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臨時 vol 57 高久通信「妊娠と葉酸の摂取」

医療ガバナンス学会 (2007年12月1日 14:26)


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自治医科大学学長 高久 史麿

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2005年版」に「妊娠を計画している女性、または妊娠の可能性がある女性は神経管閉鎖障害のリスク低減のために葉酸編注) 0.4mg/日の摂取が望まれる」と記載されている。神経管閉鎖障害は胎児の神経管の閉鎖不全によって起こる一連の疾患であり、その中には無脳症、脳瘤、二分脊柱等があり、いずれも重篤な神経障害を起こしてくる。この神経管閉鎖不全発症のリスクを高める要因として妊娠初期の葉酸摂取の不足が以前から指摘されており、この疾患の子どもを出産した母親が次の出産に際し、1日4mgという大量の葉酸を妊娠前から妊娠12週まで服用すると、この障害の再発のリスクが72%も減少することが、既に1991年に報告されている。このような状況を反映して,我が国でも2000年から母子健康手帳に、胎児奇形の発生予防のための葉酸摂取の必要性が記載されるようになっている。しかし我が国では、この問題に関する認識の程度が妊婦の間でも低く、あるグループが行った調査では、90%以上の妊婦は葉酸の摂取が不十分であるというデータが得られている。さらに胎児の神経管の閉鎖は妊娠6週末で完成するので、妊娠に気付いてからの葉酸の服用では遅すぎ、妊娠1カ月前からの服用が必要であるという厄介な問題もある。結婚している女性でも妊娠が意図しないものである場合があることから考えても対応が難しい。
このような問題を克服する手段として、1998年にアメリカとカナダの政府は、小麦粉をベースとする食物への葉酸の添加を義務付けている。このような葉酸添加の神経管閉鎖障害に対する予防効果がごく最近報告された1)のでご紹介したい。この研究を行ったのはカナダの研究者で、小麦粉への葉酸の添加が始まる前と後の2つの時期、すなわち1993年から2002年にかけて190万人の女性を対象にして調査した。この間2,446人の神経管閉鎖障害の子どもが生まれているが、その割合は、葉酸添加前は1,000人の新生児中1.56人だったのが、添加後は0.86人と46%も発症が低下している。この小麦粉への葉酸添加による葉酸摂取量の増加は1日平均0.15mgと計算されるので、前記の妊婦の必要葉酸量0.4mgよりは少ないが、それでも十分な予防効果があるといえよう。この葉酸添加は各種の予防注射、食塩へのヨード添加、牛乳へのビタミンDの添加等と並んで最も有効な疾病予防措置であったと評価されている。我が国の神経管閉鎖障害の頻度は欧米諸国よりは低いとされているが、それでも一定の頻度で発症しており、極めて重篤な障害であることを考えると、アメリカやカナダのように食品への添加とまではいかなくても、妊娠可能な女性はサプリメントの形で0.4mg/日の葉酸を常用する必要があるだろう。
参考文献
1) DeWals P. et al. New Eng. J. Med. Vol. 357;135,2007
編注)葉酸はビタミンM、ビタミンB9とも呼ばれ、水溶性ビタミンに分類される生理活性物質。

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