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臨時 vol 40 「9月19日中医協傍聴記 ~ こんな議論をしてたのね ~」

医療ガバナンス学会 (2007年9月24日 14:39)


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ロハス・メディカル発行人 川口恭

このメルマガでも何度かお知らせしている厚生労働省の「死因究明検討会」の中間とりまとめに関して、共同通信が検討会当日「患者の死亡事例を対象に新組織への届け出を医療機関側に義務付けることで委員の意見が一致した」との虚報を配信した。

どう聴いたら、あのような記事が書けるのかと私は大変驚いた。そして、ひょっとすると、今までもマスコミが確信犯的に審議会・検討会の中身を曲げて報じるようなことがあったのでないか、今後もあるのでないかと疑念を抱くようになった。

そこで、『ロハス・メディカル』発行の趣旨に立ち返るならば、医療者と患者の相互理解を進めてもらうためにも、医療に大きな影響を与えている審議会や検討会を傍聴してその中身を詳報すること、もしメディアが虚報を流した場合には虚報の事実を伝えることが必要だと考えた。今後は様々な審議会・検討会を傍聴に行こうと思う。

その気になって見ると驚くほど多くの審議会・検討会があり、現状では網羅不可能だが、「死因究明検討会」のように影響の大きそうなものを優先したい。で、まずは「医療費」の本丸、中医協(中央社会保険協議会)である。であるが、開催情報が3~5日前に出るので、予定をやりくりするのが容易でない。しかも、それにもかかわらず傍聴希望者が大勢いるので早く行かないと入れない。実は、8月29日にも傍聴を試みたのだが、会場を間違えたりして遅れて入り損った。今回ご報告するのは再チャレンジした9月19日のものである。

場所は厚生労働省内の会議室。傍聴席は、「常連」の方が「エコノミー座席」と表現するくらい、ぎっしりと詰まっていてメモを取るのも大変な感じ。数えたら傍聴席だけで約200席。うち60席ほどが関係者席と記者席だ。ただし、事前登録の数だけ準備されるという記者席は10席ほど空いていた。前回私が入れなかった時も記者席が10席以上空いていた。記者クラブと同じ建物の中である。登録して来ないと、その分だけ一般の傍聴者は入れなくなる。メディアのモラルは一体どうなっているのかと考えざるを得ない。

初めての傍聴なので肝が分からず、どの程度有効な報告になるかは分からないが、面白いと思ったことをいくつか書く。

この日は、総会→保険医療材料専門部会→薬価専門部会という3つを2時間半で済ませてしまうというスケジュール。隣の人と腕が触れ合うような暑苦しい空間に座って無言で開会を待っていると、窓の外から何やら拡声器で怒鳴っている声が聞こえる。委員30人は全員出席だそうだ。

窓の外の声は開会後もしばらく続き、進行する土田会長(早稲田大商学部教授)の声がとても小さいので、耳をそばだてればそばだてる程、外の声が気になるという悪循環。誰がしゃべっているか分からない点も傍聴記を書くうえでは問題だ。

ただし、すぐに真面目に聴く必要がないことに気づく。なぜならば入口で配られた資料の通り進行しているだけだから。こうして議題の最初の「医薬品の薬価収載について」が始まり、話者は、薬価算定組織の加藤委員長に移る。その加藤委員長も用意された資料をただ読み上げているだけ。

何じゃこりゃ。検討の場ではないんかい? そうか総会というのは、部会で決まったことを承認する場なんだな、総会の傍聴記は面白くないかもしれないなと、一人合点する。

加藤委員長が薬価収載する医薬品14品目の説明を終えたところで、会長が「何かご質問は?」と尋ねる。ここで私を驚愕させる質問が出た。誰が発したのかは申し訳ないが分からなかった。(よく見えないのと油断していたのとで)

「有用性加算のIIというので15%増しのが二つあるけれど、この有用性加算というのは何だったか」

素人なら知らなくて当然のことだと思うが(薬価制度の解説は次号『ロハス・メディカル』を待ってほしい)、いやしくも中医協の委員が、そんな初歩的なことも知らずに審議しているのか???

さらにビックリは続く。委員長の説明への質問だから委員長が答えて当然と思うのだが、会長は「では事務局から」と振ったのだ。ここまで堂々と「決めているのは官僚」でやっていたのか???

