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MRIC vol 18 「医療/ 公衆衛生×メディア×コミュニケーション 第二回 黒板もメディア」

医療ガバナンス学会 (2007年9月20日 14:40)


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林 英恵

 
【教育工学。】

幼いころからマスメディアに触れる機会が多く、「メディアを通じて人に何か伝えること」が大好きだった私が、「教育工学」という学問と出会ったのは2005年1月
のことでした。メディアの持つ影響力を使って、医療や公衆衛生の世界をより人が興味を持ったり、深く理解するように変えていきたい。そう思ったことがきっかけ
でした。

私は、小学生のころからビジュアルラーナーでした(視覚的に理解しやすい教材があると学習が効果的に進むタイプ。平たく言うと、図やイメージで説明してもら
えると理解しやすいのです)。当時から、自分の興味のある分野であっても、文章だらけの解説書や、体系的にカリキュラムが整理されていないと何時間勉強しても
結局よくわからなくなってしまうことが多々ありました。

その後新聞社で小学生向けの記事や教材を作成する仕事に携わったことで、「小学生には難しいのではないか」と言われるような内容のものでも、カリキュラムを
きちんと組み、記事の構成やイメージを工夫することで、理解度があがるものだということを学びました。このことで、カリキュラムや教材のコンテンツの作り方、
媒体となる”メディア”の活かし方を学ぶことの重要性を確信します。

そういった背景を経て、ボストン大学で教育工学(Educational Media and Technology。大学によってはTechnology in Education などという言い方をするところ
もあります)を学ぶことを決意します。教育工学というのは、メディアやテクノロジーなどの「媒体」を教育の中でどのように生かしたら、学習する人に最大の効果
をもたらすことができるかということについて研究する学問です。具体的には、行動科学や教育学の概念をもとに、カリキュラムのデザインや使用する媒体の選定、
媒体に入れるコンテンツの開発の仕方などを学びます。

この教育工学は、第二次世界大戦時にアメリカで、限られた時間の中で最大の効果を出すという目的のもと、軍隊の教育について研究されたのが始まりです。紙媒
体、ラジオ、テレビ、インターネット、ソフトウェアなど時代ごとに主流となる媒体の発展とともに、歴史を歩んでいる学問です。

対象とする分野は、組織における人事教育、小学校~大学・社会人教育、博物館などでの来館者への教育など、さまざまな領域を対象とします。その中で、ボスト
ン大学の私が在籍した学科では、卒業生の約10%が医療関係で教育工学を使う仕事に従事しています。医療という枠の中では、医療従事者向けの卒後教育から、患者
教育、疾患啓発のための幅広いターゲットを対象とした教育などがこれにあたります。

アメリカでは病院やヘルスケア系の組織などにおいて「Educational technologist」や「Instructional designer」という名前の役職が多数あり、教育工学の専門
家が医療系の分野において必要な役割であるという認識の土台ができているといえるでしょう。その分野の専門家(医療系の場合、医師、研究者や他医療従事者であ
ったりする)が必ずしも教育の専門家である必要はなく、それぞれの専門性を生かしてチームで学習者に最適で最高の学びを提供する体制ができつつあります。
【経験したことありませんか?】

Education (教育)の語源は、ラテン語の「(相手の)可能性を引き出す」という言葉から来ています。その名の通り、学習者の知識や理解を深めることで、能力
やスキルを最大限に引き出すことが最終目的であるはずなのに、どうして?ということが、教育の現場で多々起こります。

たとえば
その①
「疾患Aの啓発活動を行うことを目的に、ウェブサイトを立ち上げました。疾患Aの領域では日本有数のキーオピニオンリーダーである医師の監修を得て立ち上げた
、内容にはかなり自信があるウェブサイトなのですが、ページビューが芳しくありません。立ち上げ当初から年月を経るごとに訪問者の数は減り、ウェブサイトはほ
ぼ放置された状態となってしまっています。」

その②
「ある学会で、自宅で疾患について学べるCD-ROMが配られていたので、もらってきたけれど、一度見てみただけで、その語は全然使わない状態でデスクの引き出し
の中に入っています。」

教育工学はこんな問題を解決するためにあるのです。

【メディア】

「メディアって何のこと?」
大学院の授業はこの定義からスタートしました。
「テレビ」「新聞」「ラジオ」
「インターネットも入る?」

なじみのあるものの名前があがります。
そこで教授は言いました。
「メディア(Media)という言葉の意味にもう一度立ち返ってみよう。Media というと、今あがったようなもののイメージが先行するね。確かに、Media にはマスメデ
ィアを指すこともある。それに加えて、もう一つ、Medium(媒体)の複数形という意味があることは、知っていたかな?これをヒントにもっと何かでてくるかい?」

「DVDとか、ソフトウェアは、媒体だよね」
「あとは、昔よく使われていたOHP(オーバーヘッドプロジェクター)とかもそうかも」
「学びを媒介するものって考えると、教科書とかも?」
「紙媒体で言うと、紙芝居とかも、教育で使われるよね?」

教授は言います。
「そのとおり。ほかにこの教室にあるもので、まだ気づいてないものもあるよ。これ(黒板)も、これ(鉛筆)も、メディアなんだ」

メディア=マスメディア、もしくは最先端の技術(テクノロジー)のイメージを持っていた私を含めた学生は唖然とします。

そして、教授。
「これから、教育工学を学ぶ君たちに、最初に言っておきたいことがある。教育工学は、メディアやテクノロジーを使って、教育の質の向上を目指すものだ。一番
心にとめておいてもらいたいのは、最終ゴールは、学習者が一番やりやすい環境で、より深く学べるようにすること。メディアやテクノロジーを駆使することを目的
にするのは危険なことなんだということを、最初に心に刻み込んでほしい。

最近はテクノロジーの発展で、より新しいテクノロジーを使えば、よりよい教育を生み出せると勘違いしてしまっている人たちもいる。テクノロジーは確かに”適切
な使い方をすれば”教育にとてもよい効果をもたらす。けれども、人気のあるメディアや新しい技術を”必ず使わなくちゃいけない”という概念は取り払うこと。黒板も
、鉛筆も、インターネットやテレビと同等に並ぶ”メディア”だ。必要ないと思う時には、テクノロジーを使わないという選択をするのも、教育工学者にとって必要な
ことだ」
【ベストな手段は何か】

先ほどの例に戻りましょう。
「そのメディア(媒体)が、その教育と、学習者(ターゲット)において一番いい手段か」
これは、教育工学者がプロジェクトなどを行う際に、一番はじめに考えるテーマです。

その①や②のような例は、ターゲットや、疾患(コンテンツ)の特性を深く考えずに進めた場合などによく起こってしまうケースです。

では、どのようにすれば、①や②のケースを防ぐことができたのでしょうか。もしくは、改善することができるのでしょうか。

来月に続きます。

林 英恵
教育学修士(専門は教育工学)。ボストン大学教育大学院卒業後、株式会社まっキャンヘルスケアワールドワイドジャパンにて、ジュニアストラテジックプランナー
として勤務。2008年よりハーバード大学公衆衛生大学院修士課程(ヘルスコミュニケーション専攻)進学。

 

 

 

 

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