに悩みもがいている人間でなければ、絶対に思いつかないと思われることで、とても感心し、また深く考えさせられた。がん医療に関して、がん対策基本法が成立してからガクンと報道が減ったと思う。でも、まだ千里の道の一歩を踏み出したに過ぎないことを思い知らされる。医療再生議連の方々相手にも陳述の機会が与えられるこ とを祈る。  さて、ここからは告知です。以上のまだ漠としたものを系統立てて、日本臨床腫瘍学会理事長の西條長宏先生にぶつけさせていただき、医療者の皆様にディスカッションしていただこうというロハス・メディカルWSを、来月22日に福岡にて開催いたします。実際にがん患者さんと向き合っていらっしゃる医療者の方限定。会場の方にも議論に加わっていただき、熱く語り合っていただければ幸いです。 参加ご希望の方は、お名前と所属、連絡先を明記の上、shuyou@lohasmedical.jp までお申し込みください。特に九州の皆様、ぜひふるってご参加ください。 (詳細) 日時:3月22日午前10時半開始 場所:フランス料理「花の木」     福岡市中央区大濠公園1-3     092-751-3340 *軽食をご準備します。午後1時終了の予定です。 パネリスト:西條長宏先生        小林一彦先生        神田橋宏司先生(東京日立病院内科)        下山達先生(都立駒込病院化学療法科) コーディネーター:川口恭

 

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