ただし、答えた薬剤管理官の語尾はふるっていた。「~という風に理解しております」。決めたのは私たちじゃありませんのポーズだけ付けているわけだ。このあと、有用性加算IIの違いについてという、やはり初歩的な質問も出て、それにまた事務方が答えた。部屋の暑苦しさが一段と気になるようになった。

議題は、「医療機器の保険収載について」、「先進医療専門家会議の報告について」と代わり、粛々と「では中医協として承認するということでよろしいですね」で進む。最後の「今後の検討の進め方」になった。そこで、ひっくり返りそうになる。10月は全部の水曜日と金曜日に中医協を開くという。とてもでない
が傍聴しきれない。委員も専業的に関わらないとやっていけないだろう。実質を官僚が決めることになっていなければ、こんな無茶な日程を組めるはずがない。

この「今後の議論の進め方」のところで、初めて委員の意見らしきものが出たので書きとめておく。

松浦委員(香川県坂出市長)
「勤務医不足がメインにあると思うので、実働している勤務医の数、そして実働していない勤務医の数をお知らせいただきたい。恒常的に眠っている医師がいて年に3500人も増えていないのでないかという実感がある。データをぜひ出していただいて、それに基づいて議論を行いたい」

医療課長
「分かりました。資料を準備します」

ということで、初めて公的調査が行われるようだ。これは期待して見守りたい。

勝村委員(医療過誤被害者遺族)
「勤務医をやめて開業医にという流れがあるので、それを逆にするぐらいダイナミックな改革が必要。前回の診療報酬改定はダイナミックさに欠けた。それから議題にある『患者の視点の重視』だが、患者の声をもっと取り入れるように公聴会を開いたり、中医協でも発言してもらったりするべきでないか。その日程などをどう考えているのか」

土田会長は、事務局に答えさせることもなく「まだ具体的になっていませんから、具体的になってからにしましょう」と切り上げてしまう。見事な仕切りである。声は小さいのに、やるときはやるもんだ。官僚たちから見ると、さぞ「頼りになる」んだろう。

こうして50分ほどで総会は終わった。続いて保険医療材料専門部会である。

保険医療材料専門組織の松本純夫委員長(東京医療センターの院長の方であろうか?)、松村啓史専門委員(テルモ常務)、小野孝喜専門委員(ムトウ副社長)、松本晃専門委員(J&J社長)の4人が意見書を読み上げ、それに関して議論するスタイル。それぞれの意見書などの資料は、近く厚生労働省サイトにアップされると思うので、そちらをご覧いただきたい。

対馬委員(健康保険組合連合会専務理事)
「松本委員長にお尋ねするが『一定幅』の適正化とは、方向性で言うと上げるのか下げるのか」

意味がよく分からないと思うので補足すると、2年に1度の価格改定の際、新しい価格(ほぼ間違いなく値下げになる)を決めるには、まず市場実勢価格の加重平均を割り出し、そこに一定割合(一般の医薬品は2%、医療材料は4%)上乗せする。その一定割合のことを行政用語で『一定幅』と言うのである。

松本委員長
「委員会としては当然下げる方向である。上げるのは一定幅の部分ではなく、イノベーションや新規性の評価によるべきだ」

上乗せ幅が大きすぎるから引き下げるべきとの発言である。

鈴木委員(日本医師会常任理事)
「内外価格差の調整をする品目は281区分をもっと絞るべきということか」

松本委員長
「はいそうです」

遠藤分科会会長(学習院大経済学部教授)
「では私からも一つ質問。我が国特有の流通システムや審査期間等が材料価格に与える影響の把握などを踏まえて適正な、というこれも対馬委員の表現を借りると上げる方向か下げる方向か」

松本委員長
「委員会として議論したのは、卸も含めた中間での流通について、もう少し情報がほしいということ。特にOECD諸国との違いをぜひ知りたい。審査期間については長いので、特にペースメーカーなど循環器系の材料について、メーカーがモデルチェンジした後に旧機種を審査するようなことが起きている。新しい有用なものをできるだけ早く患者さんに届ける観点が必要ではないかと考えている」

何だか妙な話である。価格決定の根幹にかかわる論議を行っているはずの専門組織の長が「情報が足りない」と言っている。では、一体何を根拠に価格を設定しているのだ?

鈴木委員
「松村委員に質問だが、医薬品が承認から保険収載まで原則60日以内なのに医療機器は1年にもなるというその違いは何か」

遠藤会長
「承認後の収載が遅いということについて、これは事務局から説明をお願いしたい」

医療課企画官
「一言で申し上げると、より多くの要素について検証する必要性があることと、それから区分分けの必要性もあるということになる。類似機能区分は620ある。医薬品の場合は科学的な根拠いわゆるevidenceのほかは薬学、薬理学を検討すれば済むけれど、医療機器の場合はその他に物理学、工学、外科学、解剖学といった観点からの検討が必要で、多岐にわたるので時間がかかってしまう」

鈴木委員
「一定幅は薬の場合は、やはり4%?」

企画官
「2%です」

質問者不詳(鈴木委員)
「情報が足りないということだが、業界にも協力してもらう必要がないか」

松本委員(J&J社長)
「あらゆるデータに関して秘密があるはずもなく、程度にもよりますが、必要なデータは出します」

対馬委員
「一定幅の維持が必要だと業界側の専門委員は主張するが、それを裏付けるデータが少ない。定性的な主張だけでなく、業界としても色々なデータを出してほしい。ところで機能と価格の関係はどうなっているのか。新しく機能が高ければ価格も高いというようなデータはあるのか」

企画官
「手元にはそのようなデータがないが、探してお示しできるものがあればお示ししたい」

松本委員
「ある意味では望むところ。新しいものの方がいくらか高いということはあるけれど、償還価格は一つという問題がある」

小島委員(連合生活福祉局長)
「小野委員の主張としては4%を引き下げる方向はないということか」

ここで小野委員が、何だか要領の得ない発言を続けて、部会長から「手短かにお願いします」と注意される。部会の持ち時間は1時間弱しかないわけだから、時間を浪費させるというのは議論を深めないために有効な手段なのかもしれないと邪推する。で、発言の趣旨を要約すると以下のようになる。

「医薬品の率が2%だからというが、今は材料は4%の上乗せなのだから、2%にするということは一律の2%カットと同じことになる。そもそも、価格は天井として機能していて、古いものはどんどん下がっていく。新しいもののことを考えると、すぐに2%にするというのは時期尚早だと思う」

これも何を言っているか意味不明だと思う。医薬品と違って、医療材料の場合、同じ働きの製品だと旧製品も新製品も同じ価格で収載されるのだ。業界からすると確かに困った問題なのだとは思うが、最後に経団連の丸山委員からキツイ一言が出た。

「財界から来ている者としての意見だが、説明を聞いて、薬が特殊で機器は他の一般産業と同じだと思った。医療機器のライフサイクルが2年足らずで短いと言うけれど、半年くらいしか商品のライフサイクルがないような業界もある。小野委員は、一定幅維持の理由の一つに流通の問題を挙げているけれど、必要なものを必要な時にお届けするのは当たり前ではないか。これを嘆いていても仕方ない。製品価格の低下にも耐えていかなければならない。既に様々な業界で、そのための知恵・手法が蓄積されているから、ぜひ学んだらいいと思う。繰り返すと、流通の問題を価格維持の理由に使うのは許されんかもしれんなあという気がする。ビジネスのあり方としてはもっともっと努力しないと、日本の医療機器を支える
立場としていかがなものか」

業界にも言い分はあると思う。厚生労働省の要求をクリアするには費用がかかるのだ、と。しかしながら丸山委員の発言は要するに、医療はもはや厚生労働省の顔だけ見ていれば済む聖域ではないと、業界と厚生労働省に対して引導を渡したのだと思う。

今後の展開が気になるところである。こうして55分ほどで保険医療材料専門部会は閉会した。

最後は薬価専門部会である。15分遅れで始まり、しかし定刻に終わったことと事務局の資料説明がほとんどすべてで、見るべき質疑が行われなかったのとで質疑は拾わない。

事務局から議論のテーマとして示されたもののメインは「イノベーションの評価」。昨年4月から今年6月までに保険収載されたものが、外国平均価格と、どの程度ずれたかというデータが示された。

この時点で既に「え?」である。イノベーションを正しく評価しているかどうかの尺度が、「薬価が外国平均価格と同程度になっているか」ということなのか?

もし、その尺度が正しいのなら、日本で独自に価格設定する必要がないことになるではないか。

しかし、何しろ初傍聴であるから、とりあえず事務局の論理に従って資料を見ることにする。原価方式算定の12成分については外国平均価格の97.1%になり、類似薬効比較方式の25成分については92.8%になったそうだ。で、類似薬効比較の場合「イノベーションを正当に評価できてない」という議論をしている。

が、ちょっと待て。イノベーションとは一体何だ? 新規性や有用性のあるものに対して加算する仕組みは既にある。加算されないようなものだったら、そもそも「イノベーション」などなかったのだから、価格が低いのは「正当に評価できていない」のではなく「正当に評価した」ことにならないか。

何か議論の進め方が根本的に間違っていないか。中医協は、こんな議論をしていたのだなと感慨を深くした。手間ではあるが、今後も極力傍聴を続けなければならないだろうな、という気がしている。

(この傍聴記はロハス・メディカルブログ<a href=”http://lohasmedical.jphttp://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a> にも掲載されています)

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